映画と本の一番の違いは、見る人に「意志があるか・ないか」です
2000年に執筆した長編小説「コンセント」で小説家デビューして以来、その不思議な世界観と繊細な文章で注目され続けてきた田口ランディさん。また、ノンフィクション作家としても活躍しており、多くの人が語る不思議な体験を集めた最新作『アルカナシカ』も話題になっています。小説家デビューする前には、メールマガジンを発行していたことでも知られるほどデジタルと親和性の高い田口ランディさんに、今回お話を伺いました。
あったらいいなと思うのは、専門書がいっぱいつまった電子端末
――さっそくですが、弊社は個人の蔵書を電子化するサービスをおこなっているBOOKSCANという会社なんですが、名前はご存知でしたか?
田口ランディ氏: 知りませんでした。どちらかと言うと、私は、小説に関しては紙で読みたいなと思います。でも資料として書籍がたくさん必要な仕事の方は、大量の本を部屋に置くのは大変ですよね。日本は、住宅事情もよくないし。だから、専門書がたくさん入ったブック端末があったらいいですよね。専門領域を広くカバーできている端末なら、高価であっても欲しいです。図鑑、辞書、その他の非常に細かい専門領域のブック端末で、しかも優れた検索機能がついていたら言うことないですね。多分、もの凄く便利なんでしょうね。「誰か早く作ってよ」という感じですよね。もっとも、小説の場合は「私の紙の本を買ってよ」となるんですけど(笑)!
あと日本はまだ遅れてますけど、最近はインターネットの発達で、世界規模でのいわゆる科学論文やレポートのアーカイブスが各大学で作られているじゃないですか。このサービスは、海外ではすごく進んでいますよね。そのアーカイブスをブック端末でアクセスして読めるようになると、さらに便利ですよね。
そうすれば都会にいる必要がなくなるので、静かな環境で執筆をした方がよくなるし。でもそれは、私が生きている間は来ないかなと思いつつ…。だから読むのは紙で。書くのはデジタル……というのが現状ですね(笑)。
原稿は、すべてパソコンでしか読み直しません
――なるほど(笑)。執筆される際は、パソコンを利用されるんですか?
田口ランディ氏: 自慢じゃないんですけど、デビューしてから一度も自分の作品をプリントアウトした事がないんですよ。全部パソコンの中で完結してしまいます。
プリントアウトしても、自分で読み返さないんです。デビュー当時からパソコンを使っていますから、早い話がペーパーレスです。原稿はデータとして編集者に送って、ゲラになって初めて紙として読むという感じです。
――その理由としては効率化などが狙いですか。
田口ランディ氏: いや、別に紙にする必要が無かったからですね。自分の感覚の中では、デジタルで読んでも、紙で読んでも同じなので。
――普段執筆される時はパソコンで、縦書きですか。
田口ランディ氏: 縦書きです。最初は横書きだったんですけれども、文字表記とか、だいたい小説は縦書きになるので、縦書きで読んだほうが印刷された状態でのニュアンスが分かりやすいの。だから、最近は縦書きになりましたね。
――そういう意味では、小説というのは文字の並びなども含めて作品ということですか。
田口ランディ氏: そうですね。本というのは、作品もそうなんですけど、装丁も含めて、一つの芸術品みたいな物でもありますから。
理想の本屋さんは、「ビジネス書が一冊もない本屋さん」
――ビジネス書といった情報性の高い物に関しては、いかがですか。
田口ランディ氏: どんどんデジタル化して、ペーパーレスにするといいですよね。私の理想の書店は、出来ればビジネス本は一冊も並んでいない本屋さんなんです。そして、そこには素敵な小説ばっかり並んでいるという(笑)。そういう世界にしたいな。そうしたら本同士での競合しないで済むし。いろんなジャンルの本が、紙か電子かで住み分けて行く方向でいったら、私としたら嬉しいなという感じですかね。
装丁も含めて、趣味の物を選ぶような気持ちで本を取れるようになるといいですね。かつてそういう時代もあったわけですから、元に戻ってもいいかなという気がしますね。
――昔と比べて、本屋さんや装丁も含めて、こういう所が変わったなという所はありますか。
田口ランディ氏: 例えば流通の問題がありますね。「この大きさだと流通しづらい」とか、「この大きさだと本屋さんが長く置いてくれないし」とか。こういった売り場に並べるための制限が、装丁にはたくさんあるわけなんですよね。でも出来ればね、装丁にこだわりながら面白い本を作った方が、楽しいんじゃないかなと思っているんですよね。
著書一覧『 田口ランディ 』