日本より、中国のほうが、コンテンツを育てる素地がある
――先生が中国に行って教えられてもう既に変化が起きていると思うんですけれど、これが一般大衆にまで、もしくは世界の人達が今は「アニメと言ったらメイド・イン・ジャパン」という認識なのが、これってどれくらいしたら変わるでしょう?
小池一夫氏: 5年でしょうね。5年以内にもう中国はコンテンツ市場をオープンすると思います。世界のコンテンツを受け入れて自分達のコンテンツも出していく。韓国が最初、日本の物が一切駄目だったのが、野球漫画がOKになって入っていった。水島新司の『男どアホウ甲子園』がOKになる。それと同時に、一斉に韓国のコンテンツが開いたじゃないですか。お陰で韓流がダーッと入ってきて、NHKまで韓流やっているんですから。中年の御婦人達が一生懸命深夜見て観てるじゃないですか。何で億単位の金を出して韓流買うんだ。馬鹿じゃないかねえ。みんな韓国に稼がれている。タレント見てくださいよ。小さい時から痩せさせられて美容整形を受けさせられて、すごいスター達になっていくじゃないですか。
ライバルは中国だけじゃない! 日本が韓流に勝てないわけ
――日本人が韓流に勝負できるのでしょうか。
小池一夫氏: できないでしょう。教える人もいないし。踊り・歌、そういう部分でも。芸能人を人工的に作っていく韓国スタイルを真似できないでしょう。だって、どこのプロダクションも金が無くて。NHKのやるドラマだって相変わらず大河ドラマであり、金曜時代劇であり、朝ドラであり…。これから先「ちょっと方法変えましょうよ」ということには、ならないんですかね。
――お話をお伺いして、本当に日本のコンテンツ産業が心配になりました…。そして、話は変わりますが、BOOKSCANについてお伺いしたいのですが、名前ってご存知でしたか?
小池一夫氏: 良く知っている。
――ありがとうございます。
小池一夫氏: 僕らもBOOKOFFで苦しみTSUTAYAで苦しみましたからね…。要するに今までは再販が繰り返されて、本が一般の本屋さんに流れていく。本を買うには本屋さんに行くしかなかった。それがBOOKOFFが出てくると、初版がぐるぐる回ると。そうすると再販にならないし、増刷にならないから、小説家も漫画家も部数が大幅に減ってくるわけでしょ。これが一番大きな打撃です。だから大部数が出なくなった、出版社が苦しいと。それと同時に携帯電話の隆盛ですね。ここで配信がかかる。いろんな攻めにあって出版不況が訪れたと。
1つの業種が伸びていくところには、必ず駄目になる業種があるわけですね。例えばイオンが今どこかにオープンする。そうすると駅前商店街が全滅していく。小田原とかあちこちで、大きな商店街が賑わっていたものが、今行ってみると真っ暗で人通りもない現象が起きていく。そうすると街作りも死ぬわけですよね。これでいいのかと。大店法だけ通せば小さいお店は潰れてもいいのかと。それを国は何とかしないといけない。この国は滅びの国なのかなと思いますね。
――このままだと、モノが売れないだけじゃなく、著作権問題もかなり複雑化しそうですね。
小池一夫氏: 著作権も恐らくこのままでいくと危ないと思いますよ。なぜなら、守るべき法がないから。万国共通著作権のベルヌ条約があったとして、アメリカは勝手に70年も伸ばしちゃうし、それに対して日本は一つの抗議も申し込まない。それでTPPに加入すると、日本でも全部英文で漫画をかかないとならない。日本の漫画雑誌が全部英文になっちゃうんですよ。日本語も出さないといけない。倍の手間暇を掛けてやらなきゃいけなくなるじゃないですか。こういう所に従わなくきゃいけなくなるんですよ。そんなことを分かっているのか、ということになりますね。
御社のようなスキャン事業者達のように、例えば1冊の本をネットの中に取り込んで、それでiPadの中に何十本という作品が入るから、ここまでは非常に便利でいいことだと僕は思います。ただし、その人達がネット上とかいろんな所でそのコンテンツを流した場合に、これは何百万何千万の人達に向かって流れていくから、結局はどうしようもないんですね。そうすると僕らの物が売れなくなる。著作権者というものがどうなるかということになるわけでしょ、無断でやるわけですから。
あと、個人が限りなく増えて、個人が限りなく発信していったらどうするのかと。子供達がネットを手掛けるようになって、高校生くらいがいろんな同級生とかにあっちこっち飛ばし始めたらそれはどうなるのか。それとも、1人1人を罰するのか。この間twitterでも喋りましたけれど、100万人の子供達がそれをやりだしたらどうやって罰するんでしょうね。著作権を持っているものを適用していくのかと。ここらを根本から考えていかないと、全部日本は「死に国家」になりますよね。
出版社、著作者、スキャン業者は、一致団結するべき
――目先の利益だけを求めてうまい商売を見つけたという具合にやってしまって、著作権者の利益だとか次への創作意欲・創作行動というのを無視すると、実は我々も困るんです。我々の事業というのは、紙が売れて、新刊が売れて、初版が売れて、初めて蔵書を電子化するという事業なので、売れてくれないと困ります。
小池一夫氏: 共存共栄ということなんですよね。便利さを図ってネットが入ってきたと。でも紙の小説も読みたい、旅に出かけるのに5冊持っていけない、だからその時は簡単にネットの中に入ってしまうと携帯でできる、iPhoneでもiPadでもそれを持って行ける、携帯配信でも見られる、その程度の所ならいいんですけれども。
雑誌が出版不況に陥って本が出なくなる。そうするとあなた達みたいにそれを切ってネットの中に収めるということの方が駄目になる。とお互い駄目になる。1冊作ってあげたのに、作ってもらった人がそれをデーター化してバーッと世界中に散らしたりすると、今度は著作権者が迷惑を受ける、出版社が迷惑を受ける、だから訴訟問題が起きてくる。そういう所で、じゃあ著作権というのをどうして確立するのか、どういう権利で使用するのかということを決めておかないと、新しい職業が生まれて「便利だなあ」と思っても潰れていく。
だから、紙も電子も、お互いがお互いをプラスにするような方向に行かないと、駄目だと思いますね。紙の文化が無くなることはないでしょうけれど、ネット上に載った小説とか漫画というものは防ぎようがないので、これはこれで大いに拡散していくでしょうね。そうなると著作権というのがどこまであるのかと。例えば遠くオークランドの人が、北極あたりの人が、日本の小説をパッと広げたからって逮捕に行きますか?
――行かないです。
小池一夫氏: だから、こういうどうしようもない問題も出てくるわけなんです。そういうことを真剣にプロジェクトで立ち上げて、日本の国の著作権というものもある種分類してねないとね。例えば紙の本をネット化してあげるというところでもこういう方法を守りなさいというような基準を作って、それをネット上で取り込んで読む人達も、これはご自分だけが見るために使用してください、というような法律を作っていかないと出版社は駄目だと。これは知的財産本部が怠慢なんですよね。荒井久光さんがいた頃は、かなり進んでいたと思うんですがね。
リンカーン時代から続く、アメリカの著作権意識の高さ
――アメリカなど諸外国では、こうした電子版の登場による著作権問題はおこっていないんでしょうか?
小池一夫氏: アメリカという国は、リンカーンが今から155年前にアメリカは「特許制度は、天才の炎に利益という油を注いだ」と言って保護をしたんですよ。有名な演説です。つまり、日本はアメリカに著作権に関しては150年以上も遅れているわけでしょ。全部の著作権がアメリカに行っちゃうんじゃないの? TPPに加入しているんじゃないかみたいな形で。じたばたしても始まらない。
あと、日本は中国とも戦えませんからね。中国がミッキーマウスを使ったからって、アメリカ政府は中国と悪くなりたくないから、今回もディズニープロダクションに始末を押し付けたじゃないですか。「あんた達の所で話し合いをしなさい」と。
――日本はいったいどうやって中国に対抗するべきなんですかね。
小池一夫氏: 中国を相手にどうするのかということを、民間から人を集めて真剣に考えてやっていればいいんですよ。例えば僕みたいな人間を集めて意見を聞く。僕、1回も知財に呼ばれたことがないですよ。僕の傘下に300人の漫画家の弟子がいる。彼らがなんぼ稼いでいると思いますか?原哲夫にしても板垣恵介にしても髙橋留美子にしてもドラクエにしてもね。
やっぱりこうした話し合いは、民間レベルでしていても駄目なんですよ。お互いに喧嘩をしていてもしかたがないんですね。だから、するべきは国家介入なんですよね。「著作権法のポジションというのはどういう所にあるのか」、「そして利用権はがどうなるのか」「著者はどういった立場で作品を守れるのか」というようなことも含めて、著作権者・出版社。そして、本をスキャンするあなた達もみんな含めて、知財というものが入ってきて、そこで行司をやらないと全然まとまっていかないと思いますよ。個々になったら戦国時代みたいになっちゃうから。そうなってしまったら、今度漫画家も漫画を描かなくなるし、小説家も小説を書かなくなってしまって、日本の文化に著しい打撃を与える。