小池一夫

Profile

1936年秋田生まれ。大学卒業後、時代小説家・山手樹一郎氏に師事。さいとうプロにて、『ゴルゴ13』制作チームに参加したのち、原作者として『子連れ狼』をはじめ、数々の名漫画を手がけてきた。1977年に開塾した「小池一夫 劇画村塾」では高橋留美子氏(『らんま1/2』)、堀井雄二氏(『ドラゴンクエスト』シリーズ)など、多くの大物作家を輩出したことでも知られる。70歳を越えた現在も連載を持ち、現役作家として活躍中。『キャラクターはこう動かす!』(小池書院)など「キャラクター原論」3部作をはじめ、創作の秘密を説いた著書多数。

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出版社やクリエイターの海外流出は、もはや机上の空論ではない


――こうした「著作権者の利益が守られない」という状態になってしまうと、たしかに作り手の方々もモチベーションがあがらないでしょうね。


小池一夫氏: しかもTPPが進んでいけば、いつの間にかアメリカコントロールのもとに「はい、これはこうです。これはこうしなさい」「著作権者はその床の間に座っていなさい」とか、そういうような形になってしまうんじゃないかなと。そうなってしまったら、「面倒くさいからいっそのこと、著作権法というのはアメリカ国家が管理しましょう。日本国家は退いてください」という事態に発展してしまうかもしれない。スキャン事業に関しても、そのうち「アメリカ国家がスキャン業者に対しては、これをこれだけスキャンすることを許可する」とかいろんな可能性が考えられますよ。

――そうした事態は避けたいですね……。


小池一夫氏: それか、もしかしたら中国に移行する可能性もありますよ。中国では、紙の文化に憧れを持っている人達が多いから、日本の古い形態を学ぼうとしている人が多い。だから、漫画家が続々と国外へ離れていくということもあり得ますよね。中国市場が5年後に開いてきたとしたら、日本の出版社が中国に移動することも考えられる。規制だらけの日本でいろいろとやっているよりは、中国の何億という民を相手に商売した方がよっぽどいいと。現に起こっているわけですよ。

あとは、中国ではなく、アメリカに流れる版元もあるでしょうね。アメリカへ法人を作ってアメリカから日本へ送れば税金を取られないから。実際、楽天なんかも海外に行っちゃってコンテンツをこっちに送ったりして、税金を免れているんじゃないですか。Amazonが配布するものは税金がかからない、だけど日本企業が国内でやるものには税金がかかる。「外国へ法人を作って逆輸入させれば税金が安くなるからAmazonに対抗できる」と誰かが言っていましたね。

――その結果、日本の大切な資源であるコンテンツ産業がどんどん海外に流出してしまって、日本の文化自体が空洞化する可能性が高いですね。


小池一夫氏: ネットが出来た以上は、もう今の時代、コンテンツはひとつの国の利益だけでは物事済まないんですよ。だって、高校生がアメリカへ何でも飛ばせる時代なんですからね。そこを分かってもらわないと。日本は鎖国の影響なのかすぐ鎖国を取りたがるけれども、世界的レベルで考えていかないと、立ち行かなくなってしまいますよ。僕は紙の文化の人間ですけれど、いろんな便利さを考えるとやっぱりスキャンなんかした方が旅に行くときに本を持って行きやすいなと思ったりもするでしょ? そうするとこっちにも良さがある。ただ出版界にしてみれば利益が上がらないというデメリットがある。ここが難しいところだよねえ。

スキャンは本当に出版社の「敵」なのか?


――実際には出版社様からの依頼も頂いているんですけれど、スキャンされることによってメリットになる、どんどん廃棄処分されて新しい物が買えるという風なスタイルなど、そういった仕組みを作っていかなければいけないなと思います。




小池一夫氏: お互いが利益を感じられるような仕組みに変えていければ、お互いメリットがあると思うんですよ。メリットの証明というか、それをお互いが主張する打ち合わせだったらいくらやってもいいと思うけれど、デメリットの裁判というのはマイナスですから、そういうのは僕はあまり好きではない。何でも話し合うべきです。BOOKOFFが出た時も、出版界はずいぶん騒いだんですよね。BOOKOFF的に考えてみれば、出版不況に陥って出版社が新刊を次々と出さなくなれば、BOOKOFFも売るものがなくなるんですよね。仕入れの商品が無くなる。だから突っ張り合っていてもしょうがない。そこら辺をどうするのかという問題もね、これは知財が何にもやってこなかった証拠なんですよ。ここに知的財産が入って、日本のコンテンツのあり方をちゃんと整理するべきなんですね。

――小池先生のように、クリエイターや政治家の人たちが、もっと日本の知財について真剣に考えていったら、こうした傾向は変わっていくのかもしれないですね。


小池一夫氏: でもね、僕はこれだけ詳しいのに、招集されて知財に一言の意見も聞かれたことがないから。僕より詳しいやつが日本にいるとは思えない。何故かというと僕は世界中を歩いてますから。アメリカとかフランスとか行ったら大変ですよ。アメリカ人って時代劇が好きなんですよ。銃の国だから刀が怖いんです。刀の美しさ・切れ味、ああいうものに対してアメリカ人は憧れを持っちゃっているから。忍者とかもね。僕の『首斬り朝』とか時代劇が良く売れるんですよ。

――タランティーノさんも大ファンですもんね。


小池一夫氏: そうですね。ほかにも、ジョン・ウーとかいろいろ弟子がいますし、僕の学校へ通ってきた映画監督もいっぱいいますよ。そういうジョン・ウーみたいなアメリカの有名監督と親しい男が日本にいるのに。いろんな国が「来てくれ、来てくれ』と、催しに呼ぶんですよと。77歳だから行けば疲れるじゃないですか、それでも行くじゃないですか。

今年の3月21日には、北京外語大学で講演したんです。1日500人も集めて大講堂で話をしました。同時通訳でしたけれど、反応もとっても良かった。それで中国の人民政府の人達がいっぱい出てきて感謝して、次の日もそうですよね。これが文化交流なんですよね。中国と僕らとは非常にいい間柄なんです。世界はコンテンツをどうするかというところで、戦争よりも文化を優先させて大きく回っているんですよ。文化交流していれば、お互いの利益が利益として生まれる。アメリカはそれを望んでいますし。

僕は漫画の著作権者ですけれど、あなた達の業界を非難するつもりもないんですよ。僕が非難しているのは、ここまで事態を放置しておいた国を非難しているんです。「何やってんの?」と。。小泉さんは2002年に、「これから10年先は世界で知財戦争が起きる」と予言したんですよ。そのときから、もう10年経っているじゃないのと。

著書一覧『 小池一夫

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