すべてのコンテンツ産業関連者を集めて、一度コンテンツサミットを開催するべき
――日本のコンテンツが危機的な状況にあると思うのですが、これから出版社、我々、著作権者、そして大事な実際の読み手であるユーザー、全ての方達がWin- Winの良い関係になるには、それぞれどうしたらよいのでしょうか。
小池一夫氏: ユーザーを野放しにしておくという事に対しては、非常に危険な状態であると言わなければいけません。それからオンラインになって世界が1つにつながってきた時にこれをどうするかと。ここで仕事をしている人達がどうやって課金してそれで収入を得て食えばいいのか、それが今何も答えが出ていない。
例えば「ニコニコ静画」に漫画を出している人は、ただ出すだけで1銭の報酬にもなっていかないわけですよ。こんな馬鹿な話はなくて、オンラインになってソーシャルになった時に、ネットの世界は大きく変わったと思うんですね。そこで知財が出てきて、1つ1つのことについて何か提案をしなくちゃいけないですよね。ニコニコ動画だ、USTREAMだ、いろんな所がいろんな舵を切って、ゲームの世界もソーシャルに舵を切ってそれで潰れていこうとしているし。もちろんここで何かを発表することは世界中の人に盗まれることになるしと。「世界中の人から著作物が盗まれる」という事態は、現に起きているじゃないですか。工業知財でも、特許とかいろんな所を巡っていろんな賠償問題が起きている。これはまだ漫画とかアニメとか小説の文化知財に関してはあまり国際的な訴訟問題も起きていませんけれど、起きるかもしれない。それに対してどう防いでどういくのかと。
だから1つの知的財産の文化面では、配信業者をどう規制していくか。だって、彼らは、本当にいろんなことを配信していますからね、エロも限りなく氾濫している(笑)。結果、知財がネットに取り込まれて拡大していくほど、その中に入ってくる若者が多くなる。その人達はみんな貧乏、お金を取る方法がないと。ここをどうするのかが大きな問題だと思います。
漫画家の給料をいかに是正すべきか
――文化的側面からみると、良質なコンテンツがタダで観られる…というのは、国民の文化度が上がりそうな気もしますが、作り手からしたらいたたまれない話ですよね。
小池一夫氏: 何かコンプリートガチャみたいなことを考え出したところは、非合法と合法すれすれにやって巨額の金を稼いだりするでしょうし、パチンコ業界もこれに入ってくるでしょうね。知財もそのうちに。まだよくわかりませんが、いろいろと今後は形態が変わってくるでしょう。正直、僕にも結論はわかりません。ただ1つだけ言えることは、知財が介入しなさい。知財に大量の人間を放り込んで検討し、御社のようなスキャン業界の方、著作権者、出版社で話し合いを持ちましょうと。喧嘩をするのではなくて。イオンと商店街みたいになったら困るので、やっぱり仲良くやってお互いの利益をその中で分け合っていくという方法を取らなければいけないと思う。だって、BOOKSCANが必要悪と取られているのであれば、それは可哀想だなと。
――そうですね。こちらとしては、本当に純粋に「本をもっとより身近な形で楽しんでもらいたい」という思いから、サービスを始めているので。
――最後にもう1つお伺いしていいですか。先生はまた中国にも行かれますし、いろんな取り組みもされていると思うのですけれど、今後どういったことをされていきたいですか。
小池一夫氏: 僕はたった1つですよ。新しいキャラクターを生み出す新人を育てない限り、出版不況は限りなく続いていきます。特に漫画を支えていたのはものすごいキャラクター達です。今、漫画家ってなり手がいない、食えないから。希望が見い出せないでしょ? 原稿料が1ページ5000円で30枚書いて15万。それで、次いつお呼びが掛かるかわからないような業界に魅力を感じます?出版社からの依頼は3か月に1回くらい。それじゃあ育ちませんよね。僕らはポケットマネーで一生懸命やっていますけれど、こうした事態じゃ、とてもだめだなぁと思いますね。
有名漫画家たちは、今こそ漫画界に恩返しをするべき
――こうした土壌では、かつてのような有名漫画家たちのような逸材が世に出る可能性が、どんどん減っていってしまいそうですね。
小池一夫氏: 昔を想像してみてください。手塚治虫をはじめとして、さいとう・たかを、水木しげる、石ノ森章太郎、白土三平、水島新司、ちばてつや、石ノ森章太郎もそうですけれど、みんな漫画の世界から巨大なものや歴史に残るキャラクターを作ったじゃないですか、何本も何本も。僕もその1人かもしれませんけれど。今の人達は本当にこじんまりとしたキャラクターしか作らない。それで100万部も売れれば辞めちゃったりするでしょ?だからどうして昔みたいな大物と言われる、ビッグコミックの創刊時のビッグ5人とか、そういった人間がなぜ出てこないのか。漫画に骨を埋めてやろうというような。そういう人達を選んで、国もいろんなシンポジウムを開いて意見を交換して何かをまとめていかないと。本当に漫画第一世代と言われる人達は俺、さいとう・たかを、安孫子素雄とか入れたら4、5人しか残ってないですよ。こういう連中の意見を聞いてどうすべきかと。1人で結論は出せないですよ。
――どういった形で審議していけばいいんでしょうか?
小池一夫氏: 話し合いをするときには議長が必要です。議長のなり手というのは漫画界で50年くらい生きてきた人が議長になる。しかも国のことも良く知っているというやつが議長になって進めるべきなんですよ。僕は大学の世界も知っていますし、いろんな世界を知っていますから、どこへでも出ていきますけれど、とにかく漫画家、業者達、出版社、みんなの代表と、国・知財と、それをまとめる議長とを中心にしてやらなければいけない。そこで一定方向を決めないと。ASEANにしても環太平洋パートナーシップにしてもG7にしても、みんな集まってやっているじゃないですか。中国とロシアだけがいつも反対に回るけれど、それでも他の国々が固まっているから、まだ何とか持っています。
漫画も世界会議というものができればいいんですよ。そこまで持って行けるように日本が呼びかけるべきなんですよ。コンテンツ、知財というものについて同時通訳で世界会議を日本でも行われたりしたら、『知財というのは活躍しているな』ということになるんですよ。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 小池一夫 』