三上延

Profile

1971年神奈川県横浜市生まれ。十歳で藤沢市に転居。市立中学から鎌倉市の県立高校へ進学。藤沢市の中古レコード店で2年、古書店で3年アルバイト勤務。古書店での担当は絶版ビデオ、映画パンフレット、絶版文庫、古書マンガなど。 2002年に『ダーク・バイオレッツ』(電撃文庫)でデビュー。『偽りのドラグーン』シリーズなど、電撃文庫で主にホラー、ファンタジーなどのシリーズ物を三十冊近く執筆。『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズは合わせて300万部突破のベストセラーに。

Book Information

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紙の本はなくならない。紙と電子はよい形での共存をしてもらいたい



2002年に『ダーク・バイオレッツ』(電撃文庫)で作家としてデビュー。『偽りのドラグーン』シリーズなど、電撃文庫で主にホラー、ファンタジーなどのシリーズ物を執筆する人気作家でいらっしゃる三上さんに、ご自身の読書歴や電子書籍についてのお話を伺いました。

人気シリーズ『ビブリア古書堂』の続編を準備中


――ここ最近、執筆されているものはございますか?


三上延氏: ええ、今のところは『ビブリア古書堂の事件手帖』の続きを出さないといけないので、その執筆にかかっています。一応今年の冬に刊行予定なので、その準備に追われているというか。

――今年の冬ですか? それではお忙しいですね。


三上延氏: そうですね。色々なメディアからの取材も頂いていたので、執筆の為にまとまった時間が取れず、ようやく本格的に始めた所です。

――執筆スタイルについてもお伺いしてもよろしいですか?


三上延氏: 午前中はノートパソコンを持ってファミリーレストランで書いて、午後に家に戻って書くというパターンですね。パソコンも使っているんですけども、一旦ノートに全部下書きをし、それを練りながら打ち直すというスタイルです。どうしても家で仕事を始めようとすると、なんかうまく集中できないんですね。周りに色々誘惑するものがあるので、まずファミレスのようになにも無い所に行って、仕事をするという風にしています。そのほうが、いくらか進むような気がするんです。

――パソコンで書かれる時に、ソフトは何を使われているのでしょうか?


三上延氏: デビューしてからずっとテキストエディターを使っています。最近のテキストエディターは縦書きで入力できるので、そうしています。ノートに下書きする段階でも縦書きですし、打ち込む段階でも縦です。本のフォーマットというのは縦書きなので、見直しもそのほうがしやすいかなという事で。執筆のペースは、本当にその時によってバラバラで、原稿用紙1枚書けない時もあるし、追い込まれてどうしようも無くて一気に原稿用紙40枚書く時もありますし、一定にならないですね。アイデア詰まるとウロウロ歩き回って、そういう時にひらめくという事もあります。



6畳の仕事場には本が多いが、取捨選択して管理している


――仕事場は、本がズラリとある感じなのでしょうか?


三上延氏: 本当にごく普通の6畳間です。最近引っ越したんです。その前が4畳間の仕事場だったんですけど、本が入りきらなくなっちゃって、ちょっとだけ広い所に移りました。本は確かに多いんですけども、ものすごいというほどではないと思います。個人的には、本をできるだけ必要以上に買わない事にしているんです。際限が無くなってしまうし、スペースが足りなくなってしまうので、そこらへんはどうにか収めているというか。「本当にこれは必要なものか」というのと、「読み終わったら処分してもいいか」と言う基準で選んでいる感じでしょうか。

――作家という道に進まれる事になったきっかけや、読書体験をお聞きしてよろしいですか?


三上延氏: 両親に聞くとかなり早い時期から勝手に絵本を読んでいたらしいです。僕には3歳上の兄がいたので、絵本が家にあったんですね。それでその中から好きなものを2、3歳から読むようになっていたらしくて。だから最初の頃何を読んでいたかはあまり記憶に無いんです。『おしいれのぼうけん』(童心社)という絵本があって、それは結構好きでしたね。ストーリーは、言う事を聞かない二人の子どもが、押し入れの中に閉じ込められて冒険をするという、幻想的っていうか怖い感じの本で。それと、谷川俊太郎さんが訳した『マザーグース うたのほん』(草思社)が出たんですよ。それが凄い印象に残っていましたね。マザーグースって結構残酷な歌が多いじゃないですか。それに絵がついていて。怖がりだったんだけど、怖いものに興味があったんですよ。だからそういうのを繰り返しこわごわだけど、ずっと読んでいるみたいな子どもでした。

――作家を志したのはいつごろでしょうか?


三上延氏: 高校生ぐらいだと思いますね。高校で文芸部に入って、自作の小説を読んでもらう友達ができた。面白いといってくれて、中にはつまらないと言われたものもあったけれど。文芸部なので、小さなコピー誌の本を出すんですね。当時はガリ版だったかな。それを校内に配っていたんですけども、主に部内で読み合っていた。その中で自分は小説がちゃんと書けるんじゃないかという思い上がりが生まれましたね。「自分は将来小説家になるに違いない」と勝手に思い込んでいたんです。

作家になるか古本屋で社員になるかの人生の岐路に立った時


――大学卒業からデビューまではどのように過ごされましたか?


三上延氏: 大学でもやっぱり小説を書いていて、純文学めいたものだったのですが、箸にも棒にもかからなかった。大学卒業をする時にも就職しないで「小説家になる」と周囲に宣言して、アルバイトをしながら書いていたんです。中古レコード屋でアルバイトしていたのですが、結局デビューができなくて、なんにもうまくいかなかった。それで一旦小説を書くのをやめてしまって、古書店に入ったんです。1年ぐらい働いていたのですが、「社員を目指さないか」とお話を頂いて、もう1回考え直したんですね。「古書店の店員になるか、もう1回小説家を目指すか」という人生の岐路に立った。それで後1年だけ小説を頑張ってみて、それで無理だったら本当に諦めてしまおうと思ったんです。その時に「自分は今まで何をやってきたのか」という事と、「これから何をすべきか」という事、「本来自分が何をしたかったのか」をつきつめて考えたんですね。自分が小説家になろうとした目的は何だったんだろうと・・・。僕は、結局は誰かに読んで、面白いって言って欲しかったんですよね。だからその原点に返ろうと。それで初めてエンターテインメントの小説を書こうと思いついて、原稿を電撃文庫でライトノベルの新人賞に送ったんです。結局入選はしなかったんですが、編集部の拾い上げというか、賞に受からなくても編集者がついてデビューできた。ライトノベルはちょっと他のジャンルとは違う部分があるんです。受賞歴が無くても割と食べていける可能性があるというか。ライトノベルの場合だと編集者と作者の二人三脚で計画を立ち上げる部分が結構ある。それで僕も編集の方から色々教わるというか、「エンターテインメントはこういう風に書く」ノウハウを学びながら仕事をしていった感じですね。

――古書店で働かれていらっしゃったんですね。当時と今と何か変化を感じられる部分はありますか?


三上延氏: そうですね。昔から比べると、個人書店さんは減りつつあって、代わりに駅前の大きな店舗が中心になってきましたね。それもまた大きな書店が出そろってくるとその中でも競争があって、小さくなる所もあるし、大きくなる所もあるし、選別されている感じがあります。また、ネットの書店が出てきて、書店が存在する意味合いも大きく変わってきたと思いますし、それこそ電子書籍も普及しはじめて、それによって今度は「本そのものの形」が変わっていくんだろうなと。ネットで買う場合は、何を探すのかっていう目的がハッキリしていないと、たどり着きづらい部分があると思うんです。実際に書店に行くと一気に色々な本を見る事ができて、新しい本を発掘する事もできるという意味では、実際の書店に利点はあると思いますね。

書店は時代の変遷で変化するが、『目利き』の存在は必要不可欠


――三上さんの作中の古書店も含め、書店にどんな本があって欲しいと思いますか?


三上延氏: 時代の変遷で変わっていくのは仕方ないと思っているんですが、僕は小さい頃から町の書店に通ってきたので、できれば残ってほしいなという気持ちはあります。今後の事を考えると、書店と言う場所は、目利きの人の本のチョイスを見るという意味合いが強くなってくると思うんです。僕もネット書店はよく利用しています。特に忙しくなってしまうと家からも出る回数も減るので、何か必要なものがあるとAmazonなりネットの書店は便利なんです。

――ちなみに電子書籍のご利用はされていますか?


三上延氏: あんまりしていないですね。それっぽいものだと、凄く便利なので「青空文庫」を結構利用しています。古典を読む事が多いので。やっぱり持ち運びが非常に楽ですよね。そこらへんは電子書籍の大きな利点のひとつだろうなと思います。読むのはiPhoneが多いです。

――逆に電子書籍の反対で、紙の本の良さはどんな所にあると思いますか?


三上延氏: 落としても壊れないこと、電源要らずでメディアとしての耐久性が高いことは大きいと思います。データの場合だと、やっぱりメモリの耐久性っていうのは限度があると思うので、何年かごとに移し替えないといけない。でも紙の場合だと保存さえ間違えなければ50年とか100年は普通に保つので、そういう風な利点はあるなと思いますね。

――そう考えると紙の本は結構長持ちするという事でしょうか?


三上延氏: そうですね。電子書籍の場合だとメンテナンスが必要になってくるので、それに比べると紙のほうが利点があるかなと思います。僕は紙の本が無くなるという風には考えていない。ただ電子書籍でも非常に大きなメリットがあるので、今まで紙が担ってきた部分を電子書籍がかなり担っていくんだろうなと感じています。

ノベルゲームやページ数を気にしない小説。電子書籍の可能性は無限


――電子書籍の可能性というか、今後期待するものはありますか?


三上延氏: そうですね。個人的な意見ですが、紙と同じフォーマットにする必要は無いと思っているんです。電子書籍の場合だといろんなものが同時に詰め込めるわけで。絵にしろ、音にしろ。文章だけのメディアである必要は無いんじゃないかなと。だから紙のフォーマットとはまた別の発展の仕方があると面白いなと思うんです。自分が紙の本をずっと書いていて感じていたんですけども、なんか、紙の本だと残りのページ数が分かってしまう。だから何かこの先展開があるとか、もう1回どんでん返しがあるというのが読める。一時期ノベルゲームをやっていた時期があったんですが、紙と決定的に違うのが、残りの容量が分からないことなんですよね。だからどんでん返しがいつ来るのか分からないまま楽しめるというのが紙と電子では違うなと思っていて。電子書籍は独自の発展もありうるし、おそらくあるんじゃないかなと。意外と今後の電子書籍は、ノベルゲームの形に近づくんじゃないかなという印象もありますね。

――紙の本を電子書籍化する為、スキャニングするにあたって、どうしても技術的に裁断しないといけないのですが、それに対してどんな印象をお持ちですか?


三上延氏: 僕個人は、それは致し方が無いというか、そうせざるを得ないんじゃないかなという気がします。僕自身もスペースの関係上、これ以上本が増えれば自分で自炊するっていう事も考えなければいけない所まで来ているので、それは凄い気持ちとして分かります。ただ、著作権持っている人間としての懸念があるとすれば、実際にスキャニングした後の、裁断した本をどういう形にするのかっていう事ですね。それを売買するっていう事になると、著作権法上まずいと思います。逆に言うと、2次利用の部分がクリアになれば僕は特に問題が無いのではないかと。色々難しい所だと思うんですけども、最初から電子書籍を出してしまえばいいという事になりますね。僕は出版社の方から紙の本を出しているので、実際の書店さんの方ともお付き合いがあります。だから電子書籍については一概にこうとは言いにくい所があるんですけども、原則論としては紙の本と、いい形で共存ができるのが理想だと思っています。

ラブストーリーや時代小説、ホラーも書いてみたい


――最後にこれから取り組みたいテーマなどはありますか?


三上延氏: まずは続刊を出さないといけないんです(笑)。色々とやってみたい事はあります。ラブストーリーも書いてみたいですし、もう1回ライトノベルを書きたいっていう気持ちもあります。今すぐではないんですけども、どこかで時代小説も書いてみたいですね。明治維新以前を舞台にした話をどこかで書ければいいなと。また、僕がデビューしたのが電撃文庫のホラー小説なのですが、元々そっちのジャンルをずっと書いてきたので、ホラー小説も機会があればまた書いてみたいです。

――最後に読者にメッセージをお願いいたします。


三上延氏: とにかく面白いと言ってもらえるものを書こうと頑張っておりますので、良かったら手に取っていただけるとうれしいです。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 三上延

この著者のタグ: 『エンターテインメント』 『漫画』 『可能性』 『紙』 『ノウハウ』 『レコード』 『子ども』 『人生』 『絶版』 『アルバイト』 『古本屋』 『メリット』 『ライトノベル』

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