プロと素人の差は、書いた文章に『責任』を持つかどうか
戸田覚氏: それで、文字を書くプロと、インターネット上には素人さんというかプロじゃない人達も大量にいる。その違いは何だと言った時に、やっぱり「責任」だと思うんですよ。書くものに責任を持っているか。つまり、ラーメン屋さんってご飯を作るプロなんです。お金を払ってラーメン食べて、不味いだの旨いだの、みんな言いますよね。ところが友達の家に行って、友達の奥さんなりお母さんが作ってくれたラーメン食べて不味くたって、不味いとは思うけど文句は言わないでしょう?それで、町のラーメン屋の5分の1しか美味しくなくても「いや、美味しかった」って言うでしょう? それ、素人だからですよ。友達が「明日、雨らしいよ」って言ったとして、間違っていたら怒ります?
――怒らないですね。
戸田覚氏: そうでしょう。でも、天気予報を見て、傘をわざわざ持っていったのにピーカンだったと。きっと怒るでしょう?両方、1銭も払ってないでしょう?でも、何故友達には怒らないで天気予報が間違ったら怒るのか? そう思いませんか? それが同じなら友達が、「どこかで大地震があったらしいよ」「どこ?」「分かんない」調べたらそんなものなかった。怒りますか?
―いいえ。
戸田覚氏: ニュースで“イランで大地震”。実際そんなものなかった、怒るでしょ?
――怒りますね。
戸田覚氏: でも友達と2ちゃんねる書いている素人は、一緒でしょ?「来週、大地震があるらしいよ」と言ったとする。大手の新聞が「来週、大地震がある」と書いたらどうします?
――信じますね。
戸田覚氏: 責任があるでしょう?それがプロと素人の違いだと僕は思っています。責任。信頼性と責任ですよ。だから、僕はいい加減な事は書けない。だから残念なのは、FacebookもTwitterも怖くてできない。問い合わせが来るんですよ。「戸田さん、それって何なの?」答えられない事がいっぱいあるんです。突然聞かれた内容を調べて責任を持って答えるとなると、とてもこなしきれません。後は知っていても言えない事がある。情報の守秘義務契約を結んでいて、「その情報はまだ言わないで」という情報の契約を結んでいる場合がいっぱいある訳です。後は、教える事がその人にとって良いかどうか分からない事もいっぱいあるんです。「戸田さん、これから企画書をどうやって作ったらいいの?」という問い合わせが来るとする。その企画の背景やコンセプトから、社内の立場まで全部聞けば答えられるかもしれません……。個別の質問には答えられないケースが非常に多いので、あまりできないんですよ。
――それは責任を感じていらっしゃるからこそですね。
戸田覚氏: それが僕の商売で、仕事ですから。
紙とデジタルの住み分けは、カメラに例えると分かりやすい
――戸田さんにとっては、そういった電子書籍リーダーというのはハードではなくソフトの方に移行していって無くなるとお考えなんですね。
戸田覚氏: ソフトに移行するか、それ自体無くなるかもしれませんね。
――今どうしても本は裁断してスキャニングするというのが主流だと思うんですけれども、バラバラにするのは嫌だとか、そういうお考えはありますか?
戸田覚氏: 全くないですよね。小説ならあるかもしれない。でも、僕が持っている本の多くは情報なので、本が欲しいのではなくて情報が欲しくて買っていますから。でも趣味で買っている図鑑とかは嫌ですよ。でも、そういうものじゃないものを僕は生産しているので。例えば辞書とか図鑑とかってデジタルの方が使いやすいんですけど、それが紙であるうれしさも僕は分かるし、それは情報じゃなくて本というモノがうれしいんですよ。だから、ちょっと論点が僕は違うと思うんですね。高い革の手帳を買いましたと。で、デジタル化しますかどうしますかって。デジタル化した方がいいに決まってるんですよ、スケジュールを共有できるとか色々あって。でもその手帳は愛着があって捨てられない。当たり前じゃないですかと。だってそれは、あなたスケジュールを買ったんじゃなくて手帳を買ったんでしょ…って事でしょう?で、そこに自分でスケジュールを書いた訳でしょう?あなたが大事なのは自分で書いた情報を買ったんじゃなくて革を買ったんでしょ?ハードに価値を認めて買ったんでしょう? でも、あなたのスケジュールを管理するには、もはやインターネット上にクラウドでGoogleカレンダーや何かを使って情報やスケジュールを管理したら便利ですよね。それはそうですよ。それと一緒じゃないですか。
――確かに、手帳は紙派とデジタル派に分かれていますよね。
戸田覚氏: 手に入れたコンテンツを、過去のものは本の形で手に入れて、最新のものはデジタル書籍で手に入れる。でも、図鑑だったら、俺は本という形態を買いたいから図鑑は紙で買う。いいじゃないですか、という事ですよね。それが欲しいんならば。でも、辞書をめくるのがいいんだよねという人は、紙の辞書を買えばいい。でも私は検索をしたいからデジタルが欲しい。それはそれでいいじゃないですかと、そういう事な訳ですよ。で、紙に対する愛着があるって言う人はいっぱいいるけど、いいと思います。それは、情報に対する愛着があるんじゃなくて紙にあるんだから。情報はデジタルの方がいいに決まっていますよ。100万パーセント。ただ、モノが好きかどうかという世界な訳だから、それは手帳の論理と一緒ですよね。カメラとかの論理とも一緒ですよね。好きで買ったカメラは捨てられないとか。でも最新のカメラは5千円、1万円でもっとキレイな写真が撮れる、あなたはどっちを持って来ますか? 僕は好きだからこっちを持って来る。それは、美しい写真が撮りたいからじゃなくて、そのカメラを使いたいから持ってくるんでしょう?それは全く一緒だと思いますよ。
――すごく分かりやすいですね。
戸田覚氏: それでいいんじゃないですか。だから蔵書もデジタル化されるという風におっしゃいましたけど、情報をとっておいて、情報を保存したり情報を活用したいのであればデジタル化した方がいいと。「江戸時代のこの将棋の教科書、素晴らしいんだよね、この紙の質感がね」…いいじゃないですかと。あなたが欲しいのは紙でしょう? でも中には紙と情報、両方欲しい場合もあったりする訳でしょう? 両方取っておきゃいいじゃないと。
本の形態が好きなら紙、情報が必要ならデジタル化すればいい
戸田覚氏: あんまり難しい事を考える必要はないです。情報を取っておきたいのに紙、紙って言われるから、紙をとっておきたいと勘違いする人達が世の中にいっぱいいて、本当は必要でもない本を山積みにしている。「俺は本に愛着があってさ、何回も読んで」、みたいな事を言う。実際は読んでない。だからデジタルにすれば検索して必要な情報が1秒で見つかるよと。だからあなた、そうやって本、積んでおいたら下の本にあるあのフレーズって、どうやって探すのって。3日かかるでしょうと。何か意味あるの?その本の形態が好きならいいでしょう、とっておけば、って事だけだと思いますよ。
――なるほど。
戸田覚氏: だから僕は自分で買った絵画や写真集をデジタル化するつもりにならないですよ。なりますか?
――ならないですね。
戸田覚氏: 絵は情報じゃないからですよ。絵は、絵そのものの実態が欲しいから。本は、物体が欲しい本もあるけれども、多くが欲しいのは情報な訳ですよ。本を買っているんじゃなくて情報を買っているから…って事ですよ。だから情報を買う物は今後、全部ネットになり、かつ電子書籍になる、かつ電子書籍リーダーなんかどうでもなる。ただそれだけの話ですよ。
普通の人が来年知る事を今年知って書きたい。
――最後に今後、取り組みたいテーマはございますか。
戸田覚氏: それはやっぱり、今まだ僕が知らない事に取り組みたいんですよね。うん。来週知る事を今週やりたい。来年知る事を今年やりたい。人が知らない事を知りたい。人は知らない事を聞いても理解できない。既に知っていて、頭の中で顕在化してない事を聞いた方が、人は感激するんですよ。分かっているのに意識の中に顕在化していないというか。みんな、ほとんどの事を知っているんです。ただ、言われないと、それを脳内でアレンジできないだけです。
(聞き手:沖中幸太郎)
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