戸田覚

Profile

1963年東京都生まれ。中央大学中退後、コンピュータを独学し作家/ライターとなる。著書累計130冊以上。雑誌連載、テレビ出演多数。大手テレビ局、航空会社、生保、自治体、石油卸など、講演・セミナーも多数。IT関連の内容では、大型展示会でのセミナーも多い。また、コンサルタントとしてセールス、販促、プレゼン、IT系事業等を多数手がける。セールスツール、販促ツール作成のスペシャリストでもある。徹底した現場、実例主義を貫き、現場情報は日本屈指。

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人は知らない事を聞いても理解できない。既に知っていて、頭の中で顕在化してない事を聞いた方が、人は感激する



プロフェッショナルライターであり、作家である戸田覚さんは、雑誌・単行本の企画・執筆からウェブコンテンツの製作まで、幅広くご活躍されています。そんな戸田さんから見る電子書籍の未来についての見解をお伺いしました。

著書は130冊以上、キャリア20年のプロフェッショナルライター



戸田覚氏: 今、僕の著書は130冊以上になっていると思います。まずプロダクションを2つ経営していて、僕は全部、本も記事も、自分の名前で出すものは自分で書いています。人に書かせることはしていません。ビジネス書の作家の中では、口でしゃべってスタッフが起こしている人もいっぱいいますけれど、僕は文章にもこだわっているので全部自分で書いています。今は、紙での仕事は4割から5割ぐらい。残りはウェブの仕事や講演になりますね。

――ここ最近ですと、講演はどれ位の頻度でされているのですか?


戸田覚氏: 直近3か月で5回ぐらいですね。

――普段の執筆はどちらでされているのですか?


戸田覚氏: アバンギャルドのオフィスの他に事務所がもう1つあって、そこで僕は原稿を書いています。昼間は打ち合わせをしている事が多いですね。執筆ですが、長い時は30時間ぐらい集中して書いている事があります。今、連載を50本以上抱えているので。単行本も年に少なくて5冊、多いと10冊以上出しています。

――連載50本というのは、驚異的な量のこなし方だと思うのですが。


戸田覚氏: 僕はもう慣れていますね。常に締め切りが50回やってきて、結果も50回分出さなきゃいけなくて、執筆も50回分して、取材も当然しますし、当たり前ですがレビューする製品も実際に試します。大事なのは「何を書こうかな」と、書く時点で思っていてはもうダメだという事です。当たり前だけれど、書く時には何を書くか明確に決まっていないといけない。常に自分が書く事が、先に決まっているという事が大切です。もうそれはテクニカルに、ロジカルにいかなきゃいけない。「次に何を書く」というのは全部リストで決められますね。さらに、何かがあってからそれを書こうとしているのでは遅すぎる。例えば「9月12日にiPhoneが発表になります」というニュースが出て、今が8月25日だとします。その時点から、「iPhoneの話を書きますか」なんて言っていると、そこから調べて書いて、掲載されるのが10月とかになっている訳だから、プロなら本当は9月12日に書店に並ぶ位の予想で考えなければいけない。全ての事に関してそうやって先取りして考えていないとダメですね。

読者ハガキに生意気な事を書いて、出版社の社長に呼び出された


――物書きになられたきっかけは、どのような事だったのでしょうか?


戸田覚氏: 僕は、21歳くらいの若くて世間知らずの頃に、ある雑誌に付いていた読者ハガキにこう書いたんです。「こんな記事、面白くない。こんなのよりももっと面白いものが僕は書ける」と。そうしたら、そこの社長がその読者ハガキをたまたま見ていて、「お前、そんな生意気な事を言うなら書いてみろよ」と言われて、コラムを最初に書いたのが始まりです。

――読者ハガキが社長の目にとまるという事は、あまりないと思うのですが。


戸田覚氏: 社長がたまたま見ていたんでしょうね。そこの会社は社員300人ぐらいの規模の出版社で、僕は社長に呼び出されて会いに行った訳です。その時に、「じゃあ書いてみろ」と社長が言うから、「書く内容には自信があるけど僕は本を書いた事がないし、文章も学校の教育しか受けてないから自信がない。社内教育を僕にも受けさせてください」と言ったら、「すごく面白い事を言うね」と言われたんです。その時に、社長から「実は出版社というのは文章の書き方について、作家も社内の人も教育されていない。つまりOJTみたいなものはない」という話を聞いた訳です。僕の頭の中では、もうその時から今に全部つながっています。自分の会社を持った時「うちの会社は、全部社内教育で文章のOJTをやろう」と。僕の会社は、文章を売っている訳ですから、教育もしない人に書かせて、それでいいの悪いのと言っても明確な基準もない訳ですし…それっていいのかなと思ったんです。例えば、何か製品を買おうとしたら、「これは何万時間使える」とか、全部、基準があるじゃないですか。スイッチがどのくらい押しやすいとか。そういう基準が全くない中で、文章を作って世に出していいのだろうかと。新聞社とかは結構やっていますけどね、あんまりにも基準がない状況が、僕には普通に信じられなかった訳です。21歳の時点では、戸田塾の構想はまだなかったんですが、28歳位になった時に、僕は当初からIT系に強かったので、インターネットで弟子募集みたいな事をしていたんです。当時はパソコン通信で、弟子の一人一人を教えていくのは大変だと思った。僕は文章のノウハウは出版社の人や先輩から教わったので、それを元にメソッドを作って教えていって、その弟子の方に会社のスタッフになってもらったのが戸田塾の始まりです。

――電子書籍の自炊などに関しても、情報としては先取りされたんですか?


戸田覚氏: 僕は多分、最初に出したと思うんですけれど。情報の予測が早すぎて外す事もありますけれど(笑)。早すぎて外したら、あんまり恥ずかしくない。二番煎じより恥ずかしくない。僕はなるべく先へ行きたいと思っているからですね。それで、僕は自炊の本を出したんですが、その本が書店に並ぶ直前に出版社からオファーが3本ぐらい来ました(笑)。「もう書き終わって並びますよ」と言ったら「見ました」って皆さんおっしゃる。まあ、そういう感じですね。

テレビや漫画を読まず、何か作ったり書いたりするのが好きな子どもだった


――どんな学生時代を過ごされたのですか?


戸田覚氏: 僕、大学を5日でやめているんですよ。大学の授業で僕のやりたい勉強がなかったので、ずっと自分だけでやりました。子ども時代も周りと本当に変わらない。成績も普通だし、目立つような子じゃなかったけれど、ただ、テレビだけは見なかった。漫画も読まない。本も、好きだけれど普通よりちょっと多いぐらいしか読まなくて、その代わり何か常にやっているのが好きでしたね。作っているとか、書いているとか。友達に自分の書いたものを見せたりしていた。小説でもない、学級新聞でもないようなものを書いて。それで、「自由研究で1ページ書け」といわれても物足りなくて、10ページ書きたい、みたいなマインドはありました(笑)。今もそうなんですけれども、僕は書く事自体が好きな訳じゃない。伝えたいだけなんです。だからつきつめて考えると「書かなくてもいい」。インタビューでもいいんですが、でもしゃべるのがあまり得意じゃなくて、書く方が得意だから、どちらかというと書く方に重点を置いているんですね。

――「伝えたい」気持ちが強いのですね。


戸田覚氏: 情報を伝えたいんです。どこへ行ってもしゃべるのが好きな人や、あんまりしゃべらない人がいる。しゃべるのが好きな人の中にも色々いて、身の上話とか愚痴ばっかり言う人もいれば、SFっぽい事を言うのが好きな人もいる、色々とタイプが分かれますよね。僕はどちらかというと、人の知らない事を人に伝えて喜んでいただくのが好きで、かつ、それが自分のノウハウではなくて「知ってる? 今度、こんな製品が出てね、生活がこんな風に変わるかもしれない。すごく楽しいよね、興味あるよね」というような話が好きなんですよ、きっと。「今度こんな店ができてね。あそこに行くとこんなに感動するよ」というのを自分だけじゃなくて、人にも知ってもらいたい。いち早くその情報を知っている自分を自慢したいみたいな気持ちがあります。情報は価値ですよね。僕はお金はないけど価値のある情報をもっているから、もしかしたら1万円あなたにあげるよりも、得するかもしれないよって感じかな。 「どうだい、俺、知ってるぜ」みたいな感覚ですね。伝えるのが楽しいんです。

――今でもご自身の考えや行動に影響を与えている本はございますか?


戸田覚氏: もう山のようにありますね。僕は、同じ本を2回読まないんですよ。たまには読みますけど、基本的には愛読書みたいなものがない。好きな人は、座右の銘みたいに同じ本を何回も何回も読んだりするじゃないですか。僕はそういうような本はあんまりない。毎週、印象に残った本は変わる。だって新しい本の方が新鮮でしょう。だから素晴らしかったと思う今週の本はいっぱいありますけれども、ずっとはない訳です。だから影響を与えるのは本だけじゃないですよ、ウェブかもしれないし、新聞かもしれない。僕にとって大事なのは、その内容を人に話した時に、人が感動してくれるかどうかなんです。自分が感動するかどうかはどうでもいい。この話は世の中に対して初めてだなとかね。それで先の見方を常に考えている訳です。例えば今回、電子書籍のお話もありましたが、僕、電子書籍は既に全滅していると考えていて。そういう事は、一般の人が電子書籍の情報だけを集めていても分からない事ですね。

ユーザーが何を求めているか、常にふかんして見なくてはいけない



戸田覚氏: 電子書籍のリーダーがいっぱい出てきましたけど、それを見ていても、その製品単体の良し悪ししか分からない。もっと大事なのは、読者というかユーザーが何を求めているかという事を俯瞰(ふかん)しなくてはいけなくて、そのために情報を集める必要があるんです。大事なのは点よりも、面を見る事です。例えば、アップルが新製品を出した、それが売れるかどうかというのは、その新製品を見ていても分からない。全体を見て、他がこういう風に出している、こういうものを出している。ユーザーが今までこんな体験をしてきた。新しくこんな体験をするとウケる、ではこの製品は売れるなと判断する。その時に記事でどう伝えようという時に、「今度の新製品は何がいい」と書くよりも、「あなたの体験はこう変わるよ、今までやってきたのはこんな事で新しい製品だとこんな事ができるから、この製品を買った方がいいよ」、という記事を僕は作っていく訳ですね。だからそこが多分、普通の人とちょっと視点が違うと思います。

――確かにそうですね。


戸田覚氏: あまりテクノロジーを重視していないというか。例えばね、今日も週刊誌が、この後、電子書籍の取材に来るんです。今度Koboが出ました、AmazonもKindleを出します、iPadももしかすると今週発表になりますと言っているんですが…良く考えると、プア(貧しい)だと思いませんか?…というのは、既に我々はウェブページでリッチなテキストなり写真なり、下手すると動画まで見てる訳でしょう? それを電子書籍リーダーを使う事になって得られる情報は、ウェブの情報よりプアなんですよ。では何故電子書籍という形が必要かというと、本という古い媒体にとらわれた商習慣なり、流通なり、利益なり、フォーマットなり、まあありとあらゆるものが本だったからですよ。でも我々は既に本と同じもの、もしくはそれ以上のものをウェブブラウザーで見ているのに、なんで今更電子書籍リーダーとか訳の分からない事を言うんだよと。でも電子書籍リーダーなんてあっという間に瓦解するのは間違いないと思います。シャープはガラパゴスをiOSに対応させたでしょう? あれが正しい…というかあれも正しくないんだけれども、OSに対応だとかリーダーだとか言ってるのが古くて、ブラウザーでやればいいと。必要ならテキストデータでも何でもいいじゃないですか。それを、囲って商品を売るために、ハードウェアから買わせようとしても絶対、間違っています。みんなiPhoneなりiPadなりアンドロイドの携帯を持っているのに追加で電子書籍リーダーを買いますか?と。「それで何ができるの?」「本が読めるんですよ」と。僕からすれば、失敗するとしか思えません。

今の電子書籍の流れは時代に逆行している



戸田覚氏: iPadがあるのに何でまたSONYのリーダーを買ってモノクロの本を読まなきゃいけないの? iPadで読ませろよという風に普通の人は漫然と今思っているけれども、まだ気付いていない。僕は、出版業界にお世話になったから出版業界をダメにするつもりは全くないんだけど、出版業界なり色々な人達がそうやって利益をあげようと思っているからそうなる。でもそれは間違っていて、ウェブで読めるコンテンツを適正価格で売ればいい。それは別にウェブじゃなくて、専用のリーダーがあってもいいんだけど、それはソフトウェアじゃなきゃいけないんですよ。ハードウェアである必要はない。ハードウェアであった瞬間に、そのハードウェアが他の事もできなきゃいけない。メールも見られるとか、ね。あなた重いデバイスを3個も4個も持って歩くんですかと。

――それは難しいですね。


戸田覚氏: 単行本を5冊持って電車で読む人はいないでしょう? それが電子書籍だったらできて、デバイスに100冊でも入りますよと言っているあなたがリーダーとiPad両方持つんですかと。間違っていますよ。だから、あっという間に瓦解すると思います。そんなの一般の消費者は、求めていない。世界中を含めて電子書籍リーダーなんてダメになります。絶対にタブレットだけでいい。まあパソコンかもしれないですが。だからソフトウェアにした瞬間にデバイスの垣根を越えるんですよ。つまり、iPadだろうがアンドロイドのタブレットだろうがパソコンだろうがスマートフォンだろうが、何でもいいよ、あなたの持っているデバイスで本が読めますよ。もう言うまでもない。音楽は、そうしてる。You Tubeもそうやって見ている。何故本だけ専用の端末を使うの?という事でしょう。

情報とコンテンツで、時代と勝負する



戸田覚氏: 今の形の電子書籍に未来はないと思う。あんなリーダーで読ませようと思ったら未来ゼロだと思う。そりゃそうでしょう、だって意味がない。僕らが売りたいのも出版社が売りたいのも、書籍を売りたいんじゃなくてコンテンツを売りたいんだから。雑誌だとね、レイアウトを売りたいとか…でもそれもやっぱりコンテンツだから、コンテンツを売りたいのにハードウェアをパッケージングして何か売ろうとする。逆行している訳ですよね。そんなのダメです。だから電子書籍業界だけにいたって、そういう事に気付かないし、はい、プロの作家でございと言って文字だけ生み出していても気付かないし。僕は、どちらかというと情報を取って発信するのが僕の命なので、そういう事ばかりを考えて未来を常に見ていますから。電子書籍で勝負をするつもりもないし、僕は、コンテンツと情報で勝負しようと思っているので。だからウェブに、例えば、Yahoo!でもGoogleでもどこでもいいんですけど、そこに1万字の記事を書きました。雑誌にも1万字の記事を書きました。テレビで1万字分しゃべりましたと。ユーザーの脳に情報をインプットできれば、僕にとってはみんな一緒なんです。文字でも映像でも音声でも、電子書籍でもウェブでも何でもいいんですよ。それでお金を頂いて、僕はご飯を食べ、でもその何割かはまた新しい情報を得るために、お客様のために使わせて頂く。で、そこの形態を変えてお金を取ろうというのが多分、間違っているんです。



デジタル時代でも、文字は重要な要素である



戸田覚氏: 文字っていうのは情報を得るために最も有用なツールなんですよ。例えば、人が物を買う時に文字を見ずに判断する人はいない。まあミカンとかなら別かもしれないけど、ちょっと値段が高い物を買う時は誰もが、あ、これ重さ何キロかなとか、車だったら何人乗れるのかな、燃費はどれくらいかなとか考える。それで、そこだけでも我慢できなくて、他の車と比較する時に、映像を見たって比較できなくて、やっぱりカタログとかの文字を読むんです「ああなるほど、こうなっているのか」と。「燃費がいいのはこういう理由か」と。それで、全ての物事を判断する時には、やっぱり文字は一番我々にとって、判断しやすいんですね。それで、営業マンもどんどんいなくなってきて、ウェブなどの情報から人々がモノを買うようになってきた。これはね、映像でも写真でもなくて、やっぱり文字が主要な要素を占めているんですよ。だから僕は今後も文字は無くならずに増える一方だと思っています。というのは、1時間の映像を見るのに1時間かかるでしょう?ところが文字は拾い読みができるから、ある人は新聞を全部読むのに丸1日かかるけれども、飛ばして読めば20分で済むかもしれないです。文字はそれができるけれど、映像は、「この情報は俺、要らないや」って思い付くまでにすごく時間がかかる。そういう意味で文字の文化というのは、これからもますます加速していく一方で、もっともっと認められるし、単価が下がっていくと思いますね。でも、小説を読むみたいな情緒的な楽しみのバリエーションが増え過ぎてしまった。一つの感動を得るために、文字で読みたいっていう人と、映像で見たいという人と、声で聞きたいという人と、多分いっぱいいると思うんですけれども、それは、小説でしか得られなかったというものが簡単にネットの映像で得られるようになってしまった。だから文字の価値は、かなり薄まってしまったんですね。それが、今小説が急にダメになって来た理由だと思います。だから、芸術作品としての文章と、情報伝達ツールとしての文章は、全く僕は別物だと思っています。芸術作品としての文章は、それを読んだだけで感動し、対価を払い成り立っていくビジネスです。そこが、無くなるとは絶対に言いませんけど、他のものにだいぶ取られるというか、薄まっていってしまった。例えばウサイン・ボルトについて興味関心がある人が、昔は全員本を読んでいたけれど、今は、2ちゃんねるを読んで終わりという人もいれば、You Tubeで映像を見る人もいる。文章で読む人もいれば、もしかしたらビデオで見る人もいる。ところが情報を取得するツールとして最も適しているのはやっぱり、文字ですね。文字の方が早く、短時間に沢山の情報が取れるし、必要があれば深く読み込む事もできる、保存しておく事もできる。ニュースを保存しておいたって検索できないでしょう?音声とか動画っていうのは検索できないです。文字は検索できますから。10万年分のニュースを10万年後の人はテキストデータを持ってま。100年後の人が「100年前にいた戸田って奴が当時のスマートフォンという歴史的な電話機について、こういう事を書いている」って、もしかしたら研究者か何かが言うかもしれないじゃないですか。映像はできないですよ。探し切れないから。だから文字って大事なんですよ。

文字で残しておけば、10万年後まで検索ができる



戸田覚氏: 紙ってデータじゃないから。紙では検索しづらいですね。100年後では、技術が発達して何だってできるという話があるかもしれないけど、やっぱり映像の解析は難しいと思います。時間もかかるしね。まだ過渡期だからみんな気付いていない。文章とか文字で勝つという人たちは沢山増えてくるはずですよ。企業が物を売るにしても、映像や写真も重要ですけれど、やっぱりインターネット上で売るというのは文字が大事だという事に気付いてくるはずです。さっきの電子書籍もそうですけど、デバイス…製品とかコンテンツとかっていうのは、まだ皆さんの頭の中で整理し切れないからこうなっているんだけど、電子書籍リーダーは、まず1つも要らない。文字を伝えるのにインターネットほど適したものはないと思います。映像を垂れ流すならテレビは、将来オンデマンドになるのは間違いないですね。ただ、リアルタイムのニュースはオンデマンドになりようがない。3時間前のニュース、見たくないんですよ。最新のニュースを見たいから。天気予報もそうですから、あれはあれでいい訳です。ところが、ドラマだったら全部オンデマンドになるのは間違いない。そうなった瞬間に、もうテレビじゃなくてインターネットなんですよ。双方向になってくるから。

プロと素人の差は、書いた文章に『責任』を持つかどうか



戸田覚氏: それで、文字を書くプロと、インターネット上には素人さんというかプロじゃない人達も大量にいる。その違いは何だと言った時に、やっぱり「責任」だと思うんですよ。書くものに責任を持っているか。つまり、ラーメン屋さんってご飯を作るプロなんです。お金を払ってラーメン食べて、不味いだの旨いだの、みんな言いますよね。ところが友達の家に行って、友達の奥さんなりお母さんが作ってくれたラーメン食べて不味くたって、不味いとは思うけど文句は言わないでしょう?それで、町のラーメン屋の5分の1しか美味しくなくても「いや、美味しかった」って言うでしょう? それ、素人だからですよ。友達が「明日、雨らしいよ」って言ったとして、間違っていたら怒ります?

――怒らないですね。


戸田覚氏: そうでしょう。でも、天気予報を見て、傘をわざわざ持っていったのにピーカンだったと。きっと怒るでしょう?両方、1銭も払ってないでしょう?でも、何故友達には怒らないで天気予報が間違ったら怒るのか? そう思いませんか? それが同じなら友達が、「どこかで大地震があったらしいよ」「どこ?」「分かんない」調べたらそんなものなかった。怒りますか?

―いいえ。

戸田覚氏: ニュースで“イランで大地震”。実際そんなものなかった、怒るでしょ?

――怒りますね。


戸田覚氏: でも友達と2ちゃんねる書いている素人は、一緒でしょ?「来週、大地震があるらしいよ」と言ったとする。大手の新聞が「来週、大地震がある」と書いたらどうします?

――信じますね。


戸田覚氏: 責任があるでしょう?それがプロと素人の違いだと僕は思っています。責任。信頼性と責任ですよ。だから、僕はいい加減な事は書けない。だから残念なのは、FacebookもTwitterも怖くてできない。問い合わせが来るんですよ。「戸田さん、それって何なの?」答えられない事がいっぱいあるんです。突然聞かれた内容を調べて責任を持って答えるとなると、とてもこなしきれません。後は知っていても言えない事がある。情報の守秘義務契約を結んでいて、「その情報はまだ言わないで」という情報の契約を結んでいる場合がいっぱいある訳です。後は、教える事がその人にとって良いかどうか分からない事もいっぱいあるんです。「戸田さん、これから企画書をどうやって作ったらいいの?」という問い合わせが来るとする。その企画の背景やコンセプトから、社内の立場まで全部聞けば答えられるかもしれません……。個別の質問には答えられないケースが非常に多いので、あまりできないんですよ。

――それは責任を感じていらっしゃるからこそですね。


戸田覚氏: それが僕の商売で、仕事ですから。

紙とデジタルの住み分けは、カメラに例えると分かりやすい


――戸田さんにとっては、そういった電子書籍リーダーというのはハードではなくソフトの方に移行していって無くなるとお考えなんですね。


戸田覚氏: ソフトに移行するか、それ自体無くなるかもしれませんね。

――今どうしても本は裁断してスキャニングするというのが主流だと思うんですけれども、バラバラにするのは嫌だとか、そういうお考えはありますか?


戸田覚氏: 全くないですよね。小説ならあるかもしれない。でも、僕が持っている本の多くは情報なので、本が欲しいのではなくて情報が欲しくて買っていますから。でも趣味で買っている図鑑とかは嫌ですよ。でも、そういうものじゃないものを僕は生産しているので。例えば辞書とか図鑑とかってデジタルの方が使いやすいんですけど、それが紙であるうれしさも僕は分かるし、それは情報じゃなくて本というモノがうれしいんですよ。だから、ちょっと論点が僕は違うと思うんですね。高い革の手帳を買いましたと。で、デジタル化しますかどうしますかって。デジタル化した方がいいに決まってるんですよ、スケジュールを共有できるとか色々あって。でもその手帳は愛着があって捨てられない。当たり前じゃないですかと。だってそれは、あなたスケジュールを買ったんじゃなくて手帳を買ったんでしょ…って事でしょう?で、そこに自分でスケジュールを書いた訳でしょう?あなたが大事なのは自分で書いた情報を買ったんじゃなくて革を買ったんでしょ?ハードに価値を認めて買ったんでしょう? でも、あなたのスケジュールを管理するには、もはやインターネット上にクラウドでGoogleカレンダーや何かを使って情報やスケジュールを管理したら便利ですよね。それはそうですよ。それと一緒じゃないですか。

――確かに、手帳は紙派とデジタル派に分かれていますよね。


戸田覚氏: 手に入れたコンテンツを、過去のものは本の形で手に入れて、最新のものはデジタル書籍で手に入れる。でも、図鑑だったら、俺は本という形態を買いたいから図鑑は紙で買う。いいじゃないですか、という事ですよね。それが欲しいんならば。でも、辞書をめくるのがいいんだよねという人は、紙の辞書を買えばいい。でも私は検索をしたいからデジタルが欲しい。それはそれでいいじゃないですかと、そういう事な訳ですよ。で、紙に対する愛着があるって言う人はいっぱいいるけど、いいと思います。それは、情報に対する愛着があるんじゃなくて紙にあるんだから。情報はデジタルの方がいいに決まっていますよ。100万パーセント。ただ、モノが好きかどうかという世界な訳だから、それは手帳の論理と一緒ですよね。カメラとかの論理とも一緒ですよね。好きで買ったカメラは捨てられないとか。でも最新のカメラは5千円、1万円でもっとキレイな写真が撮れる、あなたはどっちを持って来ますか? 僕は好きだからこっちを持って来る。それは、美しい写真が撮りたいからじゃなくて、そのカメラを使いたいから持ってくるんでしょう?それは全く一緒だと思いますよ。

――すごく分かりやすいですね。


戸田覚氏: それでいいんじゃないですか。だから蔵書もデジタル化されるという風におっしゃいましたけど、情報をとっておいて、情報を保存したり情報を活用したいのであればデジタル化した方がいいと。「江戸時代のこの将棋の教科書、素晴らしいんだよね、この紙の質感がね」…いいじゃないですかと。あなたが欲しいのは紙でしょう? でも中には紙と情報、両方欲しい場合もあったりする訳でしょう? 両方取っておきゃいいじゃないと。

本の形態が好きなら紙、情報が必要ならデジタル化すればいい



戸田覚氏: あんまり難しい事を考える必要はないです。情報を取っておきたいのに紙、紙って言われるから、紙をとっておきたいと勘違いする人達が世の中にいっぱいいて、本当は必要でもない本を山積みにしている。「俺は本に愛着があってさ、何回も読んで」、みたいな事を言う。実際は読んでない。だからデジタルにすれば検索して必要な情報が1秒で見つかるよと。だからあなた、そうやって本、積んでおいたら下の本にあるあのフレーズって、どうやって探すのって。3日かかるでしょうと。何か意味あるの?その本の形態が好きならいいでしょう、とっておけば、って事だけだと思いますよ。

――なるほど。


戸田覚氏: だから僕は自分で買った絵画や写真集をデジタル化するつもりにならないですよ。なりますか?

――ならないですね。


戸田覚氏: 絵は情報じゃないからですよ。絵は、絵そのものの実態が欲しいから。本は、物体が欲しい本もあるけれども、多くが欲しいのは情報な訳ですよ。本を買っているんじゃなくて情報を買っているから…って事ですよ。だから情報を買う物は今後、全部ネットになり、かつ電子書籍になる、かつ電子書籍リーダーなんかどうでもなる。ただそれだけの話ですよ。

普通の人が来年知る事を今年知って書きたい。


――最後に今後、取り組みたいテーマはございますか。


戸田覚氏: それはやっぱり、今まだ僕が知らない事に取り組みたいんですよね。うん。来週知る事を今週やりたい。来年知る事を今年やりたい。人が知らない事を知りたい。人は知らない事を聞いても理解できない。既に知っていて、頭の中で顕在化してない事を聞いた方が、人は感激するんですよ。分かっているのに意識の中に顕在化していないというか。みんな、ほとんどの事を知っているんです。ただ、言われないと、それを脳内でアレンジできないだけです。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 戸田覚

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