未来の子どもたちのためにも、「聞き方」を普及していく
株式会社リフレームズ代表取締役、コミュニケーション総合研究所代表理事として、NLP講師、営業心理学講師、コミュニケーション講師としてご活躍中の松橋良紀さんは、ビジネス書『あたりまえだけどなかなかできない 聞き方のルール』(アスカビジネス)の著者としても著名な方です。今日は『聞き方の達人』松橋さんに、現在のお仕事のこと、本や電子書籍についてのお考えを伺いました。
ダメ営業マンが、いきなり全国トップへ
――現在のお仕事や活動について簡単にお話いただけますか?
松橋良紀氏: 私は心理学をベースにした著述とセミナー、研修などを行っています。今48歳なんですけれど、18年前、30歳の頃には売れない営業マンだったんです。私の著書『聞くだけ会話術』の本に「僕は掃除機を売っていたけれど、半年間受注ゼロ」だったと書いてありますけれど、本当は半年どころか、3年間もまともに売ることができなかったんです。
――3年間売り上げゼロだったんですか?
松橋良紀氏: ゼロではないけれど、3年間大して売れなかったんですよ。いつもクビぎりぎりのラインで、上司からは「いつでも辞めてもいいよ」みたいな感じ(笑)。訪問販売をやっているのに、そのへんのサラリーマンとそれほど変わらない給料で、20万円とかでした。ひどい時には10万円台で、もう辞めようかなと、年中悩んでましたね。30歳でうだつも上がらないし、このまま給料が20万ちょっとでずっとやっていても、借金がたまる一方だし。
それで、自己啓発とか心理学が好きだったので、心理学の資格が取れるということが魅力で心理学カウンセラー養成講座に行ったんです。そしたら、NLP(神経言語プログラミング)というのを教えている先生に出会ったわけです。そこで心理学を勉強して営業に応用したら、いきなり翌月売れちゃったんですよ。
――初めてその効果を体験された時には、どのような感じだったでしょうか?
松橋良紀氏: 商品の話をしていないのに売れてしまって「しゃべらなくていいんだ・・・」みたいな感じでした。その「聞く」心理学スキルを使って、全国の営業マン430人の中でトップになっちゃった。
その当時は、35万円の掃除機を売っていたんですけれど、給料がいきなり100万円を超えちゃってね、営業マンを辞めるつもりだったのに、もう辞められない(笑)。
学んだことを後輩に教えると後輩も売れるんですよ。
そのうち、自分も役職が付いて、部下の人達にノウハウを教えたんです。すると私のいた支店は全国でいつもトップになって、その後、他の支店や全国の営業所を回って教えるようになった。そうしたら、当時7億円の会社の売り上げが10億を突破してしまったんです。
――楽しかったでしょう?
松橋良紀氏: そう。でも自分が売れたことよりも、教えた人たちが売れるようになるのが、何よりも楽しかったね。ただ、教えたからといって50万や100万の給料になるわけじゃなくて、自分は固定給になっちゃったんで、将来は、講師として人に教える仕事をしたいなと思うようになりました。専業で研修の仕事がしたいなと考えて、それから8年後にようやく独立したんです。
――その8年の間には何をなさっていたんですか?
松橋良紀氏: 掃除機の会社に勤めていて、やっぱり自分は研修や能力開発の仕事がやりたいと思ったんですが、すぐに独立するという勇気もなかった。
だからまず、株式会社エス・エス・アイという会社に入ったんです。ナポレオン・ヒルやジョセフ・マーフィの脳力開発プログラムなどの自己啓発教材で有名な会社です。
そこで営業や講師をやって、自己啓発関係の仕事をずいぶんしました。
目標設定講座とか、対面や電話で数千人というお客さんにコーチングをしたり、リアルな顧客と接することで、自分なりの悩み解決のノウハウというものを体得できたと思います。その後、独立することになりました。
大ヒットの著書『聞き方のルール』出版のきっかけ
――松橋さんの著書と言うと『あたりまえだけどなかなかできない 聞き方のルール』(アスカビジネス)が大変有名ですが、こちらの出版のきっかけはどのようなことだったんでしょうか?
松橋良紀氏: 独立して1年目くらいで、編集者の方が僕のホームページとブログを見て「本を書ける人だな」と思ってくださったらしく、連絡が来たんです。
「明日香出版社の看板シリーズである『ルールシリーズ』の1冊として、「『聞き方のルール』って本を書いてくれませんか?」と直接依頼があったんです。このシリーズからはその後、『あたりまえだけどなかなかできない 雑談のルール』という本も出しています。
『雑談』の方が読みやすいのか、28刷も出ているんですよ。
でも1冊目の本って今まで学んできたものを一気に凝縮しているので、内容は『聞き方のルール』が一番気合いが入っていますね。
あとはダイヤモンド社から出している『話さなくても相手がどんどんしゃべりだす「聞くだけ」会話術』も読んでほしいなあ。
僕の得意分野である『聞く』ということに関してのエッセンスが詰まっているので。
――松橋さんは著者としては、今出版不況と言われる中で、電子書籍が果たす役割というのはどのようにお考えでしょうか?
松橋良紀氏: 基本的には紙で出版して、それを電子書籍化するという流れはしばらく続くと思うんですけれどね。これから徐々に変わっていくんでしょうね。
『ソース』を読んで、ワクワクさがしに目覚めた30代
――松橋さんと本との関わりというものはどのようなものだったのでしょうか?
松橋良紀氏: 幼稚園の頃から親が色々と読みきかせをしてくれていたので、自然に本好きになって、小学4年生から高校3年生までずっと図書委員をやっていました。
高校時代には、全校生徒からアンケートを集計して載せるとか、『図書館報』という新聞の制作に、ものすごく力を入れていたんです。その頃から何かを「発信する」ということは好きだったかもしれませんね。高校の時、新聞を作っていたのが楽しかったので、「ああやってまた文章書いて何かしたいな…」という思いは常にありました。
読書に関しては、5・6年生の頃、学級文庫に有名人の伝記のシリーズがあったんですよ。『エジソン』とかね。それを読むのが好きで、何十冊もあったのをとにかく全部読んだ。休み時間も読んで、それでも終わらないから授業中もこっそり読んでいた。だから内容は覚えていないけれど、その中の成功物語みたいなものが潜在意識に入っているのかもしれないですね。
――これまで読まれてきた本の中で、人生の転機となった本はございますか?
松橋良紀氏: 『ソース―あなたの人生の源はワクワクすることにある』(マイク・マクナマス著ヴォイス)という本なのですが、ヴォイスに勤めていた友達からもらったものなんです。この本を30代前半の時に、車の中に置いて暇がある時に見ていたんですが、それがきっかけで自分のワクワクすることを整理し始めたんですよ。書くことが好きだとか、しゃべること、教えることが好きとか。
その頃は、自分自身が何をやりたいのか分からない、という悩みがずっとあったんです。この本の著者は、「責任感を持たなくていい、やる気がなかったらやらなくていい、優柔不断でもいい、とにかくライフワーク、自分のワクワクすることをまず発見してみよう」というんです。
この本をきっかけで、やりたいことへ踏み出せるようになりました。それと、影響を与えてくれた本は・・・、男女関係でいうと、『ベスト・パートナーになるために』(ジョン・グレイ著・三笠書房)。あとは『神との対話』(ニール・ドナルド・ウォルシュ著 サンマーク文庫)。
スピリチュアルの本の中では、『神との対話』が一番面白かった。
最初買った時に、3冊まとめて買ったんだけど、「何じゃこりゃ、失敗した、全然面白くないな、当たり前のことしか書いていないじゃん」と思って放置していたんです。
それから5年後くらいかな、ある夜どうしても目がさえて「やばい、このままじゃ眠れない。明日の仕事が困る。あ、あの本を読むと眠れるかも」と思って『神との対話』をめくりだしたらもう面白くて。
同じ本なのに全然違うんですよね。
その時は、仕事がうまくいかないなとか、なかなか認めてもらえないなとか、ちょっと悩んでいる時期だったんですね。結局朝まで徹夜して読んじゃって、会社に行って休み時間に続きを読んでいたくらいです。
――最近読まれた本では、何かありましたか?
松橋良紀氏: 最近面白かったのは、『ザ・マネーゲームから脱出する方法』(ロバート・シャインフェルド著 ヴォイス)という本。
人生で起こっていること、全ては自分自身が作り出しているという説の本なんです。
例えば、今こうやって僕の目の前にインタビュアーとカメラマンのお二人が来ているけれど、これも自分が作り出している、というんですよ。
映画を見ていて「ああ作り物だな、おかしいな」っていうと、すぐさま気分が冷めるじゃないですか。そうならないように、本当にリアルに出来事が起きているように、自分自身が綿密に、今の状態を作っているというんです。
――まるでマトリックスの世界のようですね。
松橋良紀氏: ボーリングをして、満点の300点が出る。それが毎回毎回、間違いなく起きたら、つまんなくてボーリングをやろうなんて思わないでしょう。人生も同じ。全部が全部、うまくいくのがわかりきっていたら、ワクワクも感動もない。
肉体を持って生まれてきて、その人生を楽しむためには、人間関係のトラブルとかお金のトラブルなど、色々な障害を作り出さないと面白くない。
特にお金のトラブルに関してこの本は書いているんだけど、全ての問題は自分が作り出している。けれど、その現実を、自分が作り出していることを忘れてしまっているから、思い悩んだりする。今起きている全ての現象は自分が作りあげているという、その力を取り戻していこう。
そんな本なんです。
『ユダヤ人大富豪の教え』の著者の本田健さんが翻訳している本なんですが、スピリチュアルに詳しい人達の世界では非常に評価が高いんです。
僕が信頼し尊敬している人達は「ああいう本が出てきたというのは、新たな時代に入ってきているな」ということをよく言われますね。
コンビニやマッサージと同じくらい『聞き方』の達人を増やしたい
――最後に、今後ご自身の活動としてやっていきたいことをお聞かせいただけますか?
松橋良紀氏: 今後も、日本に聞き方の達人を増やしていきたい。
私が売れるようになったのは、とにかく人の話を聞くということを学び始めたからです。「聞く」ということには、とにかくいろんな技術があるんですが、まず基本はただ聞いてもらうだけで、本当にすっきりするということをたくさんの人に体験していただきたいんです。
本当に「聞く」ということができる人が増えれば、うつとか精神的にダメージを受ける人が減るんですよね。
日本にはカウンセリングの文化がない。アメリカでは1対1くらいでカウンセラーが付いているといいますが、日本だと、カウンセリングというと病気の人が行くようなイメージがするじゃないですか。病気じゃなくても、話を聞いてくれる人がいるというのはすごく大事なんです。
コンビニと同じくらい、聞き方カウンセラーと呼ばれる人を増やしていきたい。整体とかマッサージっていうのはあちこちにありますよね。マッサージは体が癒されるけれど、体を癒しても心の緊張・心のストレスが取れないこともある。「うつ症」の人は、100万人を超えているとか言いますが、薬を飲まなくてもちゃんと自分のことを分かってくれているなという人を確認できるだけで、ずいぶん減ると思います。
また、人間関係が苦手だったり、自信が持てないっていうのは、親子関係の影響が大きいです。子供の話を聞ける親が増えれば、子供の成長が大きく変わります。未来の子どもたちのためにも、「聞き方」を普及していきたいんです。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 松橋良紀 』