学習塾を経営しつつ、作家の道へ
――帰国してからは学習塾を経営しつつ、執筆活動をされたと伺いました。
高嶋哲夫氏: 生活があったので。そのころ、結婚していて子供が年子で3人いたんです。生活っていうのは絶対にやっていかなきゃいけない。教えることは好きだったし、結構うまかったんです。だから、学習塾の仕事はうまくいったんですね。10年ぐらいある意味のんびりした生活を送りました。四十に近くなったころ、「これじゃダメだ」って初心を思い出して、本気でちゃんと書いていこうっていう風に変えましたね。
――基本的に題材は原子力関係だとか、先生ご自身の知識と経験が反映されているんでしょうか?
高嶋哲夫氏: そうですね。基本的に知っている世界しか書けないので。一番書きやすかった題材をいままで書いてきた感じですね。
――その中で高嶋さんのこだわりといいますか、書いている中で意識されることはありますか?
高嶋哲夫氏: テーマとしては、志のある、何かをやってやろうっていう人たちを書いていきたい。彼らにもいろんな人生があり、悩みもあります。たまたま僕の場合は主人公が科学者の場合が多くなってしまいますが。
――ご自身のお気持ちとかというのも反映されたりするのですか?
高嶋哲夫氏: そうですね。意識する、しないにかかわらず、僕になかったものを持っている人たちだと思います。自分がこうありたかったという人が多いんでしょうね。意識していないというと、うそになりますよね。
――その中で資料としての書籍は、書店で購入されたりするのですか?
高嶋哲夫氏: いまはインターネットからのデータ入手が多いですね。読む資料本は確実に少なくなっています。
――いわゆる専門のサイトをめぐる感じですか。各国の研究所や論文とか。
高嶋哲夫氏: そこまで突っ込むと、のめり込んで時間がなくなるので、表面的なことしかチェックはできないですね。「ああ、こういうのがあるんだ」っていうところでとどめています。海外のデータではなく、基本的には日本のサイトをチェックしています。
東京に来た時には、ふらりと書店へ
―― 実際に書籍を購入する場合は、ネットで買われますか?
高嶋哲夫氏: ネットが多いですね。基本的に全部、アシスタントの人に頼んでいます。でも東京に来て、時間が余ったときは書店に行きますよ。紀伊國屋の新宿本店などです。知っている店員さんがいっぱいいるんで、本当にお世話になっています。僕の本が出たら特別に宣伝していただいたりするので、僕は紀伊國屋の新宿本店さんには頭が上がりません(笑)。地元では垂水の文進堂さんですね。店長さんを知っていて、こちらもよくしていただいています。
――そうなんですね。電子書籍はご利用されますか?
高嶋哲夫氏: 今のところ、僕はiPadやパソコンで読むのはやっぱりちょっと苦手な世代なんですね。でも、あと10年たったら、世代が変わるとガラッと事態が変わるでしょうね。これは、もう100パーセント変わりますよ。だからおそらく本もレコードと同じような道をたどっていくでしょうね。あと10年たてば世界は変わる。要するにデバイスの発達が日本は少し遅れていた。でも、もうどんどん出ていますよね。だからデバイスが普及して世代が変わってきたら、いまの中高生っていうのはスマホのメールを含めて、完全にデジタルで読むことに対して抵抗ないですもんね。
――ガラッと変わる世界の中、出版社、編集者の役割はどんなところだと思いますか?
高嶋哲夫氏: 編集者は、僕はすごく大切な役割だと思っています。本というのは、小説にしても、作家一人じゃ書けないって思っているんですよ。編集者の方との雑談やアドバイスやはげましはすごく有要です。僕にとってはどうしても必要な存在です。本っていうのは素材があるだけじゃダメです。それを編集者や校正者や作家がブラッシュアップしてメークを施して、人が見ても「ああ、美しいな」って思うような形に装丁家やデザイナーがしてくれて、世に出してくれる出版社があって、出版社が宣伝をしてくれて、営業の人が本屋を回り、本屋が売ってくれる。その本を売ってくれる。だからそういう大きな組織があって、やっと1冊の本が読者の目にとまり、世に出て行くというものだと僕は思う。だから出版社がなくなるということは非常に僕にとっては困る。編集者がいなくなると、とんでもない不完全なものしか世に出ないのかもしれないと思いますね。
――そうなると編集者も出版社も役割はますます重要になってくるでしょうし、なくなることはないでしょうか?
高嶋哲夫氏: そうだと思いますけれども、出版社っていうのはやっぱりちょっと体質が古いところもあるし、もっと新しくていいやり方というのがあるんじゃないかなって思うこともありますね。
出版物の電子化について考えること
――電子書籍は敵対するものではなく、共存して、用途に応じて紙と電子とで分けていくようになるでしょうか?
高嶋哲夫氏: まあそうですよね。僕の作品も結構、電子化されているはずなんですよ。自分では把握していないんだけれども(笑)。これはよくないですね。
――高嶋さんの読者の方は、紙と電子とどちらで読まれることが多いですか?
高嶋哲夫氏: 断然、紙の方です。だいたい僕の本を読む年代は大部分が、紙の世代の人たちだと思います。
――高嶋さんの書籍を、手元に残しておきたい、古本などで売りたくない、けれど置き場所の問題などで電子化したいという読者の方々が、本を裁断し、スキャンすることはどのように思われますか?
高嶋哲夫氏: そうですね。やっぱり僕は本をバラすっていうことに対してはすごい抵抗がありますね。ただ、捨てるよりは電子化して持っておいてほしいですね。それでたまに思い出して読んでほしいっていう想いはあります。本はいずれ電子化の世界に移っていくだろうと思います。ただ、やはり業界でしっかり著作権のことをカバーできるようなものを作ってほしい。クリエイターの生活が成り立たないと新しい、より良いものを生み出すことができない。だから、そういったことを考慮に入れてクリエイターが次の作品をがんばって書こうっていうような意欲が生まれるような、取材などの経費が出るような収入を確保できるものにしてほしいという。切なる願いですね。
災害、教育、原子力のテーマに取り組みながら、執筆作をハリウッドへ
――今後、取り組みたいテーマというか、執筆活動に限らず、展望というのをお伺いできますか?
高嶋哲夫氏: いまちょっと色んなことに興味がありすぎて困っています。書くものはやはり科学、政治、経済、教育ですね。そういったものをテーマにした幅広いものを書いていきたい。講演関係もいまは災害をテーマとすることが多いですね。災害、教育、原子力、新エネルギーそういったものをできるだけ皆さんとお話ししていきたいというのがあります。
――色々なところで講演もされていますね。
高嶋哲夫氏: あとは、自分の作品を英語出版して、ハリウッドへ持っていきたいんです。それをやってくれる会社を探しています。映画になった『ミッドナイトイーグル』(文春文庫)という小説は日本アルプスにステルスが落っこちる話なんです。あれは北朝鮮、中国がステルスを落とす。それで、日本の自衛隊がそれを回収に行く話なんですけれども、この話をそのままアメリカに持っていっても、多分売れない。アメリカ人の大部分は日本なんて余り興味がないと思います。だけれども、ロッキー山脈にステルスが落ちた。例えばアルカイダか何かがステルスを落として、それに対して特殊部隊が回収に行く。これだったら売れるかもしれない。それで僕、それを色々提案しているんですよ。実をいうと、書き直して、アメリカに舞台を置き換えた原稿を持っているんです。残念ながら日本語ですが。で、誰かそれをビジネスレベルでちゃんと英訳してやってくれるとすごく有り難い。それとですね、『命の遺伝子』(講談社文庫)を書いたときは、絶対に英語圏で出版してもらいたかった。僕の最終的な夢はハリウッドで映画化されることです。だから英語で出版されて、ハリウッドで映画化という流れを実現したい。『命の遺伝子』は、スピルバーグが読んだら、ストーリーさえ知ってくれたら映画にしてくれるって思っているんです。ぜひスピルバーグに読んでほしいんですよね。
――スピルバーグで映画化なんて、夢のようですね。
高嶋哲夫氏: 舞台は世界なんですよ。ドイツ、バチカン、ブラジル、アメリカ。いま『命の遺伝子』は、講談社文庫に移っています。あれなんかはそのまま英語に訳して、僕の名前じゃなくして、例えばTED TAKASHIMAとか何か名前を付ければですね、通用するんじゃないかって思うんですよ。『メルトダウン』(講談社文庫)もそうなんですよ。これは東海岸、西海岸と全部アメリカが舞台なんですね。『メルトダウン』が英語になっても違和感ないと思いますよ。そして、今度ウキウキするような話が決まりました。来年、2013年1月29日にこの『メルトダウン』が『Fall out』とタイトルを変えて出版されます。もう数年前から話があったんですが、やっと実現しました。ニューヨークに本社のあるバーティカルという講談社系の出版社です。もうAmazonにも載っています。この英語版からアメリカでのテレビ化や映画化が決まれば最高に嬉しいです。もう一つ、『乱神』(幻冬舎)という歴史小説があります。これも英語版、そして映画化には最適です。誰かガンバッテ下さい。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 高嶋哲夫 』