西田宗千佳

Profile

1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、アエラ、週刊朝日、週刊現代、週刊東洋経済、月刊宝島、ベストギア、DIME、日経トレンディ、PCfan、YOMIURI PC、AV Watch、ASCIIi.jp、マイコミジャーナルなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、『ソニーとアップル 2大ブランドの次なるステージ』(朝日新聞出版)、『漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち』(講談社) などがある。

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作業が終わるまで2~3分で済むことしか残っていない


――こういった電子機器が登場して、どんどん仕事はやりやすくなっているかとは思いますが、マネジメントに関してはいつごろ変化があったんですか?


西田宗千佳氏: 僕は大変なことはひとつもしていないんです。逆に自分が「これは大変だ」と思ったらやめてしまう。例えば、90年代のパソコンブームの時に、「パソコンを買った、これで表計算ソフトやデータべースでしっかり情報が管理できるようになる」と、みんな意気込んだ。でも意気込んでも大体3日でやめてしまう。みんなやりたいこと、やらなくちゃいけないことがたくさんあるわけですよね。その時に面倒くさいことってやっぱり後回しになる。僕自身もそうでした。では、生き残っていることは何かというと、作業が終わるのに2~3分で済むことしか残っていないんです。本の自炊も、スキャナーがスキャンしてくれるのを10分間放っておけばいいわけですよね(笑)。その後のデータも、別にきれいに整理して取っておくということではなく、単にファイルごとにフォルダーに入れているだけ。
 そもそも、僕はものすごく字が汚いんですよ。字が汚いので、スケジュールとかを紙に書いていると、自分で見ていて嫌になるし、覚えていられない。例えば、本日何時にアポイントがあったとして、「この人は誰々さんだっけ」とか、「どこを呼び出すんだっけ」とかは、本来きちんと覚えていないといけないし、メモしておかないといけないんだけど、できないんです。僕自身がスケジュールを電子機器に書き始めたのはたぶん95年とか96年ですね。それは単にその方がきれいに見えるし、便利だから。

――それ以前はシステム手帳を使われていたんですね。


西田宗千佳氏: バブルの前期のころ、システム手帳がはやったんですよ。あの時はなんだかかっこよかった。高校時代から手帳に細かいメモを書いたり、スケジュールを書いたりしていたんですが、大学へ入ってアルバイトをし始めて、ライター業も始めると、スケジュールがたくさんあってぐちゃぐちゃになってきて、汚くて嫌になってくるのでデジタル化したんです。デジタル化してしまうと書き直しもないし、移動も楽です。「よく全部デジタルで管理できますね」といわれるけれど、私にとっては、こっちの方が圧倒的に楽なんです。さらにもっと楽になったのは、Gmailが出てきてからですね。Gmailで入ったアポイントを転記はするけど、詳しいことを書かなくてよくなった。移動中にGmailを開いてアポイントの名前をちょっと入れて検索すると、「誰々さんが何時、担当者はこの人だ」と分かる。昔はそれを紙に印刷して持って行かなきゃならなかった。

紙が楽だ、と思う人は、それでいいと思うんです。無理にデジタル化する必然性なんてない。それは自炊についても同じで、紙の方が楽だったら積んでおけばいい(笑)。自分でやるのが嫌な人は、BOOKSCANさんみたいな業者を使うのもひとつの方法だし、それで悪いことなんて何もないんですよ。

機器を使いこなす必要なんてない。1割でいいんです


――西田さんが自炊をされる理由というのはあるんですか?


西田宗千佳氏: 僕が自炊するのは、自分でやるのが楽だから。大切なのは、「その人にとって楽なのは何か」ということだと思うんです。僕にとっては、「IT機器を使って、できる限り手で書かない」というのが楽だった。しかも一日の中で何秒かずつ、ポコポコと使っていく方が面倒くさくない(笑)。例えば名刺をいただきます。全部の名刺をきちんとデータベースにするのは大変なので、「この人は後から連絡する人」「そうじゃない人」に分けて、そんなに連絡しない人は順番に箱に入れる。連絡を取る人は名刺の写真を撮ってEVERNOTEに入れる、それだけなんですよ(笑)。そうすれば検索できるじゃないですか。それだったら1枚撮るのに1分かからない。こういう風に「自分が楽なのはどういうやり方か」 しか僕は考えていないですね。「IT機器を使ってどんな風に素晴らしくなりましたか?」 と質問されると、むしろ家の中は汚れ放題だし整理もできていない(笑)。本もだんだん増えていくので、自炊していても文庫や新書が増えなくなっただけ。最近は電子書籍の分析をしなきゃいけないとかタブレット機器を見なきゃいけないので、機械の量がどんどん増えていますね。部屋が狭くなる一方です(笑)。僕自身が効率的な仕事をしているかというと全然そんなことはない。むしろ、もっときちっと管理をして、紙をはさんで、ノートをきちっと持ち歩いてという方の方がよほどしっかりしてらっしゃると思うんです。でも、僕自身はこれで十分楽です。

――IT機器をご自身の手足として十分ご活用されているということですよね。


西田宗千佳氏: それはそうですね。「私、ITを使いこなしていなくて」と皆さんおっしゃる。全部使いこなす必要なんてないです、1割でいいんです(笑)。何かの電子機器を例えば5万円で買ったとしますよね。全部の機能を使わないと元を取った気がしない、と言いますけれど、その人にとって便利だったら1割の機能で十分なんですよね。そういう風に考えると、「いやあ、スマートフォンを買ったけども電話にしか使ってなくて」というけど、十分なんですよ、電話なんだから(笑)。

本当にマニアックな素人の方にはかなわない


――機械の量がどんどん増えているということですが、一般の方が機器を購入する時と比べて、西田さんが購入する際はどういった違いがあるんでしょうか?


西田宗千佳氏: 買う時は、「たぶんこれは仕事で取り戻せる」と思っているので、仮に使わなくなる可能性があっても買っていますね。機械を買って使ってみて、「やっぱりダメだった」ということがあっても、僕らはそれを記事に書いたり情報として発信することによってお金をいただける。でも、普通の方は「これやっぱりゴミ製品でした」というのは、ブログのネタにしかならない(笑)。もしくはライターという職業だと、メーカーに借りて使うこともできますので、そういう意味では恵まれています。逆に自分で手に入れて毎日使っているものに関していえば、僕よりもずっと日常的に使いこなしていらっしゃる一般の方は大量にいらっしゃる。すごく単純な話で、やっぱり本当のマニアの方だとか、技術者の方だとかに比べると僕らは何も知らないんですよ。時間的制約やコスト的制約がありますから。仕事として、効率良く情報をまとめないといけない。僕が知っていることは、最新情報ではありますが、ある範囲でしかなくて、使いこなしの話などになると、本当に好きでたまらなくて、ゼニカネは関係ないという、マニアックな方にかなわない部分もある。これはほとんどの世界でたぶんそうだと僕は確信しているんですけれど、最終的にプロは「ものすごいアマチュア」にかなわないんです。だから、そういうレベルの方はリスペクトしなくてはいけない。

文筆家にとってのノウハウがすべての人にとってのノウハウではない


――IT機器以外にも何かを極める人っていらっしゃいますよね。


西田宗千佳氏: ビジネスや仕事の効率化という話に関しても、効率化するということについてものすごく一生懸命考えておられて、それが趣味であるという方や専門に書いておられる方はやはりすごい。でも、それをすべての人がまねようとしても、99%が無理なんですよね。だとしたら、僕も含めた普通の人たちができる範囲っていうのはこんなもんだよねっていう割り切りが必要。僕自身仕事術本なるものも出したことがあるんですね。でも企画段階で、僕は編集者に「仕事術本は嫌です」といったんですよ。僕はフリーランスのジャーナリスト・ライターのための仕事術を知っています。でも営業マンの方の仕事術だとか、技術者の方の仕事術とは違う。



さらにいえば、一流企業のトップが「私はこんな風に仕事をしています」というのを聞いて、入社したての新入社員の役に立つかというと、絶対無理です(笑)。そもそも、そういう本の存在が矛盾しているんですよ。でも、編集者は「あなたがどういう仕事をしているかを読みたいんですよ」と言うわけです。「仕事術というものを求める人はそれでもちろん効率化したいと思っているんですけれど、それ以上に、こういう人たちはどんな仕事の仕方をしているのかというのを知りたいんだ」と。そう聞いたら、なるほどなと思ったんです。だから「僕の立場ではこういう感じですよ、たぶんあなたの立場ではこういうことなんじゃないですか」という話はできる。そういう風にはしようと考えています。普段「お薦めの機種はどれですか?」とかそういうことを聞かれることも多いんですけれども、その時にもそういう答え方をさせていただいています。

著書一覧『 西田宗千佳

この著者のタグ: 『ジャーナリスト』 『インタビュー』 『取材』 『フリーランス』 『コンテンツ』 『IT』 『立場』 『売り方』 『ドキュメンタリー』 『家電』

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