西田宗千佳

Profile

1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、アエラ、週刊朝日、週刊現代、週刊東洋経済、月刊宝島、ベストギア、DIME、日経トレンディ、PCfan、YOMIURI PC、AV Watch、ASCIIi.jp、マイコミジャーナルなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、『ソニーとアップル 2大ブランドの次なるステージ』(朝日新聞出版)、『漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち』(講談社) などがある。

Book Information

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電子書籍を作っている人の間の「電子書籍中二病」


――確か本にも「人は保守的だ」と書かれていますよね。


西田宗千佳氏: はい。90年代にマルチメディアが出てきた時、多くの人がものすごく期待したんです。ディスクの中に色んなコンテンツが入って、映画でも本でも何でもない、ものすごいものが出来上がると思ってみんな期待したんですね。でも普通の人が期待したのは何かというと、それでエッチなビデオが見られることぐらいだったんですよ(笑)。でもそんなもんなんですよね。本がものすごいハイクオリティになってアプリケーションのようになったといっても、人が読みたいのはあくまで「本」かもしれない。保守的だとすれば、要は単なる本なんだけど、「買い方」はいままでの紙の本とは違うよね、っていう方が、ユーザーにはすんなりと受け入れられるんじゃないかなと思うんです。「紙の本と同じ形をしていてはならない」という主張を、電子書籍を作っている人の間では「電子書籍中二病」って呼んでいるんですけど(笑)。

――それはどういったことでしょうか?


西田宗千佳氏: 電子書籍をスタートしたとか電子書籍に注目し始めると絶対いうんですよ、「やっぱり紙の本と同じ内容で同じ形じゃつまらない、ページをめくっているだけの電子書籍なんて電子書籍じゃない」って。でも、読む人が求めてくれなかったらそんなの意味ないんですよ。それでもいいけど、気がついてみたら「これは電子じゃないと売れない形だよね」とか、「ちょっとしか違わないんだけど、これ電子書籍だからできることだよね」っていう風に少しずつ変わってきた。そうやって長い時間をかけて、電子書籍も変わっていくんじゃないかなとは思います。そもそも、ウェブと電子書籍って実際にはそんなに境目がないんです。コンテンツそのものでお金が取れるのが電子書籍で、広告でしかもうけられないのがウェブだと思っています。それしか違いはないです。という風に考えれば、そのへんはたぶん地続きで一緒になって、ゆっくり変わっていくんだろうなと思います。

人がいつ、どういう形で読みたいかの選択肢を提供してあげることが一番


――ユーザーにとって何が大切かということをまずは理解することが大事でしょうか?


西田宗千佳氏: その人にとって何が大切かということですよね。アメリカなんかだと本を買うとき、色々形を選べるわけですよ。Amazonに行くと、紙版・普通のハードカバー・ペーパーバッグ・文字が大きいバージョン・オーディオブック版・電子書籍版、全部並んでいる。その中で、僕は移動中の車の中で聴きたいからオーディオブックが買いたい、僕は老眼だからでかい文字版が買いたい、僕は電子でいいから電子書籍版を買いたい、という風に、自分のスタイルだとかニーズによって選んでいる。でも中身は本ですよね、あくまで読みたいのはストーリーだったりするわけですよ。だとするならば、その人がいつどういう形で読みたいかということに対して選択肢を提供してあげることが一番で、全然違うものを「俺たちが考えたすごい球だ」といって投げるのが本当に適切なのかというのは、ちょっと分からない。

少なくともアメリカにおいては、そういうものすごい球というのは全然受け入れられなくて、結局Kindleの、すぐ買えることであるということが受け入れられたんです。日本でも来るとすれば、もしかするとそれに近いところかもしれないです。読者の人たちが一番求めているのは何なのかということですよね。どういう形であれ、やっぱり「自分が欲しい本をとりあえず目の前に持ってきやがれ」というのが、本読みの本音だと思いますね。だからできる限り僕自身としても、本を出したら「これは電子書籍版をできる限り近いタイミングで出してくださいね」とか、「色んなところで売ってくださいね」というお話はしていますし、そのために出版社の方と一緒に協力していただけるように努力はしています。

本読みからライターの道へ


――西田さんのこれまでの読書遍歴などもお伺いしたいと思います。


西田宗千佳氏: 僕はずっと理系で、大学では数学をやっていたんですけれど、小さいころからずっと本ばかり読んでいたんですね。小さい時には学研の「ひみつシリーズ」で育って、小学校で一通り児童文学を読んで、中学・高校あたりでミステリーとかSFにハマって、人生を踏み外すという本読みの典型例で。根拠なく高校ぐらいの時から僕は文字を書いて暮らすんだと思ったんです(笑)。別にそれは何かものすごい自信があったとか、根拠があったとかではなく、単にそう思っていた。大学で、金のかかるハンググライダーというスポーツをやっていたんですけれど(笑)、お金もなかったのでいいアルバイトを探さなきゃいけなかった。それで、たまたまパソコン雑誌の編集のアルバイトを経て、ライターを始めたわけですね。IT業界のいろいろな話を聞いていくと、ものを作っている人たちってこんなに面白いんだとわかって、特に取材モノが好きになったわけです。それでどんどん取材をやるようになっていった。

――取材されて記事を書く際、意識されていることはなんですか?


西田宗千佳氏: 人に何かを紹介する時に、「これを人に薦める理由は何なのか」というのは必ず問われます。新製品だから薦めるわけでもなく、安いから薦めるわけでもなくて、「何か理由があって薦めるんだよね?」と。だとすると、これを薦める理由は何なのかということを必ず書く、ということは意識しました。そう考えると、これを作った人たちの考えていた本質は何かだとか、これを売りたいと思った人たちの本質は何かというのを、やっぱり自分なりに考えなくてはいけないですよね。

もうひとつ僕自身が気をつけていることがあるとすれば、「僕がいっていることは常には正しくない」ということです。僕というのは別に何かのオーソリティーでもなくて、人から聞いたことに、自分の考えを加えて伝えている人にすぎないわけです。だとすると、いったことはもしかして間違っているかもしれない。それはほかの新聞に書いてある記事でも全部そうだと思っています。だからこそ、自分がいったことに自信を持たなきゃいけないので、ある程度自信が持てるように考えたり取材したりするわけです。でも間違っていたら、すぐに、「ごめんなさい、間違っていました」っていわなきゃいけない。そうやって間違っていたら直すという気持ちでいると、本当にその人たちがいいたい本質と、自分が本質だと感じることが一緒とはいわないまでも、30度くらいのズレの中に入る。そのぐらいにはしたいなとは思っています。

少なくとも何回も作った人たちに話を聞いたりしていると、なんとなく正解に近いものが分かる。それは初期に訓練されたんだと思っています。だから、取材に行かないで書くのは嫌なんです。現場に行ってその人に聞いてみないと本当のことは分からないし、自分が納得することができない。だから僕はキュレーション的なことはしない。それはとても大切なことで便利なことだとは思いますけれど、僕がやることではないし、別の人でもできる。僕がやるんだとすれば、とりあえず自分が聞ける範囲・やれる範囲で人に聞いてこようという風に思っています。

必要なことをするために、どうでもいいことを効率化する


――効率化を図る中で、取材することは人によっては面倒くさいと感じるものですよね。


西田宗千佳氏: 圧倒的に面倒くさいですよ(笑)。逆にいうと、面倒くさいことに時間を使うために、どうでもいいことを楽をする(笑)。あとはお分かのように、単純に僕はしゃべったり人に話を聞いたりするのが大好きなんですよ。「口から先に産まれたよね、あんた」ってよくいわれるくらいなので。要は相手の話を聞くというのが大好きなんですね。だから取材は死ぬほど面白いので、これをやめろといわれたら、もう生きていけないと思うぐらい。逆に取材だけして原稿を書かなくてよければ、こんなに楽なことはないのに、というのが本音です(笑)。苦なのは取材にお金がかかることくらいですね。例えば最初の『iPad vs. キンドル日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』(エンターブレイン刊)を書いた時にもアメリカに行かなきゃいけない。アメリカに行く取材費を出版社が出してくれたわけでもなんでもない(笑)。それでも、実際に見たり聞いたりしてこないと分からないよね、と思ったから行ったんです。そういうことに関して年間いろいろなお金が出ていくのがつらい、でもそれはしょうがないよね、というのが正直なところですよね。

世界を相手にこんな風にバカみたいに戦った奴らがいると覚えておいてほしい


――最後に読者に向けてメッセージと、今後書きたいテーマをお願いします。


西田宗千佳氏: この本(『漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち』)についてはですね……。「日本ってダメだよね」って最近いわれるじゃないですか。ダメなんですよ、ダメなんですけど、昔頑張ってこんなに成功した人がいて、その人たちの血というのは色んなところに生きているんだよっていうのは理解してもらいたいと思うんです。その時の人たちは、ものすごく高い意識で仕事をしていたんです。そういう人たちの考え方に触れることで、読み終わった後に元気をもらえるんじゃないかと思っています。少なくとも僕はどんなに失敗の話を聞いていても、取材が終わった後に毎回元気をもらっていたんですよね。なので、この本を読んで「頑張るとまだ何か面白いことがあるんだ」という風には思ってもらえるといいかなと思っています。ゲーム機の話を書いた本ですけど、ゲーム機がどのくらい売れたかというよりも、世界を相手にこんな風にバカみたいに戦った奴らがいるというのは覚えておいてもらいたいです。

――これから書きたいテーマなどは決まっているのですか?




西田宗千佳氏: 直近のネタは秘密です、というのが正直なところですけれど、個人的にすごく気になっていることは、「でっかいお金をかけてでっかいものを作る」のは、本当にもう古いのかな?という疑問はあるんです。例えば、メルマガのビジネスでは、千人とか2千人、千人も読者がいればすごいと思うんですけど、大量の読者がいなくても数百人数千人の読者からきちんとお金をもらえれば人は暮らしていける。音楽にしても、大規模なプロモーションを打たなくても、ファンに対してきちんとビジネスをやっていけばみんな食べていけるという考え方があると思います。でも僕らが日常楽しんでいるものってものすごいお金をかけたものもたくさんありますよね。例えば、ハリウッド映画ってバカにされるけど面白いじゃないですか。「ドラゴンクエスト」って、もういいやっていわれるけどやっぱり面白いじゃないですか。こういう風に考えると、そうやってたくさんの人が集まってたくさんのお金をかけて売るものが、いろいろ限界が来ているのは事実なんだけど、それってもう世の中でやっていけないのかな。要は小さい規模で回るビジネスと、でっかい規模で回るビジネスとの間って本当に何もないのかなとか、両方は一緒に成立しないのかなというのはすごくいま、気になっているところなんですよね。

――西田さん自身は小さい規模で回るビジネスの世界にいると思われていらっしゃいますか?


西田宗千佳氏: 僕はたぶん数百万部売るような作家には絶対ない。僕のようなノンフィクション、それも専門性の高いジャンルの人間が、何千万人もの人に本を買ってもらうことって、たぶんないんですよ。何千人かのお客様を相手に、僕は食っていかないといけないんですね、ずっとこれから。僕は小さい世界の住人であり続ける。でも、ほとんどのものを作っている人っていうのは、小さい世界で生きていくしかないんです。その小さい世界で生きていくしかない人っていうのと、でかい世界の人との間ってないのかな?ということは、まだよく分からないんです。そういう部分をこれから解き明かさないといけないのかなと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 西田宗千佳

この著者のタグ: 『ジャーナリスト』 『インタビュー』 『取材』 『フリーランス』 『コンテンツ』 『IT』 『立場』 『売り方』 『ドキュメンタリー』 『家電』

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