月に200冊増えていく資料を「自炊」で持ち歩く
――ITは新しい技術が次々に出てくるので、書籍などの資料にも多く当たらなければいけないと思いますが、大変ではないですか?
三好康之氏: 資料を読み込むのは苦痛じゃないですね。仕事が休みになったら、どんな資料を読もうかと考えています。もともと僕自身がIT関係の仕事をしていて、コンピューター関係で出る本出る本を買っていかなきゃいけないので、月に本棚1個分、200冊ぐらい増えていってた頃もあります。出版社からもいろいろな新作の本が送られて来るので、買わなくてもどんどん増えてくる。だからPDFで電子化する「自炊」を、かなり昔からやっていました。自炊を始めた当時は裁断機もなかったので、カッターでバラしてA3までスキャンできるスキャナーを使って、1日1冊ぐらいコツコツやっていましたね。
――電子化された書籍はどのように利用していますか?
三好康之氏: 前はパソコンの中に入れて持ち歩いていましたが、今はiPadとiPhoneに入れています。ただ、研修やコンサルティングをしていて、外出先で急に資料を見たくなったり、出張時にどの資料が必要になるかがわからないので、そのように大量の本を持ち歩ける電子書籍は本当にありがたいです。紙は重い。
――三好さんにとって読書とはどのようなものでしょうか?
三好康之氏: 本は資料みたいな感じでとらえているので、正直小説とか、文庫本なんかの“文字だけの本”って読んだことないんですよ。読書感想文でフランダースの犬を読んだぐらいで、それさえも苦痛でしたから。今の僕を形成しているのは漫画本のおかげですね。人の生き方とか、仕事の仕方とか、人間関係というのは、全部漫画から得ました。僕は漫画だけで育ったんです。
――どのような漫画が好きなのですか?
三好康之氏: 漫画との本格的な出会いは、小学校6年の時かな。『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(JUMP COMICS)の1巻がちょうど出たころです。その頃から嵌っています。今もジャンプとマガジンはずっと読み続けていて、娘がいるので少女漫画も読むし、テレビのアニメもほとんど見ています。あと、漫画家だと藤子不二雄さんが好きですね。『ドラえもん』(小学館)から入ったんですが、今ではほとんどの本を持っていますね。
――娘さんにとっては趣味を理解してくれる最高の父親ですね。
三好康之氏: そうなんですかね。それはわかんないけど(笑)。ただ、この間、中学生になる長女と二人っきりで名古屋に乃木坂46のコンサートに行ったんですけど、何の違和感もなかったですね。娘は出張とかにも一緒についていきたいっていつもいいますし。東京が好きなんでしょうけど、僕と一緒にいてもあんまり苦じゃないことは確かです。家でも、車の中でもずっとしゃべっていますから。最近だと、学校の友達との人間関係について話し合いました。「みんなはアニメで盛り上がっているけど、乃木坂の話題が学校で出せないから、パパしか聞いてくれない」といって、二人で盛り上がっています。
――娘から避けられているとか、何をしゃべったらよいかわからないという父親も多いと思いますが、良好な関係を築く秘訣はなんなのでしょうか?
三好康之氏: 間違いなく時間だと思いますね。普通の人は外で仕事していて、平日は会話をしないでしょう。うちは常にお父さんがいますからね。ただ、娘の友達が家に来る時は、「パパ、ちょっとどっかにいっといて」っていわれます。「お父さんがうちにおるのおかしいから」って(笑)。
ソフトの時代は「恋愛経験」がものをいう
――ご家族とのエピソードをお聞きしても、新しい働き方を身を持って示されていると思います。特に自分の仕事に迷っている若者にメッセージをお願いします。
三好康之氏: これからの時代は、マルチタスクで動けるようにならないと時間が足りないと思います。勉強でも仕事でも、昔は集中する能力が求められていましたが、変化の速い今はそれだと時間が足りなくなる。そうじゃなく、集中せずに同じ時間に複数のことをこなす「マルチタスク的」な行動が必要だと思いますね。それができれば、時間が2倍、3倍に使えるわけですから、生き方も楽になると思います。例えば、子どもと一緒にテレビを見て、遊んだりしながら、横で仕事をしたりするとか、勉強しながら仕事をするとか。デートしながら仕事の段取りを考えるとか。僕はそうしています。僕が会社を辞めた理由の1つも、テレビを見ながら仕事ができないことだったんですから。テレビって垂れ流しができるから、情報収集しながら他のことをこなせる。便利なんですね。今では、仕事しながら、テレビを2画面つけています。1個ニュースで、もう1個ドラマなんかを流していますね。
それ以外にも、川西から東京に移動する6、7時間の間でも、2つ3つの構想とか企画を頭の中で組み立てたり、勉強も何かのついでに合わせてしているんです。集中するんじゃなく。勉強なんかだと、自分自身に意識だけ植え付けておいたら、勝手に頭が考えてしまいますからね。特に参考書等のツールを使わなくても、覚えた内容を思い出すという勉強法なら、頭だけでどこででもできますから。そんな風に、マルチタスクで時間を2倍3倍に使うことっていうのを考えていけば、案外、生きやすい世の中だと思いますよ。今世の中に物はあふれているし、情報もたくさんあって、それをマイナスにとらえちゃうと重たいけど、全部楽しんだらいいなというような発想にも通じますし。特に、考える仕事が増えると、仕事をしながら勉強したり、あるいは遊びながらでも仕事ができたりするようになりますしね。
――考える仕事とおっしゃいましたが、日本の産業は今後、知的労働の重要性が増していくとお考えでしょうか?
三好康之氏: クールジャパン(日本独自の文化が海外で評価を受けている現象など)が話題になっていますが、今日本に残された道はソフトしかないと思いますよ。供給過多で、物が売れる時代でもなくなってきたので製造業には厳しいでしょうね。(漫才師の)中川家の漫才で、冷蔵庫の製造ラインのバイト時代のネタがあるんですがご存知ですか?中川家の二人が冷蔵庫の生産工場で働いていた時、毎日、来る日も来る日も、生産途中の冷蔵庫が目の前に流れてくるんですね。1日500個ぐらいかな、ベルトコンベアでバーっと流れてくる。そんな単純作業に、剛のほうが切れたんです。「こんなに誰が買うねん!」て(笑)。結局、そうなんですよね。冷蔵庫にしても車にしても、そんな大量に誰が買うのかっていうこと。しかも、最近だったら品質がいいので長持ちするからいらないですもんね。もう“形あるもの”はそんなにいらないと思いますよ。それよりも、これからはクールジャパン、ソフトしかない。
――そんなことを企業に提案したりしているんですか?
三好康之氏: そうですね。それに限らずですが、研修であったり、コンサルテーションであったり、指導していますね。相手は、自分より年上の人であったり、経験が豊富であったり、スキルが高いってことも多いですよ。
――難しくないですか?
三好康之氏: その点は大丈夫です。その自信はどこにあるかというと、一番はやっぱり恋愛経験なんですよ。僕のほうが絶対いい恋愛経験していますから。よく振られていますが(笑)。もう1つは、勉強や仕事以外の世界をよく知っていること。漫画とかアニメとかアイドルという、そういう彼らの知らない世界を知っている。相手が優秀であればあるほど、(勉強や仕事しかしてこなかったから)弱い世界ですからね。これは勝手に思っているだけなんですけど、絶対に僕の強みだと思いますね。
電子出版、ネット放送。自由な活動を模索していく
――会社経営者はそのような時代にどう立ち向かっていけばよいでしょうか?
三好康之氏: 終身雇用、安定雇用ができなくなってくると思うので、プロジェクトごとに人を集めるという体制を組むことが必要でしょうね。今の時代、旧来の“会社”という組織形態のまま運営していくのは厳しいでしょうね。リスクがありすぎる。かといってそんなに魅力もない。僕は完全に保守主義なので、今の社会状況とか経済状況を考えると、絶対に“会社”という組織を大きくしようとは思いません。会社としては、1人でのんびりと、フラフラとしています(笑)。ただ、一人よりも二人、二人よりも十人というメリットは欲しいですね。人数が多ければ、大きな仕事ができるから。発言力も強くなるし。だから、会社の枠を超えて、案件単位に複数企業でコラボレーションするプロジェクト制がベストだと思います。個人としては、ゼネラリストを目指すべきだと思います。そもそも経営者はゼネラリストでないと務まりませんから。ただし、スペシャリストの雇用をきちんと守ってあげてほしいです。スペシャリストはこけたら全て終わるのでリスクが大きいですからね。今のゼネラリストというのは、スペシャリストを倒そうとしているんですが、それでは絶対に進化しません。専門分野の1個1個に関しては負けを認めないと、絶対にダメです。スペシャリストといい関係を築いていかないと、最後は自分に跳ね返ってきます。
――最後に、今後の事業の展望をお聞かせください。
三好康之氏: 2013年から、既存の組織の枠を超えた執筆や研修のグループを立ち上げています。名称は、大好きな乃木坂46にちなんで、ITのプロ46というのにしました。今現在、50人弱のメンバがいます。そして、そのグループで後継者を育て、今の自分の仕事を引き継いでいきます。具体的には、今書いている本を、すこしずつ共著にして、自分の仕事を引き継いでいく予定です。本を出していると固定ファンがついてうれしいんですけど、離れられないんですよね。僕は縛られたくないので、自由に、違うところに行きたいと考え出したのがきっかけです。
僕の受講生で、ノウハウを引き継いでくれる人が見つかってきたのも理由の一つです。課題は、法律上規制のある組織になっていないところを、どう組織化していくかということを考えていくところでしょうか。活動そのものは、ネットとSNSを中心に、我々の最も強い分野であるITを最大限に活用しています。そういう意味では、良い時代になりました。2013年の夏には、電子出版の出版社を立ち上げる予定です。出版社と編集者に依存しなくてもいい時代が、もう来ているんでね。自分の出していない試験区分に対して、電子書籍で全部ラインナップして、僕のサイトで販売していく予定です。電子書籍の携帯性にはニーズがありますからね。電子書籍で出して、価格設定も本よりも上にしようと思っています。それと、ネットで放送局も立ち上げてオンサイトで講義をしていきます。業界に限っていけば僕のサイトは集客力がありますからね。出版社とどのように共存共栄していくかはこれから話し合いますが、話し合う土俵に武器がないといけないので、先にモノを作ろうと思っているんです。
最後になりますが、今の時代は個人のゲリラ戦が有効な時代だと思います。ネットを使えば出版や放送なんかも個人でできる時代なんですから。ITを駆使して個人で戦っていける時代の先駆者になりたい。そんな風に考えています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 三好康之 』