牧田幸裕

Profile

1970年京都市生まれ。京都大学経済学部卒業、京都大学大学院経済学研究科修了。ハーバード大学経営大学院エグゼクティブ・プログラム(GCPCL)修了。アクセンチュア戦略グループなどを経て2003年日本IBMへ移籍。インダストリアル事業本部クライアント・パートナー。主にエレクトロニクス業界、消費財業界を担当。IBMでは4期連続最優秀インストラクター。2006年信州大学大学院 経済・社会政策科学研究科 助教授。07年より現職。2012年青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 非常勤講師。最新刊は『得点力を鍛える』(東洋経済新報社)。

Book Information

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日本人はもっと『競争力』をつけるべき



経営学者の牧田幸裕さんは1970年に京都に生まれ、京都大学経済学部卒業、京都大学大学院経済学研究科修了後、アクセンチュアなど外資系コンサルティング会社にて日本企業の経営企画部門・営業部門に対する変革に携わった後、2006年信州大学経営大学院 准教授に就任。日本企業の成長戦略や競争力の強化について研究されています。またラーメン好きとしても知られ、著書として『ラーメン二郎にまなぶ経営学』(東洋経済新報社)などユニークな経営書もお書きになっています。そんな牧田さんに、本について、電子書籍の未来について伺いました。

大学生になるまで「鬼勉」といえるくらい愚直な勉強家だった


――早速なんですけれども、経営戦略やマーケティングを専門に研究されている経営学者として、最新のご本の紹介も兼ねて近況をご紹介いただけますでしょうか。


牧田幸裕氏: 著書でいうと、『得点力を鍛える』(東洋経済新報社)という本を出したんですよ。この本は勉強法の本で、最終ゴールとしては、「成果を出すために最短距離で投資対効果を最大化して努力していきましょう」という考え方を解説しています。勉強法といっても「受験の勉強」もあるし、「ビジネスの勉強」もある。それを僕自身の体験談も含めて書いています。

僕は、大学入試はうまくいったんですけれども、その後大学1年のとき、周りの友達が「勉強しない」といっていたのを真に受けて勉強せず、遊んでいたんですけれども、そうしたら8単位しか取れなかったんです。でも友達は、同じように遊んでいたのに40単位とかを取っていた。それで「えっ?」と思って、「なぜだろう」と彼らから話を聞いたんです。「要領よく勉強する」って学生時代はあんまり好ましい表現として使われていなかったんですね。「もっと愚直に努力をしなさい」みたいにいわれがちなんですけれど、ビジネスの世界ではそれは素晴らしいことなんですね。なぜならどんなに愚直にやっていても、結果を出さなければビジネスの世界では評価されないからです。結果が全てですから。



僕の大学時代の友達というのは、そのことを高校生や受験生のころから気づいていて、「投資対効果」を最大化する努力をしてきていた。僕なんかはむしろ大学に入るまでは愚直に努力をするタイプだったんです。起きているあいだはひたすら勉強して、電車の中でも画板を机にして勉強していましたね。

日本のホワイトカラーの生産性は先進7か国最下位



牧田幸裕氏: 高校生のときには「鬼勉」だったんですよね。僕は「投資対効果」を高める努力の方法を知らなかったから、鬼のような努力でしか結果を出せなかった。でも、今の日本人は同じような状況だと思っています。日本のホワイトカラーの生産性は先進7か国中の最下位をつっぱしっている。日本には「生産性を高める」という視点がないので、サービス残業の嵐で成果を出しているフリをしているだけなんです。それが今の日本企業の現実なんですよ。それはなぜかというと、学生時代からずっと日本では愚直な努力は評価されるけれど、「生産性を高める、要領よくやる」というのが、印象がよくない。だから、要領よく勉強する方法を知らない。最新刊では、愚直な努力をしなくてもちゃんと結果を出せるやり方をご紹介しようと思って本を書きました。

――ご自身の経験も赤裸々に書かれていますね。


牧田幸裕氏: 大公開ですよ。外資系コンサルタントの時代に、朝9時から朝の6時まで働いていた話を、ばっちり出しているので。鬼のように働いて金曜日の深夜に帰って、へとへとになって寝て、起きたら窓の外がたそがれになっていて、「ああ土曜日を無駄にしちゃったな」と思ってテレビをつけると「サザエさん」(日曜日の夜放映)をやっていたりする(笑)。だから、気が付くと週末を全部ワープしているんです。

新人戦略コンサルタント時代「何が大切なのか」がわかっていなかった



牧田幸裕氏: 戦略コンサルタントの1年生や2年生はそういう非尋常的な暮らしをしている。そこから何とか脱却したいと思っているんですね。この本ではそこを乗り越えるためにみんなで悩んだエピソードを赤裸々に語っています。コンサルタントで上に抜ける人たちというのは「何が大切なのか」ということをわかっている。それを理解できないとポジションが上にあげられないんですね。今Yahoo!にいる元マッキンゼーの安宅和人さんという人は、「イシューからはじめよ」といって説明してくれたんです。

「イシュー」というのは、一番重要なところ、解かなければならないところです。世の中には色々な問題があるし、ビジネスでも目の前に見えてくる問題がありますけれども、解かなければならない問題というのは限られていて、問題を全部解かなくてもいい。重要な問題だけを解けば、ほとんどの問題点を解決できる。だから問題の重みづけをしていって、重要な問題だけを解決していこうというのが安宅さんの『イシューからはじめよ』(英治出版)で説明されている考え方なんですね。元BCG、ボストン・コンサルティング・グループの日本代表で、早稲田大学の内田和成教授という方は、同じことを「論点思考」といっているんです。マッキンゼーでは「イシュー」と呼んでいて、ボストン・コンサルティングでは同じことを「論点」と呼んでいる。

要はいっていることは一緒で、なんでもかんでも解決しようと思って努力するのではなくて、大切なところだけを頑張りましょうということ、それを僕は「得点力」と呼んでいるんですけれども、やらないことを決めて努力を最適化する技術というのは、要は全部を解決しようとするのではなくて、やらないところを決めること。やらないところを決めるということはフォーカスするところを決めるということであって、「なんでもかんでも努力するのをやめましょう」ということをこの本では提唱しているんです。だから、いっていることは結構『イシューからはじめよ』や『論点思考』と似ていますよ。

――何が大事かを自分の中でちゃんと判断するのですね。


牧田幸裕氏: そうです、経営資源というのは限られているし、僕たちの資源も限られている。だからなんでもかんでも手を出すのではなくて、結果を出すために必要なところだけを手を出していきましょうという考え方ですね。

本を執筆するときは「腹に落ちるように」書く


――書くときのこだわりは何かございますか?


牧田幸裕氏: 僕が特にこだわっているのは、こういう経営学の本を書くときに、腹に落とさせるために、日本の事例の中の新しい事例をどのように皆さんにご紹介していくかということなんです。僕が書いた『ポーターの「競争の戦略」を使いこなすための23問』(東洋経済新報社)という本なんですが、もともとハーバードにマイケル・ポーターというすごく偉い先生がいて、『競争の戦略』(ダイヤモンド社)という本を書いてすごくメジャーになったんですが、その本に出てくる事例はほとんどがアメリカの事例なんです。しかも1970年代から80年代のケースが多くて、なんとなくピンとこない。「1970年代のキャタピラー」とかいわれても、頭の中でリアルに想像できないですよね。

――読者はできないですよね。


牧田幸裕氏: なので、僕の本では差別化が成功した事例として、亀田製菓の「ハッピーターン」というお菓子をあげたりしています。「『ハピ粉』という粉があって、ハッピーターンの周りに粉がついている。セブンイレブンであの粉を200%とか250%にしたらすごく売れたんですよね」という感じで。ハッピーターンなら、読者が頭の中にその粉の味や形を想起できるじゃないですか。

――はい、できます。しかも例が新しいですよね。


牧田幸裕氏: まず理論を説明して、その理論が現実のビジネスでどのように適応されていくのかという説明をしていくわけなんですが、現実の事例のところで、彼らが頭の中で想起できるような新しく具体的な事例を使うようにしています。基本的にこの本で書いていることは、大学院の授業で話した内容を活字にしているので、ライブ感があると思いますね。

本を買ってもらう以上、値段以上の満足感を


――ライブ感あふれる内容が、2千円もしない額で買えてしまうというのは、本の魅力のひとつですね。


牧田幸裕氏: 実は、本の価格を僕はすごく意識しているんですね。

――それはなぜでしょうか?


牧田幸裕氏: 例えば1800円で売るということは、大人が映画を見に行く料金と同じわけです。映画は2時間で、観客に対して「ある満足感」を提供するわけじゃないですか。僕自身の本も2時間から4時間ぐらいで読んでもらうわけですよね。だから、映画に負けないだけの満足感を提供できないと僕はコンテンツとしてはまずいと思います。ですから、彼らが1800円の投資の対象として、僕の本を選んでくださったわけなんですから、映画にも負けないクオリティーのコンテンツを提供したい。1800円を投じてそこから得られる満足感を、ちゃんと読者に対して与えられることが、僕のノルマだと思っています。

――映画の満足感と比較されていらっしゃるんですね。


牧田幸裕氏: もう一つ書くときに気をつけていることは、「自分ができる限り一次情報の取得者であること」を目指しているんです。例えば、「ビジネスとして成功している例」を説明するときに、仮面ライダーベルトの話をしたりするんです。このベルトはこの数年売り切れが続いていて、僕も仮面ライダー難民だったからなんですよ。僕には息子がいて、毎年子どもを持つ親は仮面ライダーベルトを探しているわけですよね。

そうやって僕が当事者として経験した、シズル感をもって発信できるようなケースを伝えることを目指しています。当事者であるがゆえにそこで感じた喜びや苦悩を説明できるので、読者の方々も実感を持ってケースに入り込んでくださるんだと思うんです。ビジネス書でもそうですし、特にこういう経営戦略の本や教科書は入り込めないとだめだと思います。「違う世界の話だ」と思って読んでいると、教科書になってしまって頭の中に入ってこない。教科書のロジックが自分自身にも通じる話だと思って読んでもらわないと普段のビジネスの現場で使えないので、そのための工夫というのはできる限り頑張ろうと思っています。

――やはりそこが大きな差別化だと思うのですが、そのような生き方というか仕事のスタイルはいつごろから身に付いたのでしょうか?


牧田幸裕氏: 現場に入るようになったのは、やはり経営コンサルタントになってからですよね。コンサルタントの1年生の仕事というのは、現場の生の声を集めてくることなんです。まだロジックなんか全然作れないし、クライアントといっても大きな企業の役員の方々ですから、そこに響く提言なんかなかなかできない。マツモトキヨシだとかツルハドラッグだとか、ドラッグストアでの消費者の行動を見るために、幹線道路を挟んだ反対側や駐車場の脇に車を止めて、どんな人たちが入っていってまた出てくるのかを観察するんです。POSデータで消費者の動向というのは見られるわけですが、ただそれはレジを通した人の動向でしかない。物を買わずに帰った人たちの動向もあるので、それを全部見るためにはやはり生で見ないといけないですね。

――本当に現場が大切ですね。




牧田幸裕氏: 現場なんです。駐車場に止めて、駐車場であんパンと牛乳を飲みながらずーっと人を見ている。そこでまず「店に誰が来るのか」を見る。親子連れが来ていて、薬を買うのと同時にお母さんが子どもにお菓子を買ってあげて、子どもが喜んでニコニコしていている姿があるだとか、そういう表情まではPOSデータからは見ることができない。生の消費者の姿は、やはり現場を見ないとわからないので、「とにかく現場を見てきて、気づいたことを教えてくれ」とコンサルティング会社でいわれるわけなんですけども、そこで考えたのはやはり「POSデータから取れないことをいわないと僕たちの存在価値がない」ので、「お客さんが笑顔だった」とか、「何か苦しそうだった」とか、「マスクをしていた」とか、そういうほかの人には伝えられないことをできる限り伝えていきたいということを、コンサルタントになってから初めて考えました。

最初はできませんでした。人数だけを数えて上司に報告して「そんなことはわかっているよ」とかいわれて、「お前が使った24時間の存在価値は何なんだ。それじゃ、コンサルタントとしてのお前の存在価値はないんだ」っていうことをいわれて。クライアントである企業の人たちも現場をよく見ているわけですから、現場のことを誰が一番よく知っているかというとやはりクライアントなんです。でも、まっさらな自分が同じ場面を見たときに、彼らが気づいてないこんなこともあるよねって、「ほぉー」といわれるようなことを1個でも出そうと思って、1年生、2年生のころから頑張っていましたね。

――もちろん、現場に行くというのは体を使って、そして頭も使うのですね。


牧田幸裕氏: ファーストフードのリサーチをしたときは、開店から閉店までいましたからね。もうおなかの中がポテトとコーヒーでちゃぷちゃぷになっちゃうんですけれど(笑)、そこで誰がどういう物を頼んでというのはPOSデータで取れるので、「そこで何をしているのか」というのを見るわけです。マクドナルドのライバルはモスバーガーだとかロッテリアといわれがちなんですけれども、決してそこだけではない。本当のライバルは違うところにいて、例えば幼稚園のママ友ランチとかにはガストも利用したりする。なぜならば、幼稚園でも小学校でもいいけれど、子どもを送って、お迎えに行くあいだ、下にも子どもがいてちょろちょろしている。その間にママ友と話をして楽しく時間をつぶすには、ガストでもいいし、マクドナルドでもいい。だから彼女たちの頭の中では、選択肢としてロッテリアやモスバーガーだけではなくて、ガストも入ってくる。

一方で、ビジネスパーソンがマクドナルドに何を求めているかというと、別にハンバーガーを食べに来ているわけではない。プレミアムコーヒーを飲んで、Wi-Fiがある環境を探しているわけなんです。現場でリアルにお客さんの行動を見ていると、マクドナルドの本当のライバルがいったいどこなのかというのが見えてくる。生の現場を見ていかないと、頭が固くなって、同業の他社だけがライバルだと考えてしまいがちですよね。

――さらに「頭を柔らかく」が必要になんですね。牧田さんは、どのように頭の中の引き出しを出されているのでしょうか?


牧田幸裕氏: 意識して出すというより、過去の思い出を手繰っているという感じです。あとはその場で考えたことを思い出すということですよね。現場での経験が蓄積されているので、すぐに頭の引き出しからいろんなケースを出せるということです。

子どもが生まれたことをきっかけに、コンサルタントから教授の道へ


――コンサルタントの世界から、アカデミックな道へ進まれようと思ったきっかけをお伺いできますか?


牧田幸裕氏: ちょうど2005年に長男が生まれて、僕は2006年に大学の先生になったんですけれど、子どもが生まれたときに「もう家族中心の生活にしよう」と考えたんです。ハードに働くのではなく、アーリーリタイアして、家族が第1のプライオリティであるという生活を送ろうと思ったんですね。僕自身も、自分がこんなに家族を大切にする人間だとは全く思ってなかったんですけれども、わりとすんなりと切り替えられました。子どもの幼稚園の送り迎えもほとんど僕がやっていましたし、子どものお受験の模試のつきそいや、幼稚園のイベントの参加率は多分99%ぐらいですね。

――子どもとしては最高にうれしいですよね。


牧田幸裕氏: 親が出しゃばってあちこち行きすぎだというのもあるんですけれど(笑)。本当に満足できる子育てをできていますね。子どもと一緒にゴルフをプレーしたり、接する時間はすごく長いですね。

――学者になったときというのはどんなお気持ちでしたか?


牧田幸裕氏: 今まではクライアントだけに対して価値を出していたのが、本という媒体を通じていろんな人たちに価値を出していくという仕事に変わりましたね。気持ちの変化はあまりなくて、基本的に相手が求めているものを理解してそれに応えるのが僕の仕事だと思っているので、そこの軸はぶれていないと思います。むしろ学者になることによって広げられたという感じです。マスに対して発信できる機会が多くなったので、そういう意味ではより色々な人に伝わるのかなということぐらいです。

世の中が求めているものを理解し、その期待値を超えるよう努力する



牧田幸裕氏: 基本的に僕のモデルはこうです。「相手が求めていることを正確に理解する」そして、「その相手が求めているもの以上の期待値を超えて何かを提供する」ことによって「相手が喜ぶ」というのが基本的なモデルなんです。クライアントの場合は、狭い対象ですから相手が求めていることはよくわかる。ところが、世の中に対して何かを発信しようとするとき、世の中が求めているものというのを理解して、その期待値を超えていかなくてはいけない。ところが、世の中が求めているものは何なのかを把握するのがすごく難しい。だからそこは仮説をもって「多分こうなんだろうな」と考えるんですけれども、それが当たるときもあるし、当たらないときもある。

ただ僕自身は、「しょせん仮説なんだから間違えたって構わない」と思っているんです。間違えたのならその修正スピードを速くすればいいだけなのであって、学者になってからむしろ間違える喜びを経験するようになったという感じがしますね。自分の最初に立てた仮説が当たらない。当たらないからまた修正していくんですけれど、それでもまだちょっとピントを外していると。それで、ピントを外しているのでまた修正していくということをよくやっているんですけれどね。世の中という漠とした存在の中のニーズをくみ取るのは仮説を作る力であって、仮説を作る力というのは自分がばかでも構わないと思えるマインドがないと無理なので、それは学者になってからわりと持てるようになりましたよね、外すことが増えたので。

――「自分はわからないで当然だ」と思える、ある意味謙虚な姿勢というのはどうして持てたのですか?


牧田幸裕氏: これは経営もそうだし、今のマーケットのニーズを知ることもそうなんですけれど、いくら考えたってやってみないとわからないですよね。だから僕らが優れているところというのは、「わからないけれどやってみよう」といえる力だと思っていて、そのサイクルを回す力だと思うんです。ですから、わからないから尻込みするだとか、想定外だみたいな言い方をするんじゃなくて、できる限りチャレンジをして想定外を想定内にしようと。そういう姿勢はコンサルタント時代もそうだし、学者になってからもそうですね。基本的に間違えることに慣れているので、間違えてもそんなに恥ずかしいとも思わないし、怖いとも思ってないですね。

iPad miniを使ってみて、電子書籍の可能性を感じた


――牧田さんの著書を電子化して、電子書籍で読まれているユーザーの方が増えてきているようなのですが、牧田さんご自身は電子書籍を利用されていますか?


牧田幸裕氏: 僕はいわゆる「レイトマジョリティ(世の中の普及状況を見て模倣的に採用するタイプの人)」というセグメントで、そういう新しいものになかなか手を出さないんです。だから今はiPad miniを持ってきたんですけれど、いわゆるiPhone、iPad系に手を出したのはこれが最初なんです。で、この数週間やってみて「すごいものがあるなあ」と思ってびっくりしたんですけれども。実際に手を出してみるとやはり便利ですよね、驚きました。

――どんなことにご活用されていますか?


牧田幸裕氏: 電子書籍自体はまだ手を出していないんですけれど、今『ブラックジャックによろしく』という漫画を無料で読んでいます。あとは、子ども向けにディズニーの『トイ・ストーリー』(英語)なんですけれど。タダでもらえるコンテンツだけれど面白いんですよ。しゃべりながらずーっと同じネタを繰り返し子どもに読んでやる、読み聞かせというのは大変なんですけれど、これは勝手に読んでくれるのでいいですね。こういうサービスはすごく便利だし、どんどん普及していくんだろうなと思います。



やはり電子書籍の可能性というのはすごくあって、電子書籍サービスの市場規模がエムエム総研のリサーチでは、2010年で640億円っていっているんですけれど、2015年に3500億円になるといっているんです。で、年平均の成長率が40%って、今の日本ではありえない感じなんですけれどもね。僕はもっと上振れして大成長するビジネスになるんじゃないかと思っています。

――可能性は大いにありますか?


牧田幸裕氏: あると思いますよ。こんな便利なものがあるって、まだみんながちゃんと認知していないだけだと思うので、認知したらあっという間にブレイクすると思います。

――電子書籍というのはどんな可能性が今後もあると思いますか?


牧田幸裕氏: これが差別化になるかどうかはわからないんですけれども、1ユーザーのニーズからいうと、僕は仕事柄ビジネス書を読むことが多くて、そういうときに例えば図表がパワーポイント形式でダウンロードできるだとか、もともとのエクセルのデータでダウンロードできるだとか。あとは参照している出典とかありますよね、そこをクリックしたらAmazonに飛んでそのチャプターだけを買えるだとか、そういうサービスがあるとうれしいし、それはどんどん出てくると思うんですけれどね。本も全部買えるけれども、章ごとにも買えますよというスタイルになっていくと思います。

バラで売られるようになっても、本の執筆スタイルは変わらない


――例えば、本というのは1つのパッケージなので章立てだとか色々あると思うのですけれども、書くときにそういったことも意識しての変化というのは起こりそうですか?


牧田幸裕氏: いろんな書き方があると思うんです。大テーマがあって、それを構成要素に分解していって、チャプターを作って個々のコンテンツを作ってという場合もあるでしょうし、いろんなバラのものを統合していって、最後に1つのパッケージになりますよというバ場合もあるわけですよね。だから、全体に価値があるんだったら、ある大テーマからブレイクダウンをしていってという形で作っていくでしょうし、電子書籍のようにバラ売りをということで考えるのであれば、パーツ、パーツを集めて1テーマでということになるでしょうね。でも後者のやり方って結構多くて、連載で何回かやってそれをまとめて本にするというパターンってよくあるじゃないですか。だから全く違和感がないと思います。「この本は○○の連載を大幅加筆・修正したものである」とかってよくあるじゃないですか。だから、そういう意味では意識はそんなに変わらないと思いますけれどもね。

日本人は、もっと世界レベルの競争力をつけよ


――今後、どんなことを世の中に伝えたいとお考えですか?


牧田幸裕氏: 一番は、「もっと僕たち日本人は競争力を高めなくてはいけない」ということです。これはビジネスでもプライベートでもそうなんですけれども、海外に目を向けると競争力が全然ないんですよ。この『得点力を鍛える』にも書いたんですけれど、アジアの子どもたちの努力は、もうハンパじゃないんです。それを知らないから「日本」という小さな枠組みの中で競争をして、それで「受験勉強が大変だ」とかっていっているんですけれども、海外に目を向けたら日本の受験なんてぬるすぎて、「こんなの勉強じゃない」みたいな感じなんですよね。

――そうなんですか。


牧田幸裕氏: なのでそういう世界をもっと知ってもらいたい、競争力を高めるための準備をしてもらいたいというのがあって、それは比較をしないとわからないんです。なので、僕はできる限り比較対象をたくさん出していって、皆さんに気づきを持っていただきたいです。ラーメン二郎の本を出したときもあえて狙っているところがあって、リッツカールトンと二郎を比較したり、メルセデスベンツと比較しているわけなんです、もうむちゃくちゃなんですけれども(笑)。

なぜそんなことをしているのかというと、比較の視点を持ってほしいからなんです。一見関係ないものだと思われても、ある視点を持てば比較ができる。なので、日本という枠組みだとか、電子書籍についてもそうなんですけれども、「紙媒体」という枠組みだけで考えるのではなくて、「コンテンツ」という枠組みで考えていって、その流通形態、配布形態としてどういうものがあるのかということを考えたら、当然電子媒体が入ってくる。なので、そういう枠組みを取っ払って自由な比較をして、頭を柔らかくして考えることができるようになりましょう、ひいては、競争力を高めるようにしていきましょうということです。



ちょうど今年、エレクトロニクス企業の体たらくというか、悲惨な状況がフォーカスされているんですけれど、あれもやはり枠組みのとらえ違いですよね。日本のマーケットが中途半端に大きいので、日本のマーケットを重視した。でも、日本のマーケットってこれからシュリンクしていくわけなんだから重視してはいけないわけであって、あくまでもグローバルの中での競争が80%ぐらいを占めなくてはいけない。誰と比べてあなたは強いのか、弱いのかという視点がないから、自分の強みや弱みがわからないんです。だから競争力を高めるためには、「誰と比べてあなたは強いんですか、弱いんですか」ということをちゃんと考えないといけない。そういう視点を提供できるようなコンテンツを、本や雑誌やウェブでも発信していきたいと思っています。

――牧田さんはなぜそのような広い視野が持てるようになったのでしょうか?


牧田幸裕氏: それは今申し上げた「比較対象」だと思うんですよね。僕は自分を成功者だと思っていなくて、例えば僕が大学入試で成功したとしても、京都大学のポジションってグローバルスタンダードでいうと毎年ずるずる落ちているわけです。これは東京大学も一緒でずるずる落ちている。だから日本という枠組みで考えれば「京都大学に合格しましたよ」っていいことなのかもしれないけれど、グローバルから見てみれば「落ち目の大学を卒業しましたね」ということになってしまう。なので、「これはまずいな」と思っちゃうわけですよね。それが「比較対象」なんです。

だから今、新しくチャレンジしているのは、「自分のライバルを自分の同業者だけで見ちゃだめだぞ」ということを考えています。それはこういう出版業界とかもそうですよね。同じ紙媒体のライバルだけで争うのではなくて、いろんな黒船がやってくるわけだから、その黒船を早く発見しなくてはいけない。教育もそうです。あと4、5年たったら東京大学が秋入学をやりますが、そうしたらアジアから頭のいい学生がどんどんやってくるので、日本の高校生は離されてしまいます。日本の高校生は高校生で、頭のいい人たちは東大や京大を選ばないで、海外の大学にダイレクトに行くようになる。例えていうと、昔の野球少年って、頂点は巨人を筆頭とする日本のプロ野球だったわけです。

でも、今は大リーグにいきなり行こうとする人たちがいる。それと全く同じ世界にグッと変わりますよね。野球選手もそうだし、開成や灘の高校生もそうですけれど、東大や京大を頂点と見ていないですよ。

――そんな時代になってきますか。


牧田幸裕氏: もうあと5年、10年でなると思いますよ。そういう未来を見据えると、やはり取らなくちゃいけないアクションは変わってくると思いますよね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 牧田幸裕

この著者のタグ: 『大学教授』 『コンサルタント』 『映画』 『可能性』 『投資』 『子ども』 『子育て』 『コンテンツ』 『価値』 『理解』 『愚直』 『イシュー』 『クオリティ』

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