倉下忠憲

Profile

1980年生まれ、32歳。京都府出身。2003年ごろからブロガーとして活動。2009年シゴタノ!連載開始。2010年『Evernote「超」仕事術』で著者デビュー。2011年は『Evernote「超」知的生産術』『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング 』、『クラウド時代のハイブリッド手帳術』を発売。2012年は、『シゴタノ!手帳術』、『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』。現在、京都府を拠点に、物ビジネス書の執筆や有料メルマガの運営、セミナー講師などこなす。コンビニ経営のアドバイジングなども行っている。
【Blog: R-style】
【Twitter: @rashita2】

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新しい価値を提供し、「本好きを増やす」ビジネス書を書きたい



倉下忠憲さんは、WEB上の記憶拡張ツール「Evernote」の活用法を解説する本で、一躍人気ビジネス書作家となりました。ブログをきっかけにしたデビュー、デジタルツールを駆使した執筆スタイルなどは現代的な作家の形を体現しているといますが、紙の本をこよなく愛する一面も。倉下さんに、原点となったコンビニ店長時代のエピソードや、本への想いなどについて伺いました。

執筆は家かカフェ、編集者とはSkypeでやりとりする


――現在の活動、近況などをご紹介いただけますか?


倉下忠憲氏: 収入のメインは本の印税で、有料メルマガがちょっと乗っかってくる感じです。それ以外はたまにセミナーに呼ばれたら行く程度で、仕事の大半は文章を書くことです。1日3時間から5時間ぐらいは本の執筆にあてて、あとは気ままに生活しております(笑)。

――執筆はどこでされていますか?


倉下忠憲氏: 家かカフェのどちらかですね。例えば午前中家でやったら午後はカフェとか、そういう感じの振り分けです。

――外での執筆にはネット環境も必要となると思いますが、どのようなツールを使われていますか?


倉下忠憲氏: WiMAX、モバイルルーターとiPhone、iPad、MacBookですね。これだけでほぼ事足ります。エディターなのでパソコンは何でもいいですね。一番軽いものという理由だけで選んでいます。

――編集者さんとのやりとりは、どのような感じで行われているのですか?


倉下忠憲氏: 基本的に最初の1回は直接会います。私が東京に行く場合もありますし、編集者が来る場合もあるんですけれど、それ以降は全てメールかSkype等のチャットで進行していきますね。

――SkypeはWEBカメラも使って打ち合わせされるのですか?


倉下忠憲氏: ときと場合によっては使いますが、たいていはテキストチャットでします。

――執筆や編集も以前とは様相が変わってきているのではないでしょうか?


倉下忠憲氏: 私が業界に入ったころにはこれが普通だったので、ギャップが分からないですね。私はやはりこの方法がやりやすいと思います。

活動の原点「コンビニ」で学んだこと


――さて、倉下さんはご著書でも触れられていますが、もともとはコンビニ業界にいらっしゃったそうですね。


倉下忠憲氏: 大学生のころ、18歳のアルバイトから始まって、31歳まで店長をやっていました。12年間ぐらいはコンビニ業界にいたことになりますね。大学生でコンビニのアルバイトに熱中して、週5回働くようになって、23歳のころ「うちで働かへんか?」と正社員に誘われて、そのままいつの間にか店長になっていたという流れです。ある日突然名札を渡されて、そこに店長と書いてあって「えっ!」という感じなんですけれど(笑)。

――学生アルバイトから店長まで一直線というのも珍しいケースではないですか?


倉下忠憲氏: まれだと思いますよ。というよりその申し出を受ける人が少ないと思います(笑)。ほぼ休みがないですからね。私は18歳のときから正月休みというのを経験したことがありませんでしたね。大みそかの日付を超えるときにはいつも仕事をしているという(笑)。

――夜勤が多かったのですか?


倉下忠憲氏: 基本的にはずっと夜勤でした。夜勤から早朝までのロングバージョンとか、基本的に人手不足の時間に働いていました。そのほうが収入面でも効率もいいので。やはり深夜は変わった人が来店します。パッと気がついたら、お客さまが床で寝ているのを見たことがありますよ(笑)。

――コンビニで働いたことが大きなプラスになっていることが著作の中からも伺えますが、具体的にどういったご経験だったのでしょうか?


倉下忠憲氏: 肉体的にはきつかったけれど、面白かったんです。23歳のころ、オーナーの方から「好きにやってくれ」といわれたんです。オーナーがサボりたかったのかもしれませんが(笑)。お金の使い方に関してはもちろんいわれるんですけど、商品の配置などは全部任せていただいたので、やっていて面白かったですね。しかもその店はオーナーがずっと店長をやっていたので、間に前例者がいなかったんです。だから自由にやれたというのもあると思います。23歳の人間が1つの店舗のマネジメントを任されるなんて、大企業に入ったら無理ですよね。

――指導してくれる人がいない、前例がないというのは逆に不安なことではなかったですか?


倉下忠憲氏: 問題解決をある種ゲームみたいにとらえているところがあったんですよ。何か問題があったとき、「これをいかに解決してやろうか」という風に楽しんで考えるんです。そのほうが退屈しないことも知っていたので(笑)。

出版社の社長がブログに目をつけ作家デビュー


――そのようにコンビニの業界で着実に力をつけていた倉下さんですが、作家活動をはじめられたきっかけはどのようなことだったのでしょうか?


倉下忠憲氏: 私自身にも結構謎なんですけれども(笑)、20歳ぐらいからインターネットとISDNが普及して、個人でもホームページが持てるという時代になりましたので、定期的に内緒な内容の日記をウェブに上げていたんです。そこでたまたまEvernoteについて書いた記事が人気になりまして、それがある出版社さんの目に留まって、2年ほど前、30歳ぐらいのときに「この内容をベースに本を書きませんか?」といわれて、1冊目の『Evernote「超」仕事術』(シーアンドアール研究所)が出たんです。だから別に始めから物書きになろうとしていたわけではないんです

――WEBサイトはアルバイトのころからずっと続けられているのですね。当時は今ほど自分のサイトを持つのは簡単ではありませんでしたよね。


倉下忠憲氏: ブログ以前は自分でHTMLを書いていました。ホームページビルダーなんかも高かった時代なので、テキストを書いて、自分でタグをつけることを勉強するところから始めました。昔はコードを打てる人が少なかったので、ある小さい旅館から「ホームページを作ってくれへんか」といわれて、副業で請け負ったりしたこともあります。今はブログという便利なツールができましたが、昔学んだ知識がブログでも役に立っていますし、遠回りをしたとは感じませんね。

――マネジメントとWEBの技術という現在の執筆活動においても重要なスキルを磨かれたのが学生時代ということですね。倉下さんはどんな学生だったのでしょうか?


倉下忠憲氏: 大学は京都の国公立大学の夜間に行っていたんです。情報工学部というところだったのですが、ほぼ講義に出ずにずっと本を読んでいたという不良大学生でした。

――主にどんな本を読まれていたのですか?


倉下忠憲氏: そのころは小説と哲学書をむさぼり読んでいました。要するに、昔の文学少年がよく読んでいるような本を、あこがれてなぞっていたような感じです。

――好きな作家を挙げるとするとどなたですか?


倉下忠憲氏: 村上春樹さんの小説はやはり今でもずっと読んでいますね。

――書籍はどのように購入されていますか?


倉下忠憲氏: 9割ぐらいは書店で買っています。仕事で今日明日必要だけどどうしても手に入らないという場合はAmazonに頼りますけれど、そうじゃないときは基本的に本屋さんですね。頻繁に本屋に行って、毎回数冊買って帰ります。結構暇人というか、約束事の少ない仕事をしているので(笑)。

本屋は「書店員になりたい若者」を採用せよ


――ブログで、わざわざ書店に足を運ぶことの意義について言及されていますが、倉下さんは、本屋さんはどんな存在であってほしいと思われますか?


倉下忠憲氏: ある種の知的空間というか、「知の欲望を刺激する」空間であってほしいです。本を読みたくさせなければ本屋としては機能していないですね。本を探すだけだったらAmazonでいい。本来自分が読まないはずの本と出会える場でないと、わざわざ物理的スペースを使う意味というのはないと思っているんです。本屋がだんだん没個性化していって、わざわざその店に行く価値が今は少なくなっていけば、どんどん潰れていくと思います。

――知的空間としての書店であるために、何が必要になってくるでしょうか?


倉下忠憲氏: まず簡単なところをいえば、本棚の通路の幅ですよね。狭いともうその時点でゆっくり本を見られないですから。棚差しして本の種類を増やすよりは、本を面で置くスペースを増やして出会いの印象を強くするほうがいいかなと思っています。あとは、店員さんのおすすめとか、「ああ、この人は分かっているな」というPOPがあったら期待できますよね。

――お気に入りの書店を挙げるとどこでしょうか?


倉下忠憲氏: 京都駅前だと大きい店が2つありまして、「アバンティブックセンター」と、最近できたイオンモール京都の「大垣書店」はなかなか面白い本棚を作っていますね。あとは四条に行ったら、小さい店も大きいお店もあってバラエティーがありますね。最近はちょっと潰れつつあるみたいですけれど。ただ、私にとって究極の本屋は、もう潰れましたけれど「松丸本舗」ですね。編集者の松岡正剛さんが東京駅前のオアゾの4階にオープンされていたんですけれど、9月で閉まったんです。3年ぐらいのオープン期間だったかな。そこは、普通の本屋さんの本棚だと例えば「文庫」とか「新書」とかの棚がありますけれど、そういうのがない。松岡さんがカテゴリーを決めて、しかもカテゴリーが独特なんです。

例えば、これは勝手につけたカテゴリーの名前ですが、「欲望の文体」というカテゴリーがあったとすると、松岡さんが考える関連する本が並んでいる。そこに行くと本を手に取りたくなるんですよね、その文脈でその本がどんな意味を持っているかが気になってくるんです。そこまでいくと本屋自体がメディアなんですよね。メディアというのは作る人の価値観が影響するので、普通のアルバイト店員には難しい。だから本屋についての根本的な考え方を変えていかないときっと無理ですよね。本屋になりたくてなっている店員の割合が低くなると、その書店の価値はどんどん下がってきます。本屋もそういう若者をピックアップしなくてはいけません。

電子書籍にはソーシャルリーディングの可能性がある


――電子書籍も紙の本や本屋離れを進行させる脅威であるといわれがちですが、倉下さんは電子書籍を利用されていますか?


倉下忠憲氏: 一応試しで買うことはあります。今朝もKindleで買いましたし、楽天のKoboも端末は買いましたよ。

――Kindleについて印象はいかがですか?


倉下忠憲氏: Koboに比べると魅力的なラインナップが多いですね。「とりあえず品をそろえたらええんやろ」ということではなくて、読みたい本を押さえているのはさすがだとは思います。

――ハードも出そろい、いよいよ電子書籍の市場が本格化するといわれますが、電子書籍の展望、期待などがあればお聞かせください。


倉下忠憲氏: 私にとっての読書は、もちろん単純にエンターテインメントとして楽しむというのもありますが、仕事の資料として読む場合、電子書籍では直接メモを取れないんですよね。これが結構大きいんです。だからやはり仕事の本は、汚せるように紙の本を買います。暇つぶしに読む本だったら別に電子書籍でも問題ないなという感覚はあります。用途に応じてというのが今のところの理解ですよね。電子書籍の可能性としてはソーシャルメディアとの関係でしょうね。TwitterとかFacebookに面白かったところを書き込むとか、疑問を投げかけると反応が返ってきて、1つの文章でも複数の読み方、深い読み方をすることができる。昔は本好きの人が小さく集まってやっていた読書会みたいなものが、普段使っているツールの中でできてくるようになったら、本の面白さがより広まっていくのではないかなという気はしています。きっとそれが「ソーシャルリーディング」の形なんでしょうね。

――紙の本を裁断、スキャンして電子化することについてのお考えはありますか?


倉下忠憲氏: 私自身は自炊はしていません。ただ、よく「本を切って申し訳ない」という人がいますが、私としては「そんな手間を割いていただいてありがとうございます」という気分なんですよね。私は、「サインしてください」と持って来られた自分の本に、たくさん付せんがはってあると、「役に立っている」と感じてすごくうれしいのですが、自炊も自分の本を何かの役に立てようとしているわけですからね。

――とはいえ、紙の本に対する愛着もおありのように伺えます。


倉下忠憲氏: それはもうむちゃくちゃありますね(笑)。先ほどいった書き込みができるというのがまず1点と、あとは存在感があるというのが大きいです。所有感を満たしてくれるということもありますし、本棚に置いておくことで「おい、ちょっとそろそろ読めよ」というプレッシャーもかかってきます。やっぱりiPhoneにはそのプレッシャーはないんですよ。画面を立ち上げないと表紙が見えてこないので。ただ、理由を挙げればそういうことになりますが、単なるこだわりというか、妄信に近いかもしれないですね(笑)。

「2回読む価値のある本」を書いていきたい


――倉下さんの本はほかのビジネス書にはない独特の文体がありますが、読まれてきた本の影響があるのでしょうか?


倉下忠憲氏: それはよくいわれますね。もともと小説読みから始まって、自分でも小説を書いていることもあったからだと思います。小説は人さまにお見せできるようなものではないですけれど(笑)。書くことの最初のチャレンジとしては小説からでしたので、今のビジネス書を書いている人とはちょっと異質だという気はします。

――ビジネス書をお書きになる際に気をつけていることはありますか?


倉下忠憲氏: 読みやすいというのが、本にとって最低条件です。コンビニでいえば、店員が愛想よく接客することぐらい当たり前のことであって、そこがないと話にならないです。読みやすくて面白くて役に立つ、という本を書きたいんです。

――読みやすいということは、「内容がない」ということと同義に語られますが、違いはどこにあるのでしょうか?


倉下忠憲氏: それぞれの本の役割というのがあって、サプリメント的な本であってもいいしスルメみたいな本があってもいいし、私はどちらかというと後者のほうを目指しています。読者の方に一番いいたいのは、「1冊の本を2回は読みましょう」ということなんです。読者も経験値を積んで本を見る目が養われるものです。だから2回読むに値しない本はもう買わないほうがいいかなという気はします。わざわざ紙を使って個体物を作っている意味は、何度も手に取ることだと思うので、やはり書く際も2回読まれることを意識したいし、読むほうも2回読んでほしいなというのはありますね。2回読むと新しい発見があったり、1回目には分かっていなかったことが分かったりするものです。今の本は1回で分かるように書いてあるものが多いので、そこは気をつけたいですね。



小説とビジネス書の融合を構想している


――出版社としては簡単に読める「売れ線」の本を次々に出さざるを得ない事情もあるのではないかと思いますが、今後出版社にはどのような役割を期待されていますか?


倉下忠憲氏: 出版社が本を出すことの特性として、「今」売れる本で資金を回収して、まだ見ぬ「新しい」価値に投資できる行為が挙げられると思います。私の本は、前例がなかった部分を埋めていくというのが基本姿勢です。本を書くきっかけになったEvernoteについて書いた記事も、自分の欲しい情報がないから自分が調べてまとめてやれ、というところからだったので、前例があまりなかったんだと思いますね。

――今後どのような本を書いていきたいですか?


倉下忠憲氏: まず個人の生きる術というか、サバイバルする方法、組織ではなく個人がどうやって生きていけるかという方法を模索して、それをスキルの形で伝えたいなというのがあります。もう1つは1冊読んだら次の本も読みたくなるような、読書好きを増やすビジネス書を書きたいですね。「もうビジネス書なんか手に取らへん」といわれないような本を書きたいと思っています。

――先ほど小説のお話も出ましたが、文学的なジャンルの本もぜひ読んでみたいと思うのですが、どうでしょうか。


倉下忠憲氏: オファーが来たらということですけれど、マネジメントや仕事術の話と、いわゆる小説的なものの2つのジャンルを結びつけたいですね。かなり難しそうなのですが、読者の心に残る小説で、かつ役に立つ本が書けたらいいなと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 倉下忠憲

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