表現に1歩踏み出させた、手痛い言葉
――表現の手段として、本を執筆することになったきっかけを教えてください。
ひすいこたろう氏: いつか本を書いてみたいなと思っていたんですが、あるセミナーに行った時に、8人ぐらいで夢を語る場があって、「いつか本を書いてみたいです」って言ったら、そこに作家さんがいたんですね。僕より年下だったんですが、「お前は本を書きたいの?」って言われて、「はい」って行ったら、彼は、「じゃあお前はもう書いたのか?」って、上から目線で言ってくるんですね(笑)。「いや、書いていないです」って答えたら、「お前、意味がわかんないよ」って言われてしまったんです。「考えてみろ。『僕はミュージシャンを目指しています。1曲も作曲していませんが』。そんなヤツがミュージシャンになれると思うか? お前はそれと一緒だ。俺は本を出したいと思った時には、すぐに書いてたよ。そして、いつ編集者さんに会っても渡せるように、書き上げた原稿を封筒にいれて、いつもカバンに入れていた。お前が今原稿を書き上げていたら、俺はいくらでも編集者を知っているんだから、明日にでも渡してあげられたのに、お前はチャンスを台無しにしている。なんでお前のカバンには原稿が入ってないんだ?」って責められたんです。
その8人の前で手ひどくやられて、僕は悔しいと同時に、もう泣き出したいくらいな気持ちだったんですが、「そうは言っても俺は本を書いたことがないんだから、どう書いていいのかわかんないんだ」って、心の中でずっと叫んでいたんです。それは言えなかったんですが。家に帰ってもずっと悔しかったんですけど、やっぱり時間が経てば経つほど、「あいつの言う通りだ」と思って、もう何でもいいからブログに毎日書いていこうと思ったんですね。
――どのような内容のブログを書かれたのでしょうか?
ひすいこたろう氏: 自分が学んできたこととか、感動したことを、どんなにダメでもいいから、今日書けるところでいいから、毎日書いて行こうと。すごいものを書けなくたっていいから、今日書けるものでいいから、書いていこうと。その時に心の支えになったのが文豪のゲーテです。ゲーテはシャルロッテという女性に1800通のラブレターを書いているんですね。僕はそれを見た時に、ゲーテはラブレターを書きすぎて天才になったんだなと思ったんです。ラブレターって、自分の心と向き合って相手のことを想像して、真剣に書きますよね。それをゲーテは1800回も1人の女性に対して書いたから、天才になったんだと思って、僕はラブレターを書くつもりで、自分が学んできたものを1800本書いてみようと思ったんですね。
始めたのは2004年の8月9日なんですけど、毎日書けば、5年後には、1800本をやりとげている自分がいるわけじゃないですか。それで、僕はいきなり天才コピーライターと、「天才」と名乗って始めたんです。天才でも何でもないんだけど、最初から「天才」って名乗った。「絶対に1800本書くって決めたから、5年後には、今よりは天才になっているだろう。じゃあ、いま、天才って名のっちゃえばいい。5年後にはそうなるんだから、その言葉にウソはない」。そう思って(笑)。
――そのエピソードをお聞きすると、ブログのスタートがひすいさんにとって、殻を破る大きなできごとであったと伺えます。ブログを書いてどのような変化を感じましたか?
ひすいこたろう氏: 3ヶ月間毎日書いたら、「ファンです。毎日読んでます」ってメールをいただいたんです。人に喜ばれた時って、人間の本能の最深部のスイッチが入るんです。食欲・性欲・睡眠欲というのは、人間も動物も両方ありますが、「喜ばれるとうれしい」というのは人間だけが持っている本能なんだそうです。1通のファンメールが来た時に、すごくうれしくて、そこからは楽しくなってきて、最終的に5年間ほぼ毎日書けたんですね。ベストセラーになった「3秒でハッピーになる名言セラピー」という本のスタイルに関しても、毎日ブログを書いているうちに、自然にフォーマットが自分の中で出来上がっていったんです。いきなり「名言セラピー」を書けって言われたら書けなかったと思うんですが、今日できることを今日やる、次の日もその日できることをやるという繰り返しで、人って自然に進化していくんです。ほんとうに人は変われます。
ディスカバーさんから1冊目の本を出させてもらったんですが、2冊目の本の依頼を他社さんからいただいたときに、すごく有り難かったのですが僕は断ってしまったんですね。違う切り口で2冊目を書ける自信がなかったからです。1冊目にすべてを込めたと思っていますから、2冊なんて書けるわけがないと思っていた。でも、そこから数年で20冊書いて、いまも書きたい本は留まることなく溢れでてきます。人って、ほんとうに変われる。そこだけは確信をもっていえます。「夢」って言うと、手がかりすらないって思うかもしれないけど、今日できる1歩って、必ずどんな人でもあると思うんです。心を今にこめて、今日できることを繰り返していくと、いつの間にか自分の限界って、何個も何個も越えて行けるんですね。
読者の心にときめきの1滴を垂らす本を書きたい
――ひすいさんが本を書く際に最もこだわりを持っていることはどのようなことですか?
ひすいこたろう氏: やっぱり、自分が心からこれは素晴らしいと思えるものを作りたいということです。想定読者の一番手は、自分なんです。自分が心からいいと思えるか、どうか。そこが最初の基準です。自分のハートのど真ん中を貫ければ、その先に読者さんがいてくれるだろうと思っています。自分の本を書く原点は、こんなものの見方があったんだとか、こう考えるとすごく楽になるよって、自分自身が驚いたこととか、ときめいたことを、1冊の本に封じ込めたいという想いです。お水の情報を測る波動測定器というものがあるんですけど、お水の情報を変える情報水を1リットルのペットボトルに1滴垂らすと、共鳴して、あっという間に水全体が変わるんですね。そんな、ときめきの1滴を読んでくれる人の心に垂らしたいという思いです。
――その表現の形式として、「名言」を選ばれたのはどういった理由からでしょうか?
ひすいこたろう氏: 一言で言うと、僕自身が名言で助けられてきたからですね。名言というのは、せんじ詰めると、普遍的に残る力を持った、ものの見方なんです。人が明るく楽しく、人生をより深く生きていくための本質、指針が凝縮された言葉が、僕は名言だと思っています。名言で、こんなものの見方をすればいいのかという指針を得たり、助けられてきたから、名言で行こうと思ったんですね。
――ひすいさんにとっての本、読書とはどのようなものでしょうか?
ひすいこたろう氏: 本は大好きですね。今はちょっと読む時間が少なくなっていますけど、前は本ばっかり読んでいた時期もあります。そもそも、「人」は「本」でできているって書いて「体」だし、「日本」自体が本ですよね。相田みつをさんが、大切なものはみんな「本」が入っていると言っているんです。「本当」とか「本心」とか「本気」とか。本当にその通りだなと思います。本は物の中でも命を持った生命体だと思います。人は出会いで変わるっていいますけど、その出会いの根本は、その人のものの見方であり、考え方でだと思うのです。それが、凝縮されているのが本です。本というのは出会いそのものだと思うんですね。本は僕にとって小さな親友であり、師匠であり、恋人であり、子供でもあります。
――ひすいさんの本には多くの読者さんがいらっしゃいますが、直接反響を聞くことはありますか?
ひすいこたろう氏: 全国に講演等で呼んでいただく機会が増えていて、そこで読者さんたちと実際に会える場があるので、どんな人が読んでくれているのか、またその感想を直接伺えるので、それがすごく励みになっています。僕に会うなり、涙ぐまれる方もいて、「つらいときに、ひすいさんの本に助けられたんです」って。僕の本が僕を離れて、誰かの力になれてること、心からうれしく思っています。前半生、悩み多くてよかったなーって心から思いますね(笑)。誰よりも悩んできたからこそ、いま、伝えるものがあるわけで。東京では、ぷれし〜どさんというところで、月に1回、20人ぐらいの少人数でトーク会をやっているんですが、もう4年間、毎月出てくれている方もいて、ほんとうに有り難いですね。
――そのような方にとってはひすいさんご自身が北極星のような存在なのではないでしょうか?
ひすいこたろう氏: そうなれていたらうれしいですけどね。
死と向き合うと、最も大切な「本心」が浮かび上がる
――最新刊のテーマが「死」だとお伺いしましたが、どのような心境でテーマをお選びになったのでしょうか?
ひすいこたろう氏: 以前、ディスカバー・トゥエンティワンさんから、「名言セラピー幕末スペシャル The Revolution」という本を出させてもらったんですが、坂本龍馬とか高杉晋作とか、かっこいい幕末の人物たちを、これでもかってくらいに書いた本なんですけど、侍の人たちは、大切な場面で潔く命をかけられたんです。それは何でかなって思った時に、やっぱりいつか死ぬ身であるからこそ、この命を何に使おうかといつも問うていたからこそだとわかってきたんです。武士道の原点と言われている『葉隠』の中に、「武士道と云ふは死ぬことと見つけたり」ってありますよね。坂本龍馬の言葉の中にも、僕らはいつか死ぬ実、野辺の石ころとなる身なんだから、思いっきりやってみろよって言葉があるんです。
――そのような武士の死生観が現代人にどのようなメッセージとなるとお考えですか?
ひすいこたろう氏: スティーブ・ジョブズは鈴木俊隆さんという禅のお坊さんに20代のころに出会って、禅に通っていた時期があったそうなんです。ジョブズの、ものの見方の原点には、禅の世界観があるんですね。そのジョブズが、衝撃を受けた言葉があるんです。20代の時にその言葉と出会って、ジョブズが50代で亡くなるまで、30年間、毎日鏡を見て言っていたそうです。それは、「もし今日が最後だとしても、今からやろうとしていることをするだろうか」という言葉。これを毎朝鏡を見て自分に問うていたそうです。いつか死ぬ身であることを常に意識しながら、死ぬ身である自分だからこそ、今日何をするのか。今日死ぬとしたら今日の予定を、俺は本当にやりたいのかっていうのを、毎朝問うていた。で、「今日死ぬとしたらやらない」っていう日が何日か続いたら、生き方を見直していたそうです。
だから、死というのは、自分の命を燃焼させるための最高のスイッチにできるなと思ったんです。死と向き合うことで自分の一番大事にしたい本心が浮かび上がってくる。その本心が、僕は心の北極星だと思うんです。武士道ってすごく難しくて風化しちゃっているから、エッセンスを僕なりに楽しい形に変えて、面白く楽しく読めるものにしたいなと。楽しく読めるんだけど、まじめに死と向き合えて、自分の本心に気づくきっかけとなる本を作りたかったんです。
――(なにやら、ひすい氏、突然、メモ用紙を取り出してメモを始める)何を書かれたんですか?
ひすいこたろう氏: 「心の北極星」って、さっき僕がインタビューで言った言葉、自分で言っておきながら、いい言葉だなと、今度の死の本に書こうかなって思ってメモしてたんです(笑)
――そういう風にして気づいた言葉をメモされているんですね。
ひすいこたろう氏: 机に向かって書いている時に浮かぶ時もありますが、普通に生活している時でも浮かぶ時があるので、書いておきますね。
著書一覧『 ひすいこたろう 』