電子書籍の「次元を変える」可能性に期待
――ひすいさんは電子書籍のご利用というのはされていますか?
ひすいこたろう氏: あんまり、ないですね。でも自分が持っている本をデータ化すれば、便利ですよね。
――電子化に特に抵抗みたいなものはありませんか?
ひすいこたろう氏: いや。まったくないです。本は本の魅力があるし、電子書籍は電子書籍、まったく別のもとして素晴らしいと思いますね。
――電子書籍に期待することや、今後の可能性についてどう思われますか?
ひすいこたろう氏: 電子書籍と本って、書籍という意味で同じなんだけどまったく違うジャンルだと思います。そう考えた時に、電子書籍の可能性ってすごく広がると思うんです。例えば本って、カラーの写真を載せるとすごくお金もかかるし、お金をかけないときれいにならなかったりする。でも、画面上で見ると写真がすごくきれいに見えるし、場合によっては音楽も付けられるかもしれないし。音楽とか写真とリンクがすごくしやすくなるし、これはこれで違うワールドのような気がしますね。電子書籍って今はそのままデータを移しているだけなんでしょうけど、この先、色々な形で可能性を秘めている気がします。
例えば、本の中で、ジョブズのスピーチが出てきたとしたら、そこをクリックすると、スピーチが音声で聴けたりという可能性があるわけじゃないですか。だから、電子書籍って、本を、歌も踊りもあるオペラにできる可能性があるんじゃないでしょうか。今は入り口として、本がカサをとらずにデータにできるというところにスポットがあたっているけど、これからは、本と映画の中間ぐらいの可能性が、電子書籍に入ってくるんじゃないでしょうかね。
――ひすいさんの著作も、電子書籍になることで新しい可能性が出てきますか?
ひすいこたろう氏: 例えば、写真家さんとコラボして、1話終わるごとに写真を入れ込むとか、手間をかけずにできると思うんですね。さらに、電子書籍の最後に著者からのメッセージが音声で聞けるようなものが付いていたりとか、よりふくらみを持たせられる形になりますよね。だから電子書籍にする際に、本ではできなかった可能性がどんどん広がりますね。紙と電子書籍、どっちも持ちたいという人が出てくるんじゃないのかな。
「ご縁」の中でベストを尽くし、新たな作品が生まれる
――今後の作家活動では、どのようなことをやっていきたいという展望はありますか?
ひすいこたろう氏: やりたいことは、ただひとつ。誰かの心を明るくする1滴の水滴を色々な角度から作りたいということです。そのために、今、目の前の仕事をひとつひとつ大事にしていきたいです。すると、思わぬご縁をいただけるから。今回、先ほどのシロクマ大好きな写真家の丹波さんとご縁をいただき、シロクマの本を作っているんです。僕自身、シロクマに興味はなかったし、野生のシロクマを見に行こうと思ったこともなかったんですが、そういう仕事をいただいて、野生のシロクマが住んでいるところに実際に行ってみると、一面雪景色なんだけど、シーンって無音の音がするんですね。本当に静かなところって、音がないのに音がするんです。それがすごく刺激になったんですね。シロクマの観察、それまで僕のやりたいことの中に1ミリも入っていなかったことですけど。
また、こんな依頼もありました。「ひすいさんが本でやっていることを街の中で、ピクニックとして表現してほしい。ピクニックをセラピーしてほしい」。そんな依頼が2年前にあったんです。例えば坂本龍馬が初めて勝海舟と出会って「ああ!未来の日本はこうなっていくんだ」とビジョンが見えて、その場で海舟に弟子入りした場所が東京にあって。いわば龍馬が初めて夢を見つけた場所なわけだから、そこで自分の夢を宣言したり、パワースポットに眠っている歴史を紐解き、歴史とピクニックを結びつけて、街を遊ぶアイデアを多数考えたんですんね。そんなことをやりたいなんて1度も思ったことないし、思い描いたことすらないけど、依頼が来たので、僕自身も東京の魅力を改めて探索して、すごい刺激になった。そういう風に、1つ1つの仕事に心を込めてベストを尽くしていくと、自分でも思いも寄らなかったテーマを持ってきてくれる方が現れるので、それが楽しいです。だから、3年後、これをしていたいという夢は一切ないんです。
ひとつひとつの仕事にベストを尽くすと、必ずそれを誰かが見てくれているので、次のご縁につながっていく。そのご縁を大事にして生きていきたいですね。ここに行きたいんだというのではなく、ご縁が僕を連れていってくれる場所を楽しみたいです。「目の前のことは俺に任せろ。行く先は天に任せる」。そんな気持ちです。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 ひすいこたろう 』