目指す場所にいつも輝く「心の北極星」であり続けたい
コピーライター、心理カウンセラー、作家として活躍するひすいこたろうさんは、人生を楽しく、ハッピーにする、ものの見方を伝える本を多数世に送り出し、多くのファンの支持を受けています。人の心を動かす「言葉の力」について思索し続けるひすいさんは、悩みの深かった青春時代を経て、言葉を紡ぎ出す表現の喜びをどのようにして見いだしたのでしょうか。ひすいさんの研ぎ澄まされた感性のルーツを探りました。
「自分を変えたい」と悩む人にメッセージを届ける
――新刊が次々に出版されていますね。執筆活動にはかなり力を入れられているのではないですか?
ひすいこたろう氏: 僕は今、一番楽しい遊びが本を作ることなんです。1ヶ月好きにしていいと言われたら、やっぱり本を書いていたいです。書くことを通して、自分の知らない、自分の可能性と出会えるので、僕にとっては、本を作ること以上に楽しい遊びはないんですね。漢字から幸せの法則を紐解いたり、笑って読める歴史の本を書いたり、偉人たちの失敗談ばっかり集めて、そこからどう復活したかをまとめたり、最新刊では死をテーマに書いたんですが、毎回テーマを決めはしますが、書き始める時は、どんな本になるのか、僕にも全く先が見えていないんです。でも、毎回、書きながら、自分でもびっくりするような着地点と出会える。そういう意味では本と子どもは似ていると感じています。僕には子どもが二人いるんですけど、子どもって、やっぱりまったく想像しないキャラに育っていくんですね。お前が親じゃないかって言われても、自分の手の離れたところでキャラがちゃんと育っていくし、性格もやっぱり子どもによって違う。本も同じで、自分で作っているんですけど、完成間際になってくると、命が宿るというか、自分を超えたものになるんです。そこに新鮮な驚きがあるので、やっぱり楽しいですね。やめられません。
――ひすいさんの本からは、表現することの喜びを強く感じます。表現することは自らを発見するワクワクする作業なのですね。
ひすいこたろう氏: まさに、そうです。でも昔からそうだったわけじゃなくて、僕は、赤面症で人見知りで、暗かった時代が長かったので、自分を表現する術がなく、ずっと自分らしく生きられなくて悩んでいたんです、性格が暗いものだから、周りの明るい人たちとなじめない。で、どうやったら、ものの見方を明るくできるか、学生の時から本を読んだり、セミナーに行ったり、僕なりに研究していたんですね。そしてだんだん、こういう、ものの見方をすると、変わっていけるとわかってきたんです。その積み重ねで、過去の自分と比べると、びっくりするぐらい変わることができた。だからこそ、僕が気づいたことを、かつての自分のような、どうやったら自分を変えられるのかと悩んでいる人たちにメッセージとして届けていきたいなと思いますね。
深き悩みと、あこがれの存在が自分を変えた
――ひすいさんご自身を変えるきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
ひすいこたろう氏: 2つあります。まず一つは、高校の時に通った代々木ゼミナールの西きょうじ先生というカリスマ英語教師の存在ですね。西先生は当時20代で若かったんですけど、バードウォッチングが好きで、アフリカに動物を見にいった話をしてくれたり、世界を旅した中で感じたことを教えてくれるんですね。僕はその授業が楽しくて、毎回録音して聞いていたんです。録音したものを一度も聞くことはなかったんですが(笑)。でも、録音したいくらい刺激的な授業だったんです。先生は見た目もかっこよかったというのもあるし、僕はまだ高校生だったので、自分の知らない世界を教えてくれる先生ってかっこいいと思ったんですね。
あと、僕が心理学を学んだ、衛藤信之先生という方も、まさに、こういう人になりたいというかっこよさがありました。僕自身は暗かったんですけど、その暗い中にも、心の中には、こういう人になりたい、そこに向かいたいという心の北極星が輝いていたんです。江戸時代の人って、江戸から京都まで歩いて行っていたんですが、方向さえわかれば、どんなに遠くても必ずたどり着けるんですね。江戸から京都まで、だいたい14日ほどで着いたそうですから。人生も同じだと思うのです。行きたい方向さえわかっていれば、あとはゆっくり歩いていたって必ず辿り着けるんです。だから、僕の中では、かっこいい大人に出会えた、心の北極星のような存在に出会えたことが一番の原点ですね。
あと、もう1つは、やっぱり、悩みが深かったということです。すごく暗くて、悩みが深かったから、やらざるを得ないという。悩みが深い人は、そこから抜けたい、このまま死にたくない、このままでは大変すぎるという思いがあると思うんですね。でも、それこそが自分に革命を起こす原動力になるんです。悩みの深さと、あこがれる人がいたという2点が、自分の中にとっては大きかったなという気がします。
――暗い中だからこそ、1つの光がより明るく輝き、指針となるんですね。
ひすいこたろう氏: そうです、そうです。僕の友人の写真家さんで、丹波暁弥さんという方がいらっしゃるんですが、シロクマが大好きな人で、シロクマと友達になりたいという一心で14年間、野生のシロクマに会いに、カナダのチャーチルに毎冬通っているんです。彼は釧路出身なんですけど、小学校の時に、動物園でシロクマと出会い、一目惚れしちゃうんですね。大きくなったら、野生のシロクマを見たいという夢ができて、大人になって見に行ったら、またほれちゃって、以来14年間ずっとチャーチルに通っているんです。チャーチルには、行って帰ってくる往復だけで4日もかかるし、費用も普通の観光地の数倍します。気温だって平均マイナス26℃です。でも、彼はシロクマのためなら、どんなに苦労してもいいと言うんですね。感動しました。ついには彼はシロクマを撮る写真家になったんです。写真集も2冊出しています。
心からときめくものを見いだせた時って、人って努力じゃなくて、その世界に、にじり寄って行くんですよね。努力の語源は、奴隷を無理に働かせるという意味なので、無理しているんです。無理が続く人はいいんだけど、多くの人は燃え尽きちゃいますよね。でも、ときめきには挫折はないんです。喜びが、力尽きることはないんです。だって、うれしくて、楽しいんですから。よろこびと、ときめきこそ、自分が向かう先、心の北極星だと思います。
表現に1歩踏み出させた、手痛い言葉
――表現の手段として、本を執筆することになったきっかけを教えてください。
ひすいこたろう氏: いつか本を書いてみたいなと思っていたんですが、あるセミナーに行った時に、8人ぐらいで夢を語る場があって、「いつか本を書いてみたいです」って言ったら、そこに作家さんがいたんですね。僕より年下だったんですが、「お前は本を書きたいの?」って言われて、「はい」って行ったら、彼は、「じゃあお前はもう書いたのか?」って、上から目線で言ってくるんですね(笑)。「いや、書いていないです」って答えたら、「お前、意味がわかんないよ」って言われてしまったんです。「考えてみろ。『僕はミュージシャンを目指しています。1曲も作曲していませんが』。そんなヤツがミュージシャンになれると思うか? お前はそれと一緒だ。俺は本を出したいと思った時には、すぐに書いてたよ。そして、いつ編集者さんに会っても渡せるように、書き上げた原稿を封筒にいれて、いつもカバンに入れていた。お前が今原稿を書き上げていたら、俺はいくらでも編集者を知っているんだから、明日にでも渡してあげられたのに、お前はチャンスを台無しにしている。なんでお前のカバンには原稿が入ってないんだ?」って責められたんです。
その8人の前で手ひどくやられて、僕は悔しいと同時に、もう泣き出したいくらいな気持ちだったんですが、「そうは言っても俺は本を書いたことがないんだから、どう書いていいのかわかんないんだ」って、心の中でずっと叫んでいたんです。それは言えなかったんですが。家に帰ってもずっと悔しかったんですけど、やっぱり時間が経てば経つほど、「あいつの言う通りだ」と思って、もう何でもいいからブログに毎日書いていこうと思ったんですね。
――どのような内容のブログを書かれたのでしょうか?
ひすいこたろう氏: 自分が学んできたこととか、感動したことを、どんなにダメでもいいから、今日書けるところでいいから、毎日書いて行こうと。すごいものを書けなくたっていいから、今日書けるものでいいから、書いていこうと。その時に心の支えになったのが文豪のゲーテです。ゲーテはシャルロッテという女性に1800通のラブレターを書いているんですね。僕はそれを見た時に、ゲーテはラブレターを書きすぎて天才になったんだなと思ったんです。ラブレターって、自分の心と向き合って相手のことを想像して、真剣に書きますよね。それをゲーテは1800回も1人の女性に対して書いたから、天才になったんだと思って、僕はラブレターを書くつもりで、自分が学んできたものを1800本書いてみようと思ったんですね。
始めたのは2004年の8月9日なんですけど、毎日書けば、5年後には、1800本をやりとげている自分がいるわけじゃないですか。それで、僕はいきなり天才コピーライターと、「天才」と名乗って始めたんです。天才でも何でもないんだけど、最初から「天才」って名乗った。「絶対に1800本書くって決めたから、5年後には、今よりは天才になっているだろう。じゃあ、いま、天才って名のっちゃえばいい。5年後にはそうなるんだから、その言葉にウソはない」。そう思って(笑)。
――そのエピソードをお聞きすると、ブログのスタートがひすいさんにとって、殻を破る大きなできごとであったと伺えます。ブログを書いてどのような変化を感じましたか?
ひすいこたろう氏: 3ヶ月間毎日書いたら、「ファンです。毎日読んでます」ってメールをいただいたんです。人に喜ばれた時って、人間の本能の最深部のスイッチが入るんです。食欲・性欲・睡眠欲というのは、人間も動物も両方ありますが、「喜ばれるとうれしい」というのは人間だけが持っている本能なんだそうです。1通のファンメールが来た時に、すごくうれしくて、そこからは楽しくなってきて、最終的に5年間ほぼ毎日書けたんですね。ベストセラーになった「3秒でハッピーになる名言セラピー」という本のスタイルに関しても、毎日ブログを書いているうちに、自然にフォーマットが自分の中で出来上がっていったんです。いきなり「名言セラピー」を書けって言われたら書けなかったと思うんですが、今日できることを今日やる、次の日もその日できることをやるという繰り返しで、人って自然に進化していくんです。ほんとうに人は変われます。
ディスカバーさんから1冊目の本を出させてもらったんですが、2冊目の本の依頼を他社さんからいただいたときに、すごく有り難かったのですが僕は断ってしまったんですね。違う切り口で2冊目を書ける自信がなかったからです。1冊目にすべてを込めたと思っていますから、2冊なんて書けるわけがないと思っていた。でも、そこから数年で20冊書いて、いまも書きたい本は留まることなく溢れでてきます。人って、ほんとうに変われる。そこだけは確信をもっていえます。「夢」って言うと、手がかりすらないって思うかもしれないけど、今日できる1歩って、必ずどんな人でもあると思うんです。心を今にこめて、今日できることを繰り返していくと、いつの間にか自分の限界って、何個も何個も越えて行けるんですね。
読者の心にときめきの1滴を垂らす本を書きたい
――ひすいさんが本を書く際に最もこだわりを持っていることはどのようなことですか?
ひすいこたろう氏: やっぱり、自分が心からこれは素晴らしいと思えるものを作りたいということです。想定読者の一番手は、自分なんです。自分が心からいいと思えるか、どうか。そこが最初の基準です。自分のハートのど真ん中を貫ければ、その先に読者さんがいてくれるだろうと思っています。自分の本を書く原点は、こんなものの見方があったんだとか、こう考えるとすごく楽になるよって、自分自身が驚いたこととか、ときめいたことを、1冊の本に封じ込めたいという想いです。お水の情報を測る波動測定器というものがあるんですけど、お水の情報を変える情報水を1リットルのペットボトルに1滴垂らすと、共鳴して、あっという間に水全体が変わるんですね。そんな、ときめきの1滴を読んでくれる人の心に垂らしたいという思いです。
――その表現の形式として、「名言」を選ばれたのはどういった理由からでしょうか?
ひすいこたろう氏: 一言で言うと、僕自身が名言で助けられてきたからですね。名言というのは、せんじ詰めると、普遍的に残る力を持った、ものの見方なんです。人が明るく楽しく、人生をより深く生きていくための本質、指針が凝縮された言葉が、僕は名言だと思っています。名言で、こんなものの見方をすればいいのかという指針を得たり、助けられてきたから、名言で行こうと思ったんですね。
――ひすいさんにとっての本、読書とはどのようなものでしょうか?
ひすいこたろう氏: 本は大好きですね。今はちょっと読む時間が少なくなっていますけど、前は本ばっかり読んでいた時期もあります。そもそも、「人」は「本」でできているって書いて「体」だし、「日本」自体が本ですよね。相田みつをさんが、大切なものはみんな「本」が入っていると言っているんです。「本当」とか「本心」とか「本気」とか。本当にその通りだなと思います。本は物の中でも命を持った生命体だと思います。人は出会いで変わるっていいますけど、その出会いの根本は、その人のものの見方であり、考え方でだと思うのです。それが、凝縮されているのが本です。本というのは出会いそのものだと思うんですね。本は僕にとって小さな親友であり、師匠であり、恋人であり、子供でもあります。
――ひすいさんの本には多くの読者さんがいらっしゃいますが、直接反響を聞くことはありますか?
ひすいこたろう氏: 全国に講演等で呼んでいただく機会が増えていて、そこで読者さんたちと実際に会える場があるので、どんな人が読んでくれているのか、またその感想を直接伺えるので、それがすごく励みになっています。僕に会うなり、涙ぐまれる方もいて、「つらいときに、ひすいさんの本に助けられたんです」って。僕の本が僕を離れて、誰かの力になれてること、心からうれしく思っています。前半生、悩み多くてよかったなーって心から思いますね(笑)。誰よりも悩んできたからこそ、いま、伝えるものがあるわけで。東京では、ぷれし〜どさんというところで、月に1回、20人ぐらいの少人数でトーク会をやっているんですが、もう4年間、毎月出てくれている方もいて、ほんとうに有り難いですね。
――そのような方にとってはひすいさんご自身が北極星のような存在なのではないでしょうか?
ひすいこたろう氏: そうなれていたらうれしいですけどね。
死と向き合うと、最も大切な「本心」が浮かび上がる
――最新刊のテーマが「死」だとお伺いしましたが、どのような心境でテーマをお選びになったのでしょうか?
ひすいこたろう氏: 以前、ディスカバー・トゥエンティワンさんから、「名言セラピー幕末スペシャル The Revolution」という本を出させてもらったんですが、坂本龍馬とか高杉晋作とか、かっこいい幕末の人物たちを、これでもかってくらいに書いた本なんですけど、侍の人たちは、大切な場面で潔く命をかけられたんです。それは何でかなって思った時に、やっぱりいつか死ぬ身であるからこそ、この命を何に使おうかといつも問うていたからこそだとわかってきたんです。武士道の原点と言われている『葉隠』の中に、「武士道と云ふは死ぬことと見つけたり」ってありますよね。坂本龍馬の言葉の中にも、僕らはいつか死ぬ実、野辺の石ころとなる身なんだから、思いっきりやってみろよって言葉があるんです。
――そのような武士の死生観が現代人にどのようなメッセージとなるとお考えですか?
ひすいこたろう氏: スティーブ・ジョブズは鈴木俊隆さんという禅のお坊さんに20代のころに出会って、禅に通っていた時期があったそうなんです。ジョブズの、ものの見方の原点には、禅の世界観があるんですね。そのジョブズが、衝撃を受けた言葉があるんです。20代の時にその言葉と出会って、ジョブズが50代で亡くなるまで、30年間、毎日鏡を見て言っていたそうです。それは、「もし今日が最後だとしても、今からやろうとしていることをするだろうか」という言葉。これを毎朝鏡を見て自分に問うていたそうです。いつか死ぬ身であることを常に意識しながら、死ぬ身である自分だからこそ、今日何をするのか。今日死ぬとしたら今日の予定を、俺は本当にやりたいのかっていうのを、毎朝問うていた。で、「今日死ぬとしたらやらない」っていう日が何日か続いたら、生き方を見直していたそうです。
だから、死というのは、自分の命を燃焼させるための最高のスイッチにできるなと思ったんです。死と向き合うことで自分の一番大事にしたい本心が浮かび上がってくる。その本心が、僕は心の北極星だと思うんです。武士道ってすごく難しくて風化しちゃっているから、エッセンスを僕なりに楽しい形に変えて、面白く楽しく読めるものにしたいなと。楽しく読めるんだけど、まじめに死と向き合えて、自分の本心に気づくきっかけとなる本を作りたかったんです。
――(なにやら、ひすい氏、突然、メモ用紙を取り出してメモを始める)何を書かれたんですか?
ひすいこたろう氏: 「心の北極星」って、さっき僕がインタビューで言った言葉、自分で言っておきながら、いい言葉だなと、今度の死の本に書こうかなって思ってメモしてたんです(笑)
――そういう風にして気づいた言葉をメモされているんですね。
ひすいこたろう氏: 机に向かって書いている時に浮かぶ時もありますが、普通に生活している時でも浮かぶ時があるので、書いておきますね。
電子書籍の「次元を変える」可能性に期待
――ひすいさんは電子書籍のご利用というのはされていますか?
ひすいこたろう氏: あんまり、ないですね。でも自分が持っている本をデータ化すれば、便利ですよね。
――電子化に特に抵抗みたいなものはありませんか?
ひすいこたろう氏: いや。まったくないです。本は本の魅力があるし、電子書籍は電子書籍、まったく別のもとして素晴らしいと思いますね。
――電子書籍に期待することや、今後の可能性についてどう思われますか?
ひすいこたろう氏: 電子書籍と本って、書籍という意味で同じなんだけどまったく違うジャンルだと思います。そう考えた時に、電子書籍の可能性ってすごく広がると思うんです。例えば本って、カラーの写真を載せるとすごくお金もかかるし、お金をかけないときれいにならなかったりする。でも、画面上で見ると写真がすごくきれいに見えるし、場合によっては音楽も付けられるかもしれないし。音楽とか写真とリンクがすごくしやすくなるし、これはこれで違うワールドのような気がしますね。電子書籍って今はそのままデータを移しているだけなんでしょうけど、この先、色々な形で可能性を秘めている気がします。
例えば、本の中で、ジョブズのスピーチが出てきたとしたら、そこをクリックすると、スピーチが音声で聴けたりという可能性があるわけじゃないですか。だから、電子書籍って、本を、歌も踊りもあるオペラにできる可能性があるんじゃないでしょうか。今は入り口として、本がカサをとらずにデータにできるというところにスポットがあたっているけど、これからは、本と映画の中間ぐらいの可能性が、電子書籍に入ってくるんじゃないでしょうかね。
――ひすいさんの著作も、電子書籍になることで新しい可能性が出てきますか?
ひすいこたろう氏: 例えば、写真家さんとコラボして、1話終わるごとに写真を入れ込むとか、手間をかけずにできると思うんですね。さらに、電子書籍の最後に著者からのメッセージが音声で聞けるようなものが付いていたりとか、よりふくらみを持たせられる形になりますよね。だから電子書籍にする際に、本ではできなかった可能性がどんどん広がりますね。紙と電子書籍、どっちも持ちたいという人が出てくるんじゃないのかな。
「ご縁」の中でベストを尽くし、新たな作品が生まれる
――今後の作家活動では、どのようなことをやっていきたいという展望はありますか?
ひすいこたろう氏: やりたいことは、ただひとつ。誰かの心を明るくする1滴の水滴を色々な角度から作りたいということです。そのために、今、目の前の仕事をひとつひとつ大事にしていきたいです。すると、思わぬご縁をいただけるから。今回、先ほどのシロクマ大好きな写真家の丹波さんとご縁をいただき、シロクマの本を作っているんです。僕自身、シロクマに興味はなかったし、野生のシロクマを見に行こうと思ったこともなかったんですが、そういう仕事をいただいて、野生のシロクマが住んでいるところに実際に行ってみると、一面雪景色なんだけど、シーンって無音の音がするんですね。本当に静かなところって、音がないのに音がするんです。それがすごく刺激になったんですね。シロクマの観察、それまで僕のやりたいことの中に1ミリも入っていなかったことですけど。
また、こんな依頼もありました。「ひすいさんが本でやっていることを街の中で、ピクニックとして表現してほしい。ピクニックをセラピーしてほしい」。そんな依頼が2年前にあったんです。例えば坂本龍馬が初めて勝海舟と出会って「ああ!未来の日本はこうなっていくんだ」とビジョンが見えて、その場で海舟に弟子入りした場所が東京にあって。いわば龍馬が初めて夢を見つけた場所なわけだから、そこで自分の夢を宣言したり、パワースポットに眠っている歴史を紐解き、歴史とピクニックを結びつけて、街を遊ぶアイデアを多数考えたんですんね。そんなことをやりたいなんて1度も思ったことないし、思い描いたことすらないけど、依頼が来たので、僕自身も東京の魅力を改めて探索して、すごい刺激になった。そういう風に、1つ1つの仕事に心を込めてベストを尽くしていくと、自分でも思いも寄らなかったテーマを持ってきてくれる方が現れるので、それが楽しいです。だから、3年後、これをしていたいという夢は一切ないんです。
ひとつひとつの仕事にベストを尽くすと、必ずそれを誰かが見てくれているので、次のご縁につながっていく。そのご縁を大事にして生きていきたいですね。ここに行きたいんだというのではなく、ご縁が僕を連れていってくれる場所を楽しみたいです。「目の前のことは俺に任せろ。行く先は天に任せる」。そんな気持ちです。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 ひすいこたろう 』