岸良裕司

Profile

1959年生まれ。日本TOC推進協議会理事。全体最適のマネジメントサイエンスであるTOC(Theory Of Constraint:制約理論)をあらゆる産業界、行政改革で実践し、活動成果の1つとして発表された「三方良しの公共事業」はゴールドラット博士の絶賛を浴び、07年4月に国策として正式に採用される。幅広い成果の数々は、国際的に高い評価を得て、活動の舞台を日本のみならず世界中に広げている。08年4月、ゴールドラット博士に請われて、ゴールドラット・コンサルティング・ディレクターに就任し、日本代表となる。ベストセラーを多数出版し海外の評価も高く、様々な言語で、世界各国で本が次々と出版されている。

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問題解決の大敵は「人のせいにすること」


――先ほど私も目の当たりにした、対話の中で問題解決の糸口をつかむ手法を身に付けるには、どのようなポイントがあるのでしょうか?


岸良裕司氏: たった1つだけすごく重要なことがある様な気がするんです。シンプルにこういう質問をしてみたらどうだろうかと思うんですけど。「人のせいにする」話は聞いていて気持ちいいでしょうか?

――非常に嫌な感じがしますね。


岸良裕司氏: 実際、人のせいにすることでは問題解決しないんじゃないでしょうか。でも、どうしても、人のせいにしてしまいがちになる。ところがこういう問題が起こるのは、大抵の場合、どこかに思い込みがあるからなんです。よかれと思ってやってることが、現実には悪いことを引き起こしている。それはその人が悪いんじゃなくて、その人の持ってる思い込み、何か強い勘違いがある。それを正してあげると実はね、あっという間に成果が出ることがある。ところで、「お前は相手の立場に立って考えられない奴だ」、「お前は思いやりのない奴だ」って言われたらどんな感じします?

――もう何か、悲しいですね。


岸良裕司氏: 人間的に終わってるって感じですよね。実は相手が主張することには、何かの要望があるんです。相手の立場になるっていうのは、対立してる人に対しても、相手の主張の中にある本当の要望をずっと考えて、解決策を考えることです。そうすると対立するたびに、相手の立場になり、人間として思いやりのある人間に成長する。これが僕がやっている仕事なんです。言い換えて見ましょう。年齢を重ねても、思い込みなく、色んな角度でものを見られるってどうですか? 対立をしてる相手の本当の思いに目を向けて、何とか満たしてあげようと思う人のことをどう思います?

――もちろん素晴らしいですよね。


岸良裕司氏: そうですよね。そうすると、われわれは、何か問題があっても人のせいにしないっていうことが大事であって、思い込みを見つけるために多面的な見方をしなくちゃいけない。これ多面的なものの見方って、一見対立するものでも本当の要望は何なのかを考えて、その要望を満たす方法を考えることによってできる。対立してるんだと思い込んだ瞬間に、人のせいにしてしまう。これはネガティブな意味での「人のせい」ってことなんですが、実はポジティブなところで人のせいにするっていうこともわれわれはやっちゃうんです。例えば、こういう風な考え方もあるんです。「あの人だからできる。あのスーパーヒーローだからできる」という言い方。「岸良さんだからできる」って言われたら結構うれしいですが、それを言った人は学びができますか。

――できないですね。むしろ思考が停止しています。


岸良裕司氏: できる人には何か理由がある。その理由が見つけられてないだけなんです。「あの人だからできる」と言うことによって、その人がなぜできるかっていうことを本当に理解しようとしないんです。もしも、そのやり方がわかれば、それは再生できるということです。幸いにも僕は、稲盛和夫という1990年代を代表する経営者のところで20年間近く勉強させていただいた。「稲盛さんだからできる」じゃなくて、稲盛さんができるからには、何か理由があるはずだと思って、実は稲盛さんの書いた本だけじゃなくて、稲盛さんの読んだ本の原典に当たったんです。全部かどうかはわからないですけど。社長室に置いてある本を見ると彼が読んでる本がわかるから、稲盛さんの言ってることはここから来てるんだってわかるでしょ。そこに共通事項を見つけると、より理解できるんですよ。そうすると、稲盛さんまで行かなくても、同じ様なことがすこしづつできるようになる。そして長年稲盛さんができなかった未開拓の分野に取り組んで、できる様になることも時にはある。そうすると稲盛さんもうれしいはずなんですよ。だからいまも新幹線で偶然会ったりすると「おぉ」とかやってくれますからね。



そして、僕の師匠であるゴールドラット博士は、人に考えることを教えるプロです。僕はね、ラッキーなことに、この世界で最も優れた二人と言ってもいい程の人に教わって、この人たちにできることには理由があるはずだと思って、一生懸命リバースエンジニアリングをしながら、因果関係をつかみ、同じ様に再生できないかと思って考えて、例えば「三方良しの公共事業改革」は、ゴールドラット博士が「私のつくった理論で、そんなことができるのか」って感動された。京セラの人たちの中にも、「お前と一緒に働いたことを誇りに思うよ」って言ってくれる人がいるんです。

繰り返し人に教えることで成長してきた


――自分で実践して結果を出すことと、本を書いたり、人に教えたりすることの関係はどのようなことでしょうか?


岸良裕司氏: 「知ること」と「やれること」 どちらが難しいでしょうか? もちろん、知ることよりもやれるようになることの方が難しい。では、「やれること」と「やれるように教えること」どちらが難しいですか? 自分でやれるようになっても、他の人にやれるように教えることは、極めて難しいことに気がつきます。「直感」という言葉がありますが、「説明や証明を経ないで、物事の真相を心でただちに感じ知ること」と広辞苑にあります。つまり、「やれること」では、まだ論理的に説明できない状態とも言えます。それを誰でもわかるように説明するのは本当に難しい。誰でもわかるという状態というのは、論理に飛躍がない状態なんじゃないかと思っています。考えてみてください。論理に飛躍があるとわかりやすいと思いますか? 

実は、論理がしっかりし、飛躍がないと、実はわかりやすくなるんだと思うんです。それをプレゼンなんかにまとめて他の人に見せると「これはおもしろい。わかりやすい」って言うんで、本を書く機会をいただく。でも、口で説明するよりも、本を書くってはるかに難しい。文章に起こすと「俺は何が言いたいんだ?」って思うことありませんか? 書くことで自分が何が言いたいかより考えるようになり、より理解できる。僕は本では、全部ノウハウも吐き出すんです。そうするとフィードバックがもらえます。そうするともっと学べるんです。TOCを何万回も教えて、同じことを説明してるのに、いまだに「そうだったのか」っていうのがありますからね。「わからない」って言われると、どこか僕の説明のロジックに穴ぼこ、つまり論理の飛躍がある。それを見つけて、埋められれば、みんなにもっとわかってもらえる様になる。そうするとより良い知識ができるんだと思っています。僕みたいにもともとずっと実務者をやっていた人間が本を書くっていうのは難しいんです。だって成果を出すのが仕事で、どうして成果を出したかを説明するのは仕事じゃなかったですから。むしろ、どうして成果を出したのかわからなくて、僕だけしかできないってことが強みになるじゃないですか。

しかし、ゴールドラット博士から、「人に説明できないというのは、わかったとは言えない」と指導されたんです。人に教えようとして、初めて自分がよくわかっていなかったことに気が付く。相手がわかってくれないのは相手がバカなのじゃなくて、自分がわかってない。誰よりも数多く人に教えて、繰り返し悔しい思いをしているうちに、今の自分があるというのが実態なんです。人に教えることで自分が成長したんだと思っています。

――最後に、今後の執筆活動の予定があればお聞かせください。


岸良裕司氏: 1つは、ゴールドラット博士の日本への遺言とも言える本をまとめています。『エリヤフ・ゴールドラット 何が、会社の目的を妨げるのか』という本で、ダイヤモンド社から、2月25日に発売されます。読者の方々には、ゴールドラット博士の日本に関してのインタビュー、著作、論文を通して「日本企業が捨ててしまった大切なものは何か」を考えながら、読んでいただきたいと思っています。読み進めているうちに気づくのは、ゴールドラット博士が本当に伝えたかったこと、それは、「日本はこれからも飛躍的な成長ができる。再び世界に模範を示すべきである」というメッセージです。読んでいて、勇気が沸いてくる本です。多くの方々に読んで頂きたいと思っています。

もう一つは、『考える大人になるための3つの道具』という本を執筆中なんです。僕は本を書いていて、違和感があって、ずっとわからなかったことがあるんです。それは僕の本の読者が、「勇気が出て、毎日が楽しくなった」とか、「成長した」っておっしゃることでした。感動して涙を流す人もいるんですね。僕はそのために書いてるんじゃないんですよ。ビジネス書ですし、問題解決したり、プロジェクトの工期を短くして、成果をあげる、つまり、利益を上げて欲しいんです。ところが、たちどころに数億円儲けたというのに、儲けたことを成功と言う人は意外に少ない。それより「人材が育成され、社員がやりがいを感じている。こんな会社にしたかったんだ」と感激して、人材の成長とかモチベーションとかコラボレーションの向上を成功とおっしゃる。つまり、僕も本当はまだわかってないってことなんですよ。成果は出したけど、本当はもっと別のことやっていたようなんです。すると、いままで僕がマネジメントとして使っていた全体最適のマネジメント理論TOCは、本当は人を育成するものじゃないかと気がついたんです。ならば、ちゃんと考えられる大人に成長するための本が書けるんじゃないかと。TOCは、教育のための知識体系もあるんです。(「教育のためのTOC」http://tocforeducation.org/)これが本当にすごい知識体系で、ものすごい勢いで日本でも広がっている。この最新の知識体系を盛り込んだ本を書いています。

大人向けの本なんですけど、大人が自分の子どもに教えられる本にしようかと思っています。テキストブックよりも柔らかく、絵をいっぱい付けて、今年出したいと思ってるんですよ。やっぱり世の中の方々に役に立つ様な本を書きたいじゃないですか。僕の場合は、マネジメントサイエンスと言われる、再現性のあるロジックを教えているわけですから、やっぱり多くの方々に使っていただいて、世の中をよくすることに、少しでも貢献できる価値のあるものにしたいですからね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 岸良裕司

この著者のタグ: 『コミュニケーション』 『海外』 『コンサルティング』 『飛行機』 『シンプル』 『絵本』 『問題解決』

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