データベースは電子に限る、「一覧性」を追求せよ
――角川さんは電子書籍は使われていますか?
角川総一氏: ついこの間タブレットを買ったので、早速僕が出している2本の電子本のほかいくつかの電子本を買った。でもスマホで本を読む気にはあんまりならないですね。情報って複数のものが同時に見えるという一覧性があることによって初めて付加価値が出てくる。その点タブレットの普及で電子本は一気に読者が増えるでしょうね。僕は昔から「壁画の時代」っていう言い方をしているんだけど、中世時代には絵がとにかく大きい。あるいは仏教画でもそうなんだけど、要するにブッダが生まれてから死ぬまでがギューッて詰められてあるわけです。あるいはキリストが死ぬ時の絵に、動物が描いてある。それがどういう表情をしているかとか、全体の中において、これとこれの関係がどうなってるかというような、それぞれの情報の関係性が瞬間的に把握できるような状態でなければ付加価値を持たない。残像が残る間に次を認識するっていう感覚。そのためにはスマートフォンじゃダメなんです。
――ある程度のディスプレーの大きさと解像度が必要なんですね。
角川総一氏: 枠が小さくなってくればなるほど、多分、人の呼吸が浅くなっているんじゃないかという気がします。顕微鏡を見る時には息をこらして見るでしょう。タブレットなら、息が楽ですね。ちっちゃなスマホは精神健康上良くないんじゃないかな。
――電子書籍はどのように使えば有用でしょうか?
角川総一氏: 本の中にはいっぺん読んで終わりという本と、いつでもそばに置いておきたいものがある。僕の座右に置く本の典型は、運指法が記されたバイオリンの本やエクセル関数のガイドブックですね。僕の書いている本の中にも大きく分けて2つある。半ば辞書的な役割を狙った「日経新聞の歩き方」なんていうのは座右に置いておいてほしい。そういう本については電子書籍はものすごくいいと思います。経済データ集が総務省から出ているんだけれど、無料でPDFで落とせるわけです。データの類はいつ参照するかわからないから座右に置いておきたい。いわゆるデータベース的なものはやっぱり絶対、電子に限ります。
イディオム辞典、文字ベースのデータベース
――今後の著作についての構想を教えていただけますか?
角川総一氏: いくつかの軸はあるんだけど、経済の良質な辞書を出したいですね。単語レベルの辞書じゃなくてイディオム集。だってみんな経済がわからないということは、経済について述べられた文章がわからないということでしょう。例えば「TPPの参加によって日本の農業のコストが上がらざるを得ない」とか、「円高で日本の長期金利が若干下がる」「日本のインフレで円安圧力がかかる」とかというフレーズがあったらね、言葉一つ一つは難しい言葉じゃないにもかかわらずわからない。なにがわからないかと言ったら、その行間に沈んでいる意味、関連性がわからないわけです。だから僕は経済イディオム辞典を作る準備をしています。文字があって、単語があり、その次にイディオムがあり、コンテキスト、短文があり、それで初めて長文がわかるわけでしょう?単語の辞典はあるけどイディオム辞典がないわけですよ。フレーズになるとわからないようなものを集める。それからWEBクリエを利用して常に最新のデータが反映される経済グラフ集の電子本を計画中です。僕はそれほど高度なことはできないから、初級から中級位の、為替に関する章とか、マクロ経済の章とか、学習する前の自分と学習した後の自分とが明らかに違うんだということが確認できるものにしたいですね。数字ベースでのデータベースじゃなくて、文字ベースでのデータベースというものを作っていけると思っています。
――最後に、今仕事に悩んだり、成長したいと考えているビジネスマンの方々に、アドバイス、メッセージをお願いします。
角川総一氏: 今の若い人はもっと甘えてもいいと思います。先輩っていうのはどこかで甘えてくれることを期待しているんです。「あいつ、あそこまで僕を頼って甘えてくれるからちょっと教えなきゃいかんな」とか。いい意味で甘える人間でなきゃ伸びない。わからなかったら途中でギブアップして、「ちょっと頼みますわ」って言ったらいいんです。何が何でも最後まで「自分で責任持って調べなきゃいけない」とか、「人に聞いたらいけない」とか、それはダメだと思いますね。自分の経験からいうと、たくさんの人と付き合って色んなことを教わったというのは、何ものにも代えがたいですね。それがなかったら今の自分はないです。だから、いい意味での甘えん坊になったらいいと思いますよ。
取材場所:日本出版クラブ会館
(聞き手:沖中幸太郎)
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