アーリーリタイアで小説家専業になることもちらっと考える
――4年、作家として活動されてみていかがですか?
至道流星氏: 高校生の時に、社会に対して影響力を持つ人間になりたいと思ったことが、意外とこの小説家の方で叶うんじゃないかと。ぐるっと回ってこれはよい取り組みだなということを思うようになって続けてるんですね。で、後は僕も自分の商売の方はもういいやと思い始めたところもあって、30代の終わりまでには全部整理して、できればきれいにリタイアしたいなと思っています。その後でも、小説家って死ぬまでやれるじゃないですか、好きなだけ。僕の周りには、本当にリタイアした友人って結構いるんですよ。
――みなさん、仕事をリタイアされて趣味などに時間を費やしてるんでしょうか。
至道流星氏: 数億円で会社を売って、豪邸建てている友人もいます。海外を巡り歩いている友人もいます。色々な人がいますよ。ただ、彼らを見ていても本当にやることがないんですよ。それで、また事業に戻る人もいます。本当にやることがない。
――至道さんは、小説を書きながら生活していかれるんですね。
至道流星氏: そう。たまたま自分には小説が書けるので、暇を持て余すこともなく、喜んでリタイアできるんじゃないかなという風に思っているところですね。僕の場合は、もう何を書いてもよいと思ってるんですよ。それはどういう意味かと言えば、小説家って出版社に気を遣ったりしますよね。こういうことを書くと売れなくなるとか、色々なことを考えている訳です。でも、僕はその辺はどうでもよい。極論を言えば、出版社から嫌われようと何だろうと自分は書きたいものを書くという信念があります。別に小説家として生きていかなくてもよいと思ってるからこそ、自分が書こうと思ったものが書けるというのはありますね。だから、そういう意味では特殊なポジションにいる小説家だとは思います。
――二本立ての強みですね。
至道流星氏: やっぱり、小説家の人たちを見ていると、当初の自分の想いを無くしている人もいる。サラリーマン的になっていく人が多いですよね。僕はやりたいものを勝手に自分でやれる。幸い出してくれる出版社があるんですけど、仮に出版社がノーと言えば、別にそれはそれで構わないという風に思って書いていますね。
――そのような中、どういった信念を持って執筆されていらっしゃるんでしょうか?
至道流星氏: 想いとしては社会を変えていきたいということは大前提としてあります。で、僕が書いたものは大衆受けしなくてよいと思っているし、自分が大衆受けをするっていう状況は、多分自分の作品傾向にとってはよくない状況じゃないかと思っています。そういう意味では、自分の書く作品がたった一人でよいから、その人の人生にすごく強い影響を与えられたらいいと思っています。社会っていうのは強い決意を持った一人の人間が世の中をひっぱっていくという側面もあるので、そういう人間を作り出すことが、僕の小説家としての唯一の使命じゃないかなと思ってます。
出版社や編集者の熱意で、原稿を書くところを決める
――出版社や編集者とのお付き合いなどはどのようにされていますか?
至道流星氏: 僕はもともと講談社BOXというところで受賞してるんですけれど、その講談社BOXの編集長だった人が作ったのが星海社という出版社なんです。講談社の100%子会社なんですが、業界では今一番アグレッシブな出版社で、カラーは全然違います。星海社さんが一番僕の作品を評価してくださっているので、喜んで原稿を収めています。色々な出版社から依頼はありますけど、やはり編集者さんの考え方とか本気度っていうのは、全く天と地の差がありますね。
――編集者の方の本気度などの違いは感じますか?
至道流星氏: 全然違いますよ。至道流星が名前出して書いてくれるなら何でもよいみたいな人もいるし、「どうしても至道さんとこういう作品を書きたい」という編集者もいるし、千差万別ですね。僕は可能性のある若い人に作品を届けたくて書いているんですけれど、星海社はエンターテイメントと文学を融合させた文芸寄りの出版社です。ライトノベルに近づけば近づく程、編集者は雑になっていきます。文芸の方に近づけば近づく程、編集者も職人気質が強くなってきます。もう、これはっきり分かれています。全然違いますよ。これは業界の構造そのものなんですけど、出版社は、全く売れないけれども文芸というジャンルを大事に考えているんですね。僕なんかは全然理解できないんですけれど、大手出版社では、文芸は正社員でがっちり固めていて、ライトノベルにはほとんど正社員はいません。たまに、編集長が正社員だったりしますけど、基本的にはライトノベル業界の大半は契約社員。あるいはフリーランスですね。
――ということは、ライトノベル業界では、担当者の入れ替わりも頻繁にあるんでしょうか?
至道流星氏: もう、どんどん入れ替わっています。大手出版社の正社員は給料もいいし、優遇されているし、労働組合も強い。でも実際には、本当に生産性が悪い人たちで、この人たちが年収1千万位平気でもらっている訳ですね。でもライトノベルの方の編集者の人たちって、契約社員とかフリーの編集者が多い。年俸300万とか、200万円台なんて普通です。だから考え方も全然違いますし、社会的な立場も、出版社内部での発言力も違う。でも面白いところは、いまの出版社は漫画やライトノベルなどの若者向けの本によって支えられている訳ですよね。漫画とかライトノベルが稼ぎ出した利益を、生産性が悪い文芸の方に送ってる訳です。安くこき使われている編集者が寝ずに働いて稼いで、利益を文芸部門に送っている。出版社の体質自体がそういう状況なので、業界が衰退するのは当たり前だなとは思いますね。
――食えない人を食える人が頑張って、何とか持ちこたえてるんですね。