小学校のころから「催し物」をするのが得意だった
おちまさと氏: 小学生の頃から「催し物」が大好きでした。その頃の「何か催す」という行動が、後にテレビ番組となり、様々な企業とのコラボレーションとなり、国の事業にもなりました。けれども、根幹は一緒なんですよね。
「色々やっている」と思われがちですが、背骨は1つなんです。職業としては「プロデューサー」と名乗っていますが、「催す人」でもいいですよ。何かを仕掛けるのが好きなんです。また、「催す」中で、費用対効果をいかに上げられるか、そこで繰り広げられる勝負も好きですね。もし競合プレゼンテーションなら、「A社よりも、予算面で有利なB社に頼みましょう」といった状況です。
例えば官庁のケースでも、「いかにメディアに波及させられるか」という事で悩んでいた場合、私が提案することによって、実際に波及効果が高くなり、世の中に広まる。この間もプレゼン中に「いいね!」が押せるボタンを作りました。会場にいた企業の方400人が、みなボタンを押してくれました。すでにFacebookで慣れているから、わかりやすいんですよね。そういう発想の転換で物事を変えていく事が私の役割であり、強みなんだと思っています。
――おちさんは「おちまさと」という職業でやっている、と。
おちまさと氏: そうかもしれませんね。「おちまさとフレーバー」をかけると「おちまさと味」になるという、これが喜びとなっています。リスクもある中で自分という看板を背負って26年目になりますが、そういう喜びが原動力となり、今も走り続けています。
読書が大嫌い!から大好きへ
――おちさんの読書遍歴についても伺います。
おちまさと氏: 私は読書が大嫌いでした。小学校時代、夏休みの宿題で読書感想文というのが必ず出ますよね。学校指定図書など20冊ぐらい候補があるので、図書館へ行って読むのですが、「面白くない」。「自分は読書ができないん」と、その時に挫折を覚えました。ちゃんと読んで、きれいな感想文を書いてくる同級生は褒められる。適当に見繕って褒められる感想文は書けるのですが、腹落ちしていませんでした。そんな私に転機が訪れました。中学3年クラスメートに、筒井康隆の『俗物図鑑』(新潮文庫)という小説を薦められたんです。「なんて面白いんだ」と、寝ることも忘れ一気に読みました。今では、読書が趣味ですね。
――1冊の本との出会いが、読書嫌いを救ってくれたと。
おちまさと氏: 今まで嫌いだった「読書」が、一転しました。「小説というのは、面白いものなんだ」と、もう目からうろこでしたね。それで筒井康隆さんの『家族八景』とか、『七瀬ふたたび』、『おれに関する噂』など、どんどん買って読破していったんです。『おれに関する噂』は、朝起きてテレビを見ると自分の事がニュースになっていたりするストーリーですが、現実世界と、近未来とのことも予測されていて作品の中に感じられる未来性に惚れました。『農協月へ行く』(角川文庫)も、すごく印象に残っています。『残像に口紅を』という、1章ごと五十音がなくなっていくという話。言葉遊びでもある小説、そういう新しい試みも自分の興味を刺激してくれる大切なものとなっていました。
――「読書スイッチ」が入ったような感覚ですね。
おちまさと氏: 「本を読むのが好きなんだ」というスイッチが入っているから、その後は貪るように読みました。星新一から、SF方向に進んだり。そのうち「読める」という自信がついて、過去の文学系の作品も読みました。20歳ぐらいの時、村上春樹の『ノルウェイの森』が出ました。売り出し方の概念も新しかったのですが、文字としての凄さ、迫力を感じました。
「好きだ」と書くと向こうからアプローチしてくる
――読書に限らず「好きだ」という気持ちがきっかけとなり、その後の仕事を生み出し、さらにそこから化学反応のように新しい取り組みが生まれるんですね。
おちまさと氏: 今度、角田光代さんと対談することになったのも、ブログに書いたことがきっかけですね。アディダスのプロジェクトも、ブログに書いたのがきっかけでした。「走っています、アディダス大好きです」そういうことが新しい仕事のきっかけになります。
――何か企画書を書いて提案する今までの流れが、個人レベルでも変化しそうですね。
おちまさと氏: 最近はSNSがあるので、「自分はこういう人間です」と主張できます。Facebookは9億人以上が利用していますので、「それ、自分がやるよ」「では一緒にやりませんか?」という話になる可能性はますます広がると思います。
著書一覧『 おちまさと 』