ビジネスを成功させるプロとして「売れる仕組み」を提供していく
工藤龍矢さんは、「売れる仕組みプロデューサー」として、職種を問わず営業部門の業績を上げる普遍的なメソッドを開発し、企業へのコンサルティングや、セミナー等の教育活動を行っています。工藤さんのキャリア形成、プロデュース力の源泉となっている営業理論の基本、理論を広く伝える手段の1つである本への想い、情報収集にフル活用しているという電子書籍についてのお考え等を伺いました。
コンサルタントを育てるコンサルタント
――早速ですが、最近の工藤さんのお仕事についてお聞かせください。
工藤龍矢氏: 一般財団法人営業教育推進財団で、営業ノウハウを学ぶ講座、ウェブマーケティングを学ぶコース等を展開しています。6ヶ月間とか12ヶ月間通っていただくプログラムになっていて、参加されているのは約半数が経営者や営業幹部の方、そして半分が個人で有給休暇を取り、通ってこられるような方です。個人での参加は昔はほとんどありませんでしたが、ここ半年、1年ぐらいすごく増えている印象です。自己啓発というか、自分のキャリアを高めていくような場で僕のスキルを使ってもらえているのかなと思っています。
講座は「マスター」といわれる営業研修の講師陣20名がネットワークを作って開いていますが、僕自身はほかに個別の企業に対して研修をしたり、コンサルティング契約で営業の戦略を練ったり、集客の戦略をサポートしたりしています。時期によって異なりますが、1ヶ月で5案件とか10案件ぐらいは、個別コンサルティングをします。それに加えて、僕自身が研修の先生をするのと同じぐらい、研修の先生を育てる仕事をしています。要するに、メインの業務はコンサルタントの実務と、コンサルタント養成の2つになります。
――個別の企業ではどのような研修・コンサルティングをされるのでしょうか?
工藤龍矢氏: 定例的な営業部隊研修の企画立案と、研修の実践などをします。例えばある企業では、営業部課長以上15名に、月1回1日、いわゆる管理職研修ということで、いかに部下を育てたらいいかといったプログラムを作って、1年間教えています。また、ある化学系のメーカーでは、ホームページを使った集客をやりたいということで、ウェブマーケティングコンサルティングをしていて、年間契約で毎月2回ずつ訪問して、ホームページのアクセスを上げるためのコンサルティングをしています。はじめは営業の先生をしていましたが、営業にはホームページも重要ですから、いつの間にかウェブの専門家にもなってしまった感じで、営業研修とウェブ研修が半々くらいになっていますね。
塾講師、広告代理店、ITベンチャーで経験を積む
――様々な企業に営業ノウハウを提供する今のお仕事を始めるまで、どのようにキャリアを積まれたのでしょうか?
工藤龍矢氏: 慶応の経済学部に在学中の時、「栄光会」という大学受験予備校の英語の先生を5年間やっていたんです。ですから生徒を指導し、物を教え、育てることは学生ながらにやっていました。その塾には面白い仕組みが2つあって、1つが逆指名制。英語の先生が25人ぐらいいて、先生を生徒が選べる。人気のある先生は教室がいっぱいになって、人気がないと3人とかになったりすることもありました。あんまり不人気だとクビになるんです。もう1つは、年に3回、先生を採点するアンケートがあって、ランキングが張り出されて、あんまり悪いとクビになる(笑)。そのかわり、アルバイトだったけれど時給6000円なんです。2時間の授業で12000円もらえる。でも、その2時間の授業をやるのに20時間ぐらい準備をするから、結局のところコンビニより時給が安くなります。それをオーナー社長が理解しているので、先生の時給を6000円にしてあるんですね。
――大学のころから厳しい環境で鍛えられたのですね。卒業後はどのようなお仕事をされましたか?
工藤龍矢氏: 営業志望ならやはり広告か商社だということで、博報堂に入りました。博報堂ではアサヒビール担当の営業を4年やりましたが、営業というよりはマーケティングの基礎を勉強しましたね。というのも、半自動的にお客さんが来るので、営業で受注を取るとか、テレアポとか、そういう経験はありませんでした。その後、博報堂の先輩が誘ってくれて、ガーラというホームページ制作とかシステム開発をする会社に転職して、営業部長になりました。当時のガーラの売り上げが2億円で、僕が14人目の社員だったから、もう本当に中小企業ですね。営業から納品からノートの補充まで、全部自分でやらなきゃいけない。「なんだこりゃ」とびっくりしました。大企業にいると、そんなことは誰かがやってくれますから。
「サラリーマンでいいのか、チャレンジすべきではないか」
――大企業をお辞めになるのは、勇気が必要だったのではないでしょうか?
工藤龍矢氏: 自信と期待が6で、不安と心配が4ぐらいでした。「やれそうだ」という期待が、ちょっと上回っていました。ただ、やはり労働時間がめちゃくちゃ長くなるっていうのは覚悟していました。それと博報堂では、4年目だから27、28歳くらいで、残業代も入れると月々お給料が、40~50万いくんです。年収ベースでいくと、550万とか600万ぐらい。でもガーラに行った時は年俸300万だから、月25万くらいに落ちて、ほぼ半額スタートです。でも今にして思えば中小企業で25万円くれるだけでもすごいですよね。
――収入が下がっても新しい会社に転じることのモチベーションは何でしたか?
工藤龍矢氏: 一獲千金感がありましたね。当時のIT業界はピカピカでしたから。後は、いきのいい先輩が何人か博報堂から飛び出したのを見ていて、「大企業でサラリーマンをやっていていいのか、チャレンジするべきじゃないか」という気持ちがありました。ガーラについては起業するワンステップみたいな位置づけでもありましたので、そんなに不安はありませんでした。
――周りからの反対の声はなかったですか?
工藤龍矢氏: 親は泣いていました。でも親には、一回別の会社を挟んだら、電通に入れる可能性が高いと言っていました。そのころ、電通の中途入社で博報堂のOBが増え始めていたんです。直はやっぱりマズいけど、1~2年とか挟んで移動している人が出はじめていたので、そういう目で見てくれと言っていました。
――営業の技術についてはIT企業で培われたものでしょうか?
工藤龍矢氏: そうですね。なかなか物が売れない、売り上げが伸びない時に、「どうやって売ろうか」とか、「どうやって売り上げをアップしようか」ということを試行錯誤して、テレアポのやり方を工夫したり、飛び込みセールスのやり方や、ダイレクトメールを打ち方など、やれることをあの手この手で工夫して、結局2億円の売り上げを5億5千万円に伸ばせたんです。その蓄積がスタートとなって、ソフトブレーンにスカウトされて、6年間営業のコンサルタントをしたんですね。
強い営業を作るのは、人と仕組みと「勉強」
――工藤さんの情報発信の手段に本がありますが、本を書くことへの思いをお聞かせください。
工藤龍矢氏: 最初は出版することで集客することを考えていた部分もありましたが、本を書くことで、志が後からついてきたようなところがあります。本を出すことで接する人と、いい関係が保てるようになっています。最初はそんなつもりではなかったけれど、日本の営業を変えていきたいとか、「工藤龍矢があれをしたおかげで日本がこうなったよね」ということをしたい気持ちが、後からついてきた感じです。
――工藤さんはどういった方法で執筆をされているのでしょうか?
工藤龍矢氏: 僕の強みというか、自分自身で好きなのが、大量の情報を整理・統合してアウトプットするということです。本当は家とかに閉じこもって作業するのが好きで、資料をまとめたり、テキストを作成することに時間を割きたいんですけが、それだけだと生活できないから、研修をやったりコンサルティングを頑張っています。最終的には、ハワイに住んで、作家生活をして本の印税だけで暮らしたいんですが、それとは逆のことばかりやっていますね(笑)。
――コンサルティングやご著書で一貫して伝えていきたいと考えていることはありますか?
工藤龍矢氏: 僕の気持ちは「一頭のライオンに率いられた100頭のひつじの群は、一頭のひつじに率いられた100頭のライオンの群に勝つ」っていう一文に集約しているんです。マキャベリやナポレオンが好んだことわざです。結局、リーダーが頑張っていい仕事をして組織を引っ張るチームが最強だという意味です。
営業部隊というのは、営業マン個人が頑張ることも大事ですが、実は営業リーダーこそがすべての鍵を握っています。ですから僕はリーダー育成、管理職養成に力を入れる。人を育てるのも目標を決めるのも、リーダーが意志決定しなくてはいけませんし、部下もリーダーを見てその会社へ入るか入らないかを決めます。リーダーの教え方次第で、育ったり育たなかったりもする。営業部長、課長がしっかりとリーダーシップを持って頑張るというのが、大事です。
さらには、リーダーとして高速に結果を出していくために、人材育成と同時に仕組み作りが大切です。誰がやっても何回でも再現可能な仕組みを作るということです。人づくりと同時に、個人の能力に依存しない販売技術作りの作業を、両方バランスよくやっていくのが大事だと、いつも言っていますね。
そして3つ目に、「勉強」の大事さを訴えています。マーケッターは勉強が好きですが、営業の人は勉強しない。意外と勉強をしていない職種、NO.1になると思います。でも営業が勉強をすると、すごく成績が伸びます。例えば商品知識を勉強したり、業界のことを学んだりするといいんです。口べたでも知識があるとお客さんに頼られるんですね。知識がないと、やっぱり使えないと思われてしまう。
電子書籍で情報処理スピードが格段にアップ
――工藤さんは電子書籍を利用されていますか?
工藤龍矢氏: 僕は電子書籍しか読みません。スキャンスナップと断裁機を持っていて、1600冊の蔵書を自炊で全部電子化して、iPadminiに全部入れています。買ったら即電子化です。GoodReaderで読むのですけれど、もう本と一緒ですよ。メモも書ける、しおりも入れられる。資料に使うためにテキストで欲しい時はOCRもして、ただ読むだけだったらOCRはしない。
――本を裁断、スキャンして電子化することについては反対意見も多いですが、工藤さんは抵抗などありませんでしたか?
工藤龍矢氏: 僕は賛成ですね。最初はもったいない感があったけど、本当に最初だけでした。あと本を切るのは縁起が悪いのじゃないかとか言われたこともありますが、僕は気にしなかったです。最初は切った本は輪ゴムで止めてとっておきましたが、今はバンバン捨てています。
――電子化することの利点にはどういったところがありますか?
工藤龍矢氏: 情報収集に便利ということです。僕の好きな本の読み方は、ある分野を決めて、50冊ぐらい一気に買って全部読むっていう方法です。ドカンと読んで、共通項を見いだして処理していく。自分の本を書く時にも役に立っています。僕は移動が多いですから、何冊も持ち歩くと重いですからね。
「ビジネス」と「健康」を車の両輪に
――最後に、本の構想を含め、今後の展望をお聞かせください。
工藤龍矢氏: 今後日本社会では、独立心とか自立心が大事になってくると思います。サラリーマンであれ、起業するのであれ、フリーランスで行くのであれ、キチッと自分が自分であって、人に頼らないで立ち上がって行く姿勢が大事な気がします。個と組織の絶妙なバランスの時代になると思います。最初に僕の受講生の半分が個人になってきているという話をしましたが、普通、企業の講座だから、企業から派遣されて、企業の費用で来るじゃないですか。それが有給休暇を取って自費で来ている。非常に前向きですよね。そういう人たちが、今後たくましく日本を支えていくのではないかなと思います。そんな世の中で僕にできることは、僕の頭の中にはほぼ全業種・業態の仕事の成功例・失敗例が蓄積していますから、経営、ビジネスで成功させるプロとして、それぞれの事業で売り上げを上げる方法を提供し続けていこうと思っています。それと同時に、今後の展望として、僕の営業ノウハウと、売れる仕組み作りと、ウェブマーケティングを駆使して、健康事業をやろうと思っています。経営者は、特に40歳くらいになってくると、金もうけと健康は両輪で、ニーズがすごくあるんですよ。だから3ヶ月で10kgやせるメソッドを研究して、自分で作りました。今後は経営者の健康とビジネスと、この両輪を提供していこうと思っていて、そろそろ健康の本を書こうと思っています。『健康父さん、不健康父さん』なんてタイトルはどうでしょうか(笑)。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 工藤龍矢 』