田中靖浩

Profile

1963年生まれ、三重県出身。早稲田大学商学部卒業。外資系コンサルティング会社などを経て独立。経営コンサルティングやセミナーから、書籍執筆、雑誌・新聞連載、テレビ・ラジオ出演、落語家・講談師などとのコラボイベントまで、幅広く活躍している。主な著書に『右脳でわかる! 会計力トレーニング』『経営がみえる会計』(ともに日本経済新聞出版社)『数字は見るな!』(日本実業出版社)、など多数あり、数点は海外でも出版されている。近著に『貯金ゼロでも幸せに生きる方法』(講談社)。

Book Information

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古典は、時空を超えて「人間」を問う


――読書はお好きですか?


田中靖浩氏: 本は好きですね。事務所にも家にも大量の本があって、それでも収まらないので、物置を借りて入れている状況です。何冊あるかもわかりません。昔、野口悠紀雄さんが『「超」整理法』という本を出しましたが、ベストセラーになった理由がよくわかる。本は分類ができないんです。ジャンルをすき間なく設定できない。書棚を増やしながら、どこに入れるべきか悩みながら延々整理がつかない。同じ本を2冊買ってしまうこともしょっちゅう。もうあきらめました(笑)。捨てたり、ブックオフに売ったりする時は、ダンボール箱10箱以上出ます。

――本はどちらで購入されていますか?


田中靖浩氏: 私は本屋で買うことが多いですが、昔から本には出会いを感じます。その時に買わないともう次の機会はない。ほかの本屋にもあるだろうと予想しても、後日大きい書店に行ってもないとか、その手のことが頻繁に起こる。男女の出会いと同じで、本棚と見つめ合って「買わなきゃ」という思いを大切にして買ってきたつもりです。だから、本屋のレイアウトは私にとって重要です。

――最近の書店の様相には変化を感じますか?


田中靖浩氏: 最近、本の寿命が短くなっている気がします。昔のいい本が置かれなくなって、本がどんどん新しくなってきている。ベストセラー系がすごく多くて、古典のスペースが少なくなっている気がします。特に東京の本屋が在庫の回転に神経を使っているんじゃないかとみえて、地方の大手書店で掘り出し物を見つけることが多い。地方の大きい書店で「こんな本があったのか」と見つけるケースが多くなっています。

――読書とは田中さんにとってどういう行為でしょうか?




田中靖浩氏: 自分の人生を振り返ってみて、いろんな可能性を考えて選択したつもりでも、実はすごく狭いところで生きている。本を読むのはそれを広げる行為だと思います。もう1つの人生、別の立場だったらどう考えられるのかという、自分自身のもう1つの人生をのぞかせてくれる行為です。しかも時空を超えられる。何百年も前の人たちの人生を自分に重ねることができる。その意味でやっぱり古典が好きです。何千年たっても人間は変わらないと思わせてくれるものが残るのであって、奇をてらって「今」を切り取っているものは絶対残らない。シェイクスピアも「人間とは何か」という、われわれと同じことで悩んでいて、そこに共感します。時々、本とか音楽で1000年先に残るものは何かあるかと考えます。たぶん、音楽はビートルズしか残らない。保存技術が発達した時代の音楽が、むしろ残らないという現象が起こるのではないでしょうか。

デジタル化社会にはらむ「本能の危機」


――電子書籍はお使いになっていますか?


田中靖浩氏: 私は本に書き込みをする人間なので、その点で電子書籍はだめです。パッと出してパッと書けないですから。本は自分のノートでもあるので、電子書籍で読むということ自体が難しい。あとは仕事柄、いろんな新聞のスクラップとか資料を保存するのですが、そういう資料をペーパーレスにするのがはやっている。これもやってみたけど全然だめでした。なぜかというと、スキャンしてデジタルで保存しておくと絶対見ない。アナログで持っておいて、時々メンテナンスして捨てながら1枚1枚見るところがいい。目的のものは数枚ですが、関係ないものも目に入る。そのムダがいいんですね。最近の傾向として、Amazonはもちろん、本屋さんでさえ自分の欲しい本は検索してストレートにたどり着こうとしますね。本屋で書店員に「この本を探しています」と言うと、レジで検索して、取ってきてくれますが、あれが私はいやです。その本がどの本棚に、どう並んでいるのかを知りたい。平積みなのか1冊なのか、どんな本の近くに置かれているかという陳列を見たい。だから「少々お待ちください」と店員さんに言われても、ドラクエみたいにうしろについて行く(笑)。自分の書く本もどんな本棚に置かれて、どんな人たちがどんな状態で手に取るかをイメージしたいです。著者としては、それを考えながら書きたいですね。パソコンに向かうだけだと、独りよがりになるのは目に見えていますから。

――電子書籍の利便性によって失われるものがあるということでしょうか?


田中靖浩氏: 電子書籍というのは書き手と読み手が直線で結ばれている感じがして、ついていけない感覚があります。必要なときに必要な情報を手にできる便利さの裏側に、大げさですが「本能の危険」を感じる。例えば方向感覚はオスが生きていく上で、外敵から身を守り必要な場所に行くために必要なものですが、カーナビによってその感覚が失われています。地図だけでハンドルを握っている時は、あらゆる感覚を総動員して、なんとなく「あっちだ」と直感的にとらえていると思うんですよ。頭の中のデータベースの中から自分の感覚で「こっちだ」と言っていると思う。カーナビに慣れてしまうと、方向感覚のないモテない男ができてきます(笑)。

著書一覧『 田中靖浩

この著者のタグ: 『大学教授』 『コンサルティング』 『考え方』 『こだわり』 『アナログ』 『研究』 『デジタル』 『会計士』 『情報』 『態度』 『タイトル』

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