本を読まなくては議論ができない
――大人になってからも読書から得るものは大きかったのですか?
保坂展人氏: 20代でジャーナリストになって、学校に絡んだ取材をしていたのですが、例えばコンピューター教育について取材に行くとか、学校建築について取材に行くとか、様々なテーマがあるんです。そういうときは、目途としてそのテーマの本を最低5冊くらい読んでから取材していました。5冊くらい読むと、色んなことが聞ける様になるんです。インタビューも、複数の本を読んでから会う様にしていて、その中で色々なことを学んでいきましたね。
――国会議員になってからは、さらに扱うテーマが広範になったのではないでしょうか。
保坂展人氏: 世の中というのはすごく複雑で、教育や子どもの問題については、ジャーナリストとして本を出したりテレビに出たりしていたので、それなりのことは言える立場になっていたと思います。しかし、国会では、例えば外交とか金融とか幅が広い。野村證券事件とか第一勧銀事件とか、総会屋が絡む経済犯罪の証人喚問の役割がいきなり回ってくるということもあるんです。私は特に法務委員会に長く属したんですけれども、民法、商法、刑法と、森羅万象を法で括る様な専門的な話が多いわけです。だから法改正の問題でも、何の法改正なのかを理解するまでが大変なんです。質問するためには、やっぱり本は読まざるを得なかった感じです。何も分からないで原稿を読み上げている人もいますが、自分で本を読んで勉強しないと、活気のある議論ができないですからね。
知的作業には「コンシェルジュ」が必要
――議会で多くの質問をしたことから「国会の質問王」でもあった保坂さんですが、短時間で複雑な問題について勉強するコツはありますか?
保坂展人氏: 今日頼まれて明日質問しなきゃいけないという場合もありますから、自分で10冊、20冊の本は読めなくて、せいぜい2、3冊になります。そういう時は、まず議員の中に金融でも外交でもそれぞれの専門家がいますから、ものの見方、考え方についてのイロハを教えてくれる話し相手になってもらうのです。それによってフォーカスを絞ってから、国会図書館で関連する本を出してもらう。私は日本で最高のシンクタンクは国立国会図書館だと思っています。「知のコンシェルジュ」みたいな方が沢山いらっしゃるんですね。コンピューターではなくて、分業で1つの課題に向けて調査する時は、それを操る立場の人間が必要なんです。児童虐待防止法や国家公務員倫理法を作るときも、国会の職員とか国立国会図書館の調査員の方にお願いをして、集めた情報を組み立てていくのは非常に面白かったですね。
――最初の問題設定と、調査のコーディネートの両方が適切に行われなくてはならないのですね。
保坂展人氏: 麻生政権の時に、いわゆる「かんぽの宿問題」がありましたよね。その問題を調べている時に面白かったのは、相当な知識を持って、教育を受けている専門家はたくさんいるんです。なのに、そういう人達がコロッとだまされる一言があったんです。それは、かんぽの宿は競争入札で価格が決まったので、マーケットメカニズムで決定した価格を安すぎると言ったってしょうがないという論調だったんですよ。ところが資料を色々見ていくと、まず入札の日が無かったんですね。入札日が決まっていない入札が、競争入札と言えるのかどうかっていうところから始まって、実際に調べていったら、最初に競争入札をかけたと言われている物件リストには、世田谷のレクセンターが入っていた。結構広いところで、私もプールなんかよく行っていて知っていたんですが、最後に売却したリストの中にはなかったんです。競争入札っていうのは、売りに出したものに対して、「せーの」で入札するものですよね。でも100で出して、入札の結果99で手を打っている。これは競争入札と言えるのかっていうのを疑問に思ったんです。それで当時の日本郵政の責任者、全国銀行協会の会長を2回やった西川善文氏に、「これは入札じゃないですね」って言ったら、「はい、まぁ入札に限りなく近いものです」と。この一言をとるために、2週間くらい掛けて会計や契約法規とかの専門家に意見を聞いてやったわけです。
著書一覧『 保坂展人 』