著書は自らの人体実験の結果
――本を書かれる時に大切にしていることはどういったことですか?
池田千恵氏: 自分が経験したことを書くということです。自分でわかってないことをわかったふりして教えたくないというのがあります。私が書いた本は全部、私の人体実験の成果です。私は自認しているのですが、仕事が本当にできなかった。「お前はミーティングにいても意味がないから掃除でもしていろ」と、ミーティングにすら出してもらえないくらい落ちこぼれだった。だから、できなかったことの悔しさからどうやって這い上がってきたかを本でぶちまけて、法則を作って積み上げて書くしかないと思っています。
もともとすごい人だったら自分が果たしたすごいことを書けばいい。私にはそれはできないですが、その代わりに「こうすればうまくいく」という方法を法則化、テンプレート化するのが得意です。人体実験の成果をテンプレートとして誰にでもできる形で見せることによって、それをまねしてもらって、くすぶっていた人生を楽しい人生に変えるお手伝いができたらいいなと思って書いています。
――自分が積み上げたノウハウなどは人に教えたくないとは思いませんか?
池田千恵氏: 私には、「スポンジの法則」と呼んでいるものがあります。自分のノウハウをさらけだせばさらけだすほどスカスカになりますが、その分もらうものも多くなる。どんどん発信してスカスカになって、また膨らみ、またスカスカになって膨らみ、ということを繰り返すと段々そのスポンジ自体が大きくなっていくという風に考えています。すべてを発信しているからこそ、例えば今日のように、私という存在を見つけてくださって取材をしていただくこともありますね。そこで色々な方向から質問されることで、さらに自分の考えを深められることができる。そう考えると、さらけだすことが別に怖くなくなりました。もしコピーされたとしても、自分の頭の中まではコピーされない。ものを書くことで、スポンジの法則が正しいかどうかを自分で人体実験しています。
出版のプロからの言葉で、作家として開眼
――ご自分のコンプレックス含めて伝えることにも怖さはなかったでしょうか?
池田千恵氏: 最初の本、『「朝4時起き」で、すべてがうまく回りだす!』を出すまでは怖かったです。書き始めたころは、「私は仕事ができて趣味も多彩なビジネスウーマンとしてこんなにリア充な生活を送っているの、どう?」みたいな、『外資系OL仕事術』的な話を書こうと思っていました(笑)。でも実際の私は全然リア充じゃなかったので(笑)すぐに行き詰まってしまって、書き進められなくなった。その時に尊敬する出版のプロに、「自分の出したくないところを隠して本が書けるほど出版の世界は甘くない」って言われたんです。
TwitterとかFacebookなんかのちょっとした文章でもやっぱり人柄って出ますよね。それを本1冊、10万字分書くことは、相当な量の「本音」が漏れるわけです。それはもう仕方がないことだし、逆にそれがあるから人間らしいんだな、と思いました。その方からはさらに「出版の世界は自分のダメなところを書くことで人を勇気づけることができる素晴らしい世界だ」とも言われました。それで私は「だったらダメなところも全部書いてやろう!」と、覚悟を決めて公開してしまいました。
――すべてを明らかにした結果、周りの反応はいかがでしたか?
池田千恵氏: あの本では、「IQが低い」って言われたトラウマで、思った様に発言できなくなったことや、大学時代も勉強が全然できなくて単位を落としたこと、就職活動がうまく行かなくて何十社も落ちてしまったこと、周りと比べて私はなんてダメダメなんだろうと落ち込んで摂食障害になったことなど、コンプレックスをすべて書きました。出版後、私から見たらすごく充実していて悩みなんてないんだろうと思っていた、大学のキラキラしていた同級生たちが、「実は私もつらかった」みたいなことを言ってきたときはびっくりしました。「ああ、こんな思いをしていたのは私だけじゃなかったんだ」と少し安心しました。読者の方からも「私に直接話しかけてくれているみたいです」と言われるのが一番嬉しいです。今となっては、コンプレックスがあって良かったなあ、と心から思います。
――『「朝4時起き」で、すべてがうまく回りだす!』は、様々な分野の方から多くの共感を呼ぶ本となりましたが、本作りのプロとの共同作業があってこそできあがったものですね。
池田千恵氏: 編集者さんは、いつも私の良いものを引き出してくれる、尊敬できる存在です。編集者さんが私の本の最初の読者として、プロの客観的視点と読者の視点の両方から私の意図をくみ取り、「そういうことを言いたいのであれば、こういう構成にした方がいい」という風なアドバイスをしてくださる。一流の人の仕事ぶりを間近で見ると、すごいな、と思います。私は編集者さんから、一流とはこういうことだ、と教えてもらっています。ですから今のところ、私は自分が書いたものを編集者さんの目を通さずに直接出すことは考えられません。やっぱりプロの目を通したクオリティーのものを出したいと思います。
著書一覧『 池田千恵 』