すべてを発信すれば、大切なものが得られる
池田千恵さんは、外資系戦略コンサルティング会社で数万枚のプレゼン資料を作成した経験を生かし、思考を整理し、まとめ、発信する方法を指南するコンサルタントとして活躍。また、効率的な時間管理のために朝4時に起きて活動を開始する「ヨジラー」としての提言が、多くのビジネスマンの共感を得ています。池田さんのキャリアや執筆にかける想い、また現在進めてらっしゃるという蔵書の電子化についてのお話などを伺いました。
電子化で広がる読書の可能性
――池田さんは蔵書のスキャンを始められたそうですね。
池田千恵氏: 私は色々な場所で仕事がしたいタイプなんです。打ち合わせの合間にカフェやジムの勉強スペースで仕事をする時も多く、必要な文献が家や事務所にしかないとストレスになります。今はクラウドなどの環境が整ってきているので、いつでもどこでも自分の書斎を持ち歩くために思い切って蔵書の電子化をしてみました。今は家にあるほとんどの本をスキャンしてiPadに入れています。
――紙の本をスキャンすることには心理的な抵抗はありませんでしたか?
池田千恵氏: 本の手触りやパラパラめくる感じがすごく好きだったので、それがなくなるところがちょっと寂しいのと、あとは著作権の問題は気になっていました。もちろんスキャンしたものを流通させることはないけれど、個人的にスキャンすることで、もしも誰かに訴えられたらどうしよう、嫌だなと思ってためらっていたところはありました。
――実際に使ってみて便利なところ、あるいは足りないところはありますか?
池田千恵氏: 特に物足りないということはないです。利点は検索ができるので文献を探し回る必要がなくなったこと。本棚の奥の方に入っていた5、6年前に読んだ本を、もう1回読み直す機会も新たに生まれました。時間が空いた時に、読みかけの本を読んでみようという感じで読めるのも便利です。それまではバッグに5冊くらい本を入れていたので、とても重たかったんです。電子書籍、もしくはスキャンなら数百冊入っていても軽いですから便利ですね。電子書籍になっていない本は、電子書籍になるまで待つか、もしくはスキャンして電子化という使い方になってきました。
ただ、自分もプロデュースしているということもありますが、「手帳は紙がいいな」と思います。手書きだと、筆跡や紙のシミ、汚れなどを見て書いた時の心情が思い出せる。デジタルだと思い出せないのではないかと思います。あとパソコンを開いて考えていると、いつのまにか、かわいい猫の動画とかを検索して1時間くらいたってしまう(笑)。アナログだと、余計なところに行く余地がないから、ほかの情報をシャットアウトできる。どちらかを否定するわけじゃなく、両方の良さを活用しながらやっています。
――電子化したことで、読書量は多くなりましたか?
池田千恵氏: 量自体は変わらないですけれど、変わったのは読み方です。私は普段から1日1冊読んでいます。紙の書籍だとバッグに入れていたものしか読めませんが、電子化すると何冊も同時に持ち歩けるので、1冊終わるまで待つのではなく、並行して複数の本を読むという読み方もできるようになりました。でも、まだ試行錯誤中なので「池田千恵流電子書籍読書術」ができた、という感じではないです。
――最近はどんな本を読まれていますか?
池田千恵氏: 最近興味があるのは歴史物や古事記などの古典です。今までは小中学校で一応習っただけで、日本の歴史に思いをはせることがほとんどありませんでしたが、グローバル化の中で徐々に日本人であることを意識するようになりました。震災の時、日本人はすごいと言われたというニュースもありましたよね。略奪が起こるようなところで礼儀正しく並んで、人のためを想って行動するという日本人の精神性はどこから来ているのだろうということに、純粋に興味が出てきたんです。
あとは、ビジネス書でも古いもの、ロングセラーを読むことが多くなりました。デール・カーネギーの『人を動かす』や、ジェームズ・アレンの『「原因」と「結果」の法則』など、長い間読み継がれている本をまとめて電子化してもう一度読んでいます。ビジネス書をたくさん読んで、私も書かせていただいたのですが、言っていることの本質は全部一緒ということがわかってきて、古くからずっと読まれ続けているものに辿り着きました。
くすぶっていた青春時代への「リベンジ」
――読書の体験も絡めまして、幼少時代からの経歴をお伺いできればと思います。池田さんは福島のご出身ですね。
池田千恵氏: はい。今も両親は福島に住んでいます。子どものころは、親からは特に勉強しろと言われたことはありませんでしたが、文字を読むのが好きでした。新学年になると教科書がもらえますが、国語の教科書を、もらってきてすぐに最初から最後まで読んでしまったり、学校の図書館で片っ端から伝記を借りて読みあさったりしていました。
実は少女漫画もすごく好きでした。幼稚園の時に『りぼん』を買い始めて、そこで字の読み方を覚えました。小学校に入った時に国語の時間に先生に朗読で指されて、私は漫画を読んでいたので割とスラスラと読むことができましたね。漫画は『りぼん』と『なかよし』、『マーガレット』、『キャロル』と色々ありましたが、全部読んでいました。
――現在は作家としても活躍されていますが、子どものころから文章を書くことはされていましたか?
池田千恵氏: 文章を書くことはなかったですが、漫画が好きだったので、休み時間に女の子の絵とか、イラストを描いて友達にあげたりしていました。今も昔取ったきねづかで、iPadでお絵描きしてFacebookに載せたりしています(笑)。
――利発で、同級生からも人気があるお子さんだったのですね。
池田千恵氏: いえ、そんなことはないです。本好きな地味な子だったと思います。中学校の時は、担任の先生に「IQが低い」と言われたことがショックで、長年ひきずっていました。私、成績は割と良かったのですが、先生が、周りの人たちにカツを入れるために私をネタにして、「お前ら、千恵はIQが低いのにこんなに成績が良いんだぞ。それに比べてお前らは何だ」と授業中に言い出したのです。先生は何気なく言ったから覚えていないと思いますけれど、それがトラウマになりました。それからは、自分が失敗すると何でもIQのせいにして、「どうせ私はIQが低いですよ!」とか言って、ずっとくすぶっていました。
――大学受験でも苦労されたそうですね。
池田千恵氏: 志望大学に2回落ちてしまって、2回目の時に滑り止めで受かった女子大に入りました。前期は普通に過ごしていましたが、どうしても合わないと感じたんです。夏休みに入った時に、このままなんとなく4年間過ごしてしまっていいのだろうか、このままで人生終わりたくない、と思って、9月に休学をして、勉強をし直しました。失敗したっていう悔しさ、くすぶり感があるまま過ごしていたので、それをどうにかして変えたいとも思いました。
――4時起きの習慣もそのころからだとお聞きしました。
池田千恵氏: 最初は5時半起きからスタートしましたが、確かに早起きを始めたのはこの時期です。それまで夜型で勉強していたけれども、9月から半年しか時間がないので、今までのやり方だと絶対に無理だと思って、心を入れ替えて早起きをして頑張りました。私は何か行動を起こす時も、最初はポジティブな原因ではなかった。「リベンジ人生」なんです。
自分の価値に気づくことで人は変わる
――リベンジという言葉がありましたが、自分にとってマイナスな要素を発奮材料にするにはどうすればよいのでしょうか?
池田千恵氏: 現在「私であるための企画力講座」、通称「iプラ」という、女性が目的意識を持って頭を整理することで自分のやりたいことを見つけるためのセミナーをしていますが、そこでは過去の経験を皆さんに図にしてもらっています。自分の人生を図にすることでニュートラルな気分で振り返り、誕生から現在までを横軸にして感情の浮き沈みを細かく書いてもらうと、感情が下がっている時って、誰かの言葉が原因であることが多い。親とか先生の言葉は特にそうです。
例えば親から「お前は橋の下から拾ってきた」と言われことが意外と心にチクリと残っていたり、学校の先生に「親の育て方が悪いからこうなった」と言われた傷などが行動を制限していたりする。そういうことを思い出してもらいながら、今動けない原因を探って、前に進んでもらいます。原因がわかったらそれをプラスに転換すればいいだけだと思います。
――実際にセミナーに参加された方の反応はいかがですか?
池田千恵氏: まだ初めて1年で、4か月コースで今4期がスタートしている段階ですけれど、もう既に希望の部署に異動が決まった方とか、異業種に転職が決まった方、やりたかったことができる様になったという好意的なご報告をいただいています。
このままじゃ嫌だとか、徹底的に生まれ変わりたいと思っている人が、自分を分析していくと、実は生まれ変わらなくてもいいんだということがわかるんです。例えば引っ込み思案で人に伝えることができないとか、リーダーなのに後輩にうまく注意することができないという悩みを持っていたとしても、それは裏返したら相手を傷つけてはいけないといった配慮ができる人であるということです。もともと持っていることに価値があるということに気づいて、前に進む勇気が生まれた瞬間、顔が変わって行動も変わります。それを見ているとうれしくて、私自身も彼女たちに育ててもらっていると感じています。
著書は自らの人体実験の結果
――本を書かれる時に大切にしていることはどういったことですか?
池田千恵氏: 自分が経験したことを書くということです。自分でわかってないことをわかったふりして教えたくないというのがあります。私が書いた本は全部、私の人体実験の成果です。私は自認しているのですが、仕事が本当にできなかった。「お前はミーティングにいても意味がないから掃除でもしていろ」と、ミーティングにすら出してもらえないくらい落ちこぼれだった。だから、できなかったことの悔しさからどうやって這い上がってきたかを本でぶちまけて、法則を作って積み上げて書くしかないと思っています。
もともとすごい人だったら自分が果たしたすごいことを書けばいい。私にはそれはできないですが、その代わりに「こうすればうまくいく」という方法を法則化、テンプレート化するのが得意です。人体実験の成果をテンプレートとして誰にでもできる形で見せることによって、それをまねしてもらって、くすぶっていた人生を楽しい人生に変えるお手伝いができたらいいなと思って書いています。
――自分が積み上げたノウハウなどは人に教えたくないとは思いませんか?
池田千恵氏: 私には、「スポンジの法則」と呼んでいるものがあります。自分のノウハウをさらけだせばさらけだすほどスカスカになりますが、その分もらうものも多くなる。どんどん発信してスカスカになって、また膨らみ、またスカスカになって膨らみ、ということを繰り返すと段々そのスポンジ自体が大きくなっていくという風に考えています。すべてを発信しているからこそ、例えば今日のように、私という存在を見つけてくださって取材をしていただくこともありますね。そこで色々な方向から質問されることで、さらに自分の考えを深められることができる。そう考えると、さらけだすことが別に怖くなくなりました。もしコピーされたとしても、自分の頭の中まではコピーされない。ものを書くことで、スポンジの法則が正しいかどうかを自分で人体実験しています。
出版のプロからの言葉で、作家として開眼
――ご自分のコンプレックス含めて伝えることにも怖さはなかったでしょうか?
池田千恵氏: 最初の本、『「朝4時起き」で、すべてがうまく回りだす!』を出すまでは怖かったです。書き始めたころは、「私は仕事ができて趣味も多彩なビジネスウーマンとしてこんなにリア充な生活を送っているの、どう?」みたいな、『外資系OL仕事術』的な話を書こうと思っていました(笑)。でも実際の私は全然リア充じゃなかったので(笑)すぐに行き詰まってしまって、書き進められなくなった。その時に尊敬する出版のプロに、「自分の出したくないところを隠して本が書けるほど出版の世界は甘くない」って言われたんです。
TwitterとかFacebookなんかのちょっとした文章でもやっぱり人柄って出ますよね。それを本1冊、10万字分書くことは、相当な量の「本音」が漏れるわけです。それはもう仕方がないことだし、逆にそれがあるから人間らしいんだな、と思いました。その方からはさらに「出版の世界は自分のダメなところを書くことで人を勇気づけることができる素晴らしい世界だ」とも言われました。それで私は「だったらダメなところも全部書いてやろう!」と、覚悟を決めて公開してしまいました。
――すべてを明らかにした結果、周りの反応はいかがでしたか?
池田千恵氏: あの本では、「IQが低い」って言われたトラウマで、思った様に発言できなくなったことや、大学時代も勉強が全然できなくて単位を落としたこと、就職活動がうまく行かなくて何十社も落ちてしまったこと、周りと比べて私はなんてダメダメなんだろうと落ち込んで摂食障害になったことなど、コンプレックスをすべて書きました。出版後、私から見たらすごく充実していて悩みなんてないんだろうと思っていた、大学のキラキラしていた同級生たちが、「実は私もつらかった」みたいなことを言ってきたときはびっくりしました。「ああ、こんな思いをしていたのは私だけじゃなかったんだ」と少し安心しました。読者の方からも「私に直接話しかけてくれているみたいです」と言われるのが一番嬉しいです。今となっては、コンプレックスがあって良かったなあ、と心から思います。
――『「朝4時起き」で、すべてがうまく回りだす!』は、様々な分野の方から多くの共感を呼ぶ本となりましたが、本作りのプロとの共同作業があってこそできあがったものですね。
池田千恵氏: 編集者さんは、いつも私の良いものを引き出してくれる、尊敬できる存在です。編集者さんが私の本の最初の読者として、プロの客観的視点と読者の視点の両方から私の意図をくみ取り、「そういうことを言いたいのであれば、こういう構成にした方がいい」という風なアドバイスをしてくださる。一流の人の仕事ぶりを間近で見ると、すごいな、と思います。私は編集者さんから、一流とはこういうことだ、と教えてもらっています。ですから今のところ、私は自分が書いたものを編集者さんの目を通さずに直接出すことは考えられません。やっぱりプロの目を通したクオリティーのものを出したいと思います。
大切なのは媒体よりもコンテンツ
――冒頭に電子化のお話がありましたが、池田さんの本が裁断・電子化されて読まれることについてはどう思われますか?
池田千恵氏: 最初は自分の本がスキャンされると思ったら、身を切られる様な辛さを感じました。でも自分の蔵書もお願いしている今となっては、もう全然抵抗はないです。もちろんコピーして再販されるのは著作権の侵害なので嫌ですけれど、買ってくださったものをいつでもどこでも愛用していただくためならありがたいことです。逆に私が最初にスキャンしたのは自分の座右の書のような大事な本です。OCR処理をすれば文字検索もできますから、何度も読む本はスキャンして電子化する方が便利です。大切なのは物じゃなくて中身、コンテンツだと思います。確かにサイン本とかをスキャンするのはちょっと抵抗があると思いますが、電子書籍は「コンテンツ」として大事にして、紙の書籍は「物」として大事にする、と使い分けることが重要なのではないでしょうか。
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
池田千恵氏: 私には「iプラ」、「プレプラ」、「朝時間」という3つの柱があります。「iプラ」は先ほど説明したように、自分のやりたいことや強みとかがわからない人たちに、思考整理などの手法を通じて道筋を伝えることです。「プレプラ」は、プレゼンプランニングの略ですけど、スティーブ・ジョブズみたいなプレゼンの達人になる前の段階で、自分の頭の整理とか準備の仕方、発信力のつけ方を私の経験を生かして伝えたいなと思っています。最後の「朝時間」は、「Before 9 プロジェクト」という早朝のセミナーを開催したり、手帳をプロデュースしたり、アプリを作ったりして、朝時間を有効活用するために何か役立てることがあったらと思っています。その3つの柱で今後もやっていこうと思っています。
それともう一つ、福島出身なので東北の人のお役に立ちたいというのがあります。「iプラ」を企業研修として使っていただくことが増えて、先日東北で研修させていただいたのですけども、人の性格にも土地柄があります。私もそうだったのですけど、東北の方は発信するのが控えめな方が多いんです。言っても無駄だとか、言い方がよくわからないからということで発信するのを我慢してしまう。本当はちゃんと考えているのに、うまく発信できていないのではないかという問題意識があります。もちろんこれは東北に限ったことではありませんが、発信するのをあきらめてしまっている人たちに、効果的な発信の仕方をお伝えするために、私の経験がお役に立てればいいな、と考えています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 池田千恵 』