中村航

Profile

1969年、岐阜県生まれ。芝浦工業大学工学部工業経営学科卒業。2002年に『リレキショ』(河出書房新社)で第39回文藝賞を受賞しデビュー。『夏休み』『ぐるぐるまわるすべり台』(文藝春秋)は芥川賞候補にもなり、後者では第26回野間文芸新人賞を受賞した。2005年発表の『100回泣くこと』はロングセラーとなり、映画化もされた。近著に『あなたがここにいて欲しい』『あのとき始まったことのすべて』(角川文庫)、『星に願いを、月に祈りを』(小学舘文庫)など。

Book Information

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幼少期は目立ちたがり屋の子供だった


―― 今日は中村さんの幼少期の読書体験とも絡めましていろいろお伺いできたらと思うのですが、岐阜のご出身でいらっしゃいますね。


中村航氏: 岐阜の大垣は水の都という触れ込みで、地下水が昔からよくわき出るところです。輪中っていう、堤防が街をぐるりと回っているような土地で、人々の心が牧歌的な場所な気がする。

―― 子供のころはどのようなお子さんだったのですか?


中村航氏: 子供のころは、常に抑えられない何かがわき出てましたね(笑)。それを抑えられないことがコンプレックスで「なんで自分は目立ちたがりなんだろう」と思っていました。その一方で、全然人前でしゃべれない、人付き合いが苦手という部分もありましたし、まあ、よくわからない。いろいろ持てあましてたんだろう、と思います。小説とか創作に似たことと言えば、学級新聞を書いたり、劇の脚本を書いたりしていました。お楽しみ会で何をやるかという話になると、グループに分かれて「手品やる人はこのチームに集まれ」とか、「歌う人はこのチーム」という風に決めるのですが、劇をしたらすごくウケたものだから、次のお楽しみ会からグループ分けをするのに「中村のところに行く!」とクラスの男子がほとんど僕の劇のチームに入っていたのを覚えています(笑)。

――小中高と進まれる中で、読書はされていたのでしょうか?


中村航氏: 子供のころ、児童小説みたいなものはよく読んでいました。図書館で週に1回、借りられる限度の4冊を借りて、大体その日のうちに読んでしまっていた記憶があります。

好きなことを同時並行するために、就職の道を選んだ


――大学は芝浦工業大学に入学されましたが、どんな大学生活でしたか?


中村航氏: 東大宮というところに住んでいて、共同生活でキャンプ場みたいでした。みんな自分の家に帰らない。ずっと泊まって、たまり場みたいになっている家がありました。ゲーム機がそこにしかなく、みんなその家で順番にドラクエを解いた(笑)。しかも2、3回解いた記憶があります。

――1つの節目でもある就職された時のことをお聞かせいただけますか?


中村航氏: その時も小説家になろうとは思っていませんでした。卒業する時は、「就職してバンド活動を並行してやっていこうか」などと悩み、結局は慌てて就職した覚えがあります。情報系か工程設計かで探していたのですが、例えばシステムハウスなどそういうところでは大きなシステムを作るから、自分が作るものがあんまりよく分からなくなるんじゃないかって気がして…。それよりもメーカーに入る方が自分で作ったものが見えると思い、光学メーカーに入りました。当時、印刷機器や、ミニラボと言って写真を焼く機械を作っていて、それが大体、一番多い機種で1日10台ぐらい作る。1日10台ということは一人でやったとしても10人で出荷できるぐらいのもので、それだと全体像を見渡すことができる。僕は工程設計をやっていたのですが、1から10までやれるというのは、ブラックボックス化していない感じで良かったです。

仕事に手を抜かない姿勢というのが、何より大事だと思う。



――何かをつくる上での中村さんの理念は何かありますか?


中村航氏: 小説に関しては、自分でもあきれるぐらい凝ります。文章がうまくないという自覚があって、ただ、下手なりのファイトの仕方というのがあって、下手だけどこれでいいやというのではなく、下手だからこういう風にしなきゃということを、繰り返していくと最終的にはすごいところまで行けると言いますか。
僕はアウトプットするのに時間がかかるので、小説を書くのもとても遅いのですが、その代わり24時間、365日営業みたいな感じに長時間考えて、書いています。でも遅いことによる利点もあります。少しずつしかアウトプットしないことによってラッキーに出会う確率が増える。ゆっくり書けば書くほど、ふと思い付いたことや、ほかからの刺激に出会う回数が単純に多くなりますよね。自分の弱点のようなものは、逆にそういう利点に変えています。

著書一覧『 中村航

この著者のタグ: 『装丁』 『書き方』 『小説』 『作品』 『感覚』 『ブックデザイン』

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