本の価値は人それぞれ。でもいい本は売れていると思う。
――読者がご自分の作品をiPadで読んだりすることに対して、どうお考えでしょうか?
池田暁子氏: お買い上げいただいた物に関しては、その方の持ち物ですから、どうすることもできません。ブックオフに売る人もいれば、ヤフオクに出す人もいます。最初から電子書籍化しないから海賊版が横行するのだと怒る方もおられます。ただ、無料で無制限にバラまいたりされると「タダで手に入る」とみんなが思うようになってしまうので困ります。
私は、電子書籍は持っていても読まないかもしれませんが、無理に手元に紙の形で持っておかなくても電子化すれば無限に置いておくことができるのは良い点だと思います。ただ、DTPの仕事をしていたせいか、電子データが消えるのが怖いんです。紙の本は火事でもなければ消えませんが、電子書籍だと一瞬にしてデータが飛んでしまうかもしれないという恐怖が染み込んでいるんです。
――例えば読者が本を捨てたり、古書店に売ることについては、どうお感じになりますか?
池田暁子氏: お金と時間を使わせたのですから、その方の意思であれば仕方がありません。ただ、紙の本なら1000部刷ったものは1000部以上ブックオフに回らないからまだ安心なのですが、電子書籍になると無限に増やせるので、この間も紀伊國屋書店の電子書籍のサイトで、不正ダウンロードによって2000万円以上の被害がありましたね。ほかにも、本を切らずにスキャンできる非破壊型のスキャナーが5万円ぐらいで買えるようになって、自炊が増えるなどと言われています。そういった意味では書き手としては電子化に警戒感があります。
ブックオフなどに本が回ると、著者への還元がなくなりますが、お客様にその視点を持っていただくのはやはり難しいかもしれません。著者に対して印税という形で還元がなされないことは問題だとは思いますが、よくできている本は売れているので、売れないのを人のせいにしてはいけないと思います。要らない物は、安かろうが電子だろうが要らないんです。売れればいいわけではありませんが、数字と本の良し悪しには関連があると私は思っています。でも、著者としては、「フリマで買いました」とメールをいただくのも嬉しいのです。
――読書は体験ですから、安い買い物だという認識がもっとあってもいいと思うのですが。
池田暁子氏: その点に関しては、巡り合いや相性だと思います。本好きの方は1000円、1500円で何十冊買って、その中に自分にとってすごくいい本が1冊でもあれば、それは2万円の価値があると思うこともあるかもしれません。たとえば、私の1000円の本を繰り返し読んで、部屋も片づけてくださった方にとっては1000円の値打ちはあったかもしれませんが、そうではない人にとって1000円の値打ちはなかったかもしれません。そうならないように気を付けてはいますが…。
「新型ウツ」は難しかった。
――最近、「新型ウツ」に取り組まれましたが、ご自分以外の人のことを書くのは、どのようなお気持ちでしたか?
池田暁子氏: 夫のことを書くにあたって葛藤はかなりありましたが、ウツの人もたくさんいらっしゃるでしょうから、何か参考になることがあればと思って、本人にも了解をとって書きました。
――今までのうつと新型ウツの違いはどのようなものなのですか?
池田暁子氏: 従来型のうつ病の人は朝、具合が悪かったり、食欲がなくなって痩せたりするらしいのですが、俗にいう新型ウツの人は、夕方から夜にかけて落ち込んだり、逆に食欲が出たりするようで、3か月ぐらいで8キロぐらい太ったら怪しいと書いてある本も多いです。夫はストレスを減らすために食べずにはいられなくて、気付いたら見たことない体型になったので、ダイエットをして元に戻しました。すごく沈み込んで何をする気も起きない、起き上がることもできないのが、従来型のうつ病だとすると、新型ウツは帯にもあるように、会社に行けなくても旅行はできたり、病気なのか性格なのか紛らわしいところがあるんです。調べれば調べるほど、諸説あって、専門書では「非定型うつ病」と呼ばれているようですが、専門家の意見もあまり定まっていない感じで、同じ先生でも、時期によって言うことが違ったりしたので、調べるのには本当に苦労しました。
――症状なのか性格なのか、人それぞれというか、ボーダーが難しいですね。
池田暁子氏: お医者様は病気をみてくれるわけですが、ウツになる前の状態を知らないわけです。ですから、生活背景を書いた方がいいと編集者にも言われたので、あくまでも「うちの場合」として書きました。私も巻き込まれておかしくなっていた部分もありましたが、そのことも含めて、自分は素材だと思って、いつものようにまな板に乗ったつもりで覚悟して書きました。ウツで苦労している人は本当に多いようですから、正直、きびしいご意見もありますが、参考になった、共感したというご意見も数多くあります。具体的ないちサンプルとして、ご参考にしていただければと思います。また、自分で読んでよかったと思う本は、参考書籍としてご紹介をさせていただいています。
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
池田暁子氏: 私は本を書くと、毎回全部を出し切ってしまいます。今後は、人から「面白い」と言われたり、私がすごく知りたいと思うこと、自分が書く意味があることが次の本になるかもしれません。ほかの方がやらないテーマなどにも取り組みたいと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 池田暁子 』