池田暁子

Profile

1969年生まれ、愛媛県出身。 神戸大学教育学部教育学科卒業、筑波大学芸術専門学群中退、セツ・モードセミナー修了。 1997年よりデザイナー、2003年よりフリー。イラストの他に、コミックエッセイを多く手掛ける。 『片づけられない女のためのこんどこそ!片づける技術』(文藝春秋)や『必要なものがスグに!とり出せる整理術!』(メディアファクトリー)など、整理整頓に関する著書で人気。 近著に『思ってたウツとちがう! 「新型ウツ」うちの夫の場合』(秋田書店)、『うっかり結婚生活 一緒に暮らす2人のルール 8』(メディアファクトリー)、『人生モグラたたき!』(文藝春秋)など。

Book Information

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人生はすべてつながっている。悪いことはできない。



『片づけられない女のためのこんどこそ!片づける技術』『必要なものがスグに! とり出せる整理術!』『貯められない女のためのこんどこそ!貯める技術』などを書いた池田暁子さん。物が散乱して床が見えない「汚部屋」を、床が見える状態にしたり、必要な物が取り出せるようにするプロセスを紹介したりして読者の絶大な共感を呼びました。最新刊の『思ってたウツとちがう! 「新型ウツ」うちの夫の場合』でも全力投球。現在の池田さんはいかにして出来上がったかを、お伺いしました。

いい本をつくるために、いい素材でいたい。


――池田さんといえば、『片づけられない女のためのこんどこそ!片づける技術』で「汚部屋」という言葉を広めた方でもあります。私もそうですが、片づけが苦手な人は大いに共感して、ファンになるのだと思います。ご自身ではどうお感じですか?


池田暁子氏: How To 本形式にしたのは半ばシャレで、怖い物見たさで見てもらえればいいかと思い書きました。住んでみればわかりますが、何がどこにあるか全然わからないので、とても不便です。はさみやホッチキスなど、5、6本あることはわかっているんですが、どこにあるかが全然わからないから、またコンビニなどで買うはめになる、といったように、お金が減ってモノが増えるという繰り返しだったんです。

――ご自分の体験談に関する読者の反応はどのような感じでしたか?


池田暁子氏: それほど片づけが苦手な人がいるとは思っていなかったので、受け入れられたのには本当に驚きました。3、4人で話していても同じ悩みを持つ人はいないかもしれませんが、本の形になってたくさんの方に読まれると、同じようなことを共有できる人が出てくるんです。だからやっぱり本は、素晴らしいと思います。例えば2007年に出た本を、昨日買って読んでくださる人もいるということを考えると、本は時も越えてしまうのです。連載している愛媛新聞にも書いていますが、スペースの都合で本を捨てざるを得ないのが辛いです。体験を買ったと思って、なるべく手放すようにはしていますが、仕事柄なかなか難しいです。

――片づけのシリーズを書くに至った経緯はどのようなものだったのでしょうか?


池田暁子氏: 苦手なことを克服するようなシリーズを書かせていただきまして、片づけや整理、貯金と時間の使い方など、私自身が体験するものが、How To本として思いのほか読まれました。『片づけられない女のためのこんどこそ!片づける技術』の編集の方も片づけが苦手だったので、企画を通してくださいました。部屋を実際に片づける経緯を書いて、そのまとめを付けて本にしました。これが役に立つような人はそうはいないだろうと思っていたのですが、意外にも好評で、びっくりしました。それを見てまた別の人が声を掛けくださって、『必要なものがスグに! とり出せる整理術!』ができました。前の本が「床が出るまで」だったのに対して、次では「要る物がすぐ取り出せるようになるまで」について書きました。



――その時も片づけが苦手な編集者と仕事なさったのですか?


池田暁子氏: いえ、この時は得意な人だったので、編集の方の個性が本に反映されていると思います。テーマが自分の体験だと、客観的に見てくれる編集者は絶対に必要な存在で、1冊1冊はその編集の方とでなければできなかったものだと思っています。自分がいいと思って書いたことでも削られたりして出来上がるので、編集者が調理師だとすると、自分という書き手は素材か食材のように感じます。どちらかが欠けてもできないけれど、いい本をつくるためには自分がいい素材でいなければいけないと思っています。

根暗キャラから無意識の行動派へ。


――幼い頃から絵を描かれていたのですか? 


池田暁子氏: 絵を描くことは好きでしたがマンガは描いたことがなくて、小学校の夏休みの宿題で絵本のようなものを1、2冊書いた程度です。創作にはあまり興味がなくて、目立ちたくないというのもあって、自分の思っていることを本に書くことに関しても、本当は怖いという気持ちがあります。でも、似顔絵は描いていた記憶があります。中学になると卒業文集にクラスの40人分の似顔絵を描いたり、吹奏楽部の先輩を送る文集に似顔絵を描いたりはしました。当時はマンガよりは絵の方が好きだった気がします。

――その後神戸大学に進まれますが、どういった理由からでしょうか?


池田暁子氏: 絵を勉強しておこうと思ったんですが、当時、松山には美術の予備校がなくて、美大に入るのも大変だし、普通の大学に進むことにしました。でも、就職活動をする段階になって、一般企業に勤めても、絵の道で活躍している人を見て、私はうらやましいと思い続けるだろうということに気がついたのです。でもそれでは絶対にダメだと思って、一度トライした上で諦めようと考えました。良くも悪くも正直なのだと、編集者にも言われます。

――昔から思った通りに行動される方なんですか?


池田暁子氏: 中学生ぐらいの時期には、「笑っていいとも」に根暗を競い合う人々がたくさん出ていたので、私も根暗キャラを2年ぐらい演じていたんです。でも結局つまらなくなって、楽しそうにしている子やクラスのカーストの上位の人たちを観察していたら、意外と思ったことを言っていることに気付いたので、その場で誰かの顔色を窺って調子を合わせるよりも、私も思ったことを言っていこう、と決めたんです。それから眼鏡をコンタクトレンズに変えたこともあって、中3か高1で、意外とこの世も捨てたもんじゃないと思うようになりました。

――その後筑波大学の芸術専門学群に入学されましたね。


池田暁子氏: 筑波に入って学内にある寮に住みながら、そこからセツ・モードセミナーというアートスクールにも通い始めたんです。でもよく考えたら、バス代が月に3万ぐらいかかっていることに気付いたので、寮を出て東京に住んでセツ・モードセミナーに通うことにしました。その頃に進学塾の講師の仕事も始めて、小中学生に文系科目を教える仕事を5年やりました。
塾講師の5年目に、塾で週4日働きながらバンタンキャリアスクール(現バンタンデザイン研究所)という学校の週2日のDTPのコースに通うようになりました。説明会で、「講師からアルバイトをもらう人もいる」と聞いたので、それが目当てでした。本で勉強して、一通りできるようになってから入学し、一番前に座って課題をこなしていたら、声が掛かって手伝いをするようになったので、目的を達成したと感じました。普通は、アルバイトをくれると言われても真に受けないのかもしれません。

――すいぶん戦略的に行動されているように見えますが、ご自分では意識しておられますか?


池田暁子氏: 無意識です。その後、秋に編プロに応募したら受かって、社長から「年明けに連絡します」と言われたので塾を辞めたのに、2月末になっても連絡がなく、直接会社に事情を聞きに行ったんです。そうしたら社長がいて、その場ですぐ採用になり働くようになりました。私は、運は異常にいいのです。バンタンに行ったのも、ちょうどページレイアウトがパソコンでできるようになったDTPシステムに移行する頃で、たまたま買った『ケイコとマナブ』でDTPのことを知って無料説明会に行ったら、「アルバイトをもらえる人もいます」と言われて通うことにしたわけですから、運がいいのだと私は思っています。

足を向けられなくて立って寝るほど恩人だらけ。


――かなりの行動派だと感じます。実際にフリーとして独立するまでの道はどのような感じでしたか?


池田暁子氏: 当時は、人も仕事もどんどん増えてきた頃でした。デザインを始めたのも、イラストレーター年鑑を見たら、経歴が元デザイナーという方がすごく多かったので、一度作っている人たちの仲間に入れてもらおうと思ったからなのです。それでMacの操作を覚えて、次第にデザインの仕事もやらせてもらうようになって、講談社の『マガジンZ』という雑誌のお手伝いをしたりしました。編プロに入って1年半ほど経った頃に、「私はイラストレーターになりたかったんだ」と思い出して、そこを辞めることにしたわけなのですが、忘年会の席で、表紙デザインを作っているデザイナーさんにその話をしたら、「手伝いに来てよ」と言われ、そのデザイン会社で働くことになりました。その方もアルバイトをくださった先生も、私の周りは、足を向けて寝られないどころか、立って寝なければいけないような恩人だらけなのです。本を買ってウェブプログラミングの勉強もしていたら、別の知り合いから電話で「ウェブはやらないの?」と聞かれて「今日からやっています」と答えたら、また「手伝って」と。それは大きい仕事で、せっせとコードを書いてプログラミングをしていました。当時は今のようにスタイルシートもなかったので大変でした。紙のデザイナーの人とウェブがわかる人との間で、「データが重い!」などと言って戦っていました。

――今の電子書籍の状況に似ています。そこからイラストレーターにはどうやってつながったのでしょうか?


池田暁子氏: ウェブの仕事とデザイン会社の仕事を1年ぐらいしていて、再びイラストレーターの道に進むために仕事を辞めたら、知り合いから声が掛かって『ガンダムエース』という雑誌の立ち上げを手伝ったり、別の雑誌をお手伝いしているうちに、イラストのお仕事をするようになりました。派遣にも登録して単発で出版社に仕事をしに行って3、4日徹夜したりして生活費を稼いだこともあります。そうこうするうちに知り合いの方から『ひともうけ イラストエッセイで読む宇宙一カンタンな株式投資入門』のお話をいただいて、即、OKしました。株の体験談をまとめた本で、私のデビュー作です。その本を見て、唯一連絡をくれた知り合い以外の業界の人が文春の方で、その後文春に企画を持ち込んで本を出すことになったのです。このように、この世は全部つながっているので、悪いことはできません。

私の仕事には紙の本が必要。


――小さい頃から本はお好きでしたか?


池田暁子氏: インドア派だったので本は大好きで、小学4年生ぐらいまでは、学校から帰ったら勉強するふりして、親に隠れて毎日1冊くらい読んでいました。

――印象に残っている本はなんですか?


池田暁子氏: 図書室で借りた『小さな魔法のほうき』という、ハリーポッターの元ネタとも言われているイギリスの小説です。一度絶版になっていたのですが、復刊ドットコムでまた復刊されて、購入して読み返すことができました。こんな古い物を持っているから部屋が散らかるわけなのですが、色々な人とその本を通じて体験を共有していることや、その本を覚えている人がいることに、つながりを感じて嬉しいです。

――最近はどのような本を読まれていますか?


池田暁子氏: 資料的な物を読んだり、最近のトピックを調べたりと、勉強のために読むことが増えた気がします。少し前ですと『ウェブ進化論』、最近だと『ワーク・シフト』なども読みました。本に関しては新しい物も読まなければいけないと思っています。

――電子書籍はご利用になりますか?


池田暁子氏: まだ使ったことがないんです。私は、本を何冊も並べておいて、書いている内容を比較し、併行して確認しながら読むことが多いので、電子書籍の端末では、できないような気がします。だから部屋が散らかるわけですが、本に関しては必要な物は取り出せる方だと思っています。電子書籍の場合は、頭の中にある程度入れられる人は大丈夫だと思うのですが、私は少し記憶が弱いらしく、どうやって探すのかがよくわからないのです。

――そういうところも、電子書籍を遠ざけている理由ですか?


池田暁子氏: 使い分けではないでしょうか。例えばちょっと疲れた時に好きな音楽を聴いてホッとしたいなら、その曲を聴けばいい。だからウォークマンには10代の頃に聞いていた大貫妙子の曲などが入っていて、ちょっと心がザワザワしている時に、それを聴いて過去に浸って自分を甘やかしたりします。好きな小説を読むのもそれと同じだと思いますが、本に関しては、私は、電子書籍をそういうノスタルジックな使い方をしてはいけないと思っています。

――ご自身の本の読み方と電子書籍がマッチしない感じなのでしょうか?


池田暁子氏: 世の中がどんどん変わっていきますから、考え方や知識を無理矢理でも新しくしていくために、古い考えを捨てなければいけないことも多いでしょう。 お気に入りを入れておいて好きな時に楽しむ分にはいいと思うんです。私の周囲にも、Kindleが大好きで青空文庫が読み放題とおっしゃる方もいて、それも素晴らしいことだと思うんですが、私個人としては、まだたくさん勉強しないといけないことがあるので、本に関してはそういう安心を求めるという、ノスタルジックな気持ちにはなれないんです。音楽はダウンロードしますが、電子書籍は使ったことがないのでよくわからないというのが正直なところで、とくに推進派ではありません。

本の価値は人それぞれ。でもいい本は売れていると思う。


――読者がご自分の作品をiPadで読んだりすることに対して、どうお考えでしょうか?


池田暁子氏: お買い上げいただいた物に関しては、その方の持ち物ですから、どうすることもできません。ブックオフに売る人もいれば、ヤフオクに出す人もいます。最初から電子書籍化しないから海賊版が横行するのだと怒る方もおられます。ただ、無料で無制限にバラまいたりされると「タダで手に入る」とみんなが思うようになってしまうので困ります。
私は、電子書籍は持っていても読まないかもしれませんが、無理に手元に紙の形で持っておかなくても電子化すれば無限に置いておくことができるのは良い点だと思います。ただ、DTPの仕事をしていたせいか、電子データが消えるのが怖いんです。紙の本は火事でもなければ消えませんが、電子書籍だと一瞬にしてデータが飛んでしまうかもしれないという恐怖が染み込んでいるんです。

――例えば読者が本を捨てたり、古書店に売ることについては、どうお感じになりますか?


池田暁子氏: お金と時間を使わせたのですから、その方の意思であれば仕方がありません。ただ、紙の本なら1000部刷ったものは1000部以上ブックオフに回らないからまだ安心なのですが、電子書籍になると無限に増やせるので、この間も紀伊國屋書店の電子書籍のサイトで、不正ダウンロードによって2000万円以上の被害がありましたね。ほかにも、本を切らずにスキャンできる非破壊型のスキャナーが5万円ぐらいで買えるようになって、自炊が増えるなどと言われています。そういった意味では書き手としては電子化に警戒感があります。
ブックオフなどに本が回ると、著者への還元がなくなりますが、お客様にその視点を持っていただくのはやはり難しいかもしれません。著者に対して印税という形で還元がなされないことは問題だとは思いますが、よくできている本は売れているので、売れないのを人のせいにしてはいけないと思います。要らない物は、安かろうが電子だろうが要らないんです。売れればいいわけではありませんが、数字と本の良し悪しには関連があると私は思っています。でも、著者としては、「フリマで買いました」とメールをいただくのも嬉しいのです。

――読書は体験ですから、安い買い物だという認識がもっとあってもいいと思うのですが。


池田暁子氏: その点に関しては、巡り合いや相性だと思います。本好きの方は1000円、1500円で何十冊買って、その中に自分にとってすごくいい本が1冊でもあれば、それは2万円の価値があると思うこともあるかもしれません。たとえば、私の1000円の本を繰り返し読んで、部屋も片づけてくださった方にとっては1000円の値打ちはあったかもしれませんが、そうではない人にとって1000円の値打ちはなかったかもしれません。そうならないように気を付けてはいますが…。

「新型ウツ」は難しかった。


――最近、「新型ウツ」に取り組まれましたが、ご自分以外の人のことを書くのは、どのようなお気持ちでしたか?


池田暁子氏: 夫のことを書くにあたって葛藤はかなりありましたが、ウツの人もたくさんいらっしゃるでしょうから、何か参考になることがあればと思って、本人にも了解をとって書きました。

――今までのうつと新型ウツの違いはどのようなものなのですか?


池田暁子氏: 従来型のうつ病の人は朝、具合が悪かったり、食欲がなくなって痩せたりするらしいのですが、俗にいう新型ウツの人は、夕方から夜にかけて落ち込んだり、逆に食欲が出たりするようで、3か月ぐらいで8キロぐらい太ったら怪しいと書いてある本も多いです。夫はストレスを減らすために食べずにはいられなくて、気付いたら見たことない体型になったので、ダイエットをして元に戻しました。すごく沈み込んで何をする気も起きない、起き上がることもできないのが、従来型のうつ病だとすると、新型ウツは帯にもあるように、会社に行けなくても旅行はできたり、病気なのか性格なのか紛らわしいところがあるんです。調べれば調べるほど、諸説あって、専門書では「非定型うつ病」と呼ばれているようですが、専門家の意見もあまり定まっていない感じで、同じ先生でも、時期によって言うことが違ったりしたので、調べるのには本当に苦労しました。

――症状なのか性格なのか、人それぞれというか、ボーダーが難しいですね。


池田暁子氏: お医者様は病気をみてくれるわけですが、ウツになる前の状態を知らないわけです。ですから、生活背景を書いた方がいいと編集者にも言われたので、あくまでも「うちの場合」として書きました。私も巻き込まれておかしくなっていた部分もありましたが、そのことも含めて、自分は素材だと思って、いつものようにまな板に乗ったつもりで覚悟して書きました。ウツで苦労している人は本当に多いようですから、正直、きびしいご意見もありますが、参考になった、共感したというご意見も数多くあります。具体的ないちサンプルとして、ご参考にしていただければと思います。また、自分で読んでよかったと思う本は、参考書籍としてご紹介をさせていただいています。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。


池田暁子氏: 私は本を書くと、毎回全部を出し切ってしまいます。今後は、人から「面白い」と言われたり、私がすごく知りたいと思うこと、自分が書く意味があることが次の本になるかもしれません。ほかの方がやらないテーマなどにも取り組みたいと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 池田暁子

この著者のタグ: 『女性作家』 『働き方』 『紙』 『イラストレーター』 『片づけ』

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