自分の中にある「精神」を大事にする
藤井聡さんは、土木工学、都市社会工学、公共政策の研究者。防災・減災のためのインフラの改修等、今後必要となる公共事業についての分析を行い、安倍内閣の重要政策である「国土強靭化計画」の理論的支柱になっています。現在、内閣官房参与として政策立案に関わる藤井さんの思想、執筆や読書のスタイル、また電子書籍についてのお考えなどについてお伺いしました。
仕事は全て即興、オーダーメイドで
――早速ですが、内閣官房参与としてのお仕事の近況を伺えますか?
藤井聡氏: 就任して半年以上経ちますが、政府関係の仕事は本当に初めてだったので、なじむのに時間がかかりました。ようやくどういう風に仕事を進めていくか、少しずつ分かってきたかな、と思っています。行政の段取りを1から勉強して、まだ全然分かっていないところもありますが、少しはマシになってきたのかなと感じています。
――国土強靭化の考え方についてお聞かせください。
藤井聡氏: 国土強靭化は、首都直下型地震、南海トラフ地震が危惧されていますので、それに対して全省庁、民間企業がどういう風に対応していけばいいのか、というのを考えるものです。その日を想像して、足りないことを洗い出して、1つずつ対処していくという取り組みです。僕は、「防災・減災ニューディール」担当ですが、災害を防いで、少しでも被害を軽減することを、限られたリソースの中で考えていくということ。そして、ニューディールという名前が付いているのは、アベノミクスと関係するところではありますが、需要不足によるデフレ状況を脱却していく経済政策のやり方を考える、この両者をうまくミックスさせながら政治、行政の展開をしていきましょうということです。そこは今の日本ではとても大切なものなので、しっかり対応していかないといけないと思っています。
――大学での講義、講演、ご著書で様々な論を展開されていますね。
藤井聡氏: 僕の活動は、全部共通しています。しゃべる時、論文や本を書く時も、まず自分で言葉を作ろうとします。もちろん日本語のルールには従いますが、そのルールの中で何を言うかという言葉を常に自分の中から析出させます。ところが知識人の中にはそうではなくて、知識を引き出しに入れておいて、取り出してしゃべるといったように、どこかで読んだことを繰り返している方々も多い。僕にも引き出しはありますし、引用もしますが、それを語る時の文脈は全部セルフメイドです。既製品はマテリアルでは使うけれども、「基本的にオーダーメイド」ということだけを決めて、あとは即興です。本も、このインタビューもそうですし、講演会もたくさん頼まれますが、細部まで決めて行ったこと1回もありません。これは、子どもが作るブロックにも似ていて、ブロックでお城や船、あるいは飛行機を作ったりする時に、一応イメージはあるけど、作りながら途中で飛行機が船に変わるのと同じなのです。
「今」が伸長する創作活動の時間性
――執筆はどこでされるのですか?
藤井聡氏: 家や、移動中にしたりと、執筆スタイルは様々です。最近は土日や休暇、出張などがないとなかなか書けません。
――執筆は、どういった執筆のペースですか?
藤井聡氏: 時間があれば、だいたい4日間で本を1冊書けます。書く時は、作曲で言うと頭の中でなっている音楽を聴いて譜面に書く時に近いでしょうか。書く時が一番精神が活性化します。ただし、実際にはその書く内容そのものについては、何ヶ月も、何年もかけて考え続けたものです。ですから、本を書くという行為は、一気にそれをはき出す、という側面があります。創作というのは、少し不思議な体験だと思います。「今」という時間は、精神力が薄いと一瞬でしかないんですが、楽しい時は「今」が結構長いのです。創作活動をしている時は長くなるんです。今、この一瞬を伸ばしてものを作る。だから、例えば画家が絵を描いている時は、途中で休憩をしても、その絵に向き合えば再び「今」に戻るというように、ずっと「今」が続いているのだと思います。これはハイデガーの言っている「時間性」という概念で、それは精神の力によるものです。多分、それができる人とできない人とがいるのではないでしょうか。
――本を書かれる時は、編集者と内容について一緒に作りこまれるのでしょうか?
藤井聡氏: 完全に自分で全部を考えて書くこともありますし、人それぞれです。出版社の皆さんとは色々とお付き合いをしていますが、愛情のある出版社、編集の方には女性が多いような気がします。男性は割りとあっさりしていますが、女性はなんとか作者のいいところを引き出そうと努力してくださる感じがして、ありがたいです。引き出したものを一生懸命広げることは、すごく大事です。本は出版社と書き手との共同作業という部分があると思います。
著書一覧『 藤井聡 』