「違う部屋」をノックしてほしい
高橋三千綱氏: 編集者というのはだいたい2年毎に異動するといったように、人事異動が多いんです。そうすると、今までにしてた話が全部ご破算になってしまうのです。
――作家専属の編集者のような方はいないのでしょうか?
高橋三千綱氏: いません。売れてる人は別ですが、売れてる作家は2、30人くらいしかいませんし、村上春樹は別格ですが、たいていエンターテインメントの分野です。担当者が変わると、次からもう1回始まるか、あるいは途切れるか。全然違う人が出てきて、「編集長の方針でこういうものはうちでは扱わないことになりました」などということもあります。
――編集者と作家の関係性も変わったのでしょうか?
高橋三千綱氏: 変わりました。もう全てがメールになって、打ち合わせでも会うことが少ないです。昔は密に話して、今でもそういうことたまにありますが、お酒を飲む人たちもいなくなったので、昔とは何か違います。作家も飲まないし、自腹を切って旅館で執筆するという人もいなくなりました。
――作家に対して要望や意見を言う編集者も少なくなりましたか?
高橋三千綱氏: 「高橋さんがこういうもの書くんだったら是非読ませてもらいたい」とか、「今までと違う主人公で読みたい」「中年男と女子大生の恋愛ものを読みたい」などと、言ってくれたら考えるのですが、「なんでもいいから書いてくれ」というのは1番困ります。何かしらノックをしてくれたら、こういうドアがあったのかとか、こういう部屋があったのかなどと、自分も気付かないようなものが出てきます。そのきっかけが欲しいです。
創ることの面白さは、普通ではない
――今後の作品の展望をお聞かせください。
高橋三千綱氏: 長い間やってて、書き下ろしは1冊もないのですが、初めての書き下ろしを今やっていて、病気をテーマにしたユーモア小説です。病気はなんとなく辛気くさいものなので、ユーモアにしないとバカバカしくて書けないです。もう1つは連作で、できれば3、4ヶ月に1回、100枚書こうと思っています。『渡り鳥は星を頼りに夜を飛ぶ』というタイトルです。でも、内容的に渡り鳥は全く出てきません(笑)。
――最後に、高橋さんにとって「書く」とは、どういう行為でしょうか?
高橋三千綱氏: 自由への扉です。創作、創ることというのは受験勉強と全く違って、学校では絶対に学べないことです。学校の勉強は、ただ答えが出ているもの、先人がやったものを記憶するというだけです。創作は、先人がやったものはヒントにはしても、あくまで新しいものを作るので、何があるか、どんな世界が出てくるか分からないわけですから、すごく開放されます。ゲームの面白さとは全く違って、普通の面白さではない。今書いているものも、こういう文体で書けるのか、ということが分からないまま書いていますから、面白いです。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 高橋三千綱 』