内田治

Profile

静岡県生まれ。東京理科大学大学院修士課程修了。現在、東京情報大学総合情報学部環境情報学科准教授、東京農業大学兼任講師。品質管理およびアンケート調査におけるデータ解析の研究とパソコンを活用した統計解析を専門としている。著書に『ビジュアル品質管理の基本』(日本経済新聞出版社)、『すぐわかるEXCELによる統計解析』『すぐわかるEXCELによる回帰分析』『すぐわかるSPSSによるアンケートの調査・集計・解析』(以上、東京図書出版)、『SPSSによる回帰分析』(オーム社)などがあり、最新刊では『主成分分析の基本と活用』(日科技連出版社)が10月25日発売予定。

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本棚が埋まり、汚れていく楽しさが本の醍醐味



東京情報大学総合情報学部環境情報学科准教授であり、東京農業大学でも教鞭を執られている内田治さんは、品質管理及びアンケート調査におけるデータ解析の研究とパソコンを活用した統計解析を専門とする統計のスペシャリストです。『アンケート調査入門』『例解データマイニング入門』『ビジュアル品質管理の基本』『すぐわかるEXCELによる統計解析』など、入門書から専門書まで、数多く執筆されている内田さんに、統計のスペシャリストになるまでの物語や、電子書籍について思うこと、今後の展望などを伺いました。

ギブアンドテイクの関係を大切に


――普段のお仕事について、お聞かせ下さい。


内田治氏: 東京情報大学の環境情報学科と心理教育コースで教鞭を執っております。講義の内容は統計学、それからアンケート調査など、実験計画法なんていうのも教えています。また、共同研究という形で、企業とのお付き合いも多く、企業の方からデータをもらい、そのデータを学生に渡し、卒論で研究してもらっています。企業の方は要求レベルが非常に高いので、最終的には私が確認だけでなく解析をしなければいけなくなりますが、学生にとっては良い勉強になると思っています。

――企業と密接に関わっているから、最後は先生が手を加えるのですね。


内田治氏: 企業に提出するには実務で活用できるように、何か知恵を加えないといけません。卒論ですから無料でデータを頂いて結果を返します。お互いにメリットがあるんですが、「学生がやることだから、こんなもんだろう」というわけにはいかず、企業の方はそれなりのクオリティを要求してきます。大切なデータをただで渡す代わりに分析して下さいという、そんなギブアンドテイクをやっているんです。それ以外には、週に1回、東京情報大学の兄姉校にあたる東京農業大学で統計学と官能検査を教えています。食品の美味しさとかそういうものをデータ化する授業があり、そこで統計が必要になるのです。

放任主義だった父親の後ろ姿を見て育った


――元々は、東京理科大学の大学院の出身ですよね。


内田治氏: そうです。実家が水道屋を営んでいたので、一人っ子の私は実家を継ぐつもりでおり、大学の先生になろうなんて気は全くありませんでした。小学生の頃は勉強が大嫌いだったんですが、中学、高校、大学と進むにつれて、勉強するようになりました。

――教育熱心なご家庭だったんですか?


内田治氏: いえ、まったく熱心ではありませんでした。父親は早稲田大学の建築科を出ていて、当時からすれば、エリート中のエリートだったんです。それでいて「勉強しろ」なんてことは一度も言われたことがありませんでした。しかし、思い出す姿は父親の勉強している姿なので、自然に私も勉強するようになっていたのかもしれません。母親は悪い点を取ってくると「何これ」と言うタイプだったけれど、父親は「勉強なんて本人が自発的にやらなきゃ意味がないんだから、ほっとけ」なんていうタイプでした。そういう意味では、熱心ではないというか、放任主義でした。
東京理科大に入った時に、当時、助手をしていた若い先生と気があい、だいぶ感化されて、勉強するようになりました。そうこうするうちに、「どうせ実家を継ぐなら、もう2年くらい大学院へ行きたいな」なんていう話になり、大学院へ進みました。

次第に勉強が面白くなり、統計の道へ


――統計と出会ったのは、いつでしょうか?


内田治氏: 大学院の時に入ったのが品質管理(QC)を専門とするゼミでした。QCを習得するために統計学が必要となりました。
大学院となると、「分析しました」というだけの論文ではだめですから、統計の理論の方に力点を置いて、こういう新しい統計手法で分析しましたという必要があります。そんなところから統計に入りまして、その後、家業を継ぐという前提で、品質管理のコンサルタント会社に勤めたんです。どうせ実家を継ぐなら色々な会社を見られる方が良いだろうと思ってのことです。

――その後は、どのように統計との関係が深まったのでしょうか?


内田治氏: 色々な大学の先生と一緒に企業を回って、統計の腕を磨きました。その後、コンサルタント会社に6年間いました。その後、家業である建設業の調子が悪くなり、今継いだところで借金を払うために継ぐような状態になってしまうので、父親が私に継がせたくないと言い出しました。私も統計の勉強の方が面白くなっていたので、自分でやろうということで独立しました。その後12年ほど統計解析のコンサルタントをやりました。その後、ご縁のあった大学の先生から、「情報大で新しい学科を作るんだが、どうだ」ということで情報大にお世話になりました。

――研究者と社会人、両方を経験しているわけですね


内田治氏: 両方やっていたのが今では役に立っています。卒論も普通、企業と一体になってはなかなか出来ないのですが、わりとうちのゼミはすんなりできました。それが学生にとってよい勉強になっているのです。

昔からの縁が本を書くきっかけに


――学生の頃、読書はお好きでしたか?


内田治氏: 全く読みませんでした。読書感想文を書く宿題なんか大嫌いでした。しかし、『少年マガジン』、『少年サンデー』あたりの漫画はよく読みました。

――どういうきっかけで本を書こうと思ったのですか?


内田治氏: 立教大学の名誉教授で小林龍一という統計学の大先生がおられまして、当時で、もう30冊くらい本を書いておられたんです。その小林先生が、日本経済新聞社から本を書いてくれと依頼があったんですけど、「自分は十分有名になった、いまさら名誉はどうでも良いんだ、もちろんお金もどうでも良い。どうしても書いてくれって言うなら、共著として、誰か若手と一緒に書かせてくれ。もちろん、赤ペンは入れる」と。その若手に選ばれたのが、僕だったんです。たまたま父親と同じ歳なもんですから、前から可愛がってくれていたもので、そういうきっかけで書くことになりました。それがデビューです。

――その後、一人で書くようになったのですね


内田治氏: その本は共著ですので、もちろん小林先生が第一著者でした。その時の日経の担当者が原稿を見て、「結構書けるじゃん。今度1人でやってみたら」と言われました。それがきっかけです。その時の題材がLotus 1-2-3による統計っていうものだったんですが、それが、お蔭さまでそこそこ売れて、シリーズ的に4冊くらい出たかな。でも爆発的に売れたのは、Excelになってからなんです。
Lotus1-2-3の統計本を出したあとで、東京図書の方からExcelの統計本を書かないかとお誘いがあったのです。

――東京図書さんからのお声掛けがあったんですね


内田治氏: これは偶然の出会いからだったんです。東京理科大学時代の同級生と、たまたま秋葉原でばったり会いまして、僕はソフトを買いに行ったんですけど、彼はソフトを売り込みに来ていたんです。「久しぶりだから喫茶店に入ろう」と、話をすることになり、「何を売ってるんだ」と聞くと、「数学ソフトを売ってる」と。ソフトっていうのはやっぱり本がないと売れないんだそうで、「本を出したいんで丁度良いや、お前が書け」と言うわけです。「でも、出版社はどうするんだ」と聞くと、「話はついてる」と言うのです。それが東京図書さんだったんですよ。
その本は「Mathcadによる統計解析」という本で、これは残念ながら、あまり売れなかったのですが、そこで僕と東京図書さんとの繋がりができ、「Excelによる統計解析っていうのはどうだ」という話になり、その後はとんとん拍子で話が進みました。

電子書籍も紙の本もそれぞれに良さがある


――ソフトを使った統計の本は電子書籍との親和性が高いのではないかと感じます。


内田治氏: そうですね。確かに電子書籍に移行させやすいです。ただ簡単にコピーペーストは出来ないですよね。コピーペーストでExcelに貼り付けると動いてくれる、というなら申し分ないですね。そこは著作権の問題もありますので、難しいとは思います。電子書籍は問題集なんかには非常に良いんじゃないかと思うんですよね。もう一つ、電子書籍の可能性として魅力を感じるのは、専門分野の本だと1冊の本を読むのに5冊読まなきゃいけないようなところがある訳ですよ。この意味が分かんないからこっちの本を読み、それでわかれば良いんだけど、さらにわからなければ、また別の本で、という作業がありますよね。電子書籍だったら、その時にぱっぱっぱっと5冊抱えないですむ仕組みを作れるんじゃないかと思います。

――ご自身は電子書籍を利用されていますか?


内田治氏: はい、Amazonで、何冊か購入しました。私は本が汚くなり線が引いてあると、読んだっていう満足感が得られるタイプなので、電子書籍については反対派だったんです。しかし、ある本を書くのに絶版になっていた本のある箇所をどうしても参考にしたいという状況になりまして、それが電子書籍で簡単に手に入ったのです。しかも、すごく安かった。急いでいたので、早く読みたいと思い、買いました。電子書籍も結構良いなと思うきっかけになりました。もうひとつ電子書籍の良さを実感した経験があります。それは、読まなきゃいけないなと思っていた本が3冊あったのです。それを、大学と家の行き帰りの電車の中で読んでいたんですが、3冊持ち歩くと、専門書ですから、重いのです。なんとか、かばんを軽くしていたんです。それが電子書籍のおかげで、iPhoneやスマホの中に全部入っちゃってる。これでメリットをすごく感じたんですよね。

――逆に、本の良さはどういったところにあるのでしょうか?


内田治氏: 本っていうのは、本棚が埋まっていくっていう楽しさがありますよね。また、本が良い意味で汚れていくという楽しさもあります。これが味わえるということですね。

――日頃、どのような本を読まれますか?


内田治氏: 僕は枕元に本がないと寝られない。読みながら寝ちゃう。枕元で読む本は専ら、小説です。医者と患者のその生と死の葛藤のような、医学小説が好きです。

――「こんな機能があれば、もっと電子書籍が普及するんじゃないか」という部分はありますか?


内田治氏: 自分でマーカーを引ける機能があるといいですね。マーカーを引くと、それが自分の本だという所有感が生まれる。そこを味わいたいですよね。
また、例えば、文中で何か分からないことがみつかった時に、その読者からの質問が、さっとダイレクトに出版者に繋がるとまた良いかもしれないですね。

本の特性を考えた、ビジュアルとレイアウト


――本を書く上で、何か大切にしてらっしゃること、もしくは心がけていることはありますか?


内田治氏: 当たり前なんですが、出来るだけ分かりやすく書く事ですね。それと、講義しやすい本と、講義しにくい本って、あるんですよ。例えば「20ページを見なさい。つぎ、ちょっと17ページに戻りなさい」というのはとても講義しにくい訳です。ちょうど良い感じで第1章が終わっても第2章が変な所になるのも駄目です。そこはあえて余計なこと書いてでも埋めて、第2章が先頭へ来るようにするとか、そういう部分には気を遣います。「20ページの5行目まで終わりました。休憩にしましょう」っていうのと、「今ちょうど20ページで終わりました。休憩後21ページから行きましょう」とでは違うんですよ。20ページかっちり終わるとやっぱり休憩に入れるんですよ。

――講義のしやすさを考慮した、先生ならではの工夫ですね。


内田治氏: 実は他人の本の方が講義はしやすいんですよ。自分の本というのは、自分の中では精一杯の表現をしていますから、それ以上は何も言うことがないんですよ。だから、極論を言えば、「後は読んどいて」で終わってしまうんです。本には自分なりに知っていることは全てを書いているので。他人の本ですと、「ここがちょっと分かりにくいから、黒板で説明します」と、もっていけるんです。

たっぷり時間をかけて、本を作りたい


――理想とする編集者はどういった人でしょうか?


内田治氏: 私は編集者のかたには恵まれています。幸い、どこの出版社の方も色々と助けて下さっています。理想というよりも、要望という意味で申し上げます。それは、私が良いと思う、書きたいと思う本と、実際に売れるかどうかは別なんですよね。「そんなの売れるのか」なんていう思いで作ったものが意外と売れて、「この本を書いてみたいんだよ」って自分から売り込んで書かせてもらった本が売れなくてっていうのを味わってきていますので。やっぱり書き手側が書きたいっていうものを、売れる形にどう持っていくか、というのを遠慮せずに言ってくれる人が理想ですね。

――今後の展望お聞かせ下さい。


内田治氏: 4年くらい、たっぷりと時間をかけて1冊作ってみたいなと思っています。その本は、売れる、売れないは別として。ただ、出版社は売れないものには飛びついて来ないので、ある程度折り合いを考えて作りたいなと思っています。

――どんな本を書きたいと考えてらっしゃいますか?


内田治氏: それはやっぱり統計の本です。しかも類書のないもの。もうすぐ60冊目になるのですが、何冊書いたかなんてどうでもいいと思っていましたが、節目が良くなると数字が気になったりするので、早く60冊目を書き、そのあとはじっくり腰を据えた本を1冊書きたいなと思っています。もう1つは洋書を1冊くらいは書きたいなと思っています。海外の文献はタイトルの付け方がとても上手く、絶妙に中間的なタイトルを付けるんです。そういう部分では、海外の文献がとても参考になるので、そういうことも含めて1冊位は洋書を書きたいなと。英語は苦手ですけど、今は良い自動翻訳機もあるので、翻訳の専門家に添削してもらいながらやればできるでしょう。英語を日本語に訳した本はすでに1冊あるので、今度はこちらが発信した本を1冊作りたいなと思っています。特に品質管理なんて日本が本家ですから。統計は本家じゃないんですが、そういうことも、展望としてやっていければ良いと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 内田治

この著者のタグ: 『大学教授』 『教育』 『本棚』 『統計』

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