文章は短く、かつわかりやすく
――『会計学入門』にも今のお話にリンクする内容が書かれていました。門外漢である、私でも、会計についてすんなり読めたというのが驚きでした。
桜井久勝氏: それは、私が意図してやっていることなんです。どう説明したら一番手っ取り早く理解してもらえるのかと、考えているんです。
――執筆の時にはどのようなことを大事にされていますか?
桜井久勝氏: 書くものは、研究関連と教育関連のものがあります。研究関連では、要するに、とりあげる問題の重要性と、それに関して自分の論文が新しく提供しようとする知見がなんであるのかを、アピールするのが論文の目的です。
一方、教育関連では、ユーザーにとって、ベストなものを提供するということを重要視しています。本を読んで勉強しようという人は、やはりそれなりの意志を持っておられる方だから、それに応えなければならない。そのために一番重要な情報はなんなのか、ということをいつも考えています。本には根幹の論旨と枝葉末節がある。ページが限られているから、なんでもかんでも詰め込んで、豊富であればいいというものではない。過剰スペックになって売れなくなったものも、電気製品ではたくさんありますよね。そういう本にならないように心がけています。
――そういったことを考えられるようになったきっかけはありますか?
桜井久勝氏: 自分が学生時代に読んだ本の中には、色々と書いてあるんだけれど、この人が言いたいのはなんなのかということが、あまりクリアに見えてこない本が多かったのです。だから、人に読んでもらう本を自分が書く時には、「一番重要なエッセンスはなんなのか」ということを考え、それがわかるような書き方をする必要があると思っていました。特に私が意識しているのが、長いセンテンスはダメということです。だからどのように長い文章になっても、3行以内で「。」を書こうと心がけています。
――そこまで読者のことを考えられて書かれているのですね。
桜井久勝氏: 完ぺきには守られてないかもしれませんが、3行を越える文章はほとんどないはずです。文章の長さに関しては、意識的に数えてやっています。文章の書き方に関して言うと、同じ単語を繰り返し使うと文章が平板になってくると私は思っています。例えば、文末が「である。」「である。」「である。」というように3回続いてしまうと、読者に飽きられてしまう可能性があります。だから私は、文末を変えます。能動形で書いてあることを受動形に書き換えたりすると、読んでいる方にとっては躍動感が出てくるかもしれません。テクニカルターム、専門用語は絶対使わないとダメですが、それ以外のところは、近い部分で繰り返して同じ単語は意識的に使わない。例えば、「分析する」「検討する」「考察する」など、同一の言葉を、文章の中の近い部分で繰り返して使うと単調になってしまいます。私が守っているルールは、「3行以内におさえる」ということと、「近くで同じ単語は使わない」というこの2つです。
自分の教科書を作りたい
――本を執筆されるきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
桜井久勝氏: 授業で楽をしたいと考えたことがきっかけだったかもしれません。自分の教科書がない場合、他の人が作った教科書を使うことになるのですが、それは、実は私にとっては教えにくいのです。次第に、他人が書いた教科書を参考にしながら、自分で副教材を作って学生に配ろうという気になる。でも、毎回毎回それをするのは大変だから、1つ教材を作れば、微調整して何年か使えるのではないか、ということを思い始めました。そのようにして取りまとめた教材が、現在の教科書につながっています。研究書の方はまた別の目的がありますが、私の教科書執筆の出発点はさぼり精神だったのです。
――編集者の方とのやり取りはどのようにされているのですか?
桜井久勝氏: 幸いにして教科書の方は版を重ねることができています。教科書ですから、色々な先生にお使いいただいているんですが、その先生の意見を情報として編集の方がこっそりと教えてくださるのが、実は一番ありがたいですね。同業者ですから面と向かって、「あなたの本の、ここがわかりにくい」とはなかなか言いにくいと思います。その編集の方は、「名前は控えさせていただきますが、こういう意見を言っている人がいますよ」、という情報をたくさん寄せてくださるんです。そういった意見を聞いて反発する方もいらっしゃるかもしれませんが、それでは、絶対ダメだと私は思います。消費者の声ですから、ユーザー志向を徹底しようと思ったら、「いつでもウェルカム」という態度でないと、人は意見を言ってくれません。自分のできること、知っていることには限りがありますから、人の知恵を拝借して、少しでもランクアップしていきたいと願っています。
著書一覧『 桜井久勝 』