世界で渡り合うスキルを楽しく教える
――これからビジネスで英語を使わなければならないという方に、どのようにアドバイスされますか?
柴田真一氏: 英語のEメールの本がたくさん出ていますけれども、フレーズ集みたいなのが多い。それは基礎的には必要ですが、メールに限らず、対話力をどうやってつけていくかが重要です。私はよく、会議で「Why?」と聞かれることがあって、私だけに何度も言うから、いじめられていると思ったんです。会議が終わって、あるイギリス人に、「なんで僕だけ突っ込まれるんだろう、ちゃんと説明しているのに」と聞くと、「いや、説明が足りないよ」と言われました。日本人は、「これは言わなくてもわかってくれるだろう」ということは省略してしまう。分かりきったことを言うのは失礼だという気持ちが先立ってしまうんです。対話力は体験から生まれるスキルで、才能とは違います。誰でも身につけることができるし、しかも身につけるだけで全然効果が違ってきます。
あともう1つ、外国人同士が話している中で自分の意見を言おうと思った時、どこかで話を止めなければいけない。「バトンタッチの法則」と言っているんですが、陸上でバトンタッチする時、まだ走っている時に次の人が走り出すのと同じように、まだしゃべっているんだけど、そろそろ終わりだなと思ったら、重ねて自分の意見を言い出す。そうすると相手がフェードアウトしてくるんです。相手がきちっと終わるのを待っていると、いつまでも発言できません。
――柴田さんの本は、楽しく読めるように工夫されていると感じます。
柴田真一氏: 楽しむという姿勢を僕はヨーロッパで学びました。歯を食いしばってやることも大切なんですけれども、楽しいと思ってやらないと効果は半減してしまいます。僕の本は、時々軽すぎるかなとも思いますが(笑)、分かりやすくしようと思っています。難しいことを易しく伝えるのは、すごく難しいんです。私は、英語分野での池上彰さんを目指してやりたいなと思っています。
「縁」で始まった文筆家のキャリア
――執筆を始められたのはどういったことがきっかけだったのでしょうか?
柴田真一氏: 本当に縁で、2003年に金融英語のメールマガジンを始めたのが最初です。そのきっかけは、ロンドンから東京に出張していた時、東京駅の書店で見つけた、猪浦道夫さんの『語学で身を立てる』という本です。その本が面白くて、ロンドンに着いて著者のことをグーグルで調べたら、メールマガジンを出している語学の専門家で、もともとイタリア語がお得意で、英語、スウェーデン語からデンマーク語までメルマガを出している方だとわかりました。連絡先があったので、メールを送ったんです。そうしたら、猪浦さんが「今度ロンドンに行くのでお会いしますか?」とおっしゃって、1ヶ月後ぐらいにお会いし、意気投合しました。その時に「金融英語のメルマガを出してくれないか」と言われたんです。
――最初のご著書『金融英語入門』出版の経緯を教えてください。
柴田真一氏: メルマガを半年ぐらい出した頃、猪浦さんから「これをまとめれば本になる」と言われて、東洋経済新報社に話を持ちかけたら、「面白そうですね、ちょっと話を聞かせてください」と興味を持っていただけました。その後、担当者と正月明けぐらいに会ったら、3週間後ぐらいに「本になることが決まりました」と報告がありました。その時、メルマガの分量としては、本の半分くらいしか書けておらず、残り半分は5月までに書いてくれと言われたのですが、3月下旬ぐらいになって、東洋経済の違う方から、「じゃあ来週からよろしくお願いします」っていう連絡が来たんです。「来週からって何ですか?本は5月までに書けばいいんですよね」と聞いたら「まだ聞いていませんか?4月から『週刊東洋経済』で連載を書いていただくことになっています」と。「そんなこと言われたって、仕事もありますし、本も書かなければいけないし…」といったのですが、もう紙面も組まれていました。それが、「使える!金融英語」で、最新の金融情報を交えながら、ためになる英語のセンテンスを紹介するものです。金融経済の話題として面白くて、英語の学習材料としてもためにある題材を探さなくてはならず、結構大変でした。お盆と正月だけは2週間ぐらいお休みをもらいましたが、2年半連載しました。自分でもよく書いたなと思うんですけれど、いい文章の訓練になりました。
著書一覧『 柴田真一 』