藤井良広

Profile

1949年、兵庫県神戸市生まれ。1972年大阪市立大学経済学部卒業後、日本経済新聞社に入社。欧州総局ロンドン駐在記者、オックスフォード大客員研究員、経済部編集委員などを歴任。主に金融問題を担当。2006年、上智大学環境大学委員(地球環境学研究科)教授に就任、現在に至る。中央環境審議会臨時委員などを兼務。専門は環境金融論。CSR経営論、EU環境論。主な著書に『金融で解く地球環境』(岩波書店)、『金融NPO』(岩波新書)、など。最新刊に『環境金融論~持続可能な社会と経済のためのアプローチ~』(青土社)がある。

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記事が政策に反映された金融再生


――バブル崩壊後の金融界の大混乱を、どのようにご覧になっていましたか?


藤井良広氏: ジャーナリストにとってみると、97、8年の山一や長銀の問題など、書くニュースがいっぱいありました。あの頃は、自民党が小渕さんの時で、官房長官が野中広務さん、その前の官房長官は加藤紘一さんでした。その後、民主党では菅直人代表が、自由党では小沢一郎さんも動いていた。政治が不安定で、かつ金融が時限爆弾みたいな状況でした。役所もどうしていいかわからないような状況だったので、メディアがどう書くかというのが、かなり影響を与えたと思います。そういう機会を与えられて、ニュースだけじゃなく、「これが大事じゃないか」「こうすべきではないか」と、署名記事では主張をかなり強く出した記事を書きました。また、それを政治が受け止めてくれる環境でもありました。私は政治記者ではなかったけれど、新聞の署名記事を読んだ小渕さんから電話がかかってきたこともあります。加藤紘一さんや梶山静六さんとは時々お会いして、自民党の中枢がどう考えているのか、どこまでもっていこうとしてるのかを探り、批判する記事も、応援する記事も書きました。政策を厳しく批判して、役所や日銀に睨まれたこともありましたが、取材者としてはとても恵まれていたと思います。

――その時はどのような使命感を持って記事を書かれていましたか?


藤井良広氏: 金融を再生してほしいということです。すべての銀行を守るのではなく、選択と集中をすること。その頃20くらいあった大手都市銀行は、今は事実上3つのメガバンクになったわけですが、その過程でもメディアの役割はかなりあったと思います。しかし、不良債権問題を処理し、金融が再生して、じゃあ次に何があるのかというところが見えなかった。先にも言ったように、金融はお金を仲介するだけではなく、もっと経済社会に対して前向きなことができるはずです。環境問題も、環境税などだけで効果的な保全ができるのかということは疑問でした。環境のためとはいえ、特別に税を取って対策費用をねん出するのでは、相当な増税が必要となる。また環境以外に、税で支えなければならない分野も増えている。そう考えると、環境の費用も、資金量の豊富な金融市場のお金を回していく方が良いのではないかという考えをずっと持っていました。そして、それらを伝えるために環境金融や、CSRなどのような世界を記事に書いていきました。そのころ、今教えている上智大学の地球環境学研究科(環境大学院)が立ち上がる時に、知り合いの上智の先生から「金融と環境を学問的につなげないか」と声がかかりました。「簡単にはできないです」と最初はしり込みしましたが、日ごろの取材の手ごたえもあって、ひょっとしたらそういう世界を築けるかもしれないと思い、取り組んでみることにしました。本当に色々な偶然が重なったのです。

読者が理解できなくては本ではない


――記者時代から多くの本を書かれていますね。


藤井良広氏: 最初の本は、日経で出した91年の『欧州通貨統合』でした。あれは自分でも気に入っている本です。実はその前にも匿名で一冊、別の本を書いています。環境金融については、日経から大学に移る2006年に岩波で『金融で解く地球環境』を出しています。この時、編集者の人にタイトルを『環境金融論』でいきたいと提案したのですが、「そんな言葉は、誰も分からない」と断られました。そこで苦肉の策として「金融で解く」という言葉に代えました。今回『環境金融論』を出すことができて、7年でこの言葉が、政策とか、金融機関の人たちの間で、それなりになじんできたと感じています。



――書籍の執筆で特に意識されていることはありますか?


藤井良広氏: 人がやっていない分野を書きたいというのが1つあります。あるいは、ポピュラーな考え方があるけど、それはちょっと違うんじゃないの、というところを書きたい。それと、読者が分からなきゃ本じゃない、と私は思っています。経済書って、読んでも分かりづらいものが多いですよね。もちろん本人は分かっているのでしょうが、我々でも読んで分からないのが結構あります。専門家だけが分かればいいという本は、学問の世界ではあってもいいとは思うのですが、それでも、内容を社会に伝えないと書く努力をする価値が減じられると思います。大学に入ってわかったことですが、研究はプロなのだが、社会に伝える能力が十分じゃない先生が少なくないですね。もったいないと私は思います。ビジネスの人でも研究者でも、自分の考えをまとめ、それを読者が読んで、そこからその人なりの何か新しい発想が生まれて、社会の中でつながっていく。読み手側の理解が、批判も含めて書き手の自分に戻ってきて、逆に教えられたり、反省したりして、書き手をさらに発展させていく。そういうツールとして、本は著者にとって非常に大事です。

――「伝わるように書く」ことへのこだわりは、やはりジャーナリストとしての経験からでしょうか?


藤井良広氏: 新聞記事は、読んでもらうことを大前提に書きます。30年以上も新聞記者をやりましたから、その辺の先生よりは文章力はあるかもしれません。学生の論文指導でも、意外と他の先生方は文章を見ていないのかなと思うことがあります。審査の際、とんでもない修士論文に出くわすこともあります。私は、論文も分析内容がいくら良くても、文章が下手なら厳しく言います。ジャーナリストじゃなくても、本を書いたりしなくても、社会に出ると、ビジネスの報告書を書いたりすることもあるのですから、コミュニケーションの手段として文章を書くことが求められます。それはある程度スキルがいるので、最低限は教えたいと思ってやっています。

著書一覧『 藤井良広

この著者のタグ: 『ジャーナリスト』 『大学教授』 『原動力』 『教育』 『環境』

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