松谷明彦

Profile

1945年、疎開先の鳥取県で生まれる。東京大学経済学部経済学科、同学部経営学科卒業。大蔵省主計局調査課長、主計局主計官、大臣官房審議官等を歴任。1997年より現職。2004年東京大学より博士(工学)の学位取得。2010年国際都市研究学院を創設。専門はマクロ経済学、社会基盤学、財政学。著書に『人口減少社会の設計』(中央公論新社)、『「人口減少経済」の新しい公式』『2020年の日本人』『人口流動の地方再生学』(日本経済新聞出版社)、最新刊に『人口減少時代の大都市経済』(東洋経済新報社)がある。

Book Information

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偶然から、ライフワークを研究テーマに


――松谷さんといえば、人口減少問題についての研究で著名ですが、学問的な興味が湧いたきっかけはどういったことでしたか?


松谷明彦氏: 教授になって最初の2、3年は、経済学そのものにおける研究だったんですが、2000年前後から人口減少下の経済社会についての研究をするようになりました。ある日、電光掲示板か何かで「人口減少」という言葉を目にしたんです。まだ一般的な情報にはなっていない頃ですから、「え、人口って減るの?」と驚いて、人口が減ったら自分の専門の経済はどうなるのかなと考えるうち朝になり、その日は眠れませんでした。そこから人口減少問題に取り組み始めました。人口問題をもう15年近く研究していますが、最初は人口の減少と高齢化によって日本の経済社会はどうなるかという、いわばマクロ的な研究が中心でした。ですが、農水省の審議会の委員などをやる中で、地方がかなり疲弊していることが分かり、地方再生が重要な課題だと思うようになりました。そのうちに今度は、地方だけの問題ではないことが分かりました。地方はすでに高齢化が進んでしまった状態で、これ以上は極端に進行しない。けれど大都会は、今後急速に高齢化や人口減少が進み、今まで地方が歩んできたのと同じことを味わうことになります。問題は、地方よりもむしろ大都市にあるんじゃないかと思っています。都市の研究には都市経済や都市工学など色々な学問分野がありますが、私の場合にはあくまで人口減少、高齢化という視点からの都市の経済や社会の研究です。

――現在は、社会人に向けた都市開発についての教育に携わられていますね。


松谷明彦氏: これからは経済、社会の仕組みを大幅に変えていかなければいけません。変えていくためには人材を育成することが重要です。国立大学の中に、社会人学校としての国際都市研究学院というものを作り、これからの大都市の経済、社会の構造転換を担っていく人材を育成しています。毎週水曜日と、月1、2回土曜日に講義をしますので、働きながら学べる学校です。生徒は、日本を代表する都市開発に関連したゼネコンやデベロッパー、鉄道会社、商社、銀行、公的機関などから30名ぐらいが来ていただいてます。私としては、すでに都市開発を前線で担ってる方にこそ来てもらいたいのです。これからの都市開発に必要となる学識、見識について26科目作り、いずれも日本の第一人者の学者、実務家の方々に講義をお願いしています。もちろんビジネスマン相手ですから、絵空事ばかり言ってもしょうがない。ビジネスの色々なルールがある中で、国際都市研究学院で学んだことを少しでも理解して、活かしてもらえればと思っています。

学者にもクリエイティビティが求められる


――教育、とご自身の研究、執筆と、ご多忙と思いますが、どのように時間を割り振られていますか?


松谷明彦氏: 今は仕事の半分くらいは国際都市研究学院の方にかかりっきりです。あとの半分くらいで研究を続けて、大学で講義をし、全国に講演に行ったり寄稿をしたりしています。なかなか本を書く時間を取れず、2010年から本を書いていません。また書きたいと思っていますが、かなりまとまった自由な時間が必要なので、いつになるか。

――本を書かれる時のこだわりはありますか?


松谷明彦氏: 私は世の中にある色々な考え方をまとめ、それに自分の考え方を足して1冊の本にするというのは嫌いで、本を出す以上は、1から100まで全部自分のオリジナルのものにしたいんです。ですから、私が本の中に展開しているデータの分析や予測は、全部私のオリジナルで、人のものを一切使っていません。もちろん人が書いたものをベースに、自分の論理を組み立てていくというのも1つの執筆のスタイルで、人それぞれで構わないと思うんですが、私は研究対象を自分自身の目で見て、全てゼロから出発したいんです。もちろん人口や経済といったものは自分の目では見られませんから、統計データがベースになりますが、人が加工したデータは、その人の考え方が入りますので、加工されていない原データを使います。そうした第一次資料から自分が感じたこと、認識したことをだけ出発点にして、そこから自分だけの論理を組み上げていくような、クリエイティブな研究が私のこだわりです。そうした気持ちが強いので、私の本では引用文献がないんです。出版社から「先生、引用文献を教えてください」と言われるのですが、「ないです」となる(笑)。ある1つの仮説を作り、経済学、その他の学問的な手段を使って傍証していくのは楽しいですし、そうした自分のスタイルで生み出した研究成果や著作が人に評価されるのはうれしいことです。

――クリエイティブな研究だからこそ、新しい提言につながっているのですね。


松谷明彦氏: 発想の違いもあると思います。また多くの研究者は問題解決を急ぎすぎると思います。私は、今起こっている問題は、人口減少社会そのものの問題なのか、それとも今の経済や社会の仕組みが人口減少社会に合ってないから問題が生じているのか、という発想をします。例えば、今、年金制度に関しては収支が悪化しているので若い人の負担を上げて、高齢者の社会保障を縮小していかなければならないから、それをいかに摩擦なく進めていくかという視点で研究される方が多いです。しかし私は、今の社会福祉は、人口増加社会を前提に作られた制度で、現在の人口減少社会に合わなくなってきたことが問題だと考えます。問題は人口減少、高齢化自体にあるんじゃなくて、以前の制度を無理矢理当てはめようとしてるところにあるので、今の制度をいくらいじったってしょうがない。社会に合ったモデルを新しく作るべきだと考えるわけです。

著書一覧『 松谷明彦

この著者のタグ: 『大学教授』 『経済』 『考え方』 『研究』 『教育』 『クリエイティブ』 『メディア』

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