電子書籍はほとんど利用せず、本で揃える
――発信者として、読者が電子書籍として読むということに対して、何か特別な思いというのはございますか?
長沢伸也氏: 読んでいただければ結構です。東洋経済の『ルイ・ヴィトンの法則-最強のブランド戦略』『シャネルの戦略-究極のラグジュアリーブランドに見る技術経営』が電子書籍になって電子出版の印税が入ってくるから、その時に「読んでる人がいるな」って思う、そんな程度です。
――ご自身では、電子書籍を利用されていますか?
長沢伸也氏: 利用していません。それは理由が2つあります。全てが電子書籍になれば、電子書籍を利用するのですが、今は、電子書籍もあるし物理的な紙媒体もある。だったらまだ本で揃えておいた方が良い、それが理由の1つです。ネットショッピングもそうですが、買うものが決まってる時は便利だけれど、「これは良さそうだ」という勘を働かせるのはネットでは無理です。また、本屋で探すと、今売れてる本や新しい本がすぐ一目で分かる、これもネットでは分かりません。
――電子書籍のメリットはなんだと思いますか?
長沢伸也氏: 印刷、製本費がかからず、流通も直販だろうから安いのはメリットですよね。また、絶版の心配がないっていうのも良いなと思います。
ヨーロッパのラグジュアリーブランドを成功モデルに
――今後の展望をお聞かせ下さい。
長沢伸也氏: 出版を約束しておきながら塩漬けになっている不良債権を早くやらなきゃと思っています(笑)。あとは、日本からラグジュアリー研究を発信できれば良いなと考えています。日本にラグジュアリーブランドとよべるものがあるかというと難しく、強いて言うなら、宝石のミキモトと、虎屋です。どちらもパリに店舗があります。これがラグジュアリーと言えるかな、というくらいで、他にはないんですよね。だけど、もともとはルイ・ヴィトンも、パリの街角にある老舗だった。1978年でたった35年前だけど、その時点でルイ・ヴィトンの店っていうのはパリ本店とニース、その2店舗しかなかったんです。でも78年に突如その2店舗に加えて東京に4店舗、大阪に2店舗の計6店舗出して、グローバル化が始まったんです。だから、日本がルイ・ヴィトンを発見して、ルイ・ヴィトンが日本を発見した。そのあと、シャネルが続き、80年代バブルとかもあってヨーロッパのラグジュアリーブランドが日本を足掛かりにグローバル化したわけです。だから、ラグジュアリーブランドは世界を目指しました。歴史と伝統で言えば、日本だって200年、300年。虎屋はもう500年。負けないどころかむしろ上回ってる会社が多いんです。あと、こだわりのものづくりっていう点でも引けを取らないので、ラグジュアリーの要素がすごくいっぱいあるんです。だけど、日本の老舗はどちらかと言うと潰れかかっているところが多く、ヨーロッパの老舗はラグジュアリーブランドで世界に飛躍して伸びています。
――ヨーロッパの老舗と日本の老舗の違いはなんでしょうか?
長沢伸也氏: 日本の老舗では、時代の流れに取り残されて売り上げが落ちることもありますが、ルイ・ヴィトンだって世界に出ていかなかったとしたら、同じ状況になっている可能性があったわけです。だからこそ、日本発のラグジュアリーを作りたい。或いは日本発のラグジュアリーの理論。ラグジュアリー戦略じゃなくて老舗戦略と言っても良いんだけど、それを確立したいっていうのが学問上あるし、それに見合った本も出していきたいなとは思っています。
――日本のものづくりに関しては、どのように考えてらっしゃいますか?
長沢伸也氏: 大きく言うと日本のものづくりを救いたいっていうのがあるんです。というのは、日本で作ると高い、すると中国へ、それも沿岸部じゃなくて奥地へ移転する。しかし、中国でも人件費は上昇するし日中関係も微妙なので、そうするとベトナムだ、ミャンマーだ、後はスリランカ、バングラデシュ、そのあとはもう北アフリカ、マダガスカル島。そこまで行ってしまったら行くところがない。これ、時間稼ぎだよね。確かに圧倒的な低コストで行く手はあるんだけど、それは日本企業に向かないですよね。潰れかかった中小企業とか地場産業、伝統産業は、技術がすごいってみんな自慢しているし、確かにすごいと僕も思います。技術はすごいのに売れないっていうのは、技術の問題ではなく、売る方の話、ブランドの話ですよね。やっぱり日本でものづくりをやっていくためには、圧倒的な専門性か圧倒的に強いブランドで行くしかないんです。今はまだ日本にラグジュアリーブランドと呼べるものがないから、ヨーロッパのラグジュアリーブランドを参考にして、その成功モデルを日本の地場伝統産業のみならず、日本の製造業に持ってくれば、まだまだいけると思う。
――例えば、どういったことでしょうか?
長沢伸也氏: 去年インドへ行ったんだけど、インドは経済発展がすごくて女性も働くから、30種類のスパイスを5時間も煮込んでカレーを作る余裕はない。日本のレトルト・カレーは高いけど美味しいと結構評判なんですよ。僕が子どもの頃、インド人もびっくりってターバン巻いた人が出る宣伝があったんだけど、まさにそれが起こってるわけです。或いは、台湾へ8月に行ったんだけど、日式緑茶というドリンクがあります。要するに日本式。台湾の緑茶は砂糖が入っているので、砂糖が入っていない分、日式緑茶の方が安いと思うのですが、日式緑茶っていうだけで高いんです。しかも、日本のあの「伊右衛門」とか「生茶」の直輸入ものはもっと高いんです。こんなに日本製は価値があるのになんで日本で作ることから逃げて、できもしないコスト競争に入っていくのかなと思うんです。
――いますべきはコスト競争ではないということですね。
長沢伸也氏: そう。だから、価値づくりでいかないといけません。高くても売れて、熱烈なファンがいる。残念ながら日本にはその参考になるものはないので、ヨーロッパのラグジュアリーブランドを参考にすべきです。責任者を務める早稲田大学ビジネススクールのラグジュアリーブランディング系モジュールでは、それを教育・研究しています。基本的には、僕は日本のものづくりを救いたい。地場産業、伝統産業を救いたい。それにはラグジュアリー戦略、もしくは老舗戦略が必要なんです。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 長沢伸也 』