牧野洋

Profile

東京生まれ。1983年慶応義塾大学経済学部卒業、1988年米コロンビア大学ジャーナリズムスクール卒業(修士号)。日本経済新聞社でニューヨーク駐在や編集委員を歴任し2007年に独立。独立後は2013年春までカリフォルニアを拠点にメディア業界を取材し、講談社「現代ビジネス」などでコラム連載。帰国後は早稲田大学ジャーナリズムスクール非常勤講師。主な著書に『官報複合体』(講談社)、『米ハフィントン・ポストの衝撃』(アスキー新書)、『不思議の国のM&A』(日本経済新聞出版社)、『最強の投資家バフェット』(日経ビジネス人文庫)など。

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読者の視点を大事にする



牧野洋氏: 日本の新聞論調ですごく気に入らないのは、Amazonの価格設定を「法外」とか「おごっている」と表現している点です。日本の出版業界の意見を代弁して書くとそうなるのかもしれませんが、読者の声を反映させた記事にすれば、全然違う色合いになってくるはずです。iTunesが1曲、99セント。それにならってアメリカのAmazonは全て9ドル99セントでデジタル書籍を売るということをやっていたんです。ところが、Appleが実質的なカルテルを出版業界と結んで、高い価格設定にしたんです。それでAmazonも合わせざるをえなくなってしまいました。それに対してアメリカの新聞論調はどうだったかというと、「読者の視点で考えれば、Amazonが9ドル99で売っても、中間業者が搾取しないで読者に還元するということだから良かったのに」というものが結構ありました。本の業界の話を報道するにしても、日米では違うなと感じています。

――今の時代における出版社や編集者、もしくはメディアのあり方についてはどのようにお考えでしょうか?


牧野洋氏: 価格や流通よりも、本当に重要な部分は「本の編集」だと思うんです。そこにもっと費用を充てるような形にして、ライターにもっと取り分が行くようにするべきだと思います。そうやって「クオリティーの高いもの」を作る、そこに尽きると思います。米の自由化と同じで、クオリティの高いものを出せば、価格規制がなくてもやっていけるんだと私は思います。そういう意味で言うと、アメリカの編集者の方が、読者と二人三脚でやっているなという気がします。日本でも頑張っている優秀な編集者はいますので、一概には言えないかもしれませんが、私が知っている限り、アメリカの編集者は、何度でも何度でも書き直します。だから編集者は文章の達人でなくてはいけません。

日本全体が英語の文献を読めるようになること


――本を書くという行為は、ご自身にとってどのような行為ですか?


牧野洋氏: 書くことによって、自分の血肉となっていく、体の中にしみ込むと個人的には思っています。単に読むだけではなく書くことによって初めて頭の中の引き出しにしまわれて、必要な時に取り出せるといった形になると思います。

――今後の展望をお聞かせ下さい。


牧野洋氏: 早稲田で教えるようになったので、そこで自分で学んだことを次の世代に伝えていけたらいいなと思っています。あと、将来的にはノンフィクションを書きたいと思っています。それが私の目標です。あとは、子育てでしょうか(笑)。これからの日本を考えた場合、翻訳というものが非常に増えているという話を佐々木さん(ジャーナリスト:佐々木俊尚氏)が書いていますが、やっぱり翻訳されていない文献の量が桁違いに多いです。今アメリカ版のKindleを使い、もっぱらニューヨークタイムズとウォールストリートジャーナルを購読していていますが、競争にさらされているからか、日本の新聞と比べクオリティが高いと感じます。ノンフィクションの点数も圧倒的に多いし、秀逸な作品がたくさんあるのに、日本語へ翻訳されていないものもいっぱいある。これからの日本を考えると、国民全体が英語の文献も読めるようになっていくといいのではないかと思います。そうなると読者のメディア・リタラシーが高まり、これまであぐらをかいてきた日本のメディア業界にショックを与えるでしょう。

(聞き手:沖中幸太郎)

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この著者のタグ: 『ジャーナリスト』 『経済』 『海外』 『考え方』 『働き方』

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