長い歴史を経たことによって、弱点も判明している
――古典は、1000年単位で読み継がれている歴史あるものですが、古典の魅力とはどのような所にあるのでしょうか?
守屋淳氏: 企業研修でもよく話をしているのですが、中国の古典は実学と言われていまして、ある種で私の本は、文学や情緒的なものである以上に「現実にどう活かすのか」ということをテーマにしているんです。例えば、良い社会を作るにはどうしたらいいでしょうとか、生き抜いていくためにはどうしたらいいでしょうとか、その参考になる本として使われるんです。そういう意味では、古典にはアドバンテージがあるんです。古典の教えは、長い歴史を経たことによって、その弱点も判明しています。例えば『論語』とか『孫子』においても、「こういう状況で使うと失敗します」ということが判明しているんです。でも最新の理論というのは、現実の土壌に落とし込んだ時に、どういうマイナスが出るか分かってないから、とんでもないマイナスが出てしまう場合があります。このわかりやすい例が「成果主義」です。90年代に「アメリカで流行っている」と某コンピュータ会社の社長さんがとり入れたのですが、その結果大混乱を起こして、人事課の人が告発本を出すというとんでもない騒ぎに至ってしまったんです。日本で取り入れた場合のマイナス部分が分かっていなかったのです。古典というのは既にそういう部分が分かっているので、失敗を避けつつ使うことができるんです。
――電子書籍についてはどのようにお考えでしょうか?
守屋淳氏: 電子の強みは、アーカイブが無くならないことですよね。音楽や映像などのジャンルでも同じようなことが言えると思います。膨大に発信されてきた今までの良い歌や曲が、Youtubeなどで探して楽しめるようになっています。ただ最新の作り手は、過去とも戦わなきゃいけなくなるという意味では、すごく厳しい時代になるのだと思います。本の世界でも似たようなことが起こる気はするのですが、それでも音楽などとは少し性質が違うと私は思っています。
昔の文章はそのままだとかなり読みにくいんです。特に古典などは翻訳が必要になるけれど、翻訳文も古びていくんです。そうすると単純なアーカイブというよりは、その時代の人に読みやすい形に更新されていくことが必要になります。だからその意味では、まだ本の方が新しいものが出やすい気がします。
アメリカでバーチャルリアリティの父のような人がいて、その人が書いた本の中で、「音楽は2000年以降、全然新しいムーブメントが出ていない。デジタル化によってイノベーションというか、新しいものが爆発するに違いないと言われていたけれど、永遠のうたた寝に入ってしまった」というようなことを言っていましたが、本はそうなりにくい気がしますね。
ただ、刷新していかないと、どんどん古びる運命にあるのは間違いないです。今から3 、40年前の人の書いた文章は、ちょっと読みにくかったりするんです。刷新が容易だということで、電子書籍には可能性を感じています。あと、映像や音を付けたりできるので活字だけじゃなくてもいいわけですよね。だから活字と他の媒体とのコラボレーションが確実に起こるだろうという気はしています。技術革新もされていくので、ローテクだったものがどんどんハイテク化していって、非常に面白いものができるんじゃないかなと思っています。本はもうでき上がっている形なので、他のジャンルとのコラボレーションが非常にしにくい。でも電子だと色々なものを融通無碍に取り入れられるので、どんどん進化していって変貌を遂げると思います。それが盛り上がりに繋がると、楽しい方向に行くんじゃないのかなと感じています。
――執筆、それから数々のご活動も含めて、ご自身の役割とはどのようなことだと思われますか?
守屋淳氏: 渋沢栄一にしてもそうなんですが、古典というのは、幅広く言うと現代の我々が読んでヒントになる内容がすごく多いと思うんです。だから、生きる選択肢を増やす糧になるものを、私は提供しているのだろうなと思っています。「中国古典には、こういう話があります。それは皆さんの思ってもいなかった選択肢かもしれないけど、選んでみると楽しいかもしれませんよ」と。そういった「生きるための選択肢」を増やすお手伝いができればいいなと思っています。
難しいものを、面白く伝えたい
――今後の展望、意気込みをお聞かせ下さい。
守屋淳氏: 企業研修がすごく増えてきているのですが、いかにきちんと提供していくか、ということを考えています。それなりの地位の人を集めるので、「1日8時間でやってください」というスケジュールになって、そのうち6時間くらい私が喋るとか、とんでもない研修になってしまうんです。でも、精力を傾け過ぎたのか、歩いていて木にぶつかったことが2回あるんです(笑)。夏にTシャツを裏表を逆に着て外に出歩いていたことがあって、レジで会計する時まで気が付かなかったということもありました。本の内容を考えたりしている時もあるのですが、交通事故だけは気をつけたいと思います(笑)。この後は孫子の本や安田善次郎さんの本などを出す予定があるのですが、その後には勝負師の本を書きたいと思っているんです。
――どういった内容の本になる予定なのでしょうか?
守屋淳氏: 状況が混沌としていて誰しも判断が上手くいかないような時でも、不思議と上手く判断できるという人がいるんです。なぜそれができるのか。それに関しては孫子関連で戦略の本を書いたりもしていて、そういった視点や、中国古典的な視点からも色々と言えると思います。色々な角度からそれについてのヒントがくみ出せると考えていて、今、個人的に一番やりたいなと思っているのは、そこのところを深掘りして、面白い本を作ることです。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 守屋淳 』