太田龍樹

Profile

高校時代に見たフジテレビの深夜番組『ザ・ディベート』がきっかけで、明治大学法学部在学中に現在のNPO法人の原型となるディベートサークルを設立。ビジネスの現場で使える実践的なディベートの啓発と普及に努め、多数の企業・自治体研修や、専修大学・明治大学・大東文化大学などの教育機関で、セミナー・講演活動を実施。 著書に『すごい説得力』(三笠書房)、『話し方にもっと自信がつく100の法則』(中経出版)、『ディベートの基本が面白いほど身につく本』(中経出版)、『なぜ、あの人の「主張」だけ通るのか?』(フォレスト出版)など。

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きっかけはテレビ出演


――本を出版するというのは、どういったことがきっかけだったのでしょうか?


太田龍樹氏: 2005年4月に、ディベートの番組を作りたいというテレビ制作会社が取材に来ました。「ディベートとは何かを教えてもらえませんか?」と新宿の喫茶店でいきなり言われました。ディベートの啓発・普及に人一倍思いがあったので、1時間ぶっ通しで「ディベートとは?」を熱烈に講義しました。インタビュアーは「この人は面白い」と思ってくれたようで、2ヶ月後にその会社から連絡がありました。「番組をやりたいと思っている。ただ、プロデューサーなどもディベートがわからないので、シミュレーションという形でディベートをやってくれないか。太田さんがディベーターとして出てくれ」と。それでテレビ局に行ったんです。

――その時はどのようなお気持ちだったのでしょうか?


太田龍樹氏: シミュレーションだから、僕はその場限りの役割だと思っていたんです。あとは芸能人同士がディベートをしてくれるのだろうと。そしたらその夜にディレクターから電話がかかってきて「太田さんに、ぜひ番組に出てもらいたい」。当時K―1が流行っていたので「ディベート界のアンディ・フグとして出てくれ」と言われました。仮に出演したとしても、審判での出演ぐらいだと思っていたので驚きましたが、「わかりました、出演しましょう」と即答。そしてBSフジの番組で、伊集院光さんとディベートすることになったんです。

――番組でのディベートはどのような感じでしたか?


太田龍樹氏: 極度の緊張で噛みまくってしまい、全然映像として使えないような状態でした。今でもその収録の雰囲気が嫌で覚えています。「本当にチャンピオンかよ?」といった目でADさんが見ていたように感じました。それでも収録が終わった後、ディレクターに「頼んでくれたのに、本当にすみません。ただ、チャンスがあればリベンジさせてください」とお願いしてやった番組がその後、フジテレビで地上波放映されたのです。

――思うようなディベートができなかったことで、めげてしまいそうなところですが、そこで太田さんを後押ししたものは、なんだったんでしょうか?


太田龍樹氏: 「ここでやりきらないと、自分の思いが完遂できない」と。うんちく王というのが当時テレビで流行っていて、なぎら健壱さんや伊集院光さんがうんちく王と呼ばれていたので、僕が恰好の対戦相手だと制作会社はキャスティングしたのでしょう。その時なぎらさんと「昔の恋人の写真、捨てる?捨てない?」というテーマで戦いました。収録前の楽屋では、現在バーニングマインドの理事長でもある、受験現代文のカリスマ・出口汪先生がいらっしゃいました。出口先生は僕が浪人の頃から脚光を浴びた先生です。だから、出口先生にお会いし凄くうれしくて、先生も収録前なのに、楽屋に4回も行ってしまったんです。それで先生が僕のことを面白いと思ってくれたみたいで、出口先生のベストセラー『源氏物語が面白いほどわかる本』(中経出版)を、僕がいた楽屋の机上に「いつでも連絡をください」と書き込まれた名刺とともに置いていってくれたんです。

――太田さんのお気持ちが出口先生を動かしたのでしょうか。


太田龍樹氏: あの時は、驚きました。実は当時、勤務しているオフィスと出口先生のオフィスは、歩いて数分の距離だったんです。偶然にしては出来過ぎていると思いました。それで出口先生に電話をしたら「そんなに近いんだったら、今晩どうですか」といきなり食事に誘ってくださったんです。その時「ディベートの本を今後書けたら」と懸命に話したら、1週間後にフォレスト出版の編集者に出口先生は会わせてくれたんです。収録が10月6日だったのですが、11月にはもう出版が決まっていました。

――すごいスピードで話が進んでいったのですね。


太田龍樹氏: 『R25』が2005年10月14日の番組を記事で取り上げてくれて、それを見てPHP研究所が書籍オファーをしてくれました。それが2冊目の書籍です。その後『説得する技術』という1冊目の本に目をつけてくれたのが中経出版の編集者で、それが3冊目の『ディベートの基本が面白いほど身につく本』(中経出版)です。そこで、僕の初期3部作が終了します。その後「やっぱり論理だけじゃ、人は動かない」という信念のもと、「論理も大事、情熱も大事。でも、とどめは人間的魅力次第」といった総合的に網羅した本を書きたいなと思ったんです。それが新3部作のスタートである、4冊目『話し方にもっと自信がつく100の法則』(中経出版)。この本は電子書籍化もされ、海外では台湾で出版していて、中国でも発売が決まりました。

映像で見ることができることが重要


――電子書籍とご自身の活動の親和性についてはどのようにお考えでしょうか?


太田龍樹氏: 話し方、コミュニケーションの分野では、文字で書かれていることを映像で見ることができることが重要です。例えば、ボディランゲージやしぐさ、あるいはアイコンタクトなどに関して、字で読むのと、目で見るのとでは全然違います。コミュニケーションが重要になるディベートの本は、電子書籍との親和性、融和性が大きい。YouTubeやニコニコ動画などとの連携で、話し方やコミュニケーション関連の電子書籍はかなりの成長が見込めると思っています。間違いなく、紙だけでは伝えられないことがたくさんあるんです。『なぜ、あの人の「主張」だけ通るのか?』(フォレスト2545新書)では、本で書いた内容のテクニックを実際に動画でアップしています。

――これから日本人が世界に打って出ていくには、やはり日本人ならではのディベートの形が必要なのでしょうか?


太田龍樹氏: 僕が提案しているのは、日本型ディベートです。東京オリンピック招致に尽力された水野正人さんのスピーチはとても素晴らしかった。そういった日本人によるジャパニーズ型を作っていきたい。それは永遠のテーマです。日本型ディベートには『受けの美学』があると、僕は提唱しています。相手の主張をしっかり受けるから、主張できる。自らが発信、主張していくためには、まず相手が言わんとしていることを聞くことが大切です。「受ける」ということは、現状分析や情報収集をすること。日本がこれから世界にいろいろ発信していくのであれば、まずは私たち日本人自身、日本のことを多く知らなきゃいけない。たとえば、今まで足を踏み入れたことのない都市や町に行って、様々なことに触れて感じる。そうするだけでも感性への刺激があるものです。



ディベートによってコミュニケーションの質・量を深める


――今後の展望をお聞かせください。


太田龍樹氏: 日本型ディベートを多くの方に知ってもらうために、本・Blu-ray・DVDやYouTubeのような動画サイトなども上手く活用していきたい。おそらくわかりやすさの追求には果てがない。例えば以前、アイコンタクトが苦手な人がいて、目を合わさなくてはと思って、相手の両方の目に合わせようとしている人がいたんです。「相手の片目だけに合わせれば、あなたの目は疲れずにアイコンタクトに集中できるんじゃない?」とアドバイスしたら、そのたった一言で苦手を克服してしまいました。アイコンタクトという言葉1つとっても、奥が深い。そういうちょっとしたことで誰かの人生をよりよくしていくことを、ずっと追求していきたい。「日本が元気になるように」というのが僕の大きな幹で、そのために知的武装することは必ず大きな力になると思っています。
これからが脂の乗ってくる年代だと思っているので、もっと頑張って日本型ディベートを普及させていきます。ディベートを多くの人が身につけることで、議論の流れもより深く考察できるようになる。人間はコミュニケーションの生き物なので、ディベートすることで、コミュニケーションの質・量ともに深められると思っています。だから多くの日本人にそれを知ってもらうことが大事です。知ってもらって、やってもらう。そこを自分の使命にしていきます。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 太田龍樹

この著者のタグ: 『コミュニケーション』 『考え方』 『原動力』 『ディベート』 『教育』

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