編集者とは、原石を見つけて伸ばす触発者
――編集者も含めて、出版社の役割とはどういったことだとお考えですか?
宮川俊彦氏: 最近の編集者の多くは志がなく、サラリーマン的になってきていると感じます。三島由紀夫の面倒をずっと見ていたという編集者は、葬式まで出した。そういう編集者はいなくなったと思うし、作家と喧嘩しながらつくりあげていくという編集者もいなくなったと思います。僕も、そういう編集者に出会ったことがあるんです。僕のことを「とっちゃん」と呼ぶ人でした(笑)。今でも忘れられないのですが、ある連載の仕事で、何度書いても、「コレじゃダメだ」と言われて、その場で原稿を捨てられてしまうんです。十何回目に初めて、「しょうがないな」とOKをくれたんです。でも、「あの人な、とっちゃんが帰ってから、とっちゃんに対して手をあわせて、捨てた原稿用紙のシワをのばしていたんだよ」と別の編集者から聞いたんです。「いい原稿だと思ったんだけど、最初っからこれでいいって言ってしまうと、とっちゃんはきっと天狗になる」と。それを聞いて本当に泣けたよね。それが最初の本になったんです。
――編集者とはどういう存在でしょうか。
宮川俊彦氏: 編集者というのは、原石を見つけて、「こいつはこうやったら伸びる」というところを見つけて、伸ばしていく、そういう触発者です。編集者が原石を見つけられなければダメだと思います。
――電子書籍の可能性とは、どのようなところにあると思われますか?
宮川俊彦氏: 正直に言うと、僕は可能性を感じています。例えば、ボタンを押したら背景が見えてくるとか、あるイメージが作られていくとか、言葉の文化、言葉っていう表現の媒体だけじゃなくて、その周辺には色彩もあるし、イメージや空間性、あるいは立体性もある。そういうものをもっと活用した総合芸術的なものにおける言語性というものがあったら僕は面白いと思います。
――紙の本をそのまま写した状態では、面白くないということでしょうか。
宮川俊彦氏: 紙にするよりも電子のほうが、残すという意味ではプラスになるし、すぐ本にもなって、波及性も高い。まともにやったら次の日にはもう世に出るんだから、ありがたいことです。人力車が自動車になる以上のものだから。その時に、昔の活字媒体で赤ペンを持ってやっていた人間の意識のままじゃいけない。そういったタイプの人間がいてもいいけれど、まったく違うジャンルの人間もいて、新しい表現媒体というものとして電子図書の空間をどう活用するかということを考えられる設計図がないと、たぶんダメだと思います。
執筆のテーマは、日本人女性の意識
――かなり多面的に物事を捉えられていて、どんな立場にも寄らず公平な見方をされていると感じましたが、その思考というのはどういう経緯で得られたのでしょうか。
宮川俊彦氏: 素であり朴なのね。田舎者だからという意識。「寄ってげや、お茶飲めや」の世界の人間なんです(笑)。僕は、嫌いな人間はいないし、人に嫌われてもいいんです。好き嫌いは言ったことがないな。田舎では葬式にはみんな集まるし、結婚式もそう。農作物を作るのも手伝おうか?という感じだし、人の家に勝手に上がり込んで「皿を借りたぞ」といった世界で育ったからね。(笑)。修学旅行へ行くと、隣近所にもお土産を持って帰る。
都会に来てビックリしたのは、子どもから大人まで「僕はあの人が好き」とか「あの人は嫌い」と言っていたこと。「何言ってんだろう。」と、不思議でしょうがなかった。今でも不思議。好きでも嫌いでもつき合わなきゃいけないのが人間の社会だと思っています。「好きな物は好き、嫌いな物は嫌いって言いましょうね、それで行動しましょうね」という。「それが個性か、自分らしさか、近代的か」と疑問に思います。社会の中で求められる表現、社会化だね。それに対する権利と責任があるということを僕は知っているつもり。不偏不党は当然。徹底した屹立。本質的な孤絶。染まって染まらず。魂の独立性の保持。ある意味合せなくても生きて来られる場に居続けたからね。椅子取りゲームをしている人たちを窓辺でゆったりとした椅子で観察している立場。
――今後の活動についてお聞かせ下さい。
宮川俊彦氏: 留学生支援組織のトップもしているし、シンポジウムもやるし、海外の大使らを招いてのレクチャーと晩餐会もやる。北京にも行くし、ブルガリアにも海外の大学での講義もやる。必要と思って時合えば何でもすぐやる。しかし生きる時間も乏しくなってきているから、削ぎ落としていくことは一方で考えてる。
執筆のテーマとして、近々は「セブンティー・バーバ」。70歳代から80歳代における日本女性の問題を考えているんです。日本女性の意識の問題はやはり大テーマだと思う。これはじっくり正面から切り込みたいね。小作人の意識問題もある。
ライフワークとしてのいくつかのテーマも継続しているし、まだまだ何につけても道半ば。納得いくまでやるんでしょうね。
(聞き手:沖中幸太郎)
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