ろくでもない店員から、お客様を喜ばせる店員へ
――大学時代はどのように過ごされていましたか?
森下裕道氏: 大学時代は、普通よりはちょっと明るいぐらい(笑)でした。今ほど明るくはなかったかもしれませんが、まあ普通に明るかったと思いますし、楽しく過ごしました。
――その後就職されるわけですが、ナムコを選ばれた理由をお聞かせ下さい。
森下裕道氏: 理系だったのですが、勉強が得意ではなかったので、システムエンジニアになったり、工業系の会社で働いたりということはできないなぁと思っていました。その代わり、ゲームが大好きで、よくやっていましたので、当時から人気企業だったナムコへ行ってみることにしたんです。そうしたら、ゲームセンターで働くことになったのですが、当時の僕は接客なんか一度もしたことがありませんでした。
――大学時代、アルバイトなどのご経験はなかったのですか?
森下裕道氏: アルバイトは塾の講師をやっていて、接客というのはしたことがありませんでした。それに、昔から人目を気にしていたということもあって、接客は上手くできなかったんです。最初はろくでもない店員だったと思います。アルバイトさんに接客ができないところを見られたくないという思いから、事務所でゆっくり仕事をして時間を稼いでいたりと、今でも思い返すと申し訳無い気持ちになりますね。
――そこから、どのようにして今の道に至ったのでしょうか。
森下裕道氏: これじゃいけないと思って本屋に行って、接客の本を7,8冊買ったんです。それだけ読めば、知識の面ではできるようになるじゃないですか。そして、「これなら接客ができそうだ」と思ったのですが、実際にはなかなかできませんでした。ただ、ある日、UFOキャッチャーで、なかなか景品のぬいぐるみを取れなかったお客様がいたんです。あまりにもお金を使っていたので、ちょっと景品のぬいぐるみを取りやすいように動かしてあげたんです。そうしたらやっと取ることができて、「コレがすごく欲しかったんです」と、とても喜んでくれて。その後もよく来てくれて、そのお客様が常連客になっていったんです。その時に「ああ、こういうことなんだ」と思いました。「お客様を喜ばせたり楽しませたりしてあげれば、売り上げって簡単に上がるんだ」と気付いたんです。それからまた勉強して、店頭にもどんどん出るようになっていきました。
――まずは知識として本を読んで、そして実践していくということですね。
森下裕道氏: そうですね。実践しなかったらきっとダメでした。知識と体験が一致して、初めて自分のものになるんだと思います。
――まさに、森下さんの普段の講演にある、「楽しくて実践的」という思いですよね。
森下裕道氏: そうですね。みんな結局、職場の人間関係を良くすればいい、そのためには相手のことを分かってあげるっていうことが必要だと思うのですが、それも僕がずっと子どもの頃分かってもらえてなかったからこそ、分かってあげれば人って変われるんだなぁって、僕は凄くよく分かったんです。
――ご自身の経験、しかも必ずしも恵まれてできる経験ではない、どちらかと言うと色々な不遇な経験を肯定してきた、その経験が全て、講演や執筆などに生かされているんですね。
森下裕道氏: そうですね。人間関係でたくさん悩んで、自分がダメだった過去があるからこそ、少しは人の気持ちを分かってあげられたりだとか、分かろうと努力したりということが出来ているんだと思うんです。接客が上手になったのも、人の顔色ばっかり伺っていた頃があるからなんです。だからこそ、お客様が今喜んでいるのか喜んでいないのかが分かるのだと思います。
著書一覧『 森下裕道 』