森下裕道

Profile

中央大学卒業後、株式会社ナムコへ入社。異例の早さで新規事業店の店長に抜擢。独特な接客法で、月間売上1億円の達成や不振店舗を次々に立て直し、カリスマ店長と呼ばれるほどに。現在は接客、営業、人材育成、人間関係のコミュニーケーション問題の観点から講演活動、執筆、コンサルティングなどで幅広く活躍。 著書に『店長の教科書』(すばる舎)、『人生が駆け上がる話し方』(日東書院本社)、『一対一でも大勢でも、人前であがらずに話す技法』(大和書房)、『自分の居場所の作り方』(フォレスト出版)など多数。

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人間関係と立ち位置が、自分を変える



中央大学卒業後に入社した株式会社ナムコで、新規事業店の店長として数々の実績を上げてこられた森下さん。現在は株式会社スマイルモチベーションの代表取締役であり、接客、営業、店舗運営のコンサルタントとして、講演やセミナー、執筆、教育などを行っています。そんな森下さんに、「人は絶対に変われる」という信念を掲げられた経緯を含めて、今の道に至るまでの物語、執筆や電子書籍についてお聞きしました。

お客様を幸せにすることで、売り上げを伸ばす


――近況を交えて、現在のお仕事についてお聞かせ下さい。


森下裕道氏: 主に、接客や営業、店舗運営コンサルタントをしています。店長向けの書籍も出させていただいていますので、最近は店長に向けての講演や研修、教育なども多いです。あとは不採算店舗の建て直しもしています。大幅に赤字であるお店であったり、良いお店ではあるけれどその企業の予算に達成しないなど、そういったお店に実際に入って、時には一緒に制服も着たりしてやらせていただいています。

――アドバイスをするということではなく、実際にお店に入られる理由はなんでしょうか。


森下裕道氏: やっぱり言うだけでは「実際にできるのか?」と、僕に対する懐疑心を生むからです。また、不採算店舗というのは本部やエリアマネージャー等から、「数字を上げろ」、「経費を削れ」などとずっと言われ続けていて、心が特に疲弊していっているんです。そこで追い打ちをかけるように僕が同じようなことをやってしまったら、最初の段階でつまずいてしまいます。ですから、僕が最初に店頭に立って、明るく元気に挨拶をしたり、実際に接客でお客様をハッピーにしている姿を見せ、そうすれば「お客様は沢山お金を使ってくれるし、また来てくれる」というのを見せると、それが分かりやすいですよね。お店のスタッフも、「この人はちょっと違う」「向こう側ではなく、こっち側の人間」などと思ってくれ、ちょっとした仲間意識と言うか、ちょっとしたラポールが生まれるのです。また、実際に働いている姿を見せているので、言葉に説得力が出てくる。ですから僕は実際にお店に入るんです。

不採算店舗の立て直しには、良い人間関係が重要


――不採算店舗の立て直しというと、とても難しいことなのではないでしょうか?


森下裕道氏: そんなに難しいことではありません。それは何故かと言ったら、もちろん売り上げを上げるテクニックであったりだとか、お客様を呼ぶ仕掛けっていうのもやるんですけれど、本当に大切なことはそういうところじゃないんです。本当に大切なのは何かと言ったら、お店の中の人間関係を良くすることなんです。特に不採算店舗は人間関係が悪い店が多い。人間関係を良くすれば、自ずとやる気になってモチベーションが上がるので、例えば、今のレイアウトをこう変えたらいいよね、ポップをこういう風に変えたらわかりやすいよね、と自分たちで考えて、自分たちでこの店を良くしようという気になってくるんです。そうなれば、売り上げは自然と上がっていくのです。

――職場の人間関係を良くするには、どうしたら良いのでしょうか?


森下裕道氏: 簡単に言えば、分かってあげればいいだけなんです。話をちゃんと聞いたり、しっかり認めたり、信頼することです。でも実際に認めたり信頼している人って少ないじゃないですか?相手をコントロールしようと思って何かテクニックで褒めたり、「お前のことは認めてるよ」と言いながらも、実際にそれを本当に思っていないと、その言葉って響かないんです。じゃあどうすればいいのかというと、具体的には、親身になって話を聞いてあげたりだとか、リアクションをとって話を聞くということなんです。そうでないと、何を言っても、「話も聞いてくれないくせに」と、反発しか起きません。例えば、パートさんやアルバイトさんの話を、店長が聞いてあげる。その話に対して答えはいらなくて、ちゃんと聞いてあげるだけでいいんですよ。

――アドバイスなどはしないのですか?


森下裕道氏: アドバイスをしてもいいですが、よくありがちなのは、目上の人とかちょっとできる人というのは、何か聞かれたら答えがだいたい分かるから、すぐアドバイスをしてしまう。でも、相手が求めているのはそんなことではないんです。例えば最近、キタムラさんというパートが、笑顔が出てないとします。そうしたら、「笑顔を出して!」とか「普通、接客なのに笑顔を出さないとダメ!」と注意しますよね。でもそれだと、どんどん暗くなるし、反発しか生まれないんです。「どうしたんですか?ちょっと具合でも悪いんですか?」と、声を掛けてちゃんと話を聞いてあげる時間をとると、「実は、夫婦関係が上手くいってなくて」などと、悩みを打ち明けてくれるようになったりします。「それは、大変ですよねー」等とその気持ちをわかってあげ、それからアドバイスや、「僕らってお客様をハッピーにするのが仕事じゃないですか。だから今は色々大変でしょうけれども、お客様の前だけでは笑顔を出してくれるとうれしいです」と指摘する。話をちゃんと聞いてあげてから注意すると、分かってくれて、今の場合なら笑顔を出してくれるようになるんです。

――同じ目的のために言っているのに、全く結果が違ってきますね。


森下裕道氏: そこで、「そんな状況なのに笑顔をだしてくれてありがとう」と声を掛けると、よりがんばってくれるようになってくるんです。そうすると、今まで不採算でダメだったと言われていた店舗の店員さんなどが味方になってくれたりする。「実は、売り上げが悪くてエリアマネージャに怒られてるんだ」と言うと、さっきのキタムラさんが、「店長のために頑張ろう!」って味方になって、売り上げを上げるために色々頑張ってくれるようになるんです。それは何故かっていうと、店長が自分のことを分かってくれたからなんです。言い方を変えれば、その店舗の中に「自分の居場所」ができるからなんです。だから「頑張ろう」って思ってくれるんです。

全ては「立ち位置」


――他にも不採算店舗の立て直しで大切にしていることはありますか?


森下裕道氏: 大切なのは全て「立ち位置」だと思うんです。よく職場の人間関係で悩んだりしますよね。でも、本当は職場の人間関係のことで悩むのはおかしいんですよ。なぜかと言ったら、雇う側も、雇われる側も誰もが人間関係で悩みたいとは思っていないからです。じゃあなんで悩むのかと言うと、「当たり前のこと」が抜けているからなんです。挨拶をしなかったり、感謝の気持ちを言わなかったり、「雇っているんだから、やって当たり前」というような気持ちがあったり、褒めなかったり、そんな些細で当たり前のことなんです。だから本来人間関係は、悩まないのが当たり前。
僕が、なぜ不採算店舗を建て直しができるのかというと、それは僕の立ち位置が大きなポイントとなります。多くの人は「人間関係は大変だ」っていう視点から入ってくるじゃないですか。でも僕は「人間関係は悩まないのが当たり前」という立ち位置で入っていくから、おかしいところを普通の状態に戻すだけだから、直しやすいんです。

――そもそもの考え方、立ち位置が違うわけですね。


森下裕道氏: 僕は元々が暗かったし、ダメだったし、そういう自分を知っていますので、その暗かった僕がこれだけ明るくなったし、自信がなかった僕がこれだけ自信を持てるようになりましたから、その立ち位置で、できないって言われている人と接するからこそ、変わってくると思うんです。でも、本来できない人なんていないと思っています。



暗い自分を変えることができたのは、母のおかげ


――幼少期の頃は、どのようなお子さんだったのでしょうか。


森下裕道氏: 子どもの頃は非常に暗い子どもでした。何故かと言うと、あんまり友達がいなかったんです。親は離婚していて、母親に育てられたんですけれども、そうすると女手1つで働いていかなければいけないわけですから、帰ってくるのはいつも夜中近く。兄弟もいなかったので、家に帰っても1人きりで、話す人がいませんでした。
親とは小学校から一緒に暮らすようになったのですが、それまであちこち預けられていたということもあって、常に人に気を遣い、顔色をうかがっているような子どもでしたね。話す人もいなかったので、どんどん暗くなっていきました。

――親御さんとの仲はどういったものでしたか?


森下裕道氏: 小学校高学年ぐらいになると、親に対して反抗的になっていきました。それは何故かと言うと、ちょっとした約束を守ってもらえなかったからだったんです。それで自分は大切にされていないんだと思っていました。だから僕は子どもとの小さな約束は守ろうと、いつも努力しています。

――暗い自分を変えていこうと思ったことはありましたか?


森下裕道氏: 中学から、全寮制の学校に入りました。そこで1人でご飯を食べていて、友達がいない寂しい人だと思われるのが嫌で、「友達を作らなきゃいけないな」と切実に思いました。そのためには明るい人にならなきゃいけないと思い、友達同士が話してたら、笑顔でその輪に近づいていくよう努力してみるようになりました。最初は不審に思われましたが(笑)、意識的に明るく振る舞っていたら、本当にだんだん明るくなってきたんです。人は絶対に変われる、そう確信しているのですが、僕がそうだからこそ、変われると思っているんです。

――“現状を変えないといけない”と、自ら打破されたわけですが、なぜそれができたのでしょうか?


森下裕道氏: それはもう、「やむにやまれず」です。先程もちょっと言いましたが、教室で1人でご飯を食べるのが嫌で耐えられなかったんです。それは言うなれば環境。僕はその全寮制の学校に行きたくなかったけれど、親が行かせてくれたからだと思うんです。そうじゃなければ、中学高校でずっと引きこもりだったと思いますし、友達もできなかったと思います。
全寮制だと集団行動しなければいけないわけじゃないですか。朝昼晩1人で食べるのは耐えられません。誰かが何かコソコソ話していると、自分のことを言われている気になったりするんです。もうやっていられませんでした。

――そういった心情でも、目の前にある状況を肯定的に捉えられたのは、なぜでしょうか。


森下裕道氏: 今はそうですね。昔はイヤでした、「こんな牢獄みたいな学校に入れて…」と思っていました(笑)。今だからこそ、そういう風に気づけるんだと思うんです。本を読んだりだとか、誰かと出会ったりすると、色々な気づきがあると思うんです。僕はやむを得ずにそうなりましたが、だからこそ僕は、人は絶対に変われると思うし、変わりたいと思っている人に手伝いをしたいと思っています。

ろくでもない店員から、お客様を喜ばせる店員へ


――大学時代はどのように過ごされていましたか?


森下裕道氏: 大学時代は、普通よりはちょっと明るいぐらい(笑)でした。今ほど明るくはなかったかもしれませんが、まあ普通に明るかったと思いますし、楽しく過ごしました。

――その後就職されるわけですが、ナムコを選ばれた理由をお聞かせ下さい。


森下裕道氏: 理系だったのですが、勉強が得意ではなかったので、システムエンジニアになったり、工業系の会社で働いたりということはできないなぁと思っていました。その代わり、ゲームが大好きで、よくやっていましたので、当時から人気企業だったナムコへ行ってみることにしたんです。そうしたら、ゲームセンターで働くことになったのですが、当時の僕は接客なんか一度もしたことがありませんでした。

――大学時代、アルバイトなどのご経験はなかったのですか?


森下裕道氏: アルバイトは塾の講師をやっていて、接客というのはしたことがありませんでした。それに、昔から人目を気にしていたということもあって、接客は上手くできなかったんです。最初はろくでもない店員だったと思います。アルバイトさんに接客ができないところを見られたくないという思いから、事務所でゆっくり仕事をして時間を稼いでいたりと、今でも思い返すと申し訳無い気持ちになりますね。

――そこから、どのようにして今の道に至ったのでしょうか。


森下裕道氏: これじゃいけないと思って本屋に行って、接客の本を7,8冊買ったんです。それだけ読めば、知識の面ではできるようになるじゃないですか。そして、「これなら接客ができそうだ」と思ったのですが、実際にはなかなかできませんでした。ただ、ある日、UFOキャッチャーで、なかなか景品のぬいぐるみを取れなかったお客様がいたんです。あまりにもお金を使っていたので、ちょっと景品のぬいぐるみを取りやすいように動かしてあげたんです。そうしたらやっと取ることができて、「コレがすごく欲しかったんです」と、とても喜んでくれて。その後もよく来てくれて、そのお客様が常連客になっていったんです。その時に「ああ、こういうことなんだ」と思いました。「お客様を喜ばせたり楽しませたりしてあげれば、売り上げって簡単に上がるんだ」と気付いたんです。それからまた勉強して、店頭にもどんどん出るようになっていきました。

――まずは知識として本を読んで、そして実践していくということですね。


森下裕道氏: そうですね。実践しなかったらきっとダメでした。知識と体験が一致して、初めて自分のものになるんだと思います。

――まさに、森下さんの普段の講演にある、「楽しくて実践的」という思いですよね。


森下裕道氏: そうですね。みんな結局、職場の人間関係を良くすればいい、そのためには相手のことを分かってあげるっていうことが必要だと思うのですが、それも僕がずっと子どもの頃分かってもらえてなかったからこそ、分かってあげれば人って変われるんだなぁって、僕は凄くよく分かったんです。

――ご自身の経験、しかも必ずしも恵まれてできる経験ではない、どちらかと言うと色々な不遇な経験を肯定してきた、その経験が全て、講演や執筆などに生かされているんですね。


森下裕道氏: そうですね。人間関係でたくさん悩んで、自分がダメだった過去があるからこそ、少しは人の気持ちを分かってあげられたりだとか、分かろうと努力したりということが出来ているんだと思うんです。接客が上手になったのも、人の顔色ばっかり伺っていた頃があるからなんです。だからこそ、お客様が今喜んでいるのか喜んでいないのかが分かるのだと思います。

文章が書けないため、全て会話調に


――執筆に対する思いをお聞かせ下さい。


森下裕道氏: 実は、執筆が本当に苦手なんです。去年7月に出さなきゃいけない本を、まだ書いてないぐらいですから(笑)、ほんとうに苦手で、文章が全く書けないんですよ。

――そんな森下さんが、どのようにして本を書くようになったんですか?


森下裕道氏: どうして書くようになったかと言うと、お店をやっていた時に、本部に行ったんです。本部に行って教育をする立場になった時に、上手く教育ができなかったんです。それは何故かと言うと、お店の部下たちには感覚で教えていたというところがあったんです。同じ現場にいたので、匂いで「これはこうだ」という感覚的に教えていたんです。でも「どういう仕組みで売り上げが上げられるのか?」とか、「こういうお客様にはどうやって褒めればいいのか?」というのが論理的に説明できなかったんです。それをよく考え、論理的に説明できるようになって、「こういうのって面白いな」と思うようになりました。本部では社員研修もたくさんやったんですが、それよりも、アルバイトさんたちの研修を多く行いました。店長たちに言っても、なかなかそれを下に伝える能力がなかったりするので変化に時間がかかるのですが、アルバイトさんたちはモロ現場に反映しているので即変わっていくんです。不採算店舗のアルバイトさんたちは、教育を受けていないのもありますが、みんなからできないと言われていたりしている人が結構多かったんです。だから、そういった人たちが変わってできる人になっていく様子を見て、「これは面白いな」と思いました。でも、独立するために講演をしたいと思いました。講演をやるためには本を書かないといけない、と思ったところもあります。

――執筆が苦手だとおっしゃっていましたが、どのようにして書き始めたのですか?


森下裕道氏: 自分でしゃべった音声を自分で文字に起こしたんです。なので、僕の本は全て会話調。だから、本を読むのが苦手な人や、なかなか本に馴染みが無いという人、活字から離れている人でも少しは読みやすいのかなとは思います。

――執筆に対する思いはありますか?


森下裕道氏: 自分の思いを伝えたいっていう思いがあるんですが、人は変わりたいと思えば変われるんだとか、ちょっとしたことを心掛けるだけでこんなにもハッピーになれるんだとか、これだけ接客って面白いんだよとか、そういったことを伝えたいんです。
本を読んでくださって、「変わった」とか言ってくれたりお手紙をもらえたりすることもあって、僕はそれが凄くうれしいんです。



意識を変えることで、全てが変わる


――良い編集者さんというのはどういった方だと思いますか?


森下裕道氏: 「すごく上手だな」と感じる編集の方もいます。“1章10日間で締め切ります”と言われたことがあるのですが、「ちょっとくらいなら延びてもいいかな」って思ってたんです。でも、その編集者さんが僕をうまく褒めるんです。「ああ~!これはとても勉強になりました。次はどうなるんですか?」と盛り上げてくれる。そうすると、早く続きを書こうという気になりますよね(笑)。「その編集者さんのためにも頑張ろう」と思い、書きあげました。一読者として褒めてくれるのは、やっぱりうれしいですよね。

――森下さんの使命は、どのようなことだと感じられていますか?


森下裕道氏: やっぱり変わりたいと思っている人たちを変えるお手伝いをしてあげること。自分のことをダメだと思っている人、自分のことをアンハッピーだと思っている人を、僕は一緒になって変えていきたいんです。本人たちが変わりたいと望んでいるなら、変わっていけると思っています。僕と触れ合った人が少しでも明るくなってくれたりだとか、少しでも自分のことを好きになったりだとか、少しでも自分の身近な人を大切にしようと思ってくれれば、全てが変わってくると思うんです。今、人間関係などで悩んでいる人ってすごく多いじゃないですか。もちろんそういう時代だということもありますが、ちょっとした考え方や立ち位置を変えるだけで、すごく変わってくるんです。ただそれだけの気づきで変えていけるというのを、教えたいし、一緒になって考えていきたい。また、僕も一緒に学びたいなと考えています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 森下裕道

この著者のタグ: 『組織』 『考え方』 『アドバイス』 『働き方』 『可能性』 『ノウハウ』 『モチベーション』 『伝え方』

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