読む本がないと、落ち着かない。僕は「活字中毒者」なんです
ラップグループ「ライムスター」のラッパーとして活動する一方で、ラジオ・パーソナリティや映画・音楽・アイドル評論家など、幅広いジャンルで活躍している宇多丸さん。現在、多数の雑誌でも連載を抱える超うれっ子コラムニストでもある宇多丸さんに、最初に文章を書きだした理由や好きな本、電子書籍の未来について聞いてみました。
人生最初の仕事は、ラップでもラジオでも映画でもなく「原稿を書く」ことでした
――早速ですが、今現在のお仕事についてご紹介いただけますか。
宇多丸氏: 一応メインは日本語ラップのグループ「ライムスター」というのを89年に結成して。そして、93 年にアルバムを出して、そのぐらいから、ほそぼそと活動を続けています(笑)。同時にラジオのパーソナリティをやったりとか、最近はぼちぼちテレビにも出演させてもらうようになっています。
あと、実はラップでお金をもらうより前に、原稿でお金をもらう仕事を先にしていましたね。連載とかもいくつかずっとやっています。例えば一番長くつづいているのは、月刊誌BUBKA連載中の「RHYMESTER宇多丸のマブ論」というアイドルソングの時評の連載。これは、12年やってます。実は、僕自身、書き仕事は、かなり長くやっているんですよね。最初は音楽ライターとしてお金をもらっていたこともありますが。
――ラップよりも先に文章でお仕事されていたんですね。原稿を書くきっかけはなんだったんですか?
宇多丸氏: 大学で「ソウルミュージック研究会」という所に入ったのがきっかけでした。これは別に何か自分たちで演奏とかをするサークルではなく、レコードを買ってきてそれについてお互いが品評しあう愛好家集団のようなもので。でもそのサークルは伝統があって、ものすごく音楽に詳しい先輩方がたくさんいた。さらに、そのサークルで、小冊子を出していたんですね。いわゆる同人誌です。それを、当時の輸入レコード屋とかに、直接卸して売ってもらったりしていたんですね。今で言うZINEみたいなやつですかね。
もちろん、冊子の中身は、サークルメンバー全員で書くのですが、原稿を書いて売っているうちに、「ブラックミュージックレビュー」という伝統ある音楽批評誌から、まあ、先輩に間に入ってもらって「ちょっとレビューをやってみないか?」と言われて書き出して。
当時ヒップホップ・ラップ専門の洋楽にも、当然ライターが存在したんですけど、もともとブラックミュージックの人がラップ・ヒップホップにも記事を書いているという感じだったから、僕らからすると読んでいるとすごく不満が多かったんです。
だから、当時は、非常に攻撃的な筆致で、「前号のあの記事は間違っている」みたいに、ほかの記事を批判する記事をひたすら書き散らかす、ものすごい生意気なスタイルでライターをやっていました(笑)。それをものすごく硬い文章で書くみたいな。当時は、ライター・佐々木士郎(宇多丸さんの本名)として、最初はそれで生計を立てようとしていました。
「本」がキレると禁断症状を起こします!
――そこから宇多丸さんのコラムニストとしてのキャリアが始まるんですね! これまで、たくさんの文章を書かれるにあたって、沢山読書もされてきたと思うんですけども、どんな本を読まれてきたんですか?
宇多丸氏: 本当によく読む人に比べると、僕なんかは全然読んでいないと思います。そんななかで、やっぱり一番多いのは映画評論本や監督のインタビューなど、とにかく映画関係の本ですね。それは昔から好きでした。
――ちなみに、これまで何冊ぐらい読まれたんですか?
宇多丸氏: 何冊?(笑)いや、数えた事がないですけど。ただ、だいたいいつもバッグに2~3冊は入っていて、平行して読んでいるという事ですかね。文字通り活字中毒という言葉がありますけど、本当に一人でご飯を食べる時とかに、何にも読まないと気が狂いそうになるんですよね。出掛けた先で、読んでいる本がもうちょっとで終わりそうだとするじゃないですか。そうすると「これが切れたらまずい」って焦る。万が一何にも持たずに出てしまってご飯となったら、しょうがいないからメニューとかを読んでたりします。
――宇多丸にとっての本というのはどういった存在ですか。
宇多丸氏: うぅ~ん…。どんな存在…。常に欠かせない状態なので。切れると怖い、シャブですよね。本とはシャブ……ってこんなの書けないですね(笑)。
でも要はさ、シャブで例えると、本で覚醒、目がさめたりする事もあるんですよね。やっぱり、有害な読書だってあるというか、だから面白いんで。先生方とかPTA的な感じで「本を読みましょう」って言うけど、本って大雑把すぎだろと。だからそういう意味でもやっぱり麻薬的というか、薬に近いものがちょっとある気がします。ぼくは無いと、「あぁぁぁ…」っていう感じですね。だから切れるとつらい薬のような(笑)。
トイレとかにも必ず置いていますし。項目毎に見開きで細かく分かれているような本は、トイレまわしですよね。それで、ようやく半年かけて終わった、みたいな。すげえ汚い本になっていますけど(笑)。
佐々木マキさんの絵本「やっぱりおおかみ」は小さいころからの愛読書
――ところで最初の読書体験はどのようなものだったんでしょう。
宇多丸氏: 最初はね、たぶんね、読み聞かせというのをすごくしてもらっていたんですけど。自分でページをこうめくってというと、たぶん「かがくのとも」「こどものとも」とか。これは、福音館書店の絵本で毎月出るやつ。「こどものとも」が物語系で「かがくのとも」が理系っていう両ラインがあって、そのシリーズがとにかくすごく好きだったし、今でもたまに読みかえすぐらいです。佐々木マキさんの作品が入ってたりして、なかでも「やっぱりおおかみ」が大好きで。今思うと、けっこう豪華なメンツですよね。今でも本屋に行けば並んでいると思うんですけど。
――小さいころから周囲に本が多かったんですね。
宇多丸氏: 父も母も本好きだったので、たぶん平均よりは本がある家だったんですよね。
SF、カルチャー、ガン……とにかく雑誌が大好きでした
――数々の本の中で人生の転機になったものをご紹介頂ければと思います。
宇多丸氏: 僕は年齢的に、本よりも雑誌の世代なんですよね。僕の中で一番比率が大きいのは、むしろ本より雑誌だったかもしれない。それこそ本屋をフラフラしていて、「あっ」と思って手に取って見た物から広がっていくというのが多いんですよね。
例えば「スターログ」というSF雑誌があって。手に取ったきっかけは、スターウォーズが好きになって、そういう映画にのめり込み始めた時期だったからなんですけど、「スターログ」は一応SF専門誌でありながら、同時に海外文学とか、もっと広いくくりのファンタスティック映画だったりとか、アメリカの古いテレビだとか、SFアートだとか、とにかく何かサブカルチャー全般にすごくオープンな媒体だったんですよね。だから、それ以降の趣味嗜好には、「スターログ」をずっと読んでいた影響がすごく大きいですね。
あと80年代の「ポパイ」とか。それと、僕は銃器の類が好きなんですけど、小4のときに渋谷パルコのポストホビーというお店で「Gun」という有名な専門誌を見かけて、母親に買ってもらって、それ以来ずっと読み続けてたことも大きいです。
――そういった本を買ってもらうのに反対とかは無かったんですか。
宇多丸氏: 完全に自由ではないですけど、本と映画に関しては何かごちゃごちゃ言われた事はないです。そこはお金をケチるなみたいな感じでしたね。
著書一覧『 宇多丸 』