電子書籍を「電子」と呼んでいるうちは生活にはなじまない
ワインの企画・調査・販売などのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の編集とDTP普及に携わるほか、マルチメディアコンテンツの企画制作を行ってきた神田敏晶さん。1995年からはビデオストリーミングによる個人放送局「KandaNewsNetwork」の運営を開始している。そんな幅広い活動をしている神田さんに電子書籍にまつわる話や、自身の本とのかかわり方など、さまざまなことについて伺った。
ネットでのジャーナリズムを中心に、「ノマド」的にデジタル世界を飛び回る
――早速ですが、現在のお仕事についてご説明いただけますか?
神田敏晶氏: 今は基本的にはネット上でのジャーナリズム活動を行っています。あとは、いくつかコンサルティング的なもの、新規事業とか、新しいベンチャーの支援や、セミナー講演、メディアでの解説みたいな仕事をさせていただいております。
――差し支えなければ手がけている事業について詳しく教えていただけますか?
神田敏晶氏: 過去には飲食の事業をしていたり、政界にも参議院で出馬したりしたんですが、今はネット上のサービスを色々お手伝いさせていただいています。その仕事は、デジタル時代の放送サービスみたいなものを仕込んでいますね。
――セミナーや講演もされるということなんですけれども、対象者はどんな方なんでしょうか?
神田敏晶氏: 基本的にはお呼びいただく形なのでバラバラなんですが、ビジネスマンや新入社員がメインですね。毛色が変わったところではNPO法人主催の子ども対象のセミナーもあります。最近は「ノマド的な生活」「ワークライフバランス」などのテーマでの依頼が増えてきています。
――普段はどういった環境でお仕事をされているんですか?
神田敏晶氏: 仕事はほとんど自宅か、ワーキングスペースやネットカフェでしますね。僕は今日本メーカーのノートパソコンを使っているんですが、本当はバッテリーが10時間持てば、Macにしたい。このノートパソコンはバッテリーの持ちがいいので、普通に仕事をしていると、充電するのを忘れてしまうくらいです。
トイレにはトイレ用パソコンが準備済み
――移動中に本を読まれますか?
神田敏晶氏: 飛行機とか新幹線で一番読みますね。新幹線はまだいいのですが、飛行機って電子書籍は規制が結構厳しいですよね。そういうときには紙の本を読みます。電波を一切発生しないという認可が下りているような電子書籍があればいいですね。後はお風呂でもトイレでも読みたいんです。長風呂長トイレになりますけど。
――トイレで思い出しましたが、タモリさんとかも30分くらい入ってるって聞いたことがあります。
神田敏晶氏: 僕も1時間くらいザラですよ。狭い空間が落ち着くし、後はおなかが痛くなっても心配が要らないですしね。僕は結構胃腸が弱いんです。だから外で喫茶店とかに入れないんですよ。長い時間トイレを使ってしまうので。
――そうなると、自宅でお仕事というのはベストなんですね。
神田敏晶氏: 基本的に独立してからは、仕事を自宅というかトイレですることが多いんです(笑)。トイレ用のパソコンを置いていますから。トイレに入ったらトイレ用のパソコンを出してきてカタカタできるようにしていますよ。トイレが書庫になっているんです。
1週間、1歩も外に出ないこともある
――色々なところで働かれるメリットというのはたくさんあると思うんですが、逆にデメリットはございますか?
神田敏晶氏: 緊張感のなさでしょうか。会議をするにしても、人と接するにしても、そこですよね。逆にノマドで面白いのはこういうワーキングスペースで仕事できることでしょう。僕は3ヶ月前には神宮前のシェアハウスに住んでいて、その前もシェアハウスでした。
シェアハウスぐらいが一番ちょうどいいのかもしれません。だから仕事場を何人かとシェアできたらなあと思い始めています。ライター同士で集まると、会社っぽくもなるしいいですよね。
――仕事をする上でご自身で心がけていらっしゃることはありますか?
神田敏晶氏: やっぱり時間割ですよね。フリーランスでやっていると自分でなんでも調整がつくので、下手すると、気がついたら1週間くらい1歩も外に出ていないということもあるんです。「あれ、今日何曜日だっけ?」みたいな感じになってしまいます。次の仕事と仕事の間に出勤の義務もなければ、仕事自体もいつでもどこでも始めようと思えばできますし。だから基本的には体調が悪くなりますね。朝と夜の生活がバラバラになっちゃいますから。自分で時間を管理できないので、夜の6時になるとニュースがはじまって仕事が終わるみたいに、テレビが時計代わりですよね。あとは、GoogleカレンダーやGmailなどは使っていますね。クラウドと言われる前からそういうものを使っています。
「20ページ85円」という本が出版されてもいい時代になる
――ちょうど今、クラウドのお話になりましたが、ご自身で電子書籍の利用はされていますか?
神田敏晶氏: 主に自宅のほうが多いのかな。iPadとKindleを使っていますね。今はKoboとAmazon待ちみたいな感じです。でもどうしてもモノクロって限定されるんですよね。だから僕はテーブルで読みたい。今度どこからか、24インチのAndroidが出るから、あれは欲しいなと思って。新聞をこうやって見ていた時のあの感じにしたいですね。それかAppleTVからテレビ画面にAir Playで出力できたりとかします。僕は本もPDFをAir Playにして大画面、55インチくらいで見ていますよ。
――電子書籍というと今はまだ過渡期なのでデバイスが絞られてくると思うんですが、神田さんのように自由な発想で使用するやり方もあるんですね。
神田敏晶氏: 意外とApple TVがいいかもしれないですね。一つあるとYou Tubeもテレビになるし。意外とテレビで本を読むというのはいいですよ。後ろで音楽もかけながらだと楽しいし。
――電子書籍がコンテンツとしてどんどん変わってくると思うんですが、ご自身は書き手として書き方の変化というのはどういったことがあると思いますか?
神田敏晶氏: どこかWebサービスで、Appleストアで1冊目は無料で出せて、100ページまでは電子書籍化をやって、1冊あたり9800円でラインナップを並べるというのがあったんですが。そういうサービスもあるので、100ページそれだけのためにコンテンツを作るというのは大変ですけど、ブログに書いているものをまとめてエッセイみたいなものをぽつんと出すにはいいと思いました。それはPDF納品なのでレイアウトも自分でできて、値段設定も自分で値付けできるんで、無料でもいいし85円でもいいし、1000円にしてもいい。これはちょっとやってみたいなと思いましたね。
――そうなると、おっしゃったように本の出し方が変わってきますね。
神田敏晶氏: そこが変わってくると思うんです。だからこれからは20ページで新刊本もありなんですよね。20ページの新刊本が85円で、10分で読めるような。もっと言うと電子書籍は、ページっていう概念が変わらないと本物じゃないような気がしますね。ページっていう概念に縛られているとグーテンベルグ以来の500年の歴史を引きずってしまうんですね。“Web”って永遠に続く巻物みたいな感じですよね。もともと縦の巻物だったんですけども、当時は回線のスピードが遅いから「次へ」「 次へ」っていうページ形式になってきた。今みたいに回線のスピードが上がって読み込みがある程度バッファが取れれば、延々とスクロールだけで読めると思うんですよね。もしかすると、自分の読む時間を何秒と設定すればそれで自動的に動いてくれるのもいい。
――確かにそうですね。今は過渡期ですから、ページをめくるようにという方向に進んでいますけど、リンクという考えもありますね。
神田敏晶氏: だから電子書籍になってくるとコピーアンドペーストも出来ますけども、本に線を引く感覚で、気になる部分に線を引いた瞬間クラウドに書籍の引用も全部載ったりするといいですよね。「著者」「読者」というんじゃなくて、クリエイティブな感覚、中間の編集者に近いような感覚で、自分が気になる部分をまとめて、自分だけの本をつくるようなものがあるといいですね。それを続けていくことによって、「そういえば」と思ったときに、自分のデータベースの中から、ブックマーキングしたものがずらっと表示されるとかね。そうすると、読んだ本をずらっと置いておいて、付せんを打って、しおりがわりになっていたりとかするものを探し出すより便利かなと思います。
――読者でもない、著者でもない中間の存在ですか。
神田敏晶氏: 余談ですけど、ニュージャージのエジソンのウェストオレンジ研究所っていうのがあるんですよ。そこは図書館の中にエジソンの机とベッドが置いてあるんです。そこで疲れたらエジソンはすぐ寝るんですよ。仕事場なんですけど、疲れたら寝て、起きて、図書館だから本があって、どの本にもエジソンのメモ書きがぎっしりなんですよ。だから研究所の人はみんなエジソンの、ここはなんとかだっていう情報をみんな共有できたんです。
当時は科学書が全部そろっている世界最高のライブラリーがエジソンの研究所で、みんなその本が読みたくて世界の天才たちが集まってきたんですよね。だからGoogleがエンジニアの最高峰を集めるのと同じように、エジソンの周りでは世界最高のリクルーティングができたんですよね。それと同時にエジソンがすべての科学誌を取り寄せてそこに解説をしてシェアしていくので、本を読むプラス研究所の所長が思っているイマジネーションやアイデアが共有できた。面白いですね。