書籍が本の「本物」である限り、本を売る商売をしていきたい。
福生市をはじめとする東京近郊で、書店チェーン「ブックスタマ」13店舗を経営する加藤勤さん。ご自身のブログで定期的に、加藤氏の視点で選んだお薦めの書籍を紹介。さらに、執筆された本がベストセラーになるなど本を巡る現場で活躍なさっている加藤氏に、本についてのお考えや書店の将来などについてお伺いしました。
気軽に立ち寄れる街の書店を目指して。
――現在、ブックスタマさんを経営されていますが、店舗の展開や特色など考えられた戦略はあるんでしょうか?
加藤勤氏: あんまり特化したもの、コアな方向に行くよりは、地域のみなさんに利用していただけるような書店、いわゆる「街の書店」を作りたいなと思っています。ご承知だと思いますけど、書店の数がどんどん減っていて、昔から町中でやっているような書店がなくなってきているので。私どものオープンしたお店の中にも、もともと書店で、いろいろな事情で書店を辞められてという場所が結構あります。そういうところであれば、お店自体はまだまだ将来性はあるけれども、経営者の方が亡くなられてしまったとかという理由で辞められているところもありますので、そういった書店を引き継いでやっていきたいなと思います。やっぱり街に気軽に立ち寄れる書店がないと、人々が本と触れる機会というのがどんどんなくなってくるでしょうから、地域のみなさんに利用していただけるような書店をつくりたいと思っています。
――ブックスタマに行けば、NHKのテキストなどの実用書も、ひと通りの本はそろっているんでしょうか?
加藤勤氏: そうですね。街の書店なので、一応オールジャンルです。
――店内に入らせていただいた時、子どものころから親しんでいる書店の雰囲気があって、すごく懐かしい感じがしました。でも現状、書店はなかなか大変な部分もあるかと思います。書店経営の難しさというのはどんなところなんですか?
加藤勤氏: そうですね、確かに経営はなかなか難しいですね。旧態依然とした形ではダメだし。もちろん今は出版市場が13年連続で減少しているという中で経営しなきゃいけないというのはあるんですけど、まあ、それはどんな商売でもそうですよね(笑)。当社には関連企業のスーパーマーケットもありますけど、それにしたって言っていることは同じなんですよね。高齢化でどんどん市場が縮小している。そんな中で、本が特に難しいというのは、やっぱり回転率が低い。ほかの商売と比べると年に4回転とか3回転とかというのはちょっとひどい(笑)。仕入れた商品が、結局現金化するのが3ヶ月、4ヶ月先という商売なので、それはやっぱり大変。もちろん取り次ぎさんの方で支払いの条件をつけてくれることはありますけれども、それじゃあ追いつかないというのが現状ですね。
――お店を続けるという気力はもちろん大事ですが、地域住民へのための扉なんだという気概がないとやっていけないというものでしょうか?
加藤勤氏: まあ、そうですね。お金もうけだけを考えるんだったら、わざわざ選ぶべき商売じゃないと思いますけどね。ある程度商売に対しての思い入れというのは必要かなと思いますね。
――そうは言いつつも、ブックスタマでは黒字転換をされていますね。
加藤勤氏: そうですね。やっぱり商売なんでね。商売として成り立たないということは、お客さんから求められていないということだと思いますので。
親族経営の書店を10年ほど前に引き継いで経営者に
――ちなみに、書店経営をされるきっかけというのは何だったんですか?
加藤勤氏: きっかけは、かれこれ10年近くになるんですけど。もともとは親が始めた商売で、私どもの親せきがこの福生周辺エリアで、自動車ディーラーやパチンコ店など、いくつかの会社を経営していました。グループで一番大きいのはスーパーマーケットなんですね。その中で、私は書店とスーパーの配送をする運送会社を引き継いで、経営しています。もともと書店自体は25年〜30年近く経ちます。書店を始めた当時は景気も良かったですね。西武さんが総合生活産業なんて言っていた時代ですので、いろいろな流通業、スーパーマーケットをやっているところが関連で書店をやっていたんです。例えば、ダイエーさんが「アシーネ」、西武さんが「リブロ」を始めたり。この辺りだと、いなげやさんというスーパーが「よむよむ」という書店を始めたりだとか。そういう多角化の中で書店を始めるところが多かったです。そこで、この辺りは大きな書店もなく、私たちは商売としても順調にいきました。
――それが現状としては、どんどんと減ってきているという状況ですか?
加藤勤氏: そうですね。昔は、ロードサイドに100坪、200坪の書店を出すと、大きい書店ができたという感じでした。当時は、駅前の20坪、30坪のお店が普通でしたから。それから比べると大きいお店だなと。それはもう30年前の話です。今は、どんどん商業施設も大型化していますし、ショッピングセンターとか、イオンモールなんかがこの辺りにも武蔵村山や日の出町にあるんですけど、そういうところができてしまうと、ただ単独でロードサイドで書店をやってもなかなか難しい。
――そういう厳しい中で商売相手・同業種と勝負するための、ブックスタマさんならではの差別化というのはありますか?
加藤勤氏: お客さんに近いところで商売をしているというのが、一番の利点ではありますが、それだけではなかなか厳しい。今、非常に求められているのは、問い合わせに対しての対応だと思うんですね。注文して何日で届くか。Amazonの場合なら、注文して1日で届きますよね。昔は「すみません2週間かかります」と言っても待ってくれたんですけど、今はそれが通用しなくなっている。では、どこまで縮められるか。問屋さんとの関係もありますし、うちの場合はチェーン店なので、毎日社内便を走らせているんです。例えば、このお店になくても、隣のお店にあった時は1日で商品をこちらに持ってきて、お客さんにお渡しできるような体制をとっています。ただ、チェーン店内でも遠いと翌日には難しいのが現状ですね。
昔と比べて、本の種類が非常に多様化。
――ブックスタマさんは30年近く書店を続けておられるわけですが、ご自身が書棚を見て、本自体の装丁も含めて、昔と比べて書店は変わったなと思うことはありますか?
加藤勤氏: そんなに私も偉そうなことを言えるほどではないですけどね(笑)、もともとはスーパーマーケットですから(笑)。私が小学校の時はまだ書店は始めていませんでしたし。
子どものころは、あくまで一個人としてしか見ていませんが、やはり本の種類が増えていますね。いわゆる単行本とか文庫本だけじゃなくて、ブランドムックなんかが典型的ですけど、いろいろな形の本が増えた。あとは、昔だったら雑誌の記事で終わったような内容が1冊の本になっていたりするなと。そういったところで本の種類が増えたという点が一番大きいかなと思いますけど。
――となると、限られたスペースでの、サイクルは激しいですか?
加藤勤氏: そうですね。サイクルは激しいですし、あとはやっぱりまったく売れない本というのもそれだけ増えているということですよね。
――そうなると本をお店に並べるだけでなく、その後が大変ですね。まったく売れなかったりすることもありますか?
加藤勤氏: 今、一番問題視されているのは、返品率が高いこと。書店からすると返品できるというのは非常にありがたいことですけれども。ただ、あまりにも多くの本が出すぎていて売れない本というのがあるので、出して1ヶ月後には返品で戻すというのは、書店としても無駄な作業です。もちろんまったく売れない場合もありますね。
――今こちらの書店には何冊ぐらいあるんですか?
加藤勤氏: このお店だと1万タイトルぐらいは十分あると思いますね。
ブログで紹介するのは、やはり情報があって目立つ本。
――ご自身のブログ「自腹読書日記」にも書かれていると思いますが、たくさんある本の中で、最近でお読みになって、面白かった本はありますか?
加藤勤氏: はい、ブログにのせていますね(笑)。『日本の歴史を読みなおす』とかですかね。ブログにのせている本は、自分のお店を見て面白そうだなという本をピックアップしたり、あとは人に薦められたりした本ですね。読書メーターにも登録していますけど、あれでほかの人が読んだのを見たりもしています。最近アップした『人間仮免中』(イースト・プレス)というコミックですけど、あれは読書メーターで知りました。かなり強烈でしたね。
――では、普段ご自身のお店でピックアップする場合、どういったときにピンときたりしますか?
加藤勤氏: まずお客さんの目に留まるようにしている本でしょうか。やっぱり棚にさしていると気がつかないですよね。棚にさしている本を発見することは、まずない(笑)となると、平積み。文庫本なんかは棚を探しますけど、やっぱり買おうとまで思うのは平積みですね。目に入るというのと情報があるからですね。
――ところで、今まで小学生から大学生までの学生時代に、人生の転機となった本、印象の深かった本。今でもご自身の行動に何かしらの影響を与えている本はありますか?
加藤勤氏: 学生時代限定というと、なんでしょうねぇ。先日も実は某新聞社さんから取材を受けました。その時も人生に影響を与えた本ということでお話しまして、今、ここに用意してあるんですが、これは社会人になってから読んだ本なんです。『スモールイズビューティフル』(講談社)という本ですね。出版されたのは1973年なんで、相当内容も古いんですが、今、震災・原発事故があって以降、また注目されているんです。私が読んだのは10年以上前ですけれども。1960年代からずっと経済拡大を重視してきていたけれど、そういう時代に対しての警鐘を鳴らすというか、ちょっと何か違うんじゃないかというような疑問を抱いている。原子力の平和利用に対しても批判的です。
――70年代80年代と言えば全盛ですよね、そういう内容の本なのですか?
加藤勤氏: そうですね、やっぱり中小企業を経営していますんでね。街の書店をやろうというのもそういうところから、本当にコミュニティーの中で確立されている商売をやっていくのが、これから生き残れるんじゃないかなということで。
著書一覧『 加藤勤 』