小説は文字だけだからこそ強さがある、電子書籍になっても書くものは変わらない
今回お話をお聞きしたのは、作家の町田康さん。ミュージシャンとして活動しながら小説家デビュー。唯一無二の文体を持った作品群を発表し、芥川賞はじめ数々の文学賞を次々に受賞しました。「猫のために引っ越してきた」という熱海のご自宅に伺い、町田さんの執筆スタイルや仕事観、読書遍歴、電子書籍への印象などについてお聞きしました。
猫と犬のために仕事場所がなくなった
――連載や直近の活動について伺います。
町田康氏: 主に小説の執筆が中心で、群像で『ホサナ』っていう小説を連載しています。あとはちょっと久しぶりに、小規模ではあるんですがライブをやろうかなと思ってまして、1部が小説の朗読で、2部が演奏という形でやろうかと考えています。場所は熱海でやろうかなと。
――町田さんが熱海にお引っ越しされたのはなぜなのですか?
町田康氏: 六本木に住んでいたんですけれども、猫が結構いて、都心では限界になったので地方に行くことにしました。場所は別にどこでもよかったんですけれど、それなりの広さが必要で、探しているうちにどんどん安い方へと流れて、気が付くとここまで来ていたということですね。(笑)
――普段の執筆はこちらのお宅にある書斎などですか?
町田康氏: 最初は書斎があったんですけれども、犬が来ることになって、キープしていた仕事部屋もなくなって、家中色んなところにノートパソコンを持ち歩いて、さまよいながらやっています。
何も考えていない時に、ふとアイデアが出る
――小説のアイデアを出すために決まって行うことや場所などはありますか?
町田康氏: そういうのはないですね。書いているうちに思い付くこともあります。連載じゃなくて単発だったら、頼まれてから締め切りまでちょっと間がありますよね。その間にどうしようかな、と思いながらいると、ほかのことをしてる時に、何となく思い付いたり。掃除している時も「このチリは何ミクロンで」とか、必死に頭を働かしているわけじゃないので、別のことを考えながらできますよね(笑)。だからそんな時に考えているんだと思います。
あとはどこへ行くのも車ですから、運転している時にパッと思い付いたりします。知らない道を走る時は道順を考えたりしていますけれども、近所なら何も考えず無の状態で運転していますからね。都会と違って山しかなくて刺激が少ないし。都会だったら「こんな店ができたのか」とか、「ああ、きれいな姉ちゃんやな」とか、色々あるじゃないですか。そんなのも何もないので(笑)。
――音楽活動も小説を書く際に刺激になりますか?
町田康氏: 今はほとんど文章を書くことがメインですが、最近ライブをやるということで、月に1回ぐらい集まって練習しているんですけれど、そうするとちょっと書く方も「抜け」が良くなってくるというか、違う頭が刺激されて思い浮かぶことの幅が広がってくるような気がしますね。
僕らみたいな仕事に限らず、1つのことをやっているよりも、色んなことをやっている方が健全なのかという気がします。ずっとそればっかりやっていると、研ぎ澄まされて奥深くなっていくのかもしれないけれど、逆に言うと視野が狭くなるというか、深いんだけど一点だけというか。僕なんかは、色んなことをワサワサやっている方がいいような気がしますね。
――書き始めると筆はどんどん進みますか?
町田康氏: いや、そんなこともないです。集中力を欠く時もあるし、しんどくなってくる時もありますからね。書く時は緊張して、集中してやらなければならないですから、体力的にもう止めとこう、もうちょっと元気がある時にやろうということもあります。そういう時は、掃除したり、犬の散歩に行ったりしていますね。
――小説を書く時に、読者は意識して書かれていますか?
町田康氏: 読者というより、もう少し漠然としています。時々、細かいところで、こういう書き方をしたら自分は面白いけど、ちょっとわかりにくいのかなと思うことはあります。絶対にこっちの方がいいという時はそっちにしますけど、どっちでもいい時があるんです。「これでもええし、これでもええな」いう時は、意味が一緒ならよりわかりやすい、伝えやすい方にするということがありますね。
著書一覧『 町田康 』