電子書籍は表現の幅を広げる、摩擦は短期的なものにすぎない
見田宗介さんは日本を代表する社会学者。現代社会の分析、比較社会学等の研究を行い、言論の射程は社会事象のほか文学、歌謡曲やテレビ番組などの大衆文化にまで広がりを持っています。最近、自身の著作を厳選してまとめた『定本見田宗介著作集』を完成させた見田さんに、自身の著作について、幼少時に影響を受けたシェイクスピアについて、電子書籍と出版の未来についてなどを伺いました。
見田宗介と「真木悠介」の著作集が完成
――昨年に刊行がスタートした『定本見田宗介著作集』がついに完成しましたね。
見田宗介氏: 最後の巻は1月に完成しました。
――著作をまとめただけではなく、増補されたところも多いのですか?
見田宗介氏: 新しいものを大きく付け加えたものもあります。僕は現代社会論とか、比較社会学、未来社会論などをやってきたので、バラバラに見える仕事全体のつながりがどうなっているのかということがわかるように巻を並べて、そのつながりの説明をかなり書き足しました。
――大変な作業ではなかったでしょうか?
見田宗介氏: 楽しい仕事だったので、そんなに苦労したということもありません。今度の本は、自分が好きなようにどんどんやっていったものですね。僕は凝り性で、巻の構成やデザインで、編集者やブックデザイナーの方々に尽力いただいて、大変ありがたいと思っています。
――「真木悠介」のペンネームで書かれた著作もまとめられていますね。
見田宗介氏: 僕は本名の見田と、真木悠介で書く時は、思いというか、訴える心構えが少し違っています。真木悠介で書く方はあんまり読者を意識しないで、読まれなくてもいいから、自分が一番書きたいことを、誰かわかってくれる人がいればいいという感じで書いて、見田の方では、メディアに応じて具体的な読者を思い浮かべて書くんです。
社会の「見晴らし」をよくする本を書いてきた
――特にご本名で書かれる著作では、見田さんのお考えを広く一般に役立てようという使命感を感じます。
見田宗介氏: 見田で書く時考えるのは、なるべく若い読者に読んでほしいということです。今度の定本に入れたのは、50年間の仕事で、今の若い人が読んであんまり面白くなさそうなのは全部捨てちゃったんです。あとは書き方や造語も、今の若い人向けに書き換えたりしたものがあります。
――若い人に向けて発信されようとお考えになるのはなぜでしょうか?
見田宗介氏: 未来を担っていくのはやはり若い人たちですからね。特に20代前半ぐらいまでというのは人生がまだ決まっていないんですね。だから、これから僕の本を読んで何かを参考にして、これからどういう生き方をするかとかいうことに役に立てればいいと思っています。
中高年になってしまうと、今更「これからこういう生き方を」と言っても、もう遅いということもありますからね。でもそういう人でも、気持ちが若ければいいので、冗談でよく「精神年齢が18歳の人であれば読んでほしい」と言っています。
――「道しるべを示す」よりも柔らかい感じがしますね。
見田宗介氏: 「道しるべ」とか「羅針盤」ということではなくて、参考になればという気持ちです。例えば僕の場合、近代世界以外の、インドやメキシコ、ブラジルなどを旅して歩いたので、「こういう世界もあるんだ」と感じていただきたい。「想像力の振り幅を広げる」ということで、これから若い人が社会のあり方を想像する時の材料の幅を広げるというような感じです。日本やヨーロッパ、アメリカにいてはなかなかわからないような世界というものを考える材料として提供するということが、考えの1つです。
もう1つは、見晴らしをよくするということ。つまり、これから現代社会がどうなっていくかということについて、展望を開いておく。見晴らしが良くなった上でどういう方向を選ぶかということは当然各人の自由です。「こういうことを続けて行けば世の中こうなるんだよ」とか「必然的にこういうふうにはなるんだよ」というような、未来に対する見晴らしをよくするだけで、「こっちに来い」とか「あっちがいい」ということを述べるつもりはありません。