日本を変える、世界に仕掛ける
ソニー株式会社、グーグル日本法人の代表取締役社長を経て、2011年にアレックス株式会社を設立された辻野晃一郎さん。グローバルスケールの人材育成や日本発ビジネスの支援をされています。インターネットの力をフルに活用して、積極的に日本を世界へ発信していくことを目的とした斬新なオンラインプラットフォーム、ALEXCIOUS(アレクシャス)もオープンするなど、常に当事者として奔走されています。「成功体験に足を引っ張られてはいけない」と語る辻野さんの想いとは。
当事者として走り続けたい
――アレックス株式会社について伺います。
辻野晃一郎氏: 以前から、「いつか事業を起こそう」と考えていました。ただ、起業に関してはビギナーですから、この4年間は思った通りになんかいかないし、失敗だらけでした。それでも、やっていることそのものには確信があるから、私は前に進んでいけるのだと思います。自分の信念は、何も変わっていません。「なぜこれをやっているのか」という点に関しては何のブレもありませんが、「どうやってそれを実現するのか」ということを考える。色々なことをやって、色々なことを学んで、うまくいっていないのならば「じゃあ次はどうしようかな」といつも考えるのです。
――ずっと当事者であり続けているんですね。
辻野晃一郎氏: 当事者として体を張って奔走した人と、どこか遠くから眺めている人では全然違います。遠くから眺めているだけでは、分からないことばかりです。この間も、ネットで変な人に絡まれましたが(笑)、どこか遠くから眺めて、人がやったことに対して石を投げているだけです。頑張っている人だったら、私に絡んでいる暇なんかないはず。でも、残念ながらそういう人たちが多いなと感じます。
今、企業でも、自分は何もしないでうまくいったらもてはやし、うまくいかなかったらボロクソにけなすという、評論家のような人がすごく増えていると思います。だから、私のやりたいと思っていることは、傍観者ではなくて行動する側にポジションを変えるように仕向けること。行動する側にとはいかなくても、行動する人を、少なくともバッシングするのではなくて、応援したり支援したりするような、そういう土壌を作っていかなければいけません。それが、私がクラウドファンディングなどをやっている理由です。本などを書いているのも、そういうことの大切さを、世の中に対して伝えるという使命感のようなものがあるからなのです。
「日本」に対する思いの欠落。教育を変えなくてはいけない
辻野晃一郎氏: 今おこなわれている教育の一部分が、日本をだめにしたと思っています。「日本は悪かったよね」で終わるような教育をする人が多いからだめになってしまったのだと私は思います。戦後教育の罪です。平和ボケして憲法も読まない、ものを考えない国民が増えているように感じます。戦前の方が大所高所で国家観や歴史観をきちんと教育していて、深くものを考える人たちを育てていたと私は思うのです。それが戦争で負けて、検閲が入るようになって、イデオロギーがぶつかり合うような中で、当たり障りのないことだけを教えて、子どもにはあまり深いことを教えなくなりました。近代史は受験に出さないから学校でも教えていない。でも、近代史や現代史は1番大事です。韓国やドイツなどは、その2つをよく勉強しています。
歴史というものを学ぶ本質は、“未来を作る”というところにあります。戦争においての加害者と被害者、どちらの立場も日本は経験しているので、そういうことに正面から向き合って議論する場を、子どもの頃から作らなければいけないのです。この間、終戦記念日の特集番組を見たのですが、8月15日がどういう日かを知らない若い人がたくさんいました。ドイツなどは、ほとんどの国民が、戦争をやったということを知っています。同じ敗戦国でありながら、教育のレベルの差がわかります。このままいくと日本は、恐ろしいことになるのではないでしょうか。
――戦前の教育を受け、国家観を持った人たちが、世界に出て成功してきた歴史があります。
辻野晃一郎氏: SONYがまさにそうです。戦争で負けたことによる喪失感や絶望感が根底にあって、そこから「なんとか日本を復活させなきゃいけない」という、その国家観というか、国民としての使命感といったものがあった。だから井深さんや盛田さんはSONYを興して、あそこまでの大きさに育て上げたわけです。その根底には揺るぎない「日本」というものに対する強い思いがあった。でも今は、教育においても、大事なところを避けて通ってきているから、強い理念やパッションを持っている人が育たなくなっています。
でも、日本のサッカーのように、色々と苦労しながらもやっていけばいい。時間はかかるかもしれませんが、少しずつ変えていけばいいのです。だって、昔はワールドカップにさえ出られなかった。今は、試合にはなかなか勝てなくても、出場できるというところまできている。だから、もう一息なんです。