糸川洋氏: この『死者は語る』という本は20年前に講談社から出たのですが、もう絶版になっています。しかしアマゾンには中古のアイテムとして載っていました。当然それだけ昔の本だから、1回もレビューなんか付いたことないんです。それが今年の1月になって急にレビューを書いた人がいました。『これを読んで心の癒しを得た』と絶賛してくれたんです。それで、出来るだけ多くの人に読んでもらいたいという思いになりました。しかし残念ながらもう絶版という状況で、考えた末『それじゃあ電子出版しちゃえばいいんじゃない』という、わりと安易な発想から出発しました。(笑)
――実際にアプリにして、電子ブックとして復活させるというのは驚きです。
糸川洋氏: 途中で何度も、『止めようかな』と挫折しそうになりましたよ。(笑)テキストファイルをアプリにするまでも、もちろん大変だけど、実機にインストールして動くことを確認して、いよいよアップルに申請する段階で、いろいろ指示される。たとえば、アプリのサポート用のURLを指定しなくちゃいけない。僕はブログをやっていないからURLがないし、まあいいやと、省略して進めていたら、『入れなきゃダメだ』と注意を受けた(笑)。しょうがないから急遽ブログを作ってなんとかしました。そしてようやく、アップロード待ちという状態までこぎつけたんです。いよいよアップロードしたプログラムなんですが、今度は最初に「Validate」――つまり「検証」というボタンがあって、それをクリックすると色々なメッセージが出てきたんです。
――直前まではうまくいったのに実際にアップしてみるとうまくいかないということが発生したんですね。
糸川洋氏: 『あなたの指定したアイコンファイルは最上部のフォルダにない』と言われても、さっぱりわけがわからない。『何言ってるの、あるじゃん。何言ってるの?』と。(笑)そのエラーに悩まされる人っていっぱいいるんです。何がいけないのか、googleで調べました。アイコンをiPhone用とiPad用と2つ指定するんだけど、僕が使ったプログラムでは、iPhone用は『I』が大文字になっていて『Icon.png』、iPad用は『i』が小文字になっていて『icon72.png』。これはもしかして大文字・小文字の違いの問題かな、と思って。色々調べると『大文字にしなくちゃダメだぞ』という情報があったので、両方のファイル名の先頭を大文字にしてみたけれども、ダメ。とにかく何をやっても全部ダメ。最後は、一つ目のIconのアイが大文字になっているのがいけないんじゃないかと疑いはじめた。買ったツールで元々そう表示されていたから、まさかそこが間違いだと思わなかった。けど、念のためにそれを小文字にしたんです。そうしたらアプリの検証に成功した。(笑)
――作り手と検証する側が同一人物だとなかなかミスの発見など難しいですよね。大きなミスだったら分かりやすいと思うんですけど、些細なレベルだったりすると特に大変そうですね。
糸川洋氏: アップルのメッセージは非常に不親切なんですよ。ただ、「あなたこれが小文字だよ」とか「大文字だよ」とか言ってくれればいいのに(笑)、メッセージは、『あなたの指定したアイコンはない』。それじゃあ分からないだろう、と思いますね。ハードルが高すぎる。(笑)
――でもそのハードルを超えられた、試行錯誤の連続でアプリの申請が成功したわけですね。夜中の2時に。
糸川洋氏: もうバンザイしましたね。夜中の2時に『ヤッター!』って。楽しいんだよね、やっぱり。障害があって乗り越える時の喜びは、大きいですよ。もう3年くらい前の話なんだけど、テレビでiPhoneアプリが取り上げられていたんです。普通の主婦が作ってますという内容だったと思う。今考えると、iPhone講座でアプリの作り方を教えてウン十万円という講座を運営している会社の宣伝だったんですね。僕は真に受けてしまった。(笑)僕は昔、プログラミングをやっていたから、『C言語がわかってりゃすぐ出来るだろう』と思っていたんです。いざ始めるにあたり、ふと考えたらiPhoneがない。その番組を彼女(同席中の糸川氏の奥様)も見ていたわけ。何気なく、「否定されるかな」と思いながら、彼女に聞いてみたんです。『iPhoneアプリ面白いんじゃないかなと思うんだ』と。そうしたら、『私もあれは面白いと思う』と言うわけです。そこで、意見が一致してiPhoneをすぐに買いに行って、それからMacもないからMacbook買いに行って、それからアプリの作り方っていう本を買いに行って…。それでシコシコと作り始めて一応、作法を覚えたんですよね。でも、自分でアプリを作るって相当大変なことだったんだなって、今は思います。
――想いが全て実を結んだわけですね、おめでとうございます。
糸川洋氏: そうそう。自分でアプリを作って売り出すっていうのが憧れだったわけなんです。
――(アプリを触ってみて)本当に扱いやすいですね。先ほどお話のあったアマゾンでレビューを書かれた方って本を読まれた方なんでしょうか。
糸川洋氏: 中古で買ったんですって。昔図書館で読んで、すごく良かったんだけど、どうしても自分の手元に置きたいと思って見たら中古で売っていたから買いましたと。改めて読んだら良かったという話。本当は、その当時書けなかった事を今回電子書籍にした際に書こうと思ったんだけど、結局プライバシーの問題があるから書けないんですよ。ものすごい事がいっぱいあるわけ。こういう所では話せるんだけど。書いたら絶対大騒ぎになるとかね。(笑)
――それを目の当たりにされたんですよね。
糸川洋氏: とある作家のリーディングで三島由紀夫が出てきて、その時に“私はユキオだ、ユキオだ”って霊が呼びかけているんだけど、その作家は気が付かないんですよ(笑)“ユキオ”って僕は絶対、三島由紀夫だと思ったんだけど、でもそういう時にヒントを与えちゃいけないの、絶対に。で、その作家は『知らんなぁ、ユキオなんて奴は知らんなぁ』で終わってしまったんです。
――確か『はい』か『いいえ』で答えていくんですよね。
糸川洋氏: そうです。で結局認識できなくって終わっちゃったのね。後日、その作家を担当していた出版社の編集者に、『もしかすると、あの先生のリーディングに出てきたのは三島由紀夫じゃないかと思うんだけど』って話すと、その彼が、卒業論文で三島由紀夫を取り上げたぐらいの三島由紀夫ファンで、『僕も絶対三島由紀夫だと思います』と言うんですね。なぜ彼がそう確信したかというと、まだ未発表で、そのときその作家が執筆していた小説のテーマが輪廻転生なんですよ。で、三島由紀夫の最期の遺作『豊饒の海』、これも輪廻転生がテーマ。だから、その作家が認識してくれたら、そこで輪廻転生のおもしろい話が出たんじゃないか、惜しいことをしたなあ、と思いましたね。